第七十二話 強襲
「はぁっ!!」
真は鋭い突きを放ち、キメラの胸を貫いた。
成す術もなく、キメラは崩れ落ちる。
「やったな、真!」
「レイラ! サポート助かったよ!」
能力を解除し、真と静さんはこちらへと走ってきた。
「俺が出る幕も無かったかもな。二人の連携、見事だったよ」
「い、いやいや。まだまださ」
「です。もっと効率よくやれた筈……」
素直に褒めたつもりだったが、二人はまだ満足出来ていないようだ。二人は真面目だな。
「……しかし、キメラの数が減ったな」
「だね。今の作戦を始めたときより半分以下の数だ。……諦めたかな」
「いくら傭兵が連携しないとはいえ、いつまでたっても標的である支部メンバーが減らないのは気付いてるだろうよ。嫌な予感を嗅ぎとってるかもな」
忍足さんが予測していた通り、キメラの強みである初見殺しがグッと抑えられた為に
支部のメンバーが新たに犠牲となるケースは無くなった。個々の強さはただの感染者をも凌ぐキメラも、強みがバレてしまえば脆いものだ。
「とはいえ、油断は禁物だな。キメラの強さは変わってない、足下を掬われ無いように気を付けような」
「だね、レイラ。せっかく優勢なんだ、この勢いを保ちたいよね」
*
「む、帰ったか。しばらく休むと良い、三人とも」
一度パトロールを終え、三人揃って支部へとたどり着いた。
「ありがとうございます、焔さん。……今はアキラと梶さんが?」
「ああ。キメラの数は減ったとはいえ、手を緩めるわけにはいかないからな。黒子達が捕まえた傭兵から話を聞き、有益な情報が出るまでは持久戦になる。組織がアクションを起こすまではしばらくこのままだな」
「長い戦いになりそうです。皆さんは学生でもありますし、スケジュールは早めに組みたいですね。手伝ってもらってなんですが、学業も疎かにしてはいけませんよ?」
「はは……勿論です一色さん」
学生をやりながら感染者及びキメラとの戦い。今は休みなので問題無いが、歪な二足のわらじだ。感染者の数が少ないので仕方がない。元より、自分で選んだ道だしな。
しばらく休憩をしていると、付けていたテレビから不快な音と共に緊急速報が流れてきた。なんだ、災害かなにかか?
「これ、は……!」
流れてくる情報に、焔さんは絶句していた。
……本部がある都心で、正体不明の生物が暴れているとの情報だ。俺達だけが、その存在に対して心当たりがある。
「キメラが本部の近くで暴れてる……!?」
映し出された映像には、数十体にも及ぶキメラらしき生き物が手当たり次第街を破壊している映像だった。
ところどころ何かを隠すようにモザイクが掛けられており、事態はかなり深刻のようだ。
なんの前触れもなく仕掛けてきたってのか?
「本部周りはこちらよりも対感染者のメンバーがいる筈です、その人達は何を……!」
一色さんはすぐ様スマホを触り、情報を探る。それと同時に焔さんのスマホが鳴り響いた。着信だ。
「蒼貞か、出るぞ」
焔さんはスピーカー状態にして電話に出る。
「焔か!? ニュース見たよな!?」
「あぁ。丁度見ているところだ」
「そうか、なら話は早い。奴等、突然都内に現れたらしい。こっちが仕入れてる情報によれば、傭兵じゃない能力者も何人かいる。キメラも特別製かもな」
と、蒼貞さんは話す。
俺達が普段戦ってるキメラとは別のキメラだって?
「とにかく、こっちもメンバーを本部に送るつもりだ。俺自身もな」
「待て、私や蒼貞は支部に残るべきだろう」
「あァ?」
「支部にキメラが来ない保証があるのか?」
「っ……!」
逸る蒼貞さんを制止する焔さん。確かにそうか、依然としてキメラは出現している。本部が襲われたからと、こっちの手が緩む保証はどこにもないな。
「支部長だけでも残るべきだ。本部周りなら他の支部も近い、私達以外にもメンバーは大勢いるだろうからな。だが、支部はそうもいかない。黒子と連携し、支部の防衛に当たるべきだ」
「……ちっ、その通りかもな。すまん、焦った」
「構わない。私達はすぐに行動に移す。蒼貞達も頼むぞ」
「ああ。任せろ」
そこで通話が終わり、焔さんはこちらを見た。
「話は聞いたな? 即刻アキラと迅太郎を呼び戻し、戻り次第みんなには本部……都心へと向かって貰う。恐らく、今までにないほどの激戦となるだろう。心して掛かるように」
「了解!」
その場にいた全員が了承した。
一人で支部に残る焔さんが少し心配だが、この人は強い。信じるしかないな。
「いま、情報を集めたところ……本部所属のメンバーも苦戦しているみたいですね。進化者もいるのに」
「進化者が……!」
「ええ、レイラさん。……皆さん、絶対に油断せず行きましょうね」
*
「━━話は分かったが、どうやって向かうよ? あれだけの騒ぎだ、交通が生きているかどうか」
帰って来た二人にも詳細を伝え、梶さんが焔さんに訪ねる。確かに、向かう手段はあるのだろうか。
「ふむ……車も危険だな。電車はとっくに止まっているし」
「ボクの背中に乗れば?」
二人が悩んでいるところに、アキラがそう提案した。
「成程、進化したアキラの能力ならそれが可能か。しかし私を除いた全員が乗っても大丈夫か?」
「多少スピードは落ちるだろうけど大丈夫だよ。乗り心地は保証しないけどね」
得意気にアキラは笑う。
狼の背中か、確かに揺れそうだ。酔わなきゃ良いけど。
「アタシは焔さんと一緒にここに残るつもりですし、他の方々はアキラちゃんの背中に乗って都心へ。それで決まりですね」
「待て、楓も残るのか?」
「こちらとあちらを繋ぐ通信役は必要だと思いますよ? 前線に出てもアタシは役に立ちませんし、逐一互いの情報共有をする橋渡し役になるつもりです」
「……気を付けろよ。私だけではカバーしきれる保証は無いからな」
焔さんは心配そうな顔をしていたが、一色さんは笑顔で焔さんの背中を叩いた。
「頼りにしてますから。信じますよ」
「…………フ、心得た」
やがて全員の準備が終わり、各々が配置へと移動を始めた。
アキラの見た目は目立ちすぎるので、現在封鎖されている道路を使う事になった。
「では、作戦開始!」
「はい!」




