第七十話 対策
「これで、傭兵とは完全に敵対してしまったな」
その後、適当な喫茶店に入り今後の話をしていた。
先に相手が仕掛けたとはいえ、もう傭兵と和解する可能性はほぼ無くなった。
私としては願ったり叶ったりだが……問題が無いわけではない。
「忍足さんの判断は正しいよ。真っ先に加島さんを狙った辺り、話し合いで終わるとは思ってなかったみたいだし」
「私も生明と同意見です。助かりました」
「それなら良いんだが。……とはいえ、今後どうするか。傭兵の力を借りている支部にはなんて伝えれば良いのやら」
忍足さんは難しそうな顔をする。
「傭兵は基本的に親元……先程の石田みたく上司が仕事を受け、それを部下の傭兵に仕事させるという流れです。情報漏洩防止とリスク回避の面から、親元と部下の間にはっきりとした繋がりはありません。なので、親元が裏切ったからと部下が裏切るとは限らないです」
「……なら、その部下はこっちに寝返らせる事も可能か?」
「その通り。金目的ならそこまで難しくもない。多少コストは掛かりますがそこは仕方ないですね」
と、加島さんはスマホに文字を打ち込みながら喋る。
ひとまず傭兵のいる支部ではその方針で行くしかないな。そのまま傭兵を抜けて支部に入ってくれれば助かるが。
「さて、これからどうする? 今日はとりあえず解散か?」
話が一段落付いたところで、忍足さんはそう言った。
「私は本部に戻ります。傭兵の件の情報を纏めて対策を取らないといけないので」
「アタシも加島さんに同行するわ。また襲ってくるかもだし、本部で詳しく話をするならアタシも手伝うわ」
「分かった」
加島さんと生明はそのまま喫茶店を出ていき、私と忍足さんだけになる。
「キメラの事ですが、忍足さんの意見を聞きたいです。時間は大丈夫ですか?」
「まだ大丈夫だ。具体的に何を聞きたいんだ?」
「ありがとうございます。聞きたいのは━━」
そこで忍足さんに今までのキメラとの戦いの詳細と、その対策について訊ねることにした。
忍足さんの戦闘経験は豊富だ。しかも、彼は黒子……能力を持たない者を率いているリーダーだ。
身体能力に差がある存在との戦いかたや対策も心得ている筈だ。
「なるほど……話は聞いていたが強敵だな。しかも一人の所を狙ってくると」
「忍足さんならどうします?」
「そうだな……」
忍足さんは唸る。
しばらくしてから、口を開いた。
「まず焔の作戦だがな、それはあまり効果的ではないと思う」
「……何故です?」
「二人の時に襲ってくるかが不明瞭だ。傭兵を雇ってキメラに指示を出させているんなら、最初から最後まで一人の所を狙うという手段を変えるとは思えない。期限が設けられてないから焦る必要もないからな」
「なるほど、それは確かに」
苦肉の策であることは自覚していた。
だが、はっきり言われると益々そう思うな。
「だから、傭兵を受けている指示通りに動かしてやるといいかもな」
「なら、こちらはわざと一人で行動させてキメラを誘き寄せると? 危険では?」
「危険さ。だが一番効率がいい。とはいえ、そのまま一人で戦わせるのは得策じゃない。だから一定間隔を保ち能力者をパトロールさせるのが良いだろうな。キメラが現れれば、すぐに合流出来るような距離がベストだ」
忍足さんはコーヒーを一口飲む。
「一人で行動させてキメラを釣り、近くの誰かと合流して叩く。可能であれば指示を出している傭兵を捕まえる。それか一人がキメラと戦い時間を稼いで、その隙にもう一人が傭兵を捕らえる。指示を出している傭兵を止めればキメラも止まるかもしれないしな」
「んで、キメラの対策だがな。高い身体能力は厄介だが、知能は低い。なら、罠や搦め手を使うのが有効だろう。肉体の硬度も普通の感染者よりは高そうだが、隙を突ければ問題無い。キメラがそういう存在だと分かってしまえば、犠牲者も今よりグッと減るだろう。初見殺しがキメラの怖さだからな」
「参考になります。帰ったらその辺りを含めて皆に話してみますね」
「そうするといい」
と、作戦と対策を淡々と話す。……流石に経験豊富だな。だが、思ったより大胆な手を取る人だ。仕事中は植物のように静かな人だと言うのに。
「……なぁ、焔。きっと俺以外からも言われてるだろうが……仲間思いが強すぎて消極的になってないか? この仕事はいつだって死と隣り合わせだ、危険はある程度受け入れないと行動出来なくなるぞ? も少し仲間を信じてやるんだな」
「はは……生明にも似たことを言われました。こればかりは性格なのでどうにも」
「そうか。……ま、オッサンの小言だ。最終的に決めるのは焔だ。あくまで提案として覚えてくれたらそれでいい」
と、忍足さんは立ち上がる。
「すまん、そろそろ俺は行くよ。部下に訓練の指導を頼まれてるからな」
「分かりました。色々とありがとうございました」
「ああ。焔はこれからどうするんだ?」
「まだ少し、考え事をしてから戻ります」
「分かった。……考えすぎないようにな?」
じゃあな、と一言残し忍足さんは代金を置いて出ていった。
一人残された私は、椅子に深く腰掛ける。
「消極的、か。言われてしまったな」
「ですねぇ」
独り言のつもりだったのに返事が返ってきた事に驚き前を見ると、にこにこと笑うヨシュアが座っていた。
「……驚かさないでくれ。ヨシュアはいつも突然だな」
「はは、ごめんなさい。……なにやら、お疲れの様子なので現れちゃいました。良ければ聞きますよ?」
と、人懐こく笑うヨシュア。せっかくだ、聞いてもらうか。
「生明や忍足さんにも言われたが、私はそこまで消極的なのだろうか?」
「んーまぁネガティブですね」
「……随分はっきり言うじゃないか。傷付くぞ」
「考え方次第ですよ。仲間の命を優先させるなら、これ以上無いですから」
もっと言えば、とヨシュアは言葉を足し
「貴女は最終的に自分で解決すれば良いと思っていますね?」
「……!」
と図星を突かれた。
「間違いでは無いですよ。貴女の力を使えば、キメラは問題なく倒せる。流石に複数相手だと多少は苦戦するかもですが。その圧倒的な力を信じるが故の自負が、仲間に危険が及ぶのを避けたがる。そんな所でしょうね」
「……否定はしない。で、結局私はどうするのが良いんだろうな」
「お二人の言うとおり、仲間を信じるべきです。いずれ背中を預ける存在ですし、降りかかる危険は試練と受け入れるべきかなと」
ヨシュアの話を聞き、納得する。
試練、か。そう考えたことは無かったな。
「ありがとう、参考にするよ」
「いえいえ。では、また会いましょう。貴女はまだまだ成長しますよ」
「……もう良い歳なんだがな」
「二十五なんてまだまだガキですよ。背だってまだ伸びるかも?」
「フフ、それは楽しみだ」
「では、また」
ヨシュアは淡い光になってその場から消え失せた。
さて、どうするか。キメラと言う試練を越えねばな。ちゃんと、仲間と一緒に。




