第六十九話 傘下
「彼が指名したビルは……ここか。表向きは不動産会社だが隠れ蓑だな」
生明に加え忍足さん、加島さんを引き連れてとあるビルの前へとたどり着いた。
必死の説得により本部から傭兵と話す許可を得て、傭兵組織の幹部にあたる男とアポを取れた。
流石に社長と話は出来なかったが、そこは仕方ないな。
「加島は分かるが、俺は必要か?」
自分が呼ばれたことに疑問を感じ、忍足さんは坊主頭をざりざりと触る。
「貴方の冷静さは必要だ。交渉は私達三人で行うが、何かあれば貴方の能力で状況を打破して貰いたい」
「……なるほど、保険か。それなら受けよう。判断は俺自身で行うが、それで良いか?」
「ええ。貴方の判断を信じます」
分かった、と頷き……忍足さんはその場から消えた。透明化でもない、完全な気配遮断能力。
名は『裏方の仕事』。
攻撃をする瞬間や、話をする瞬間まで誰にも認識されない能力。更に能力を持たない黒子を指導し率いているだけあって、素の身体能力は軽く私達を上回る。
頼もしいことこの上ない。
「忍足さんはそのまま着いてきてください」
返事は無いがそのまま入り口へと入る。
誰もいない中を歩き、エレベーターを使い指定された階層まで上がっていく。
そして、たどり着いた。幹部が仕事をする事務所だ。
「━━時間通り、ですね。三人とも。どうぞ、お座り下さい」
大きめのソファーに腰掛けた男と、その左右に強面の男が一人ずつ佇んでいる異様な光景だ。
ソファーの男は眼鏡を掛けてはいるが、知的な雰囲気よりも物々しい雰囲気のが勝る、そんな男だ。
カタギでは無いから当たり前だがな。
「時間を取ってくれて有難う、石田さん」
「いえいえ、支部は傭兵もお世話になっていますから。しかし話とは珍しいですね?」
探るような目線を送る石田。
三人共能力者……かは分からないな。だが、左右の二人はそれなりの手練れだ。何かあればタダじゃ置かないと言われているかのよう。
「ええ、まぁ。ここからはこちらの二人から話を聞いていただけると有難い」
こちらも石田の正面のソファーに腰掛ける。
交渉の話はなるだけ生明と加島さんに任せる。私では喧嘩腰になってしまいそうだからな。
*
「━━成程、傭兵がその化物の指示役として使われており、全国で被害が出ていると。なので傭兵がかの組織から仕事を受けるのを減らしてほしいと?」
「端的に言えば。勿論、タダとは言いません。こちらで協力出来ることであれば可能な限り傭兵の手助けを致します」
「ふむ……」
加島さんと生明があらかた内容を話し、石田は長考を始めた。
さぁ、どう出る?
「理解はしました、が……お断りします」
「……何故でしょうか?」
「単純な話ですが、組織から受ける仕事は報酬が良いからですね。キメラの指示役として駆り出された傭兵達はこちらでも把握しておりますが、大した能力も持たない連中なのに受け取っている報酬の額がとても高い。コストパフォーマンスが異様なほど良いのですよ」
きっぱりと断られ、少し苛立ちが募る。
やはりコイツらと仲良くは出来ないな……金さえ貰えれば虐殺も見逃すというのか。
「……理由は分かりました。ですが、一つ質問をさせてください」
「どうぞ」
「何故、傭兵は組織の仕事を受けるのですか? 金払いが良いのは分かりましたが、犯罪に荷担する仕事ばかりで傭兵は捕まり減る一方になります。その時その時で報酬が良くとも、これじゃ人員不足に陥りかねない。長く仕事を続けるには向いていないかと」
と、加島さんは一歩踏み込んだ質問を投げ掛けた。
確かにな。仕事を選ばないとはいえ、組織の仕事は目立つ上に犯罪だ。
貴重な能力者を使い潰すような仕事ばかりでは安定しないだろう。古くは江戸時代から存在しているらしい傭兵組織が、そんな安易な考えで仕事をするのか?
「……お答えしましょう」
石田が微笑むと同時に、左右に佇んでいた部下が懐から何かを取り出し
「余計な詮索はよせ。それがこちらの答えです」
「……!」
取り出した銃を加島さんの頭に向けた。
「貴様!」
「動くな焔さん。三人の中で加島さんだけが感染者ではないことは把握している。下手に動けば加島さんは死ぬぞ」
「く……!」
銃口は加島さんの額に押し当てられており、私や生明が動いてもその前に撃たれてしまう。
加島さんも当然動けずにいた。
「……交渉は決裂ですし、お帰り願いたい。ただし後で暴れられても困りますから、加島さんは人質にさせてもらいますよ」
「本部を敵に回すつもり?」
「必要ならね。生明さん」
予想出来た事態だった筈なのに先手を取られた。やはりあの二人、かなりの強さだ。この私でも一瞬反応が遅れた。
……ただ、こうなる事を予測していたからこそ
私は忍足さんを呼んだんだ。
「━━女に銃を向けてんじゃねぇぞ」
「!?」
一瞬にして銃が空中に弾き飛ばされ、姿を現した忍足さんが三人を同時に蹴り飛ばした。
「ふっ!」
「ガハッ!?」
ソファーごと倒れた石田は放置し、側近の一人を素早く制圧し
「チィ!」
「甘い」
もう一人の側近がすかさず刃物で斬り付けるが、忍足さんは左手で軽く受け流し、髪の毛を引っ張り膝で顔面を蹴り飛ばした。
「ぶっ!?」
「寝ていろ」
そのまま更に一歩踏み込み、側近の頭を掴んで壁に叩き付けた。そのまま気絶しその場で倒れる。
流石の動きだ。あの一瞬で三人を制圧してしまった。
「キサ……うっ!」
「動かないで」
石田はまだ意識があったので立ち上がるも、生明に頭を捕まれ静止した。
生明の能力で何が起こるか知っているんだろうな。暴れるのは得策ではないと理解したようだ。
「っはぁ……助かりました、忍足さん」
「構わないさ、加島。紳士ぶるつもりもないがね、女に暴力をふるう奴は大嫌いだからな」
「なんにせよ……石田の言うとおり、交渉は決裂だな」
念のため炎を展開し、石田に指を向ける。
奥から仲間が出てくるわけでもない、か。ならこの場は制圧したな。
私はなにもしてないが。
「クソ……!!」
「必要なら本部を敵に回しても良いそうだな? なら望み通りそうしてやる。覚悟しておけよ」
「く、くく……あぁそうすると良いさ。ただ」
石田が不気味に笑うと同時に、足元から何か大きな物が近付いてくるような振動が起き始めた。
「舐めんじゃねぇぞ!!」
瞬間、床が割れてそこからキメラが二体飛び出してきた。
「なんだと!?」
咄嗟に加島さんを庇いその場を離れ、残りの二人はキメラの攻撃で吹っ飛ばされる。
「くっ!」
「二体も!?」
石田はそのままキメラの背に乗り、笑う。
「傭兵はとっくに組織の傘下なんだよ!! 俺達と戦うんなら組織も敵に回すってことだ!」
そして背面にあるガラスを突き破り、キメラと共に落ちていった。
「覚悟するのはお前らだ!! 仕事の邪魔はさせねぇからなァ!!」
捨て台詞を吐きながら、石田はキメラ二体と共に逃げおおせる。
まさかとは思ったが、組織と協力どころか傘下に下っていたとはな。
「追うか? 黒子を出すぞ?」
「いや……今日はこのくらいにしておきましょう。石田は用意周到な男だ。下手に追うのはリスクが高そうです」
「燎子にしては冷静な判断ね。アタシも同意見よ。加島さんを連れていくわけにもいかないし」
追いたいのはやまやまだが、感染者ではない加島さんを連れ歩くわけにもいかないな。
「面目ない……こういう時は足手まといですね」
「適材適所ですよ、加島さん。貴女の指示で救われた人間は数知れないほどいますから。私達よりもよほどね」
申し訳なさそうに俯く加島さんを宥め、割れた窓ガラスから下を見る。
傭兵に、組織……大規模な戦いになりそうだ。
キメラとの戦いでどれほどの犠牲者が出るのか見当も付かない。
少なくとも、自分の手で守れる人間は守らねば。




