第六十四話 二転三転
「らぁッ!」
両手に携えた剣を奮い、黒川へと迫る梶さん。
「ハハァ、良い気迫だ」
だが黒川は余裕を浮かべたまま、能力も使わずに全て捌いていく。
避ける、剣の腹を軽く小突き反らす、壁を利用し止める……まるで遊んでいるかのようだ。
能力の強さだけじゃない。こいつは全てにおいて俺達よりも上だ……!
「はぁ……! 簡単に避けやがってよクソっ!」
「剣の動きは分かりやすいからなァ。もっと他の武器は無いのか?」
挑発をする黒川を見ながら、能力の準備をする。黒川は壁際だ、このまま押し潰す。
「はっ!」
「おっと」
大きく拡げた手を放ち、黒川に当たる……かに見えたが
「能力……!」
黒川の影から伸びた針のような突起物が手に突き刺さり、手は黒く変色しながらボロボロと崩れていく。
能力そのものも殺せるのかよ、どうすりゃいいんだ?
「ふむ、そのデカイ手を指示通りに操れる……そんな所か? お前の能力は。シンプルだが中々良い」
「……そりゃどうも。満足したなら帰って欲しいんですけど。焔さんの知り合いなんでしょう?」
「まぁそう言うな。まだ遊ぼうじゃないか」
黒川は愉快そうに笑い、手を自分の影へと近付ける。
「私の能力は、影から死の概念を呼び出す代物だ。影の形は自由で、殺せない物は存在しない。不死の生き物がいたとしても殺せると断言してやる」
「けっ、大層な能力だよホント。アンタが手伝ってくれたらもっと楽だった仕事も多いんじゃねぇか?」
「生憎、つまらない仕事をするつもりがねェからな。だが、暇を持て余すのも体に悪い……だからよ」
黒川の影がざわざわと揺らめき、アメーバ状に拡がっていく。
「━━遊び相手になってくれよ? 『屍大蛇』」
拡がった影は形を成し、八つの頭を持つ大蛇が現れる。あれにも触れちゃならねぇのか、いよいよ命の保証が出来ないな……!
「━━レイラ!」
どうするか悩んでいた所、梶さんに呼ばれた。
顔が何時にも増して真剣だ。
「どうしました、梶さん?」
「俺が全力で隙を作る。だからお前は全力で逃げろ」
「ま、待ってください! それは最後の策でしょう! 諦めるにはまだ早……」
「いいや、もうやるしかない。あの蛇ですらあいつにとっては遊びだ。片方が逃げに徹しない限りはどうしようもないだろう」
「し、しかし……」
頭では分かっているが、どうしても頷けない。
もしかしたら、梶さんが死ぬかもしれないからだ。
「安心しろ、俺だって死ぬつもりはない。アイツは俺達よりも強いからこそ、必ず隙がある筈。焔さん達が来るまで持ちこたえてやるさ」
「……! くっ……」
「腹ァ決まったな? やるぞ!!」
有無を言わせず、梶さんは周辺で拾った鉄屑を地面へとばらまき、能力を発動させる。
「喰らいやがれ!」
「!」
ばらまかれた鉄屑は刃物へと姿を変え、梶さんが高速で移動する時に使う技術を用いて銃弾のように発射された。
その数は二十近く。速さも向きも大きさも不規則で、一瞬だが黒川の眉が動く。
━━今だ!
「━━頼みましたよ、梶さん!」
「応! 走り抜けろ、レイラァ!!」
黒川の意志が防御に回った瞬間を逃さず、黒川の横を走り抜ける。
「逃がすかよ!」
黒川は刃物を弾いた後、俺を追う素振りを見せたが
「させるかっ!」
「ちっ!」
すかさず梶さんが間へと割り込み、接近戦を仕掛けた。
━━死なないでくれよ、梶さん。
*
「予備のインカム……持っとくんだったな……はぁ……」
黒川からある程度離れたとはいえ、事務所まではまだ距離がある。仕方なくスマホを取り出し焔さんへと電話を掛ける。
「頼む……早く……!」
が、中々繋がらない。というより、何か電波がおかしい。
「クソっ! こんな時に」
万が一を考え、走りながら何度も電話を掛ける。まるで圏外にいるかのようだ、全く繋がらない。
ふと、嫌な予感が頭を過る。
「まさか、本当に電波を……?」
スマホをしまい、辺りを見る。……しまった、見られている。
何者かは分からないが、何か嫌な雰囲気がする。
電波は偶然悪くなったのではなく、連絡させないために妨害されていたのか?
能力の準備をし、見渡しの良い場所で足を止めた。
こいつが誰なのかは分からないが、明確な敵意を感じる。このまま事務所へ逃げ帰るのはまずい気がする。
「! 誰だ!」
瞬間、視界の端に白い影を捉え、その方向に振り向く。
だが、その姿を見て言葉を失った。……見覚えがあったからだ。
「白い、巨人……!」
数十メートル先に佇んでいたのは、石灰のように真っ白な体を持つ巨人。
こいつは恐らくBだ。そして、アナザーで出会った巨人の事も思い出す。
アナザーの巨人は、土田という男が作り出した粘土細工だ。そして奴は本物とそっくりに作るほど強くなる能力らしい。
つまり、このBはそのオリジナルか。土田は何処かでこいつを見て、粘土で作ったのか。
そうこうしている内に巨人はゆっくりと動きだし、徐々に徐々にスピードを上げながらこちらへと迫ってくる。
「く……!」
能力を発動し、手一つを自分の前方へと出現させる。どう動くのか分からない以上、両手を出すのはリスクが高い。
土田の巨人と同じように大きなハンマーを担いでいるが、俺の能力なら防げるはずだ。
「オオオオオオ!!」
「っ!」
巨人は突然雄叫びをあげ、ハンマーを横から振り回してきた。手を操作し、左側面を守る。
一発防いだらすぐに反撃だ、いくら馬鹿力でもそう俊敏には動けまい。
「━━えっ」
が、突如自分の左腕に衝撃が走る。鈍い痛みと何かが折れる音が脳に響く。
一瞬だけ見えたが、俺が出現させていた手はハンマーによって砕かれており、ハンマーは俺の腕に命中していた。
「ガハッ!?」
凄まじい力で吹き飛ばされ、全身を強く打ちながら地面を跳ねてその勢いのまま建物の壁に激突する。
まず、い。意識が……!
「は……! うご、け……身体……!」
薄れそうな意識と、もはや感覚の無い左半身が警告を告げていた。
逃げろ、このままだと殺されると。
「━━やれ」
遠くで巨人とは別の声が聞こえる。だが、そいつを確認するほどの余裕がない。
こんなところで死ぬわけには……。
しかし、現実は甘くない。既に巨人は動けない俺の目の前に立っており、ゆっくりとハンマーを上へ上へと上げていく。
「アァッ!!」
そのまま、ハンマーは振り下ろされ━━




