第六十二話 鍛冶屋
「ふっ!」
「くっ……!」
手に持ったナイフで連続で斬り付けてくる梶さんから離れ、十分な距離が取れたのを確認し能力を放つ。
「噂の進化能力か、だが」
俺から放たれた青白い拳を興味深そうに眺めたと思いきや、すぐさまナイフを握りつぶしてその破片を掴み、棒を生成し棒高跳びをするように上空へと避ける。
「っ空中なら!」
「させねぇさ」
空中では避けられないと踏んで通常の能力を放とうとするが、いつの間にか投げられたナイフに気が付きギリギリでその場を離れる。
速すぎる、まるで未来が見えてるみたいだ。
「━━うぉぉっ!」
着地した梶さんへと、両の拳を作り出し連続で殴り付ける。が、梶さんは隙間を縫うように全ての攻撃を避けたり武器で弾きながらこちらへと近付いてくる。
「うっ!?」
しかも、いつの間にか手に持っていた鞭のような得物で俺の手を捕らえており、思い切り引き寄せられる。
「らぁッ!!」
「ぐっ!!」
そして梶さんはメリケンサックを握った拳で、俺の顔面を打ち抜いた。痛みはないが、大きくその場から吹っ飛ばされる。
体が動かない、ここまでか……!
「━━そこまで。迅太郎の勝ちだね。二人ともお疲れ様」
パチパチ、と拍手をしながら焔さんがこちらへと歩いてくる。
進化能力を持っていても、梶さんには勝てなかったか。流石は焔さんの次に強いと言われるだけはあるな。
「ん。相手してくれてありがとよ。もう立てるか?」
「はい、こちらこそありがとうこざいました。やっぱり強いですね」
梶さんが差し伸べてきた手に捕まり、立ち上がる。
進化能力があるからと無敵ではないよな。俺も精進しないとだ。……にしても
「…………」
勝ったと言うのに、梶さんは不服そうな表情を浮かべていた。
もう少し楽に勝てた筈、とか思ってるのだろうか。
「どうした、迅太郎。完勝したと言うのに不満気じゃないか」
「……いえ、不満とかは無いですよ姐さん。ただ……」
「ただ?」
梶さんは腕を組み、ふぅと息を付く。
「……場数を踏んだ数の差で勝てただけ。そう思いましてね。レイラは入ってから日が浅いのにめきめきと成長し続けている。しかもアキラとレイラ、その両方が俺よりも先に進化しちまいやがった。……俺はこのままで大丈夫なのかと思いまして」
「なるほど……ストイックな迅太郎らしい」
と、二人は会話をしていた。
確かに、梶さんの対応力の高さは凄まじい。一度たりともまともに攻撃を与えることが出来なかった。身のこなしもそうだが、先を読むセンスが頭抜けていた。
場数の差が勝敗を分けたのは明らかだ。だが、梶さんはそれだけじゃダメだと思っているみたいだな。
「なにも能力の強さだけが実力の全てじゃない。現に迅太郎は経験値の差で強力な能力を持つレイラを倒せたじゃないか」
「それじゃダメなんだ。……強力な能力を持ち場数を踏んでいる敵と対峙すれば勝てないという事なんで」
「……自分も進化せねば、この先負けてしまうかも、と?」
「端的に言えばそうっスね」
梶さんは焦ってるんだ。ベテランのメンバーでありながら、進化が出来ていない自分に。
「焦っても仕方無いと思うけどね。進化しないままの能力者のが圧倒的に多い。もしこのまま迅太郎が進化を身に付けることが出来なくても、私は君の事を頼りにしているよ?」
「……ありがとうございます」
話は終わったが、梶さんは何処か影の残る表情を浮かべていた。
*
「ここにいたんですね、梶さん」
「レイラか。タバコ臭いだろ、話なら後でもいいぜ?」
その後、何処かへ消えた梶さんを探していると、ビルの屋上で梶さんを見つけた。手には火を付けたばかりのタバコが握られている。
「タバコ、吸ってたんですね」
「まぁな。事務所で吸っちゃクセぇだろ。他の人達の健康にも悪いしよ」
「あぁ、なるほど」
他愛無い話をした後に、梶さんは吸い終わったタバコを灰皿へと捨てた。
「……俺の能力はよ、夢が元になってんだ」
「夢、ですか」
「あァ。レイラは鍛冶屋って知ってるか?」
「鍛冶屋……はい、なんとなくですけど」
鍛冶屋。要は刃物や工具等を製造したり修理したりする仕事だよな。
「俺の実家がそうなんだ。とはいえ、今の時代は機械でぽんぽん作れちまうから、太客くらいしか買わねぇんだけどよ」
「テレビで見たことありますね。どんどん鍛冶屋という職は失われつつあると」
「そうだな。ま、時代の流れだから仕方無いさ。でもよ、俺はそんな鍛冶屋を継ぎてぇんだ」
空を見ながら、梶さんはポツポツと話を続けた。
「大昔……何世代前かも分からねぇほど昔、ウチの鍛冶屋は刀鍛冶をやってたらしい。名工と呼ばれるほどの腕前だったんだと」
「歴史に載るような武将が使う日本刀も作ったって話さ。嘘かホントか分からない話でも、幼い俺にとっちゃ憧れだった。今の時代、刀なんか作らねぇと知った後でも、鍛冶屋ってもんへの憧れは止まらなかった」
見上げるのを止め、振り向いて俺を見た。
「親父はもう自分の代で鍛冶屋を畳むって言い出したもんだから大喧嘩したわな。俺が継ぐから勝手なことすんじゃねぇって。今もたまに実家に顔出して手伝いと修行を積んでるのさ。他にやることあるだろ他所行けって怒鳴られながらな」
「それで……」
たまに梶さんが実家に戻る理由はそれだったのか。
「だからよ、俺にとっちゃこの仕事も夢を叶えるための修行みたいなもんなのさ。武器を、刃物を理解してこそ職人だ。継いだ後に刀なんか作れなくても良い。俺の先祖に恥じないほど経験を積み刃物への理解を深め、積み重ねたモンでウチの鍛冶屋を有名にしてやる。それが俺の夢だ」
「素敵な夢ですね。カッコいいと思います」
「ありがとよ。だが、レイラやアキラの思いを聞いて、ちょっと思っちまった。……これだけで良いのかってよ。俺の夢は偽物なんじゃないかって」
「……! そんな、アキラはともかく俺の願いなんて」
「お前は進化した。その願いが本物で、お前が本気で叶えたいから能力が応えたんだろう? 何年も前から能力者やってる俺よりも遥かに早くな」
梶さんは歯を噛み締めながら、能力を使い刀を作り出す。
「何かが、足りねぇんだ。死に物狂いで探さなきゃならねぇんだ。俺に足りないものを。でなきゃ、この能力に応えることが出来ねぇ」
「梶さん……」
梶さんは少しだけ悲しそうな表情をした後、ガシガシと頭を掻いてから溜め息を付いた。
「つまんねぇ話をしちまったな。こればっかりは焦っても仕方ねぇって姐さんにも言われちまったし、こっちの仕事に支障をきたすつもりもねぇよ」
「……梶さんなら、出来ますよ」
「あ?」
話を聞いて、俺は確信していた。
梶さんの夢は本物だ。俺やアキラと同じ、本物の強い思いが込められていると信じる。
「梶さんの夢は偽物なんかじゃない。夢を語る梶さんの表情は輝いていました。その夢が、偽物だなんて誰にも言わせたくありません」
「レイラ……」
「心配なら、俺が保証します。進化した能力者であるこの俺が。それなら、信用出来ますよね?」
少し強気に出過ぎたと思いつつも、胸の内を語る。
暫くして、梶さんは笑顔を浮かべた。
「━━はっは! そう来やがったか、生意気な奴め。あーあー分かったよ! なら俺も信じてやるよ!」
「梶さん……!」
「おら、じゃあそろそろ準備すっぞ! うだうだ悩むのは止めにすっからよ!」
梶さんに頭をわしゃわしゃと触られ、梶さんは上機嫌のまま中へと戻ろうとする。
「はい!」
その背を追いかけ、大きな声で返事をした。




