表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
51/104

第五十一話 選ばれし者達

「これで、終わりだ! 『右拳の衝撃(ライトハンドナックル)』!!」

「ぐぁっ!!」


 能力で殴り飛ばし、気を失った敵を見て能力を解除する。

 問題なく倒せたな、と思わず胸を撫で下ろす。


「……しかし、アキラは凄いな」


 アキラが進化したことに対する、焦りと驚き。味方が強くなるのは良いことだ、それは間違いない。だが素直に喜べない。

 作戦前から抱いていた不安が強くなってしまうからだ。

 それでも、蒼貞さんは言ってくれた。お前は戦力になっていると。


「情けない、焦るんじゃねぇよ俺。しっかりしろ」


 自分に言い聞かせて、先へと進む。蒼貞さんが空間能力者を抑えに行くとは言え、他に能力者がいないとは限らない。空間が消えたあと、そいつらが暴れる可能性だってあるんだ。

 今、出来ることをする。それだけだ。


 *


「……一人目、か。いや、アキラが倒してるから二人目か?」


 扉を開けるやいなや、ボクサーの様な格好をしたドレッドヘアーの男が部屋の中心に立っていた。見覚えのある顔だ。


「フン、お前は()から聞いていた蒼貞って奴か。なんでも、強い能力者らしいな?」

「あぁ、まぁな。そういうお前だって有名じゃねぇか。なぁ、元プロボクサーの『拳銅(けんどう) (わたる)』さんよ」

「……へぇ? 知ってんのか」

「そりゃな。一般人に暴力沙汰起こしてから行方不明って聞いてたが」


 拳銅。ミドル級でいくつも結果を残してるプロボクサーだ。試合も見たことがある。ある日、一般人を病院送りにしたとかで逮捕され、その後は行方不明と聞いている。

 が、今ここにいるってことは……そういうことだな。


「あぁ。プロから降ろされた俺は裏格闘技で日銭を稼いでたんだが……能力に目覚めちまったんでな。今はこうして新しい仕事をしてんだよ」

「ハッ、とんだ転職だな。それで? オレとボクシングでもしようってのか? ルールはわかんねぇぞ?」

「まさか。今からやるのはただの殺し合いだろ? 素人とボクシングやろうなんて思ってねぇよ」


 そりゃそうか、と苦笑する。

 ボクサーなら近距離戦は止めといた方が良いな。奴等の拳は凶器だ、グローブをしてないなら尚更。

 距離をとって戦うか。


「さ、やろうか。ただし、自慢の能力は使わせねぇ」

「? どういう……」

「━━こういう意味だよ!! 『拳 の(ファイト)聖域(サンクチュアリ)』!!」


 拳銅は拳を地面へと叩きつけると、空間が新たに生成されていき━━ボクシングのリングへと姿を変えた。

 まさか、こいつ空間能力者か!?


「しゃあ!!」

「ちっ! 『打水(うちみず)』!」


 勢いよく突っ込んでくる拳銅へと指を向け、水の弾丸を放とうとする。が、出ない。


「っらぁ!!」

「ぐっ!!」


 拳銅の右拳が俺の顔面へと叩き込まれ、端まで吹き飛ばされた。

 重い……! ただでさえプロボクサーだってのに、感染者だから身体能力も強化されている。何発も喰らうのは流石にキツいな……!

 それにしても、能力が出ないのはまさか。


「てめぇ、この空間はまさか……」

「あぁ。『肉体での攻撃以外を禁止する空間』だ。武器も能力ももう使えねぇぞ」

「ちっ」


 吹き出した鼻血を拭い、構える。徒手空拳で戦うのはいつぶりだろうな。


「まだまだ行くぜ!!」


 拳銅は凄まじい速さのジャブを繰り出す。なんとか捌こうとするものの、何発も喰らってしまう。


「ボディが空いてるぞ、オラァ!!」

「がフッ!!」


 一瞬の内に抉るようなアッパーが俺の腹へと打ち込まれ、激痛に耐えきれず後ろへと下がる。

 流石にやりやがる。


「はぁ……はぁ……!」

「バカが、能力がなけりゃこんなもんか? まるでサンドバッグだぜ。俺はこういうのを求めてたんだよ。無抵抗の人間を殴る気持ちよさは格別でな?」

「……クズが、プロボクサーが聞いて呆れる」

「なんとでも言えよ、今この場では━━」


 更に、拳銅は踏み込む。


「強者が正義だ!!」


 まるで、流星のような拳。曲がりなりにもボクサーとして極限まで高められた、素晴らしい右ストレート。


「━━あぁ、その通りだな」


 それでも、もうオレには通用しない。


「ガッ!?」


 拳を寸前で避け、顔面へとハイキックを打ち込む。何が起きたのか分からず、拳銅は後ろへと下がった。


「反撃……されたのか? この俺が……?」

「あぁ、そうだな。気の毒だが、もうお前のターンはねぇよ」


 単純な話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 乗り手がいくら鍛えようと、乗り物をいくら改造しようと、スペックには限度がある。

 オレとこいつの戦いはそういう物だ。……不本意だがな。


「フッ!」

「ちっ、まぐれがそう何度も……ぐぁっ!!?」


 距離を詰め、素人に気が生えた程度の殴打を繰り出す。ボクサーからすれば簡単に避けられる代物だ。それでも、無慈悲なまでに命中する。

 オレに武術の心得は殆ど無い。なんせほんの数年前まではただの教師だったんだからな。


「馬鹿なっ! 何でこんな単純な攻撃が……! ヴふっ!!」


 髪の毛を掴んで引き寄せ、顔へと膝蹴りを喰らわせる。

 威力に圧されて、拳銅は吹き飛んでいく。


「……不意を突かれたのは認めるぜ。そして、お前の拳も本物だ。能力も強い。守護者と呼ばれるだけの力は充分あるだろう。でもな」


 自分の手を見つめる。化物の手を。


()()()()()()()()()()、オレは。神っていう名の悪魔にな」


 もはや戦意を失い、こちらを睨むことしか出来なくなった拳銅へと近付いていく。


「ば、化物……!」

「…………そうだよ。オレは、オレ達は化物だ。使命のために作られた化物さ。だから」


 胸ぐらを掴み、引き寄せる。空いた右手で拳を作り、振り下ろす。


「━━悪夢にでも魘されてると思っていてくれ」


 ドン、と鈍い音と共に、拳銅は地面へとめり込んだ。生きてるのか死んでるのかは分からねぇが、多分大丈夫だろ。


「ほんと、何でオレ達なんだろうな。……焔」


 ああ、ほんと。


 神様なんて、クソッタレだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ