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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第四十七話 氷

「こ、これは……!?」


 再びアナザーへと足を踏み入れ、起きた現象に戦慄する。

 ━━仲間が、消えた。三方向に存在するドア以外に何もない大きな部屋に、ぽつんと俺だけが取り残されていた。


「っ一色さん! 皆は!?」

「落ち着いて、レイラさん。……離れ離れのようですが、皆さん別の場所にいるみたいです。どうやら、アナザーに入ったと同時に飛ばされたみたいですね」

「良かった……無事なんですね」


 思わず胸を撫で下ろす。

 作戦決行時間になり、全員でアナザーへと入ると同時にこれだ。ルールが関係しているのか?


「とりあえずドアを開いて先に進んで下さい。皆さんもそうしています。そして、敵を見付けた場合は」

「━━迷わず応戦、ですね。そして空間能力者の場所を聞き出せれば尚良し、と」


 ともあれ、俺の役目は変わらない。一人なのは心細いが、俺も今までとは違う。蒼貞さん、そして焔さん含む支部の皆の信頼を裏切るわけにはいかないな。

 進もう。


 *


 想定してなかった訳じゃない、けど。

 これは少々不味い事になった。


 モニター越しに全員の動向を見守る。皆さん、今のところ敵とは出会ってないけど……問題はそこじゃない。

 アキラちゃんの嗅覚、蒼貞さんの雨による索敵。その二つが全く()()()()()()()

 前者は無臭である為。普通ならドアの向こうの匂いまで嗅ぎ取れるらしいけど……恐らく、ドアを隔てて全くの別空間になっているんだろう。

 後者はもっと単純。雨を遠くまで飛ばせない事。最初の空間は開けた場所になったけど、今回は完全に閉鎖空間だ。

 蒼貞さんでも敵や味方の位置を探れない。


「……しっかりしないと。今回、全員の動きが分かるのはアタシだけなんだから」


 弱音ばかりを吐いてちゃ駄目だ。

 戦えないアタシが誰かの役に立つのなら、(コレ)しかない。蓄えた知識、優れた視力、アタシの全てで皆さんをサポートするんだ。

 能力が発現し、途方に暮れていたアタシを助けてくれた焔さんみたいに。


 ……ふと、氷堂さんの視界を見る。そこには、誰かが立っていた。


 *


「私が最初、か」

「はい! 気を付けて下さい、相手はこの状況になることを事前に知っていた人間。つまり━━」

「一対一に自信がある。ってことね」

「そういうことです」


 ふぅ、と息を付く。能力はとっくに発動済み。完全にはまだ届かないけど、充分戦える。

 目の前に立っている全身スーツ姿の紳士風な風貌をした男は、気味の悪い笑顔を浮かべていた。


「おやおや、可愛らしいお嬢さんだ。戦うのが心苦しいよ」

「冗談がお上手。でも、殺意を隠せてないわよ? 芝居としては三流ね」


 挑発をする様に笑って見せると、くく、と男は笑い懐からナイフを取り出す。

 得物を使うのなら能力はそれを補助するもの、か。身体能力強化か、あるいは武器の強化か。

 なんにせよ、出方を見たいわね。


「さて、じゃあ戦いましょうか。その柔らかそうな肌……切り付けるとどんな感触がするのかな。楽しみだ」

「気色悪いわ。紳士のような見た目とは合わないわね」


 またしても男は笑い、こちらへと走ってきた。

 直線。他に武器も無さそう? なら、このまま迎え撃つ。


「フッ!」


 目の前まで迫ってきたと同時に、男はナイフをこちらの首目掛けて突いてくる。

 狙いは正確。でも、()()()()()。止まって見えるわ。


「はっ!」


 敵の手首に振れ、軽く衝撃を与えて軸をずらす。空を突くナイフを尻目に一歩近づき、掌を腹へと放つ。


「せい!!」


 このまま突き飛ばす為に力を込める……が、予想外の事が起きた。

 確実に腹を突いた筈の掌が、空を叩いていたからだ。

 あの体勢から避けた? 不可能な筈。何が起きたのか背後にいる男を見ると


「っとと、危ない危ない」


 足を滑らせたのか、姿勢を崩して千鳥足になっていた。

 なるほど、偶然転けかけて攻撃を喰らわなかったのね。運が良い男だ。


「偶然に助けられたわね。でも、何度も続かないわよ!」


 敵の力量は分かった。このまま押しきれる。

 そう思い距離を縮めていく。


「はぁ!」


 腰に力を込め、弾き出す様に上段蹴りを放つ。

 私の能力で強化された身体能力は並じゃない。反応すらさせずに頭を蹴り飛ばしてやるわ。


「おっと、ナイフを拾わねば」

「!」


 が、男はまたしても偶然ナイフを落とし、それを拾うために屈んで結果的に私の蹴りを避けた。


「また……?」


 疑問が浮かぶ。偶然は続いても可笑しくない。ただ、何か変だ。

 この男から、恐怖や敵対心を感じられない。強い殺意はあるものの、敵にしては迫力が無いというか。

 何より、攻撃を避けようという気持ちが見当たらない。


「おや、考え事ですかな?」

「っ!」


 長考に陥りかけていた脳を叩き起こし、ナイフを奮ってくる男の攻撃を捌いていく。

 やはり、動きは大した物じゃない。私の身体能力からすれば尚更だ。


「は!」

「ぬっ!」


 素早くナイフを持った手を上へと弾き、一歩踏み込んで前蹴りを放つ。

 タイミングは完璧だ、入る……!


「おっと、危ない」

「……!」


 が、まるで心を見透かされていたかのようにあっさりと蹴りを下がって避けた。

 ……可笑しい。まるで、攻撃が来るのを予測していた様な動きね。


「お転婆な子だ。さっきのは危ない」

「さっきのは、ね。他の攻撃は心配無いと?」

「ええ。そういう風に()()()()()から」

「選んだ……?」


 選ぶ、ね。

 まだ能力の全容は分からないけど、少し試したいことが出来た。


「まだ、手の内は明かしたくなかったけれど……仕方無いわね」

「!」


 深呼吸する私を見て、男は更に下がる。

 警戒してくれてありがとう。無駄だけどね。


「『冷たい女(オーバーフリーズ)』改め、『氷鎧の女戦士(ブリザードレディ)』!!」


 パキパキと音をたて、私の周囲の地面が凍てついていく。

 体温は()()に達した。これで、私のネクストの発動条件は整った。

 身体の表面が薄氷に包まれ、白く淡く輝く。


「ネクスト……これはこれは、厄介な相手に当たりましたな」

「安心して、大した能力じゃないわ。ちょっぴり━━冷たいだけよ!」


 大きく右足を地面に突き立て、一気に接近する。

 右手に冷気を集中させ、薄氷で象られた鉈を精製する。


「はぁ!!」


 思い切りそれを振り下ろし、男は焦燥を浮かべてギリギリでかわす。無駄よ。

 避けられたのを気にもせず、そのまま地面へと鉈を叩き付け


「っ、足が!?」


 叩き付けられた場所から凍てついていき、男の足を固めた。

 戸惑う男へ躊躇なく、右足で蹴りを放つ。

 薄氷でコーティングされた足は、ダイヤモンド並の硬度を誇る……!


「がはっ!!!」


 今度は避けることも受けることも出来ず、蹴りを腹に受けて大きく吹き飛んだ。


 これが、私の力。体温が下がれば下がるほど身体能力が上がる通常の能力と

 体温が一定まで下がると氷を精製し身に纏い、そして自在に操れるネクスト能力。

 私が支部で、ナンバー2まで登り詰めた能力だ。

 だがまだ油断はしない。警戒を解かずに男の側まで近づくと


「さ、立ちなさい。さっきの余裕からして、まだ余力……が……」


 ……男は、泡を吹きながら失神していた。

 嘘でしょ。せっかく発動したのに、もう終わりなの!?

 さっきまでの余裕は何だったのよ。


「……はぁ、やれやれ」


 思わず溜め息をつく。



 脆い男ねぇ。





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