第四十四話 粘土使い
「っし、こんなもんかな」
攻撃を止め、能力を解除して息を付くアキラ。
巨人はもはや原型を留めておらず、辺りにバラバラになって散らばっていた。再生する様子も無し、決着だな。
「ある程度攻撃を加えれば再生しないようですね。アキラさん、お見事でした」
「ありがと、リオさん」
いつもの笑みを浮かべるアキラ。正に一瞬だったな。
「ごめんね~レイラ、出番取っちゃってさ?」
「はは、次は俺が倒すさ。にしても……更に強くなったな、アキラ」
「……ん、まぁね」
と、目線を下に反らすアキラ。
長期休暇の間に鍛えたんだろう。それがどんな内容だったのか、見当も付かないが。
「さて、蒼貞さんを追おう」
*
「━━良いのか? こっちに付いてて」
粘土使いを探しながら、インカムで楓と話す。
「問題ありません。アタシが口を出すまでもなく、アキラちゃんが倒しましたから」
「へぇ、アキラが。てっきり相性の良いレイラが倒すのかと思ったが」
「アタシもそう思いましたが……アキラちゃん、負けず嫌いですからね。借りを返したかったみたいです」
「ハハ、そりゃあ良い。負けん気の強い奴はオレぁ好きだぜ」
無事なら何より。ならオレは使い手を探すまでだ。
「楓。方向は合ってるんだよな?」
「ええ。方角も高さもこのままで合ってます。少なくとも高台にはいないみたいですね。……これだけ偽の人間を配置すれば、下手に高いところにいるよりも隠れられそうですし」
「それは確かに。……つっても距離は分からねぇか。しゃあない」
その場で止まり、手に水を集め空中へと放つ。索敵だ。
「『集雨』」
放たれた水は途中で止まり、拡がっていく。
やがて、ポツポツと雨となって辺りに降り注いだ。
「雨……?」
「あぁ。かなり小規模のな。ただし俺が人工的に作ったもの。手足のように自在に操れるし、なにより」
……西。ここから少し離れた位置に、地面とは違う何かに俺の雨が当たったな。そこか。
「雨が少しでも当たった場所は何処であろうと把握できる。そんで」
息を吸い、目を閉じる。
「『翔水』」
地面がふっと消え、再び降り立つ。ゆっくり目を開くと
「━━水さえあればオレは何処にでも移動出来る」
「な!?」
眼前には、見知らぬ男が立っていた。こいつが空間能力者……もしくは粘土使いか。
「ん? お前……見た顔だな」
見覚えのある顔だと思ったが、分かった。支部周りで見付けた感染したばかりの男だ。
まだ能力には目覚めてなかったんで監視だけにしていたが。
「確か、土田とか言ったな。なんでここにいる?」
「は、話すと思うのか? 俺はもう能力者なんだぜ、大人しく従うかよ!」
土田は一歩下がると、足下からオレへと目掛けて何かが数発放たれた。
「抵抗すんなよ」
配置していた水を拡げ、放たれた何かを受け止める。……銃弾の形をした粘土か。空間能力の使い手ではなさそうだな。
「粘土細工がお好きなようで。もう満足か?」
「様子見の攻撃を防いだ程度でイキんじゃねぇ。本番は……これからだろ!」
土田は懐から何かを取り出し、こちらへ向けた。精巧に作られた、拳銃の形をした粘土だ。
「オラ!!」
そして、その拳銃から何発も弾を放つ。先程と同じように水で防ぐが……威力に圧されて数発がオレの頬を掠めた。
へぇ、普通の銃弾なら難なく防げるってのに。やるじゃねぇか。
「俺の能力『粘土職人』は、粘土で作った物を本物と同じ性質を加える能力! 更に、完成度が高ければ高いほど強さが増す! この銃はなぁ、本物よりも高威力だぜ!」
「ハハ、なるほど。夏休みの自由研究にはピッタリな能力だ」
語るに落ちている土田を見て思わず煽ってしまう。土田は顔を赤くし、また拳銃をこちらに向けた。
「死ね!!」
再び放たれた銃弾。防ぐのは可能だが、受けに回るのはめんどくさいな。リロードもしていない様だし、何発も付き合うのはごめんだ。
「よっと」
足下から水を噴射し、弾を弾く。そのまま宙へと浮き、向きを変えて土田へと接近していく。弾く為なら、体は動かせるんだな。避けることだけが禁止事項みたいだ。意思に作用してんのか?
「おらよ!」
「けっ……!」
そのまま踵落としを頭に打ち込むが……何処からか取り出した盾で防がれた。
しかしまぁ、綺麗に作るもんだ。こんなことしてないで、本当の職人にでもなれば良いものを。
「ふん!」
そのまま弾かれ、再び距離を取らされた。
さて、どうすっか。殺す訳にはいかないし、あんまり強い技は使いたくないが。
「精巧に作れば、本物よりも強くなる。そう言ったよな?」
「ああ、言ったな」
「なら……これはどれくらいの威力になると思う?」
土田は路地に隠していた、大きなものを持ち出した。……おいおい、マジか。
「━━機関銃だ。普通の機関銃でも鉄板ぶち抜くくらいなら訳無い代物だ。蜂の巣にしてやるよ!!!」
そして、土田は機関銃を乱発射し始めた。
「流石に……!」
路地から飛び出し、全速力で横に走る。避けることが出来ない以上、わざと弾を能力で受けながら。
「く……! 重てぇな」
まるで大砲を受けているかの様だ。威力を加味して分厚い水の膜で受けているというのに、少しでも気を抜けば貫通してくるだろう。
ホントに面白い能力だな! 是非とも味方にしたい所だが、一線を越えている以上そうもいかない。
━━少し、本気で行くか。
「ふっ!」
降り続く雨粒を掌に溜め、走りを止めずに様子を見る。仕掛けに気づかれたら面倒だ、慎重に行かないとな。
「ハハハ! 防いでばっかじゃ勝てねぇぞ! この機関銃に弾切れはねぇからな!」
土田の高笑いを聞きながら、順調に水を溜めていく。そろそろ良いか? なら、反撃だ。
「『翔水』」
その場から瞬間移動し、土田の真上へと移動した。
しかし、土田は笑う。
「そう、お前は俺の上にくるしかないよな? 食らいやがれ!」
土田の足下には小型のミサイルがいくつか設置されており、全てがオレへと向けて発射した。成す術もなく、ミサイルに当たる。
……全く、嫌になるな。
「━━━━は?」
土田はミサイルが命中した筈のオレを見て、唖然としていた。
……いや、違うか。命中したのはオレの分身だ。
「……精巧に作るのはよ、オレも得意なんだ。水ってのはどんな形にもなるからな」
土田の周りを囲うように、分身数体を配置した。本体のオレも含めて。当然、土田の頭上へと出現させたのも分身だ。水で出来た分身にミサイルを当てたって意味は無し。唖然とするのも仕方ないな。
「分身だと!?」
「あぁ。分身は水を大量に使うからな、準備に手間取ったよ」
「だから、わざわざ走って避けてやがったのか……!」
「正解」
掌にまたしても水を溜め、回転させる。やがて球体だった水が楕円形になっていく。
「こ、この……クソがぁぁぁぁ!!」
やけくそになった土田が再び機関銃を持ち上げた瞬間、オレは掌の水を思い切り投げた。
「『水斬』」
「がっ……!!」
放たれた高速回転する水は機関銃と土田の右腕を容易く切断し、水溜まりにぼとりと落ちた。
全く、嫌になるよ。
━━職人の手を斬り落とすのは。




