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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第四十四話 粘土使い

「っし、こんなもんかな」


 攻撃を止め、能力を解除して息を付くアキラ。

 巨人はもはや原型を留めておらず、辺りにバラバラになって散らばっていた。再生する様子も無し、決着だな。


「ある程度攻撃を加えれば再生しないようですね。アキラさん、お見事でした」

「ありがと、リオさん」


 いつもの笑みを浮かべるアキラ。正に一瞬だったな。


「ごめんね~レイラ、出番取っちゃってさ?」

「はは、次は俺が倒すさ。にしても……更に強くなったな、アキラ」

「……ん、まぁね」


 と、目線を下に反らすアキラ。

 長期休暇の間に鍛えたんだろう。それがどんな内容だったのか、見当も付かないが。


「さて、蒼貞さんを追おう」


 *


「━━良いのか? こっちに付いてて」


 粘土使いを探しながら、インカムで楓と話す。


「問題ありません。アタシが口を出すまでもなく、アキラちゃんが倒しましたから」

「へぇ、アキラが。てっきり相性の良いレイラが倒すのかと思ったが」

「アタシもそう思いましたが……アキラちゃん、負けず嫌いですからね。借りを返したかったみたいです」

「ハハ、そりゃあ良い。負けん気の強い奴はオレぁ好きだぜ」


 無事なら何より。ならオレは使い手を探すまでだ。


「楓。方向は合ってるんだよな?」

「ええ。方角も高さもこのままで合ってます。少なくとも高台にはいないみたいですね。……これだけ偽の人間を配置すれば、下手に高いところにいるよりも隠れられそうですし」

「それは確かに。……つっても距離は分からねぇか。しゃあない」


 その場で止まり、手に水を集め空中へと放つ。索敵だ。


「『集雨(しゅうう)』」


 放たれた水は途中で止まり、拡がっていく。

 やがて、ポツポツと雨となって辺りに降り注いだ。


「雨……?」

「あぁ。かなり小規模のな。ただし俺が人工的に作ったもの。手足のように自在に操れるし、なにより」


 ……西。ここから少し離れた位置に、地面とは違う何かに俺の雨が当たったな。そこか。


「雨が少しでも当たった場所は何処であろうと把握できる。そんで」


 息を吸い、目を閉じる。


「『翔水(とびみず)』」


 地面がふっと消え、再び降り立つ。ゆっくり目を開くと


「━━()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な!?」


 眼前には、見知らぬ男が立っていた。こいつが空間能力者……もしくは粘土使いか。


「ん? お前……見た顔だな」


 見覚えのある顔だと思ったが、分かった。支部周りで見付けた感染したばかりの男だ。

 まだ能力には目覚めてなかったんで監視だけにしていたが。


「確か、土田(つちだ)とか言ったな。なんでここにいる?」

「は、話すと思うのか? 俺はもう能力者なんだぜ、大人しく従うかよ!」


 土田は一歩下がると、足下からオレへと目掛けて何かが数発放たれた。


「抵抗すんなよ」


 配置していた水を拡げ、放たれた何かを受け止める。……銃弾の形をした粘土か。空間能力の使い手ではなさそうだな。


「粘土細工がお好きなようで。もう満足か?」

「様子見の攻撃を防いだ程度でイキんじゃねぇ。本番は……これからだろ!」


 土田は懐から何かを取り出し、こちらへ向けた。精巧に作られた、拳銃の形をした粘土だ。


「オラ!!」


 そして、その拳銃から何発も弾を放つ。先程と同じように水で防ぐが……威力に圧されて数発がオレの頬を掠めた。

 へぇ、普通の銃弾なら難なく防げるってのに。やるじゃねぇか。


「俺の能力『粘土職人(クレイアーティスト)』は、粘土で作った物を本物と同じ性質を加える能力! 更に、完成度が高ければ高いほど強さが増す! この銃はなぁ、本物よりも高威力だぜ!」

「ハハ、なるほど。夏休みの自由研究にはピッタリな能力だ」


 語るに落ちている土田を見て思わず煽ってしまう。土田は顔を赤くし、また拳銃をこちらに向けた。


「死ね!!」


 再び放たれた銃弾。防ぐのは可能だが、受けに回るのはめんどくさいな。リロードもしていない様だし、何発も付き合うのはごめんだ。


「よっと」


 足下から水を噴射し、弾を弾く。そのまま宙へと浮き、向きを変えて土田へと接近していく。弾く為なら、体は動かせるんだな。避けることだけが禁止事項みたいだ。意思に作用してんのか?


「おらよ!」

「けっ……!」


 そのまま踵落としを頭に打ち込むが……何処からか取り出した盾で防がれた。

 しかしまぁ、綺麗に作るもんだ。こんなことしてないで、本当の職人にでもなれば良いものを。


「ふん!」


 そのまま弾かれ、再び距離を取らされた。

 さて、どうすっか。殺す訳にはいかないし、あんまり強い技は使いたくないが。


「精巧に作れば、本物よりも強くなる。そう言ったよな?」

「ああ、言ったな」

「なら……これはどれくらいの威力になると思う?」


 土田は路地に隠していた、大きなものを持ち出した。……おいおい、マジか。


「━━()()()だ。普通の機関銃でも鉄板ぶち抜くくらいなら訳無い代物だ。蜂の巣にしてやるよ!!!」


 そして、土田は機関銃を乱発射し始めた。


「流石に……!」


 路地から飛び出し、全速力で横に走る。避けることが出来ない以上、わざと弾を能力で受けながら。


「く……! 重てぇな」


 まるで大砲を受けているかの様だ。威力を加味して分厚い水の膜で受けているというのに、少しでも気を抜けば貫通してくるだろう。

 ホントに面白い能力だな! 是非とも味方にしたい所だが、一線を越えている以上そうもいかない。

 ━━少し、本気で行くか。


「ふっ!」


 降り続く雨粒を掌に溜め、走りを止めずに様子を見る。()()()に気づかれたら面倒だ、慎重に行かないとな。


「ハハハ! 防いでばっかじゃ勝てねぇぞ! この機関銃に弾切れはねぇからな!」


 土田の高笑いを聞きながら、順調に水を溜めていく。そろそろ良いか? なら、反撃だ。


「『翔水(とびみず)』」


 その場から瞬間移動し、土田の真上へと移動した。

 しかし、土田は笑う。


「そう、お前は俺の上にくるしかないよな? 食らいやがれ!」


 土田の足下には小型のミサイルがいくつか設置されており、全てがオレへと向けて発射した。成す術もなく、ミサイルに当たる。

 ……全く、嫌になるな。


「━━━━は?」


 土田はミサイルが命中した筈のオレを見て、唖然としていた。

 ……いや、違うか。()()()()()()()()()()()()


「……精巧に作るのはよ、オレも得意なんだ。水ってのはどんな形にもなるからな」


 土田の周りを囲うように、分身数体を配置した。本体のオレも含めて。当然、土田の頭上へと出現させたのも分身だ。水で出来た分身にミサイルを当てたって意味は無し。唖然とするのも仕方ないな。


「分身だと!?」

「あぁ。分身は水を大量に使うからな、準備に手間取ったよ」

「だから、わざわざ走って避けてやがったのか……!」

「正解」


 掌にまたしても水を溜め、回転させる。やがて球体だった水が楕円形になっていく。


「こ、この……クソがぁぁぁぁ!!」


 やけくそになった土田が再び機関銃を持ち上げた瞬間、オレは掌の水を思い切り投げた。


「『水斬(みずきり)』」

「がっ……!!」


 放たれた高速回転する水は機関銃と土田の右腕を容易く切断し、水溜まりにぼとりと落ちた。


 全く、嫌になるよ。



 ━━職人の手を斬り落とすのは。




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