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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第四十三話 ルール

「━━白い、巨人?」


 明らかに異質な存在感を放つ()()は、人間とは程遠い姿だった。

 人間のおよそ二倍近くある身長、石灰の様な真っ白な体、とてつもなく大きなハンマーを抱えた丸太のような腕。

 殺戮を求めているかの様な、暴力的な雰囲気だ。


「能力……だろうな。アキラみたく変身系かあるいは」

「何処かで能力者がアレを操っているか……ってところだね」

「だな、アキラ。後者だと厄介だ。なんせ、まだこの空間のルールをオレ達は知らない。だが相手は知ってるだろう。……ったく、何が空間系能力はフェアだよ。ルールを知らないってだけで圧倒的に不利じゃねぇか」


 こちらは一ヶ所に集まるのを止め、それぞれが離れる。

 誰に攻撃が来ようと、最悪の場合でも犠牲を一人に留めるために。

 あのハンマー。うっすらとだが血が付いてるな。武器からして、さっきの遺体はあいつに殺られたんだろう。


「さて、どう来る?」


 巨人はゆっくりと歩きだし、蒼貞さんは不敵に笑う。

 氷堂さん、アキラも能力を発動させた。


 ……アキラの変身、前よりもゴツくなってないか? いや、よそう。今は目の前の敵に集中だ。


 やがてアキラの目の前まで巨人が迫り、その大きなハンマーをゆっくりと振り上げ、打ち下ろす。

 遅いな。スピードのあるアキラなら問題なく対処出来るだろう。

 だが。


「……っ!?」


 アキラは困惑の表情を浮かべながら、攻撃を避けずに両腕を使い受け止めた。

 地面にヒビが入るほどのパワーが響き、アキラはたまらず後退する。


「アキラ!? なんで避けないんだよ!」


 思わず駆け寄る。幸い、腕は折れていない様だが……たった一撃で腕が目に見えて腫れていた。


「避けようとしたさ。でも……()()()()()()()。体が動かなくなったんだよ」

「な……!?」


 アキラの能力は常人はおろか感染者すらも上回る身体能力と狼の様な牙や爪、嗅覚までも有する力だ。

 スピードに至っては俺らの支部でもトップクラス。そのアキラが避けれないだなんて。

 ならば、答えは一つか。


「……空間のルール、だな。恐らくは……()()()()。なるほど、こりゃ厄介だぜ」


 蒼貞さんは舌打ちと共に眉を寄せた。

 巨人によるパワーと、回避不能の空間。アキラでなければ最悪一撃で殺られていた。

 恐ろしいコンボだな。こちらも相手を制限することが可能だろう……が、あの巨人を一撃で倒さなければ必ず反撃が来る。何度も耐えるのは難しいだろう。


「なら、こうするまでだよな」


 蒼貞さんは手から水で出来た球をいくつか生成し、空中に浮かべる。

 照準を定めるかのように、指を巨人へと向けた。


「『撃水(うちみず)』!」


 パン、と弾ける様な音と共に、凄まじい速さで珠から水を銃弾のように放った。

 さっきの様子を見るに、攻撃することが空間能力が発動するスイッチだ。なら、この攻撃も……!


「良し、狙い通りか」


 蒼貞さんはにやりと笑う。

 巨人は放たれた水に貫かれ、仰向けに倒れた。巨人にはいくつもの穴が空いていた。

 水を操る能力、か。話は聞いてたけど、応用力が高そうだな。


「……ちっ、()()()()()()()()()()

「え……」


 勝った筈の蒼貞さんは舌打ちをした。その先には……穴だらけの体で立ち上がる巨人がいた。

 しかも、穴は徐々に塞がっていく。再生したのか。


「変身系じゃねぇって訳だ。あの巨人、何で出来てやがる」

「血も出てなかったし人間では無いわね。どうします、リーダー?」


 氷堂さんがそう聞くと、蒼貞さんはため息と共に水を先程よりも大量に生成する。


「一撃で吹き飛ばす。その後能力者を探しゃあ良い」


 生成した水を腕へと集めていき、腰を落とす。投球フォームの様だ。


「『槍水(やりみず)』。ぶち抜くぜ」


 槍のように尖る水の塊を投げようとした瞬間。

 蒼貞さんは何かに気が付いた様で動きが止まった。


「っ!!」

「蒼貞さん!?」


 瞬間、蒼貞さんの腕が飛んできた何かに弾かれ、大きく仰け反った。溜めていた水は解除され、地面へと落ちていく。


「狙撃……しかも、()()でか」


 足元に転がっていた何かを拾い上げると……それは小さな土の塊だった。

 ただの土ではない。恐らく……粘土か?


「━━作戦を伝える。お前ら三人であの巨人を倒せ。その間オレは、狙撃手を探す。遠距離から攻撃できる奴を放っておくのはめんどくせぇからよ」

「了解。大丈夫だと思うけど、気をつけて下さいね」

「はっ、誰に言ってんだ氷堂。オレはバカだが強いぜ?」


 ニッと笑みを浮かべた後、蒼貞さんは足から水を噴射し猛スピードで偽の人混みへと走っていった。


 この巨人を倒す……か。俺の能力なら動きは止められるか?


「良し、ここは俺が━━」

「いや、僕が行くよ。一撃貰ったしね、お返ししないと」


 前に出ようとする俺を制止し、アキラが巨人へと立ち向かった。

 アキラの能力なら、巨人の攻撃も耐えられる……が、大丈夫なのか?

 相性は決して良くはない。一撃の重さも巨人に軍配が上がるだろう。何か、策でもあるのか?


「━━考えてたんだよね、一発貰ったときにさ」


 巨人の前まで接近し、立ち止まるアキラ。巨人はゆっくりとハンマーを上へと挙げていく。


「出来なくなるのは回避だけ。だから防御が出来た。……なら、さ。━━攻撃も出来るって事だよね!!」


 瞬間。

 アキラの両手が動くと同時に凄まじい速度で巨人の体が切り刻まれた。アキラがやったのか? 以前よりも圧倒的に速い……!

 もはや残像しか捉えられないアキラの両手が、巨人を細かく刻んでいく。ハンマーを持っていた腕は切断され、巨人の体は力を失い膝を付く。


「再生も出来ないほどバラバラにしてやる! 『削る双爪(ツインクロー)』!!」


 もう片方の腕が、首が、両足が、胴体が。嵐のような連撃に耐えきれず切り刻まれていく。

 一匹の人狼によって、成す術もなく。


「アキラ……いつの間にあんなに強く……!」


 思わず呟いた。アキラは元々強かったが、今のアキラは更に上だ。俺が知らない間に一体……。

 しばらく呆けていると、氷堂さんに肩を叩かれた。


「レイラさんが進化(ネクスト)に近い能力者だ、とは蒼貞さんから聞いてはいましたが……私は」

「どちらかというと、アキラさんのが近い様に思えます。彼女もまた、進化を望んでいるのかも」

「━━!」


 悔しい思いをしたのは、俺だけじゃない……か。

 負けていられないな。



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