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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第四十一話 第六支部

「着いた、か」


 電車に揺られること数十分、目的地へと到着した。

 蒼貞さんの支部がある街の最寄り駅だ。やれるだけの準備はした、覚悟も出来ている。

 でも、やはり緊張はする。


「ふぁ……眠い。こんなに朝早くから集合しなくても良いじゃんって思うんだけどね。夕方から異世界(アナザー)に行くって話でしょ?」

「作戦会議とかするんじゃないか? アキラ」

「どーだかねぇ。アオサダさんは結構テキトーな人で有名だよ?」

「……マジか」


 隣には、眠そうに欠伸をしているアキラ。

 結局、地元に戻った理由を話してはくれなかったが、少しは元気を取り戻した……様に見えるな。


「━━お疲れ様です、レイラさん、アキラさん」

「ん?」


 ふと声を掛けられ、振り向くと……この間蒼貞さんと一緒にいた女性が立っていた。


「改めまして、氷堂 理央(ひどう りお)と申します。今日のアナザー調査でご一緒させて頂く、蒼貞さんの部下です」

「ご丁寧にありがとうございます。自分は月星レイラって言います。知ってるかと思いますけどね。で、こっちは」

「アキラだよ。大神アキラ。よろしくね、リオさん」

「よろしくお願いします。では、支部へ案内させて頂きますね」


 ぺこりと氷堂さんは頭を下げ、控えめに笑った。

 随分と物腰が柔らかな人だ。俺らの支部はちょっと個性的な人が多いから新鮮に感じる。

 言われるがまま、氷堂さんについていく事にした。


 *


 駅を出て、見慣れない風景に少々戸惑いながら歩いていく。

 にしても……この人、失礼だがあまり戦えそうな印象が無いな。サポート専門なのかもしれない。


「━━もしかして、ですが。私の事をあまり戦えそうに無いなーって思ってます? フフ」

「!?」


 すると突然図星を突かれ、思わず言葉に詰まる。


「当たりの様ですね。まぁ仕方ないと思いますよ、実際能力を得るまでは運動すらまともにやらない人間でしたし。……でも、今は違います」


 くるりと振り向き、氷堂さんは先程とは違い冷たい瞳で俺を見詰めた。背筋が凍るような威圧感だ。隣にいるアキラも、冷や汗を流していた。


「私は、こちらの支部において()()()()()()()()()ですから」

「な……!」


 まさか、それほどの実力者だとは。見た目じゃ能力者の強さは計れない……か。


「ウフフ、脅かしてすいません。貴方達が羨ましくて、ついイジワルしちゃいました」

「う、羨ましい……ですか?」

「ええ。だって……焔さんと働けるんですもの!」


 氷堂さんは目を見開きながら、意外な事を口走った。


「へ?」

「綺麗で、カッコよくて、そして強い! 同じ女とはとても思えない魅力に溢れてて、振る舞いも容姿も何もかも完っ璧!! そんなお方とほぼ毎日会えるんでしょう!? 羨ましくて羨ましくて仕方ないですよ!!」


 凄まじい剣幕で氷堂さんは暴走し、その後糸が切れたように黙り込んだ。あまりの衝撃に、俺達まで黙ってしまった。


「はぁ……取り乱して失礼しました。ともかく、貴方方が羨ましいんですよ。言っちゃアレですが、こっちの蒼貞さんとはまるで違う。あの人、強さは本物ですがテキトーすぎます。遠坂さんに大抵の仕事は丸投げしますし、理由も語らずフラッと何処かに消えますし、皆苦労してるんですよ。焔さんならそんな事無いだろうに」

「あ、あはは……大変ですね」


 何とか、言いたいことは分かった。この人は焔さんが大好きなんだな。気持ちは分かる。

 美人だし仕事も出来るし、なにより俺達の事を一番に考えてくれる良いリーダーだからな。ただ、見た目ほどクールでは無いけど。

 焔さんがパトロール中に野良猫を見掛けて近付いていったらビニール袋だった話とか今思い出しても吹き出しそうになる。

 でも、この事は教えない方が良いか。氷堂さんが思い描く焔さんのイメージを崩すのは些か忍びない。


 そんなこんなで歩くこと数分、氷堂さんは立ち止まった。


「おっと、そうこうしている内に着きましたね」


 目的地である支部へと辿り着いていたからだ。見掛けはこちらの支部と大差ない。古ぼけたビルだ。

 中は似たような作りになっているのだろう。


「ようこそ、我らが第六支部へ」


 氷堂さんはお辞儀と共に、妖艶な笑みを浮かべた。


 *


「よう。レイラ、アキラ」


 支部内の事務室へ入ると、部屋の中心に蒼貞さんが立っていた。傍らには遠坂さんもいた。


「はい、よろしくお願いします!」

「よろしく~」

「おう、よろしく。案内ありがとよ、理央」

「仕事ですもの」


 気さくに話し掛ける蒼貞さん。軽いな、でも……妙な気迫がある。

 焔さんと同等の強さを持つという。しかも、先の戦いで組織のメンバーや傭兵を何人も捕らえたとも。

 正真正銘の実力者……だな。


「改めて言っとくか。オレは出水 蒼貞(いずみ あおさだ)。この第六支部を仕切らせて貰ってる。まぁ形だけのリーダーさ、戦い以外は皆に頼りっぱなしだ」


 そう自己紹介をする蒼貞さんに、遠坂さんと氷堂さんは反応した。


「間違いない。僕も理央ちゃんも振り回されてばっかりさ」

「ですねぇ」

「お前らなぁ……否定はしないが」

「はは……」


 思わず笑みが溢れた。仲が良いな。こっちとは違う雰囲気だが、団結力の高さを感じる。


「さて、んじゃあ作戦の概要を説明すんぜ」


 しばらく雑談をした後、蒼貞さんはソファーに腰掛け、遠坂さんを除いた全員も座った。


「作戦会議なんて珍しいですね、蒼貞さん?」

「オレを何だと思ってるんだ、理央。今回はいつもみたくテキトーに悪い能力者シバいてはい終わりっていかないからな」

「ま、それは確かに」


 ……逆に言えば、いつもはそんな感じで仕事をこなしてるんだな。なるほど、テキトーだ。


「作戦決行は夕方五時、場所は駅近くの裏路地。一般人も普通に出歩いている場所だが、とある店だけ一般人からは見えない所がある。見付けたのは本当に偶然だな」

「一般人に見えない……能力ですね」

「そうだ、レイラ。空間系能力の特徴だな。空間系能力は一般人じゃ見えないし入れない。と、言うよりは入ろうとする意思すら湧かないらしいぜ」

「ふむ……」


 更に話を続ける。


「以前からその中の調査をいくつかの支部から人員を割いて調査してるが……全容を掴めてない」

「それは何でなのさ?」

「分からねぇことだらけだからだよ、アキラ。中は真っ白な空間に大量の扉。どこを開けても殆どの場合先には進めない。恐らく迷路のような構造になってる。更に」


 蒼貞さんの表情が変わり、思わず身構えた。


「……先へと進めた支部メンバーが全員行方不明になってる。死んだのかすらも分からねぇ」

「そんな……!」

「ちょっと待って、アオサダさん」


 俺が驚いていると、アキラだけは違うことに反応した。


「空間系能力なんでしょ? じゃあこっちだけに危害を加えるのはおかしくない?」

「あ……」


 確かにそうだ。以前、焔さん達が言っていた。

 空間系能力は使用者と侵入者。その両方になんらかのルールを強いるもの。加えて、そのルールが直接ダメージを与えるような能力になった事は一度もない。

 感染者の能力は未知な点が多いが、空間系に関しては絶対にそうなると言う。


「あぁ、その通りだ。だから最初はただ中でさ迷ってるだけだと思われていたが……別の可能性が浮かんできた」

「それは?」


 蒼貞さんはため息をついた後、言った。


「中に他の能力者がいる可能性、だ」

「あ……」


 盲点だった。何故こんなに単純な毎に気が付かなかったのだろうか。

 それならば、攻撃されている可能性もあるな。


「可能性の域を出ないけどな。でも、能力者が何人も揃ってたかが空間系能力者一人の能力を突破出来ないとは思えねぇ。いくら迷路っつっても、空間系能力者本人さえ見つけ出して叩けばそれで終わりだしな。他の要因がそれを邪魔しているとオレは睨んでる」

「もし、そうだとしたら……完全に単独犯の仕業ではないですね」

「あぁ。なんらかのグループだろうよ。それがあの組織かは分からねぇが」


 ……思っていたより、大きな仕事になりそうだ。

 広さも能力も分からない空間に、たった数人で殴り込む。加えて、第三者の存在の可能性。

 アキラの鼻、一色さんの眼。その二つの能力でどれだけ分かるのか……見当もつかない。


「ま、それでもやるしかねぇがな。いつまでも放ってはおけねぇ。行方不明の能力者が多い理由もそこにあるだろうしな」

「行方不明ですか?」

「ああ。犯罪行為をしていない能力者が、GPSとかで居場所を常に把握しているのは知ってるだろ?」

「はい」


 能力者が暴れないか監視するための措置だな。プライベートの侵害もいいとこだが……現状そうするしかないらしい。


「その能力者達が何人もその路地近くで消えてるんだ。自分から空間に入ったのか、拉致されたのか……どっちみちろくな理由じゃねぇ。だからその理由も探りたい」

「なるほど……一筋縄じゃいかないですね」

「ああ。気張れよ」


 より一層、身が引き締まる。この間の襲撃とはまた違う戦いになりそうだ。

 アキラや自分の事を心配する余裕も無さそうだな。


「後の事は追々話す。今からはそれぞれの能力を把握する。いざってときに連携を取れるようにな」

「━━はい!」







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