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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第四十話 知らせ

 

「━━レイラ! そっち行ったぞ!」


 梶さんに追われ、逃げる感染者の男。それの前に立ち塞がり、右手を前へと翳す。まずは足下からだ。


「はい! 『捕縛する右手(ライトキャッチ)』!」

「く! 危ねぇ!」


 男はギリギリで上へと跳んで手を避けたが、こちらの狙い通りだ。

 ()()を構え、技名を叫ぶ。


「━━『捕縛する左手(レフトキャッチ)』!」

「うォッ!?」


 出現したもう一つの左手により、男をしっかりと掴む。凄まじい力に圧力を掛けられ、男は気を失った。


「ふぅ。……空中で避けるのは無理だろ、迂闊だったな」

「お疲れ、レイラ。お前も様になってきたな?」


 駆け寄ってきた梶さんに褒められ、なんだか照れ臭い。


「はは、ありがとうございます」

「技の使い所も良い感じだ。あるのと無いのでは結構違うだろ?」

「そうですね、まさかこんな方法があるなんて」


 以前、焔さんや梶さんから教えてもらった戦闘でのコツ。

 能力を使ってしたい動きと、技の名前を紐付けるというテクニックの事だ。出したい動きをその都度考えるのではなく、行動に名前を付けて反射的に能力を発動させるというもの。

 これにより、やりたい動きを限りなく速く行えるようになった。

 思えば、アキラも前からやっていたな。


「俺はあんまりやらねーけどな。慣れてくると技名を口に出すより速く行動に移せるからよ。ま、人によるんだろうが」

「なるほど……勉強になります」


 考えすぎてしまう俺にはぴったりだが、梶さんは違うみたいだ。慣れてくればまた話は変わるのかもな。


 警察が感染者の身柄を引き取ったのを確認し、一旦支部へと戻り始める。

 ……あの日から、色々あった。

 支部とその周り、そして組織による襲撃に見舞われた場所は酷い有り様だった。複数の能力者が暴れただけで、まるで災害の後の様だ。


 今、俺達が歩いている広場は特に酷い。未だに一般人は立ち入り禁止で、先程のような能力者や悪い人間が火事場泥棒を行っている始末。

 日課であるパトロールを暫く止め、複数の支部総出で修復及び避難活動に追われていた。


 おまけに、能力者の存在が前よりも広まってしまった。今みたく一般人が立ち寄らない場所ならともかく、人がいると野次馬が集まってくるようになってしまった。

 その為、人がいる場所ではフルフェイスのメット等で顔を隠すようにと指示が出た程だ。戦闘になると邪魔でしょうがない。

 昨日、焔さんは支部長の集まりで出掛けていたが……恐らくはその話題が殆どだったんだろう。これから先、どうなることやら。


「復興にいつまで掛かるだろうなぁ。いくら俺らが手伝っても埒が明かねぇや」

「ですねぇ。とりあえず今は帰りましょう。アキラの事も気になりますし」

「……アキラか。そうだな」


 あの日から、アキラの様子が変わってしまった。

 話は、今から約一ヶ月前……あの襲撃の少し後に遡る。


 *


「━━レイラさん、ご無沙汰してます!」


 怪我が治り、念のためリハビリに勤しんでいた俺の元に私服姿の一色さんが現れた。


「一色さん!? 怪我は大丈夫なんですか?」

「はい、この通り!」


 と、一色さんは力こぶを作る仕草を見せた。良かった、元気そうだ。顔色も良いし怪我も完治している。

 支部の皆は全員、生明さんに治療されて元気にしていると一色さんは語った。欠損した四肢等も治したとの事だ。

 能力による治療の効果は凄いな。現代医療すら軽く凌駕している。


「良かったです。……それで、何をしにここへ?」

「一つはレイラさんへのお見舞いです。生明さんから様子は聞いていましたが……大分良くなったみたいですね?」

「お陰様で。……他にも何か?」

「ええ。アキラちゃんの事です」


 アキラ。不意に出た言葉に驚く。まさか、アキラに何かあったのだろうか。


「アキラがどうしたんですか?」

「順に話しますね。まず、アキラちゃんはレイラさんより一足先に復帰して、検査入院していた私の所に来たんですよ。お見舞いと……私へ謝りに」

「謝りに、ですか」


 謝るような事はしていないだろう。突然の襲撃、俺なら対応すら出来なかったと思う。


「はい。アキラちゃん、大分思い詰めていた様で……私の前で凄く泣いていました。私を守れなかった、力が足りなかったって」

「……!」

「その後、暗い表情をしたまま帰っていきました。それから数日後、アキラちゃんは地元に一週間程戻るから休暇を貰うと焔さんに話してたらしいです」


 ……そんな事が。

 アキラは過去を気にしない、飄々としたイメージがあった。が、今回の襲撃により自分が為す術なく敗北したこと、一色さんが大怪我を負ったことでかなり落ち込んでいたんだな。仲間思いだからこそ、人一倍負い目を感じていたのか。


「何をしに行くのかは聞けませんでした。けど、地元からこちらへ帰って来たアキラちゃんの表情は……更に重苦しい雰囲気を纏っていました。戦闘もいつも以上に容赦がなくなったと。……それでですね、余計なお世話かもしれませんが……レイラさんが復帰したら、いつもよりアキラちゃんを見ていて欲しいんです」

「俺がですか?」

「はい。一番歳が近く、パートナーでしたから。私や焔さんが気にかけるより良いかもって思ったんです」


 そういう事か。お安いご用だな。


「分かりました。俺に出来ることなら、何だってやりますよ。アキラは俺にとって大事な仲間ですから」


 と返事を返すと、一色さんは優しく笑った。


 *


 ……それから、いつも以上にアキラを気にしていた。

 あまり昔と変わらないように見えたが、やはり何処か苦しそうに見えた。合間を見て話し掛けても、いつも通りの会話しかしない。

 話したくない事は無理に聞きたくはないが……もう少し俺達に話をしてほしいと思う。

 時間が解決してくれれば良いが……。


 そんな事を考えていると、いつの間にか支部へとたどり着く。事務所はまだ修理中だが、地下は無事だったので最近はそちらで活動していた。

 地下へ向かう為の扉へ行こうとすると……見覚えの無い人物が二人立っていた。

 鮮やかな青色の長い髪の毛を生やした長身の男と、淡い水色の髪色でボブカットの眼鏡を掛けた女性だ。


「お、珍しい人が来てんな」

「知ってるんですか、梶さん」

「知ってるだけ、だがな」


 どうやら梶さんは顔見知りらしい。そのままその二人の元へと近寄る。


「お疲れ様です、蒼貞さん、氷堂(ひどう)

「よぉ、迅太郎。それと……レイラか」

「あ、はい。初めまして」


 蒼貞さんと呼ばれた男は思ったよりも気さくに話し掛けてきた。俺の事も知ってるのか。他の支部の人間か?


「今から焔の所に行こうとしてたんだ、ついでだし一緒に行こうや」

「はい。なんか厄介事でも?」

「はは、まぁな。後で話すよ」


 そう言われるがまま、一緒に支部へと戻ることにした。


 *


異世界(アナザー)……?」

「ああ。新人のメンバーにゃ分からねーよな」


 話は、こうだ。

 異世界(アナザー)と呼ばれる能力者が作った空間の調査。場所は蒼貞さんがリーダーをやっている支部の近く。

 今まで何人もの支部メンバーが調査に向かっているが、全容を掴めていないほどの膨大な世界だと蒼貞さんは話す。


 俺や誠、静さんは知らなかったが……他のメンバーは深刻な表情を浮かべていた。


異世界(アナザー)かぁ。僕も噂には聞いたことあるよ」

「俺もアキラと同じだ。でも、ろくなもんじゃないのは分かるな」


 とアキラ、梶さんは言う。

 有名な場所なのか? そんな場所を……一週間後に調査すると言う。


「で、だ。今回の調査にはこっちの支部からアキラ、レイラ。そして遠隔からのサポートで楓にも手伝ってもらう手筈になっている」


 ……しかも、よりにもよってその世界を調査するメンバーに選ばれてしまった。何故俺なのか、焔さんに聞くと


「……レイラの進化(ネクスト)。それを覚醒させる為だ。窮地にこそ、力を掴むチャンスが生まれるからね。私は不本意だが……蒼貞、理央(りお)が付いていくなら安心出来る」


 と説明した。

 それならば、断る理由は無いな。いつまでも弱いままではいられない。


「時間は一週間後。集合場所は俺の支部だ。覚悟は良いか? レイラ、アキラ、楓」


 挑発するように、蒼貞さんは笑う。

 俺達も負けじと不敵に笑って見せた。俺もアキラも一色さんも、ここで怖じ気付くほど臆病じゃないと示すために。


「━━━━はい!」


 新たな戦いへ、行こう。












ペース落ちます、すいません

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