第二十八話 銃と剛、二
「なるほどね、大体分かってきたよ」
能力に目覚めて数日後。僕と静は人気の無い広場で能力の練習をしていた。手元に出現させた槍と盾を持ちながら、頭の中で情報を整理していく。
まず始めに、この槍と盾はいつでも使える訳じゃない。
どうやら、静が近くにいないと使えないみたいだ。能力が発現するルールの一つに、強い願いや欲望、思いがある。
そして、発現した能力はその願いや欲望を叶えるための能力になるらしい。そこから考えると、僕の願いは静を守ること。なので静が近くにいないと守る対象がいないという事になるので、能力が使えない……と僕は解釈している。
他の能力としては、槍と盾を持った瞬間から身体能力の大幅な向上。この槍と盾を使い、静を守るのが僕の能力の全貌という事だな。
「私も、なんとなく分かってきたよ。月星君達に助けてもらった時に大体分かったから」
そして、静の能力は絶対的な防御力を誇る空間の展開だ。
触れれば、威力に応じたカウンター。そして、他者の能力を空間の中に入れないという代物だ。
僕の能力をそーっと膜に当ててみたけど、膜を少しも貫通することなく、僕は吹き飛ばされた。随分心配させちゃったけど、能力の確認が出来ただけ十分な成果だろう。
……能力の発現理由は拒絶。過去のトラウマから、全てを拒絶したことが始まり。でも今はトラウマも大分克服してきたから、もしかしたら能力で弾く対象を弄ることが出来るのかも知れない。今はまだ難しいだろうけどね。
僕達は各々能力を使って練習をしていると、ふと一つ思い付いたことがある。静の能力についてだ。
「ねぇ、静。君の能力ってさ……自分以外を包むとか出来ないのかな?」
「え? 私以外を?」
「うん」
聞いてみるが、静は首を傾げていた。試したことは無さそうか。
もしそれが出来るなら、やれる事が拡がるかも知れないな。
「試してみようか。僕を包んでみて?」
「うん。分かった」
*
「何よ、これ?」
意図が分からず、速川と名乗った女は困惑していた。僕と速川を包むドーム状の膜。僕達が今出せる、テレポートへの対策だ。
「分からないか? そんなに不安ならお得意のテレポートで逃げればいいだろ?」
挑発をしてみると、速川は眉を少し潜めた。
「……ふん、言われなくても。その余裕、彼女さんが死んでも続けられるかしら? 『空間旅行』」
能力名と共に、能力を発動しようとする。……が、使えない。読み通りだ。
「な……!?」
「驚いた? 無理もないね」
静の能力は自身を守るだけだと最初は思ったが、その実違う。膜そのものがフィルターの様な物だったんだ。膜を隔てれば、その先に能力は通らない。テレポートにも効くのか賭けだったけど……正解だったね。
……でも、まだ油断は出来ない。膜を隔てた先に能力は通らないけど、この空間の中でなら能力は使える。それに気付かれる前に、制圧する。
「アンタの武器は封じた。このまま倒してやる!」
「っ……!」
勢いのまま槍を突き立て、速川は咄嗟に顔を反らすが……頬に切り傷が残る。
なるべく殺したくはない……けど、手加減してたら誰かが死ぬ。僕の傷も決して軽傷とは言えない。
とにかく早く、無力化するんだ!
「はぁぁ!!」
「ちっ!」
槍を横凪ぎに振り、顔へと叩き付ける。速川は腕を重ねてそれを防ぐが、威力に負けてガードが崩れた。
そのまま距離を詰め、盾を構える。
「『シールドバッシュ』!」
盾を前に構えたまま体当たりをし、速川は吹っ飛んだ。
「ぐぁ……!」
速川の体は膜へとぶつかる。良し、そうなれば……!
「っぐぅ! また、ダメージが……!?」
盾でのダメージにふらついている間に、もう一度速川へとダメージが入る。膜にぶつかれば、その時の威力がぶつかった相手へと入る! これも読み通り、行ける……!
「トドメだ! はぁ!!」
もう一回盾で吹き飛ばす。そうすれば流石に気絶する筈だ!
しかし、その刹那。速川は笑った。
「━━舐めるな、ガキ!」
速川はあろうことか逆に突っ込んできて、僕の武器を避けながらこちらの顔面に後ろ回し蹴りをしてきた。
思わぬ行動に防御が間に合わず、モロに喰らってしまう。
「が……!」
「武器を振り回すだけの能力……そんなもん、能力を使うまでもないわよ!」
更に距離を詰めてきて、先程刺された腹に前蹴りを仕掛けた。
「ぐ……ぅ……!」
とんでもない激痛に、腹を押さえながら立てなくなってしまう。これが、感染者の持つ膂力……! 身体能力が強化されていなければ、とっくに意識は無くなっていただろう。
いや、それよりも……!
「まさ、か……気付いて……?」
「ええ。貴方、自分の持ってるソレを隠さなきゃハッタリの意味がないわよ? 浅いわねぇ」
けらけらと笑い、見下したような目でこちらを睨む速川。
くそっ、迂闊だった……! こちらが能力を使っていれば、そりゃ気付かれるよな……!
「嬲り殺しよ。その後は女だ。さ、泣いて喚きなさい?」
「く……!」
*
「はっ、マドカの奴……キレてるな」
銃を弾きながら、鋼は向こうを見て笑っていた。あの二人、大丈夫か? 策に嵌めた様だけど、まだまだ苦戦しそうだな。
助けに行きたくても、鋼をフリーにするのは危険すぎる。急がねぇとヤバいな。
「余所見とは余裕だねぇ。寂しいぜ」
「おっと、すまねぇ。あんまり退屈なもんでな」
鋼は余裕の表情を浮かべながら、斧を肩に担ぐ。
悔しいが、このままじゃ勝てない。拳銃一つじゃまだ火力……何より手数が足りない。
リスクを考えれば、なるべくコピーを展開したくなかったんだがな。仕方無い。速攻で片を付けてやる。
「お、なんだ。能力を使うってのか? さっきよりは楽しめるかもだが……そんな銃とコピーだけじゃ俺には勝てねぇよ」
「そう言うなって、面白いもんを見せてやるからよ」
挑発を軽く流し、引き金に力を込めて撃つ。鋼は当然の様に防ごうとするが……同時に放たれた銃弾に気付いて驚く。
「っ!? ちっ!」
鋼は不思議に思いながらも、同時に放たれた銃弾を咄嗟に斧で弾いた。
眉を潜めながら、こちらを睨む。
「テメェ……今のは何だ?」
「ただの銃弾だぜ? なーにビビってんだよ」
「……け、良く言うぜ。大方、銃に改造を施してるんだろ。そんなもん意味ねぇよ!」
痺れを切らしたのか、鋼はこちらへと走ってくる。僕はコピーを四体出し、鋼を囲うようにして走らせる。
「出やがったな、コピー。一体ずつ潰してやるよ」
「その前にアンタを蜂の巣にしてやるさ」
僕は合図をし、コピー全てが銃を構えていく。その光景に鋼は驚いた。
「な……!? コピーが何で……!」
「喰らいなァ!」
コピー二体を角度を付けて跳躍させ、残り二体は地上から銃を構える。
天と地からの同時の射撃、捌けるか?
「『多角的射撃』!!」
「ちぃ!!」
全方向から同時に放たれた銃弾を、鋼は真上へ跳んでそれを避けた。
ああ、そうだな。そうするしかないだろ━━!
僕はコピーを消し、今度は僕の背後へと四体を出現させる。そして再び銃を構え、空中で避けることの出来ない鋼へと撃つ。
「糞がッ!!」
鋼は数発だけ防ぐものの、残りの二発を肩と左足に喰らう。辛くも着地するが、痛みで顔を歪ませていた。
「ち、やりやがったな……!」
「はは、やっと余裕が消えたか。まぁまだ序の口……味わってもらうぜ?」
コピーを再び消し、銃を鋼へと向けて嗤う。
不思議な高揚感に包まれながら、少しだけ……昔の事を思い出した。




