第二十七話 銃と剛、一
「す、凄い……」
目の前で戦いを繰り広げる二人に、思わずそう呟いてしまう。
凄まじい速度で走りながら、大きな銃で何度も撃つ遠阪さん。
「拳銃にしちゃあ重いな! だが無駄だ、オラァ!」
が、それをものともせず斧で銃弾を弾き返す鋼という男。
目まぐるしい速度で動いているにも関わらず、二人は攻撃と防御を寸分の狂いもなく行っている。
喧嘩もしたことない僕でも分かる。この二人の強さが。
「━━はぁ、うんざりするね。的はデカいのに、速すぎるんだよアンタ」
「お前もちょこまか動き回ってるじゃねぇか。お得意のコピーは出さねぇのか?」
「アンタ相手にコピーを無駄に展開させちゃあ、的を増やすだけでしょ。温存だよ、温存」
軽い口調で話しながらも、二人の殺気は少しも抑えられていない。互いが本当に、殺すつもりで戦っているんだ。
僕も手伝いたい。でも、割って入る隙間がまるでない。
「ま、誠……。どうする……?」
「静……」
後ろで静も困惑していた。
僕ら二人とも、防御に長けた能力だ。多分、鋼の攻撃と言えど防げる筈だ。でも戦いの経験は皆無。
初心者に重火器を持たせるようなもので、強い武器を持っていても使えなければただのガラクタだ。
「……援護、しよう。能力を使えば戦える筈だ」
「う、うん……!」
緊張する体を抑えながら、遠阪さんの側まで歩く。
「……二人とも大丈夫かい?」
「だ、大丈夫……ではないですが……」
「はは、そりゃそうか。でも安心しなよ。静さんは分からないけど、誠は動ける人間の筈だよ」
「え……」
遠阪さんは笑いながら、僕の肩を叩く。
「大丈夫、君は強いよ。思いっきりやってみな」
「━━!」
ドクン、と胸が高鳴る。
先程までの緊張が嘘のように引いていき、手にした槍を握る力が強くなる。
「……はい!」
「いい返事だ! さ、行くよ! 静さんも覚悟が決まったら来るといいよ!」
「……!」
静も何か思うことがあるようで、先程とは目付きが変わった。
ともかく、やろう。僕には……出来る!
「はは、こんな初心者を連れてきてどーすんだよ?」
「貴重な戦力さ。小便漏らすなよ?」
「けっ、テメェらがな!」
鋼は斧を振り落とし、こちらを狙ってきた。圧倒的な物量。でも、僕の盾なら防げる。
「はぁ!!」
「っ!?」
盾を上に構え、腰を落とす。
斧が盾に直撃するも、地面に衝撃が走るだけで僕にも盾にも傷一つ付いていなかった。
僕や静は、皆と違って身体能力が高くない能力者だ。でも、僕達の能力はそれを補うだけの力がある!
「今度はこっちだ! ふっ!!」
「む……!」
盾を大きく振り、斧を避けて槍を突き立てる。
鋼は左手で体を守り、槍を受け止めた。だが威力に負けて遠くへと吹っ飛んでいく。
「ちっ、どんなカラクリだ……? 俺を吹き飛ばすとはな」
大したダメージは負っていないようだが、左手からは少量の血が流れていた。
鋼は肉体を強化し、鋼鉄以上の硬さを誇るらしい。まさか、僕の槍でも貫けないなんて。
「僕は負けない! 静と、救ってくれた皆の為に!」
「フン、暑苦しい奴だな」
鋼は呆れたように嘲笑し、斧を構える。
「鋼。お前と言えど二人……いや、三人を相手すんのはキツいだろ? 降参した方が身のためだぜ?」
「……ま、確かに面倒なのは認めるぜ。出来れば俺一人で片付けたかったが……仕方無い。こっちも仕事だしな。━━マドカ!」
「━━ハァイ、呼んだ?」
鋼が名前を呼んだ瞬間。
僕の隣に、女が立っていた。
「な……!?」
「あら、イケメンね。勿体無いけど……死になさい?」
女はナイフを取り出し、僕の首を切り付けた。
「くっ!」
ギリギリで体を後ろへ反らし、首に小さな切り傷が残った。
速い、というか……いつの間に現れたんだ!?
「テレポート女……!」
「失礼ね。私には速川 瞬って名前があんのよ」
遠阪さんの言葉に、瞬と名乗った女は溜め息をついていた。
テレポート……そういうことか。
「貴女は……この前の……!」
「ん? あら、貴女もいたのね」
静は女を見て、怯えたような顔をしていた。この前……まさか。静を脅した二人組というのはこの二人なのか?
「能力をコントロール出来るようになってから、支部に入ったのね。役に立ちそうもないのに」
「……っ!」
「お前っ!!」
静をバカにする態度に腹が立ち、咄嗟に槍で攻撃をする。だが、またしても女は消えた。
「消え……」
「イケメン君はあの子の彼氏? 良いわねぇ、熱くて」
今度は僕の目の前に現れ、腹をナイフで刺してきた。身を後ろに引いたものの、脇腹を少し抉られてしまう。
「ぐぅ……!」
「誠!」
「アッハハハ! 弱いもの虐めって愉しいわねぇ! ハガネ、こっちの二人は私が相手をするわ。そっちの強そうな男は任せたわよ」
「おう、頼んだぜ」
けらけらと笑いながら、女は僕ら二人に立ち塞がった。
くそ、これじゃ遠阪さんの援護に行けない……!
「……仕方無いな。二人とも! 僕が鋼を倒すまで持ちこたえてくれ! 後で援護する!」
「でも、遠阪さんは……!」
「大丈夫大丈夫! 任せなよ」
「……はい!」
遠阪さんにそう言われ、覚悟を決めた。
僕ら二人で女と戦い、遠阪さんは鋼を倒す。もし遠阪さんが勝てたとしても、こっちの援護が出来るほどの余裕があるかは正直分からない。なら、僕達だけでこの女を倒せば問題ない筈だ!
「……静を侮辱したこと、後悔させてやる……!」
そして何より、この女は静を貶した。絶対に許すわけにはいかない。
「やってごらんなさい、イケメン君?」
女は余裕の表情を浮かべながら、こちらの出方を探るようにナイフを構えたまま立っていた。
二回切られて分かったけど、この女は多分不意打ち狙いだ。こちらが動いた瞬間にテレポートし、隙だらけの体にナイフで攻撃。
しかも二回とも首、腹と致命傷を狙ってくる。先に動いたら不味いかもしれない。
「あら、来ないのかしら?」
「……不意打ちが好きみたいだしね。先手は譲るよ」
少し挑発して見ると、女は眉を少しだけ動かした。
「ナメられたものね。ま、その通りだけど。そうねぇ、君が相手してくれないのなら……」
「!」
女はその場から消え、今度は静の後ろに現れた。
しまった、標的を変えたのか……!
「うっ!?」
「彼女さんを殺そうかしら?」
凶刃が静へと迫る。が、静はそれを見て固まってしまった。くそっ、間に合うか!?
「っ!?」
だが静の意思とは裏腹に静の周りを薄い膜が覆っており、ナイフを受け止めた。止めたと同時に女の肩に切り傷が現れ、女は苦痛に顔を歪ませて後ろへと下がる。
「痛……相変わらず、鬱陶しいわね……!」
悪態を付きながら、煩わしそうに静を睨んだ。
そうか。静の能力はダメージの反射と……! ならば。
「静! 無事だよね?」
「う、うん。能力のおかげで」
「良し。なら……少し耳を貸して」
「?」
思い付いたことを伝えるため、静に耳打ちをする。
静は驚いた表情を浮かべるが、頷いた。
「で、出来るかな……」
「やれるさ。頑張ろう!」
「う、うん……!」
その様子に苛ついたのか、女は舌打ちをしていた。
「なーにこそこそ話してるのよ。遺言かしら? 言っとくけど、もう彼女さんには迂闊に攻撃しないわよ。やりようはありけど、流石に面倒だしね。先にイケメン君を殺してから、彼女を殺すわ」
「どっちもさせないよ。お前は僕達が倒すからね」
「……はぁ、生意気な子供は嫌いよ。━━じゃあ、死になさい」
またしても女はその場から消え、僕の目の前までテレポートしてきた。
攻撃はなんとか避けれる。その後は……!
「ふっ!」
なんとかナイフでの攻撃を避け、女が後ろへと下がろうとする。
今だ。
「静!」
「うん! 『不可侵領域』!!」
「!?」
瞬間。静は能力を発動させ……僕と女を包み込むように半径十メートル程のドーム状の膜を張った。
「━━さぁ、反撃だ!」




