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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
組織との戦い
27/104

第二十七話 銃と剛、一

 

「す、凄い……」


 目の前で戦いを繰り広げる二人に、思わずそう呟いてしまう。

 凄まじい速度で走りながら、大きな銃で何度も撃つ遠阪さん。


「拳銃にしちゃあ重いな! だが無駄だ、オラァ!」


 が、それをものともせず斧で銃弾を弾き返す鋼という男。

 目まぐるしい速度で動いているにも関わらず、二人は攻撃と防御を寸分の狂いもなく行っている。

 喧嘩もしたことない僕でも分かる。この二人の強さが。


「━━はぁ、うんざりするね。的はデカいのに、速すぎるんだよアンタ」

「お前もちょこまか動き回ってるじゃねぇか。お得意のコピーは出さねぇのか?」

「アンタ相手にコピーを無駄に展開させちゃあ、的を増やすだけでしょ。温存だよ、温存」


 軽い口調で話しながらも、二人の殺気は少しも抑えられていない。互いが本当に、殺すつもりで戦っているんだ。

 僕も手伝いたい。でも、割って入る隙間がまるでない。


「ま、誠……。どうする……?」

「静……」


 後ろで静も困惑していた。

 僕ら二人とも、防御に長けた能力だ。多分、鋼の攻撃と言えど防げる筈だ。でも戦いの経験は皆無。

 初心者に重火器を持たせるようなもので、強い武器を持っていても使えなければただのガラクタだ。


「……援護、しよう。能力を使えば戦える筈だ」

「う、うん……!」


 緊張する体を抑えながら、遠阪さんの側まで歩く。


「……二人とも大丈夫かい?」

「だ、大丈夫……ではないですが……」

「はは、そりゃそうか。でも安心しなよ。静さんは分からないけど、誠は動ける人間の筈だよ」

「え……」


 遠阪さんは笑いながら、僕の肩を叩く。


「大丈夫、君は強いよ。思いっきりやってみな」

「━━!」


 ドクン、と胸が高鳴る。

 先程までの緊張が嘘のように引いていき、手にした槍を握る力が強くなる。


「……はい!」

「いい返事だ! さ、行くよ! 静さんも覚悟が決まったら来るといいよ!」

「……!」


 静も何か思うことがあるようで、先程とは目付きが変わった。

 ともかく、やろう。僕には……出来る!


「はは、こんな初心者を連れてきてどーすんだよ?」

「貴重な戦力さ。小便漏らすなよ?」

「けっ、テメェらがな!」


 鋼は斧を振り落とし、こちらを狙ってきた。圧倒的な物量。でも、僕の盾なら防げる。


「はぁ!!」

「っ!?」


 盾を上に構え、腰を落とす。

 斧が盾に直撃するも、地面に衝撃が走るだけで僕にも盾にも傷一つ付いていなかった。

 僕や静は、皆と違って身体能力が高くない能力者だ。でも、僕達の能力はそれを補うだけの力がある!


「今度はこっちだ! ふっ!!」

「む……!」


 盾を大きく振り、斧を避けて槍を突き立てる。

 鋼は左手で体を守り、槍を受け止めた。だが威力に負けて遠くへと吹っ飛んでいく。


「ちっ、どんなカラクリだ……? 俺を吹き飛ばすとはな」


 大したダメージは負っていないようだが、左手からは少量の血が流れていた。

 鋼は肉体を強化し、鋼鉄以上の硬さを誇るらしい。まさか、僕の槍でも貫けないなんて。


「僕は負けない! 静と、救ってくれた皆の為に!」

「フン、暑苦しい奴だな」


 鋼は呆れたように嘲笑し、斧を構える。


「鋼。お前と言えど二人……いや、三人を相手すんのはキツいだろ? 降参した方が身のためだぜ?」

「……ま、確かに面倒なのは認めるぜ。出来れば俺一人で片付けたかったが……仕方無い。こっちも仕事だしな。━━マドカ!」

「━━ハァイ、呼んだ?」


 鋼が名前を呼んだ瞬間。

 僕の隣に、女が立っていた。


「な……!?」

「あら、イケメンね。勿体無いけど……死になさい?」


 女はナイフを取り出し、僕の首を切り付けた。


「くっ!」


 ギリギリで体を後ろへ反らし、首に小さな切り傷が残った。

 速い、というか……いつの間に現れたんだ!?


「テレポート女……!」

「失礼ね。私には速川(はやかわ) (まどか)って名前があんのよ」


 遠阪さんの言葉に、瞬と名乗った女は溜め息をついていた。

 テレポート……そういうことか。


「貴女は……この前の……!」

「ん? あら、貴女もいたのね」


 静は女を見て、怯えたような顔をしていた。この前……まさか。静を脅した二人組というのはこの二人なのか?


「能力をコントロール出来るようになってから、支部に入ったのね。役に立ちそうもないのに」

「……っ!」

「お前っ!!」


 静をバカにする態度に腹が立ち、咄嗟に槍で攻撃をする。だが、またしても女は消えた。


「消え……」

「イケメン君はあの子の彼氏? 良いわねぇ、熱くて」


 今度は僕の目の前に現れ、腹をナイフで刺してきた。身を後ろに引いたものの、脇腹を少し抉られてしまう。


「ぐぅ……!」

「誠!」

「アッハハハ! 弱いもの虐めって愉しいわねぇ! ハガネ、こっちの二人は私が相手をするわ。そっちの強そうな男は任せたわよ」

「おう、頼んだぜ」


 けらけらと笑いながら、女は僕ら二人に立ち塞がった。

 くそ、これじゃ遠阪さんの援護に行けない……!


「……仕方無いな。二人とも! 僕が鋼を倒すまで持ちこたえてくれ! 後で援護する!」

「でも、遠阪さんは……!」

「大丈夫大丈夫! 任せなよ」

「……はい!」


 遠阪さんにそう言われ、覚悟を決めた。

 僕ら二人で女と戦い、遠阪さんは鋼を倒す。もし遠阪さんが勝てたとしても、こっちの援護が出来るほどの余裕があるかは正直分からない。なら、僕達だけでこの女を倒せば問題ない筈だ!


「……静を侮辱したこと、後悔させてやる……!」


 そして何より、この女は静を貶した。絶対に許すわけにはいかない。


「やってごらんなさい、イケメン君?」


 女は余裕の表情を浮かべながら、こちらの出方を探るようにナイフを構えたまま立っていた。

 二回切られて分かったけど、この女は多分不意打ち狙いだ。こちらが動いた瞬間にテレポートし、隙だらけの体にナイフで攻撃。

 しかも二回とも首、腹と致命傷を狙ってくる。先に動いたら不味いかもしれない。


「あら、来ないのかしら?」

「……不意打ちが好きみたいだしね。先手は譲るよ」


 少し挑発して見ると、女は眉を少しだけ動かした。


「ナメられたものね。ま、その通りだけど。そうねぇ、君が相手してくれないのなら……」

「!」


 女はその場から消え、今度は静の後ろに現れた。

 しまった、標的を変えたのか……!


「うっ!?」

「彼女さんを殺そうかしら?」


 凶刃が静へと迫る。が、静はそれを見て固まってしまった。くそっ、間に合うか!?


「っ!?」


 だが静の意思とは裏腹に静の周りを薄い膜が覆っており、ナイフを受け止めた。止めたと同時に女の肩に切り傷が現れ、女は苦痛に顔を歪ませて後ろへと下がる。


「痛……相変わらず、鬱陶しいわね……!」


 悪態を付きながら、煩わしそうに静を睨んだ。

 そうか。静の能力はダメージの反射と……! ならば。


「静! 無事だよね?」

「う、うん。能力のおかげで」

「良し。なら……少し耳を貸して」

「?」


 思い付いたことを伝えるため、静に耳打ちをする。

 静は驚いた表情を浮かべるが、頷いた。


「で、出来るかな……」

「やれるさ。頑張ろう!」

「う、うん……!」


 その様子に苛ついたのか、女は舌打ちをしていた。


「なーにこそこそ話してるのよ。遺言かしら? 言っとくけど、もう彼女さんには迂闊に攻撃しないわよ。やりようはありけど、流石に面倒だしね。先にイケメン君を殺してから、彼女を殺すわ」

「どっちもさせないよ。お前は僕達が倒すからね」

「……はぁ、生意気な子供は嫌いよ。━━じゃあ、死になさい」


 またしても女はその場から消え、僕の目の前までテレポートしてきた。

 攻撃はなんとか避けれる。その後は……!


「ふっ!」


 なんとかナイフでの攻撃を避け、女が後ろへと下がろうとする。

 今だ。


「静!」

「うん! 『不可侵領域(シャットダウン)』!!」

「!?」


 瞬間。静は能力を発動させ……僕と女を包み込むように半径十メートル程のドーム状の膜を張った。


「━━さぁ、反撃だ!」







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