第二十一話 開戦、二
「うっわぁ、こりゃひでぇ」
誠君達を引き連れ、駅の側に着いた。
見渡す限りの人、人、人。しかも武装もしてると来た。コピー越しに一度見たとはいえ、肉眼で見ると一段と酷い。
血だらけで倒れている一般人らしき人もいるな。くそっ。
「ひ、酷い……」
「あぁ、全くだよ」
静さんが声を震わしながらそう呟き、僕も頷いた。
確かに酷い有り様だ。ここまで大規模な感染者による暴動は初めて見る。
本格的に街を破壊でもするつもりか? なら、こちらも殺すつもりでやるしかない。
懐からリボルバー式の拳銃を取り出し、構えた。普段の仕事じゃ銃の使用許可は降りにくいけど、事が事だ。緊急を要するって事で何とか使えるようになった。
これで、僕の能力も本領発揮ってとこだね。
「誠君。君の能力についてあんまり知らないけど……戦闘はヤれるかい?」
静さんを落ち着かせている誠君の方を向き、訪ねる。少し緊張した面構えのまま頷いた。
「いけます。静が一緒にいますので」
「一緒に……? 良くわからないけど、頼むよ。とにかく敵を蹴散らすこと。僕もコピーを展開してなるべくカバーするから、思い切りやろう」
「っはい!」
「静さんも行けるかい? キツいなら一般人の避難の手助けしてもらっても良いけど?」
正直、誠君よりも静さんのが心配だ。どこからどうみても普通の女の子でしかないしね。
だが、意外にも彼女は頷いた。
「大丈夫、です。覚悟は……出来てます!」
「……はは、強い子だ。なら誠君と一緒に戦ってね。敵は数こそ多いけど、多分傭兵ばかりで大して強くないと思うからさ」
「了解です!」
さて。カバーすると言ったからには頑張らないとね。先輩として、良いとこを見せないとな。
「良し、そんじゃあまず固まって移動しようか。数が少ないところから順に制圧。警察の方々と連携して一般人の避難も同時に行っていこう。まずは……あそこだな」
駅から少し離れた場所に、四人程の傭兵が集まっている場所が見えた。警察と交戦中の様だけど、流石に分が悪そうだ。
「行くよー!」
「了解です!」
「は、はい!」
先行して走り、後ろから二人が付いてくる。
こちらが接近していくと、傭兵達はこちらに気が付いた。
「おい! あいつらまさか……」
「あぁ、多分支部の連中だ! 殺せ!」
物騒な事を話しながら、全員がこちらへと向かってきた。
僕はその場で立ち止まり、拳銃を構える。
「はいはーい、そこで止まってね。撃つよ?」
「けっ、感染者に拳銃が効くかよボケ!」
だが予想通り、怯みもせず全員が近寄ってきた。
確かに感染者相手には拳銃だけじゃ勝てない。身体も強化されているしね。でも、僕のコレは特別だけど。
「うん、じゃあ撃つね!」
遠慮無く、相手の左足に銃を放つ。本来なら痣が出来る程度だけど、僕の放った銃弾は容易く左足を貫いた。
「ぐぁ!? な……!」
「まず、一人!」
前へ倒れ込む敵にコピーを走らせ、思い切り顎を蹴り飛ばす。
うめき声すら上げず、一人は倒れた。それを見て動揺したのか、後ろの三人は立ち止まる。
「くそっ、拳銃くらいじゃ俺達には効かない筈だろ!?」
「普通のは、ね? これはちょーっと特別なのさ」
そう。この拳銃は特別。
名をパイファー・ツェリスカ。世界最高の威力を誇る拳銃。拳銃とは名ばかりな大きさや反動、そして重さがあるんで本来なら実用性は皆無。
でも感染者なら話は別。普通の拳銃のように簡単に扱えるって寸法さ。
これなら、感染者だろうと容易く貫ける。これに出会うまでは精々足止めが精一杯だったなぁ。
「おらおら、武器を捨てて大人しくしな。また撃つよ?」
「ちっ、怯むな! 能力でゴリ押せ!」
が、傭兵達は怯まずにこちらへと接近してくる。
どいつを狙うかを定めていると、後ろから誠君が飛び出した。
「僕も行きます! 練習の成果を試すときですので!」
「へぇ? じゃあ、お手並み拝見と行こうかな」
そう言って誠君は両腕を上げ、腰を落として地面を強く踏む。
そして、発動した。
「『貴方の為の騎士』!!」
瞬間、右手には誠君の身長の倍ほどの長さがある馬上槍が出現し、反対の左手には大きな盾が現れた。こちらも大きく、人を完全に覆える程の大きさだ。
さながら、西洋の騎士って所だね。しかし、あの大きさの武具を操るのは感染者でも難しいんじゃ?
「ハァッ!」
「ぐぁっ!?」
だが、誠君は一瞬にして槍の攻撃が届く範囲まで距離を詰め、一人を突き飛ばした。
速い、あの武装で? 遅くなるどころか、先程よりも速くなっていないか?
「このガキ! オラァ!」
「させない!」
残りの二人が能力らしき武器で誠君を攻撃しようとするが、構えていた盾で簡単に攻撃を防いだ。あの盾、なんて硬さだよ。あまり強い相手ではないとは言え、ああも簡単に攻撃を防ぐなんてね。
「━━弾け、飛べ!」
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
そして槍を横に薙ぎ払い、二人を吹き飛ばした。
……計算外だね。誠君の能力は想像以上に強い。これなら、この場はもう少し楽に収まるかもしれないな。
「やるねぇ、誠君! 正直驚いたよ」
「あ、ありがとうございます! ……力を得てから、何度も練習しましたから。何が出来るのかとか、どうやって発動出来るのかとか。僕や静がレイラ達に助けられたみたいに、この力で人を助けます!」
「くっく、青いねぇ。でもそういうの、嫌いじゃないよ」
爽やかな笑みと共にそう語る誠君を見て、何だかこちらまで恥ずかしくなった。青く、幼い心意気かも知れないけど、真っ直ぐで良いね。こちらもやる気が出るってものさ。
「さーて、二人とも! この調子で━━」
「━━おいおい、随分と楽しそうだな?」
しかし、そうは甘くなかった。
上空から降ってきた男を見て、思わず舌打ちをする。そりゃ、来るよな。
「チッ、出やがった」
「久しぶりだなコピー野郎。今日は随分とやる気みたいじゃねぇか?」
男は派手に地面を踏み荒らして着地し、巨大な斧を肩に担ぐ。そして、軽い態度でこちらに話し掛けてきた。
━━鋼。俺と焔さんで協力して倒した組織のメンバー。あの時と違って、殺意を漂わせている。
「久しいね筋肉野郎。君こそ殺る気満々じゃないか?」
「おお、まぁな。今日の仕事は殺戮だからよ。お前らをぶち殺した後、その辺の人間をテキトーに殺すぜ」
「そりゃ恐ろしいね。ま、今回は僕も殺しの許可が降りてるんだ。前と同じとは思わないでくれよ?」
前回と違って、今回は武器がある。前みたく、情けない姿は晒さないさ。
「そりゃ……楽しみだ!」
笑みを浮かべ、男は思い切り斧を振り下ろした。地面に巨大な亀裂が走り、後ろの二人は先程よりも緊張した顔を見せていた。
「……誠君、静さん。コイツは他の連中とはひと味違う。協力して戦うよ」
「それは構いませんが、他の感染者は……?」
「無視は出来ない、けど……コイツ一人を自由にさせとく方が危険だ。だから、迅速に倒してから他の感染者を倒すよ」
「わ、分かりました!」
二人は頷き、構えた。
……もう少ししたら忍足さんと俺のコピーがこちらに来る筈だ、それまで持ちこたえるのが最低条件かな。
「━━『ソード』部隊の副隊長、名は『剛力 鋼』! さァ、楽しませろよ!!」
鋼の声と共に、戦いが始まった。
必ず、生き残る。僕を救ってくれた、蒼貞さんの為にも。




