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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
知らない世界
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第十一話 解放

「━━ドカ……マドカ!」

「……ん……?」


 自分を呼ぶような声に導かれ、ゆっくりと目を覚ます。すると、心配そうな表情を浮かべたハガネが自分を抱き抱えていた。


「マドカ、目ェ覚めたか。すまん、庇いきれなかった」

「ハガネ……痛っ……?」


 意識がはっきりすると同時に、後頭部に鋭い痛みを感じてその部分を触る。すると、手に血が付いた。怪我したのか、私は。


「えーと……あれからどうなったの?」

「あの静とか言う女の能力が暴走して、俺とマドカが吹っ飛ばされた。俺でも耐えきれない威力でな。マドカを庇おうとしたが、間に合わなかった。怪我は大丈夫か?」

「そういう事ね。ありがとう、ハガネ。怪我は大丈夫よ」


 ハガネの体から離れ、立ち上がる。するとギリギリ目視出来る距離で静が頭を抱えながら踞っているのが見えた。


「能力を目覚めさせ、能力次第じゃ仲間に入れようかと思ったけど……あの様子じゃ、近付けないわね」

「ああ。リーダーの提案で俺の能力で顔を犯人と近い顔に変えてみたは良いが……あんなにも反応するとはな。今のアイツに、俺達じゃ近付けねぇ。能力は強力ではあるが……俺達には必要無いかもな」

「そうよねぇ」


 彼女の能力の察しは付いた。戦力としては申し分無いけど、扱い難いから役にたたないわね。


「帰りましょ、ハガネ。リーダーに報告だけしておいて、また違う感染者を探しに行きましょ?」

「おう。ったく、とんだ無駄足だったな」


 ハガネは溜め息をつく。

 ……今の怪我くらいなら、能力に支障は無いかしらね。


「……ん?」


 ふと耳を澄ますと、騒がしい足音が遠くから聞こえてきた。支部の連中ね。


「ハガネ、やっぱりもう少しだけこの辺りに残りましょ」

「あ? 何でだよ」

「いや、支部の連中を見ておこうと思ってね」


 納得したように頷くハガネの腕に触れ、その場から瞬間移動をする。

 あの子をどうするのか。お手並み拝見ね、支部の皆さん?


 *


「━━おい誠! 急にどうしたんだよっ!」


 帰路に着いていた俺とアキラを横切って、全力で学校へと戻る誠を追い掛ける。

 すぐに追い付けたものの……誠の様子が普通ではない。


「……今、静から連絡があって……はぁ……助けてって……! 言われたんだ……!」

「何……!?」


 息を荒げながら、そう誠は話す。助けて、だと?


「どういう事だ……まさか、能力が発現しちまったのか?」


 アキラを見る。だが、アキラは首を横に振ってため息をついた。


「流石に情報が少な過ぎて何とも言えないね。でも、急いだ方が良さそうなのは確かかも。レイラ、マコトを担いでくれる?」

「担ぐ? 何でだよ」

「マコトはシズカと同じで身体能力が普通のタイプの感染者だし、レイラが担いで走った方が速い。急ぐんならこっちのが効率が良いよ」

「なるほど、そういう事か」


 直ぐに誠を担ぎ、全力で学校へと走る。


「さ、流石にちょっと恥ずかしいんだけど!?」

「喋んな、舌噛むぞ! ちょっとだけ我慢しな!」

「わ、分かったよ……もう!」


 恥ずかしがる誠を尻目に、ぐんぐん前へ進む。

 そして、静を見つけた。苦しそうに踞り、顔を手で覆っている。


「静っ!!」

「ま、誠……!」


 すぐに誠は俺から離れ、静に近付こうとするがアキラがそれを静止させた。


「大神さん! 何で……!」

「落ち着いて。……あれが見えるだろう?」


 アキラが指差した先に見えたのは、静の周りにある、薄い白色の膜のような物だった。


「あれは……?」

「多分、能力だろうね。シズカの様子もおかしいし、能力が発現しちゃったんじゃないかな」


 と、アキラは説明する。確かに、あれは自然に出来た物じゃないだろう。そして、本人の意志が強く反映された能力なら……誠とアキラでないと触るのは危険かもしれない。


「だから、近付くならゆっくりとね」

「……ありがとう、大神さん。静! 今そっちに行く!」

「誠……」


 誠は深呼吸をした後、ゆっくりと静に近付いて行く。やがて膜の目の前まで迫り、恐る恐る手を伸ばす。しかし


「ぐっ!?」

「誠!」


 誠の手が膜に触れた瞬間、物凄い力で弾かれた。


「……クソっ、ヤバイね。多分だけど、彼女の能力は暴走してる。本人ですら制御できなくなってるんじゃないかな」

「誠ですら拒絶されるなら、どうしようもないぞ……」

「しょうがない。無理やり、こじ開けてみるよ」


 アキラは右手だけ狼の手に変身させ、構える。


「シズカ、ちょっと待っててね」

「ひっ……!」

「大丈夫、味方だよ。今君を出してあげる。『狼爪(ウルフクロー)』!」


 大きな爪を振り下ろし、膜を引っ掻く。膜は水面の様に揺らぐが……壊れる様子は無かった。


「うっ……!?」


 更に、攻撃を仕掛けた側のアキラの右腕に大きな爪痕が出来た。大粒の血を流し、アキラは痛みに顔を歪ませた。


「アキラ!」

「大神さん!」


 俺と誠は急いで駆け寄り、アキラの様子を見る。かなり傷が深い。治療をしないと、右手を今すぐは動かせないかもしれない。


「……見込みが甘かったね。あの膜、思った以上に強固だ。しかもこのダメージから見て、直接触れた人にダメージが跳ね返る仕組みかもしれない」

「そんな……! じゃあ、どうすれば……」

「俺がやってみる」


 一つ思い付いたことがあったので、二人に提案をする。


「直接触れる事が能力の発動条件なら、俺は大丈夫な筈だ。俺の能力は俺本人が触れるワケじゃないからな」

「そうか、確かにそうかもしれない。試す価値はあるかもね」


 アキラは納得してくれたようなので、早速能力の準備をする。

 とにかく、誠と静を早く安心させてやりたい。


「行くぜ、『勇気の手(ブレイブハンド)』! ッラァ!!」


 拳を前に突き出し、巨大な白い拳が膜を殴り付ける。威力に圧されて膜が徐々に陥没していく。


「く……硬い!」


 力を込めていくが、全く破れない。駄目か!?


「い、嫌……! 怖いよ……!」


 白い手が迫ってくるのを怖がっているのか、静は泣きそうな声を出して踞る。


「大丈夫だ! 俺の能力は君には当たらな━━ぐぁっ!!?」


 安心させようと静に話し掛けた瞬間。巨大な何かに体を吹き飛ばされ、後ろにあった塀にぶつかった。


「かはっ……!」


 あまりの激痛に意識が飛びかけるが、間一髪で気絶せずにすんだ。

 だが、ダメージが体中に拡がり……指一つ動かせない。


「レイラ! 生きてる?」

「なんとか……な……げほっ」


 アキラが近くに来て俺を支えるが、立つことすらままならない。腹部や腕に特に強い痛みを感じるので、骨が何本か折れたかもしれないな。


「ごめん、また僕の判断ミスだ。あの膜は直接触れたかどうかすら関係なく、能力でも素手でも触れただけで相手にダメージを与える能力っぽいね。しかもシズカはそれを制御出来てないから、今のシズカには誰も触れない」

「く……! かといって、ほっとくわけにも……」


 どうする。あの能力は無敵だ。自分から攻撃を仕掛けない分、防御が強力すぎる。しかも静に能力の制御が出来ていないから説得することも出来ない。


 そう考えていると、いつになく真剣な表情で誠がゆっくりと静に近付いた。


「……駄目、誠。今の私からは離れて……!」

「大丈夫だよ、静。君は必ず僕が助けるから」


 涙を流して誠を止めようとする静に対して微笑み、誠はまたしても膜に触れる。


「ぐ……!」


 だが、膜に触れた瞬間に弾かれる。それでも、誠は止めようとしない。

 何度も何度も弾かれるが、誠は止まらない。やがて、手から痛々しい血が流れ出す。


「ど、どうして……」

「どうして、だって? 決まっているよ、それは」


 困惑する静を見て微笑み、誠は言った。


「好きな人を助けたいからだよ」

「━━!」


 その瞬間。誠の両手が激しい光に包まれた。


「あれは……!」


 一色さんじゃなくても分かる。あの光は、誠の能力だ。

 好きな人を助けたいという、強い意思から産まれた力だ━━!


 やがて、誠の両手には……巨大な槍と盾が出現した。

 誠は槍を右手でしっかりと握り、腰を落として構える。


「下がってて。静は必ず助けるから!」

「……うん……うん……!」


 泣きじゃくる静を見た後、誠は思い切り槍を膜へと突き立てた。


「はぁぁぁぁぁっ━━!!」


 いとも簡単に膜が消滅し、同時に誠の武具も消え去った。


「静……! 大丈夫?」

「うぅ……誠ぉ……!」

「ちょ!?」


 誠が静に近寄ると、静は大胆にも誠へと抱き付いた。

 ……見てるこっちの身にもなれっての。全く。


「一件落着、かな?」

「そうだな。……てて……」

「フフ、お疲れ様。レイラ」

「……アキラもな? さぁ、帰ろう」


 *


「へぇ、やるじゃん」


 マドカはビルの屋上から見下ろしながら、満足そうに笑う。コイツとは長い付き合いだが、相変わらず何が面白いのか分からん。


「感心してる場合かよ。俺らのこと、支部に伝わっちまうぞ?」


 そう聞くと、マドカはまたしても笑う。


「どのみち、私達二人の事は焔にバレてるでしょ。問題ないわ。それに、そろそろ大胆に動いても良さそうだしね」

「リーダーがそう言ってたのか?」

「うん。アレが完成すれば、焔も簡単に殺せるから。残りの雑魚は私達で殺せるだろうしね」


 と、マドカは髪を触る。

 確かに、さっきの連中も大したことは無い感染者だった。前の焔とコピー男よりも遥かに格下。圧倒的に経験不足だ。


「後は……あの男をどう扱うかだよね。リーダーの言うことしか聞かないから」

「━━呼んだ?」


 いきなり背後から声が聞こえ、振り向くと……そこには背の高い白髪の男が立っていた。


空童(くうどう)……! なんでてめぇが此処にいる!?」

「なんでって……散歩だよ。歩いてたら君たちが見えたから遊びに来たんだ。なんだか、楽しそうだったしね」


 空童。俺達と同じ組織の能力者。だが、コイツが何を考えてるのかが全く分からない。

 仲間からも距離を置かれている、不気味な奴だ。


「遊んでたワケじゃないわよ。貴方こそ、呑気に散歩なんかしてて良いのかしら?」

「お父さんからは何も言われてないし、良いと思うよ。僕は皆みたいに器用じゃないから、感染者を引き入れるなんて事は出来ないし」

「……ふん。随分甘いのね。リーダーは」


 マドカは気に入らない、と言った具合にそっぽを向く。

 ……この男の雰囲気がどうにも苦手だ。見た目よりも幼い内面と、底知れなさ。コイツと話していると、まるでガキと喋っているような気分になる。


「それよりも、君たち焔さんと戦ったんだってね。無事で何よりだよ」

「バカにしてんのか?」

「怒らせちゃった? ゴメンね。良いなぁ、僕も戦ってみたいよ。綺麗な女の人だし、きっと()()も綺麗なんだろうなぁ」

「……」


 オモチャを貰った子供のように、無邪気に笑う空童。

 何より気持ち悪いのが、コイツにとって人間は遊び道具だと言うところ。俺達の事すら、喋る人形くらいにしか思っていないだろう。

 自分を育てたリーダー以外は。


「じゃ、僕は帰るね。二人とも気を付けて帰るんだよ?」

「余計なお世話ね。さっさと失せなさい」

「怖いなぁ。んじゃ、バイバイ」


 空童はニコニコと笑い、地面に能力を発動させ……その場から消えた。

 空童が立っていた地面には、巨大な穴が開いている。


「相変わらず気持ち悪い男だぜ」

「そうね。でも……恐ろしく強い。下手をすれば、あの焔よりも」

「……フン」


 マドカは嫌そうにため息をつく。


 そう、あの男は強い。他の人間を遊び道具に出来るほどに。




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