表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

篇余り

「あ、どうも」


「・・・・・・」


 入学式前、当然のように国語準備室にいた谷畑君に私は絶句する。

 今は制服ではなくスーツを着ていたが、そんなものは些細なことだ。

 あの卒業式の日の別れはいったい何だったのか。

 そう思わずにはいられなかった。


「……あのー」

「……はっ、あまりのことに気を失いかけていたよ。そもそも君はどうしてここに?」

「えっと、話してませんでしたっけ? 私が今してるのって、教科書販売の営業なんですよ。私の実家って教育関連の会社で。だからとりあえず、先生にご挨拶を、と」

「そうだったのか……」


 拍子抜けとはこのことだ。

 

 私の身体全身から力が抜け、肩にどっと一度は取り払われた疲労が押し寄せる。

 少なくとも、再び退屈とは無縁の教師生活になりそうだ。

 

「まあそんなわけで、これからは生徒ではなくサラリーマンとしてよろしくお願いします! 先生には未だ色々聞きたいことがあるので」

「ああ、お手柔らかに頼むよ」


 かくして私と彼女の冬は終わり、予想だにしなかった春が訪れた。

 

 この国語準備室でまたどんな暴論が飛び出すのか。


 それは私にも分からない。


 ただ、寂寥を感じる暇などない未来が待っていることだけは、容易に予想できた。


 私は再びニヒルを装って珈琲を飲む。

 内心の様々な動揺を隠すために。


「先生?」

「いや、なんでもないさ」


「ところで先生、先生があと30歳ぐらい若かったら私先生と付き合ってたかもしれませんよ」


「ぶふー!!!」

 

 私は飲みかけの珈琲を全て吐き出す。


 私と彼女の関係はまだまだ始まったばかりだった。


                            ――了――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ