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隕石と電脳からの贈り物は人を化物にするのか

作者: ぼるしち

僕はディスプレイに手を突っ込んで、商品を取り出した。

100円のガムだ。ブルーベリー味の濃い味のそれを、一枚取り出して噛みほぐした。

だが昔食べたような味とは違う気がしたので、すぐにディスプレイの中にそれを返した。

僕はそれから情報を買った。3000円する、あるゲームの攻略情報だ。昔はただで手に入ったそれに値段がついているのは、昔でいう攻略本がお金を払って手にするものだったのと同等のことなのだろう。

そんなことはどうでもいい。

僕はとりあえず急いでいた。彼女との約束に遅れてしまうだとか、そんなリア充な理由で急いでいるのではない。僕が急いでいる理由。それは、なんだっけ、忘れてしまった。

僕は僕が急いでいる理由を忘れてしまった。

だから部屋の中でぐるぐると歩いてそれを思い出そうとするが、やっぱり思い出せない。

なぜだろう。

若年性の痴呆症だろうかと心配になったが、これはもしかすると電波による障害なのかもしれない。

最近有名な、毒電波というやつだ。

毒電波は屋内にいても屋外にいてもすりぬけるようにしてやってくる、ウイルスのような存在だ。

昔インターネットをつないでウイルスに感染することがあるように、僕らは毒電波の脅威にいつも脅かされている。だが、いつまでも怯えてばかりはいられない。立ち向かうんだ、気合で。

ディスプレイに腕を突っ込んで、四次元ポケットのように、あれを取り出した。

毒電波ワクチンだ。

それを舌に注射して、僕はしばらく目をつむって瞑想のような体勢を取った。

目を再び開けると、なにを急いでいるのかを思い出した!

今日は、試験の日じゃないか!

学校の試験ではない。資格免許の試験だ。これのために半年暇な時をみつけては勉強してきたのに、それを毒電波のせいで全部台無しにされるところだった。試験の時間まで後一時間しかない。急げ!

気合を入れるために顔を洗ってから外に出る。

すると隕石が見えた。

相変わらず立派な隕石だ。ここ一年でさらに大きくなってきている。

mouth putting of the earth。

科学による力で世界は隕石さえも降らせることができるようになった。

それはもはや科学とは呼べないかもしれない。まるで魔法だ。

魔法による隕石がこの地球に落ちるまで、あと三年しかない。だけど僕らは希望を持って生きている。いざとなれば電脳空間に逃げ込めばいいという保険もあるのだ。

もちろんそんなことをすれば体を失うことになってしまうが、隕石に踏み潰されて圧死されるよりはマシだろう。電脳空間には遊びでしか入ったことがないから、まともに全世界の人間が電脳空間に入ったらどうなるのか想像もつかないが、おそらく大体の人は電脳空間に逃げ込むだろう。あの隕石は惑星クラスの大きさだから、地球はきっと粉々。だけど電脳空間はパラレルワールドまで繋がっているから、そのパラレルワールドに逃げ込めば問題はない。

さて、僕は飛翔した。目的地までは飛んでいくことにする。

地上を走るよりは圧倒的に速い。

グライダーで飛んで目的地まで案内経路をオープンし、飛んでいく。

四十分で目的地に着く予定だった、の、だが、こんな時に迷惑というものはやってくるものだ。

突然真横から車が飛んできて、僕は弾き飛ばされた。

グライダーは折れてしまった。僕は地面に叩き落とされた。

そのまま、意識を失った。



目を覚ますと、妖精が飛んでいた。フェアリーだ。

なんでこんなものが、と思いながら歩こうとしてみたが、自分の体が浮いていて歩くことができない。

と思ったら、急降下。フェアリーたちはどこかへ消えてしまい、僕は人のたくさんいる街の中に叩き落とされた。そこは、人の住んでいる街だった。いや違う、この感覚は、電脳空間・・・・・・

僕はどうやら電脳空間にいるようだった。


現在手術中。


そんなテロップが目の前を流れた。

そうか、僕はひかれてしまったから、手術を受けているのか。

そして意識を電脳空間に避難させているということか。

こりゃ大変だ。

焦ってもこうなってしまっては仕方がない、運がなかったのだ。

僕は諦めた心のまま歩き、街の一角にあるベンチに腰掛けた。これも電脳なのかとおもうとすごいなあとおもう。そして僕は死んだはずの芸能人を見かけた。彼は、病死したはずなのに、健康的な肌色をしていた。

死にそうになった人間はこうして電脳空間に避難して、意識を生かしているのか。

すごい時代になったものだ。

僕はその芸能人、浅間天使に話しかけてみた。エンジェルとみんなに親しみをもって呼ばれていたそのあだ名で、僕も話しかけてみた。

「あの、エンジェルさんですよね」

「そうだけど」

「病死したと聞いていたので、こうして出会えて光栄です。実は僕も死にそうな身でして・・・・・・」

「君はまだ死んでいないのだろう。私のようになってはいけないよ。体がないってのは、虚しいもんさ」

「むなしい、ですか。わかる気がします」

「電脳空間に閉じ込められていると、この意識とはなんなのだろうと思うよ。でも、この意識はいつになっても失われない。僕は、たしかに生きているんだね。意識だけなのに」

「不思議な時代ですよね。僕も、そうなってしまうかもしれません」

「気を強く持ちなよ。生きるんだ。体をもって、隕石に踏み潰されるとしても、生き続けるんだ。そうすれば間違いもおのずと正しい方向に向かっていくような気がするよ。私は思うんだ。きっと、隕石は消えてくれてみんなが平和に生きていけるって確信している」

「みんなが自分と同じように意識だけになればいい、とは思わないんですか?」

「そんな贅沢な思考回路、意識だけになったって持ち合わせていないよ」

そんな会話を交わしてから、お互い立ち去った。

僕は両手を広げた。

ここに僕は生きている。

体は死んでしまうかもしれない。だけど心は生きている。

僕は人間なのだろうか。それとも化物になろうとしているのだろうか。

わからないけど、生きたい。

隕石だって、ぶち壊してやりたい気分だ。




手術は成功した。

僕は目を覚まして、あのエンジェルが本物の天使だったのだろうかと思った。僕に幸運を分け与えてくれたのではないかとなぜだか思うのだ。

隕石は日に日に近づいている。月よりも遥かに大きいその惑星。それを壊すためのロケットが打ち上げられるとニュースで見た。映画みたいな話だが、宇宙飛行士がそれを壊しにいくらしい。魔法で唱えられた隕石を魔法で壊す。そんな感じだろう。

人はどこへむかうのだろう。意識だけになったって生きているとしたら、魔法を唱えられるのだとしたら、人はすでに人ではないのかもしれない。

僕は思う。人間とは化物だ。

だからより強く願う。どうか、間違った化物にはなりませんように、と。

正しい化物で、あって欲しい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 遠景に巨大隕石がある世界観、 電脳化が進みすぎて、 人々の電脳逃避が進んだ時代。 面白いSFだと思います。 [気になる点] 電脳空間での描写が、 結構少なかったので、 もう少し尺があると、…
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