第七話 蝶を追って
Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
更新遅れてすみません!
ただでさえ、更新遅いのに今回はかなり開いてしまいました……。
その分、一気に更新します。
それでは、まずは第七話どうぞ!
「っ……!」
体に鞭打って立ち上がる。
奴は、明らかにさっきの奴とは違う。
これがゲームなら、とんだチート野郎が出てきたものだ。
ひとつ目のオーガは、その姿を物陰から現す。
心なしか、廊下の幅が広くなったようにも感じる。
まさか、この空間は後付で変えられるのか?
確かに、先程までオーガは剣を振り上げていた。
冷静に考えて俺が股抜けできるほどの巨体が、廃病院の廊下で剣を振りあげられるはずがない。
俺がオーガを倒したからオーガ用にフィールドを作りなおしたということなのか?
それなら、なおさらこちらの劣勢は変わらない。
「打つ手なしか……?」
* * * * * *
ピンク色の羽の蝶は、ひらひらと廃病院を飛んでいる。
それを追う、一人の少女。
息を切らしながらも、必死に蝶を追いかける。
階下で轟音が響く。
その音を聞き、裕香の頭に最悪の光景が浮かぶ上がる。
『そんなわけがない』と、少女は頭を振り、その光景を追い払う。
もし、その光景が本当だった場合、彼女の目の前には「LOSE」の文字が浮かんでいるはずだ。
しかし、彼女の目には廃病院とピンク色の蝶しか見えていない。
『彼は無事だ』と裕香は考える。
ピンク色の蝶は廊下を曲がる。
彼女は廊下の影を伺いながら、慎重に蝶を追う。
ここでオーガに出くわせば、彼女では対処できない。
彼女がいまできることは、蝶を追い、この空間を作り出しているものを探し出すこと。
それがわかっているため、彼女は必死に蝶を追いかけた。
そこで彼女は思い出す。
その考えの正しさを確認するため、彼女は持っていたカラーボールで印をつけていった。
* * * * * *
巨大なひとつ目が立ちふさがる廊下。
あいつと一戦交えるとなると、こちらも覚悟が必要だろう。
それに、これと同じようなバケモノが徘徊していないとも限らない。
ここはやりすごして、裕香を追いかけたほうがいいか……?
俺が一歩後ずさると、それに反応したオーガは咆哮を発する。
耳をふさいでしまうほどの咆哮。
この時点で俺は、逃げ切れないことを察した。
やはり勝つしかないようだ。
それならば考えろ、イメージしろ、奴に勝つ方法を。
使えるのはバレットとソードだけだ。
遠距離のバレットが効かないのは、先ほどのやつと同じだろう。
ならば、ソードで接近戦を仕掛けるしかないか?
先ほどの戦法が通じるとは思えない。
そんなことを考えていると、しびれを切らしたひとつ目が近くにあった壁を破壊し、手頃なサイズのコンクリートを手にすると、それを投擲した。
「まじかよ!」
急いで体を伏せる。
コンクリートの塊は俺の頭上を通りぬけ、廊下のはるか先の壁にあたり砕けた。
あれにあたったら、俺も同じ状態になるのは容易に想像できた。
遠距離では分が悪すぎる。
かといって、接近戦が有利になるとは思えない。
これは……絶体絶命というやつではないだろうか。
ここから反撃できる案がイメージできない。
深呼吸を一つ。
「ソード」
その声と共に、懐中電灯の明かりが剣に変わっていく。
「ここは剣と剣の勝負と行かないか?」
剣を構え、一つ目に問う。
一つ目は、頷く代わりに手にしている巨大な剣を振った。
その剣は窓を破壊し、廃病院の壁に大きな穴が開く。
先ほどのオーガよりも力は強いようだ。
また殴られでもしたら、俺の体は木端微塵になるだろう。
それまでに裕香が能力者をみつけてくれることを祈るしかない。
「行くぞ! 一つ目の化け物!!」
「オオオオオオオオオォォオォォォォ!!」
両者が駆け出す。
1つの目の歩みは強く、一歩踏み出すたびに建物全体が揺れているようだった。
それでも床が抜けないというところを見ると、やはり何らかの強化がされているとみていいだろう。
距離が近づく。
一つ目の体躯は大きく、近づくたびにその化け物の強さを察してしまう。
一つ目は剣を振り上げる。
俺はさらに距離を詰める。
防いだところで何も変わらない。
やるか、やられるかだ。
剣が振り下ろされる。
冷静に、逃げずに、見極める。
一歩を大きく踏み出し、同時に体を伏せる。
頭上すれすれのところを、剣先が通過する。
次の一歩を踏み出す要領で体を起こす。
間合いに入った!
「まずは一つ!」
光の剣で足を斬り上げる。
だが、足に切り傷を付ける程度で一つ目はまるで痛みを感じていないかのように、その足で俺を蹴り上げた。
「かっ……」
咄嗟に剣で防いだため、直撃にはなっていないものの、俺の体は天井を突き破り、上階に転がりこんだ。
身体から息がすべて吐きださせられる感覚がする。
視界が明転し、頭がくらくらする。
立ち上がる力も入らない。
この状態で襲われでもしたら……。
まとまらない思考で、這いずるように移動する。
どこに行けばいいなんて、考えられなかった。
もしかすると、どこかの骨が折れているかもしれない。
次第に冷静になる頭共に、左肩に鈍い痛みが現れてくる。
奴が来る、早くどこかへ―――。
その思考だけが、頭の支配する。
一つ目の足音が階段と思われる場所から響いてくる。
近づいてきている。
「に、にげ、ない、と……」
かすれた声が、廊下に響く。
だが、もう動けるだけの力は残っていなかった。
ここまでか―――。
そう思ったとき、右の方から持ち上げられる感覚がした。
オーガが俺を持ち上げたのだろうか。
不明瞭な視界で、わずかに見えた景色は、俺と同じ白い服だった。
* * * * * *
「……ん」
声が聞こえる。
どこかで聞いたことのある声だ。
「……さ……ん……さえ……」
その声は、どこか涙が混じったような、必死な声だった。
誰だろう。
麻弥か?
いや、麻弥なら涙をこらえるというよりは、もうすこし怒りが入っているはず。
『お兄ちゃんは、なにをしてるの!?』と怒るはずだ。
だから、この声は麻弥じゃない。
それじゃあ、この声は―――。
「―――佐伯君!」
「はっ!」
一気に視界がはっきりする。
まず見えたのは薄暗い天井、次に見えたのは今にも泣きだしそうな裕香の顔だった。
「……助けてくれたのか」
「大きな地響きがして、引き返して来たら佐伯君が倒れてて……」
一つ目との戦闘で上階に打ち上げられたところを裕香が発見したということか。
体を起こそうとすると全身に痛みが走り、思わずうなる。
「無理しないで。左肩、すごい怪我してる」
「初戦から……っ、散々だな」
「私がもうすこしフォローできてれば……」
裕香は申し訳なさそうにつぶやく。
俺は首を横に降ろうとするが、体中に痛みが走り、できなかった。
「気にするな」と一言いうだけで精いっぱいだった。
「それで、あの蝶は……?」
「それなら心配ない」
裕香ははっきりと言い切る。
彼女がこうも言い切るということは、問題ないのだろう。
「もう、能力者の居場所はわかってる」
「……ほう」
素っ頓狂な声が出てしまった。
ということは、今の状態では完全に俺自身が足手まといになってしまっているということか?
いや、俺が戦闘を頑張った甲斐があって特定できたと思おう。
うん、そうじゃないとすこしつらい。
「なら、そこへ向かおう」
「でも……」
「大丈夫だ。なにか支えになるものを作ってくれさえすれば歩けるさ」
裕香は少し考えて、頷いた。
「でも、もうすこし休んでから」
「……わかったよ」
この時、彼女の頑固さのようなものを感じた。




