第五話 初戦
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。
5話目です。アリーナが開催されました!
次話はようやくバトルメインで書けそうです。
それではどうぞ!
目の前にある青い光を放つ渦。
ゲートと呼ばれるだけあって、確かに異世界への門のようだ。
深呼吸する。
隣をみると、裕香の顔はいつものように落ち着いているように見える。
ただ、それが顔に出ていないだけで、右手が左手首をぎゅっと握っていた。
「行くか」
つとめていつも通りの声を出す。
裕香は静かに頷いた。
渦のなかに体を沈めていく。
目の前が光に包まれ、視界が白く染まる。
やがて光が収まり、目の前にはマンションがそびえ立っていた。
「……なんだ、ここ」
「集合住宅?」
「いや、そうじゃなくって」
前回は闘技場みたいな場所だったこともあり、今回もそうなんだろうなと思っていたのだが……。
「仮想世界は毎回変わるの。だから、こういう場所になることもある」
俺の疑問を汲み取ってくれたのか、裕香がそう教えてくれる。
なるほど、そう言う理由であるのであれば裕香が驚いていないことも、このマンションが舞台であることも納得できる。
要は、ゲームのフィールドのようなものだと割りきれば言い訳だ。
俺はマンションの中へと足を運ぶ。
エントランスは新築のマンションといわんばかりの真新しさがあった。
「それにしても、対戦相手はどこだ?」
「向こうもマンションの中にはいると思うけど……」
裕香がそう答えたとき、目の前にカウントダウンの文字が浮かび上がった。
「向かい合う必要はないということか」
カウントはゆっくりと減っていき、やがて0になる。
それと同時に、マンションに変化が現れた。
「なっ!?」
真新しかったエントランスは、朽ち果て放置された廃病院のように、外の景色もまるで夜の山奥だといわんばかりの様相をしている。
先程までと違う、どこかホラーテイストな光景に、驚きを隠せずにいた。
「これは……」
「もしかしたら、相手のアビリティかもしれない」
裕香は冷静に答える。
「もしかして、お前は相手を知っているのか?」
その問いかけに裕香は静かに頷いた。
「教えてくれ、相手の能力はなんだ?」
「夢の世界を現実に反映する力」
……すこし耳を疑った。
世界を作り替えてしまうほどの能力者がドベ2?
そんなわけがあるか。
「でも、この能力には弱点があって」
「その弱点のせいで、このアビリティ保持者はドベ2なのか?」
「それはちがう」
すごくきっぱりと否定された。
どうやら、俺の推測はかなり的はずれだったようだ。
「……その弱点というのは?」
落ち込んでいる心をたてなおして、裕香に問いかける。
「寝ていないとダメなの」
「本当に夢なんだな……」
まぁいい。
これで相手の能力がわかったんだ。
ペアの能力者がどういう能力かはわからないが、おそらく相手を眠らせるとかそういう感じだろう。
それならば、その能力者を倒した方が早い。
「それじゃあ、探索開始といこうか」
俺はベルトから懐中電灯を取り出すとスイッチをいれる。
懐中電灯に照らされた箇所は、やはり廃病院のようだった。
「裕香は何か……」
明かりがつくものは、と聞こうとしたが裕香はすでになにか木の棒みたいなものを持っていた。
なるほど、お化け屋敷に入れないタイプだな。
「あまり離れるなよ」
その声に裕香は黙ってうなずく。
心なしか、いつもよりも距離が近い。
とりあえずロビーを抜けて、2階へと上がる。
2階は窓から月の光がわずかに差し込んでいる程度で、天井についている電灯はその役割を果てない程度には朽ち果てていた。
病院の2階は診察室があるところも多いが、ここは病室が並んでいるようだった。
大部屋なのか、ひとつひとつの扉は大きい。
適当に近くの部屋のドアを開くと、これまた散乱したカーテンやベッドが目に入った。
「まるで廃病院探索だな」
「ど、どうしてそんなに平気なの?」
「いや、まぁ」
実際の廃病院ならまだしも、ここは能力で作られた世界だしなぁ。
これでお化けとか出てこられたら、叫び声をあげる自信はあるが。
「怖がることでもないよ、こういうところはさ」
ドアに手をかけ、違和感。
ドアの曇りガラスの向こうに人影がいるように見える。
「能力者か……? 裕香、すこし下がっていろ」
裕香は下がるどころか、なぜか俺の背中に密着した。
う~ん、こういう状況じゃなきゃなぁ。
「まぁいい。裕香、木の棒は構えてろ」
深呼吸をして、一気にドアを開ける。
開け放たれたドアの向こうには……誰もいなかった。
「気のせい……だったのか?」
その言葉を呟いた直後、気配を感じる。
ゆっくりと窓の方に視線を移すとそこには……白装束を来た女がたっていた。
「あからさまだな! バレット!!」
突っ込みをいれつつ、エアガンを取り出して発砲。
光弾は女の体をすりぬけ、窓を割った。
「効かない!? というか、すり抜けただと!?」
「ほ、本物?」
「いや、そんなはずは……」
いや、夢の世界であるのであれば、相手の能力とはいえ本物の幽霊がいてもおかしくはないのか。
冷静になって考えてしまうと、目の前にいるなにかが本物の幽霊であるとしか思えなくなってきた。
「に、逃げるぞ!!」
裕香の手をつかみ駆け出す。
病院の廊下は直線であるため、後ろから追いかけられたらすぐに追い付かれてしまう。
廊下をわたり終えた先には階段がある。
「上の階に逃げ込むぞ」
「わ、わかった!」
階段をかけあがり、近くの部屋に転がり込む。
ドアを急いで閉めると、物陰に隠れる。
意味はないのだろうが、何もせずにいるのはできなかった。
「まったく、嫌な能力だ……」
息を切らしながらそう呟く。
これが相手のみている夢ならば、どれだけ嫌な夢を見ているんだ……。
なぜだか相手の能力者にすこしだけ同情してしまう。
「なにか手はないか……? このままだとじり貧だぞ」
「能力者を倒せばいいけど、でも……」
「そいつらがどこにいるのか見当がつかない。ましてや、戦闘開始時点から顔ひとつ見せていないからな」
「でも、幽霊が現れたってことは、どこからかみていることなんじゃ……」
確かに、どこからかみていなくちゃ特定の場所になにかを起こすなんてことはできないだろう。
夢の世界を制御できていないというのであれば、この推測は意味がなくなってしまうが、そうではないと思う。
奴らはどこからか、俺たちを見ている。
どこだ……?
マンション、夢の世界、廃病院、幽霊。
「まさか、警備室……なんて言わないよな」
「監視カメラってこと?」
「それに近い何か、だ。もしかすると、幽霊もその中の一つかもしれない」
もしそうならば、幽霊の動きだけでは情報が足りないかもしれない。
徘徊しているのであれば、何かしらの規則はあるだろうし、ほかに何かを使っているのであれば幽霊だけに気を取られるのは危険だ。
まぁオークとか、オーガとか、そういうファンタジー的な何かが出てこない限りは大丈夫だろう。
「別れて行動するのは危険だな。裕香、なにか目印になりそうなものは作れるか?」
「カラーボールとかなら」
カラーボールって、コンビニにある泥棒に投げつけるあれか。
たしかに目印にはなるか。
「よし、それでいい。作れるだけ作ってくれ」
裕香は黙ってうなずく。
その後、自分の能力でカラーボールを作り始めた。
さて、その間にどうするか考えないとな。
制限時間があるのかは知らないが、持久戦になればこちらが不利だ。
短期決戦を仕掛けられることができればいいのだが……。
「これだけあればいい?」
裕香の足元には十数個のカラーボールがあった。
この数ならポケットに入れて持ち歩けるだろう。
「十分だ。半分はそっちで持ってくれ」
「これで何をするの?」
「目印をつけるんだ、幽霊が通過したっていう、な」
* * * * * *
「なにか企んでいるみたいよ」
ピンク色の壁紙が張られた、まるで子供部屋のような部屋に2人の学生がいた。
片方はベッドの中で穏やかな寝息を立てている。
もう片方は、その少女に寄り添うように座っていた。
当然、彼女の声に眠っている彼女は応えない。
だが、座っている彼女の目に映る、廃病院の映像には、返事をするかのように変化があらわれた。
「貴方も結構いい性格しているわよね」
宙にうかぶ映像の中に現れる異形のもの。
体は大きく、肌は青く、頭には角が生えている。
まさしくそれは、オーガだった。
オーガは何もない空間から生まれるように、なにかが集まって形を成すように、一体、また一体とその数を増やしていく。
「そろそろヒントを出さないとフェアじゃないかな?」
少女は眠っている少女に問いかける。
少女は応えない。
だが、またしても返事をするかのようにピンク色の蝶が画面を横切った。
それを見た少女は、声を上げて笑った。




