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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
4/39

第四話 開幕前夜

Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

更新遅れてすみません。

出来るだけ、1週間に一度は更新できるようにします……。

物語はようやく始まります。次回からはちゃんとアクションメインで書けたらいいなぁと思います。

それではどうぞ!

武藤・斎藤ペアを秒殺したのが知れ渡ったのか、練習試合のあとは初日同様に質問攻めだった。

まぁ、あれは相手が真っ直ぐに突っ込んできたのが勝因であり、ただ相手が馬鹿だったとしか言いようがないのだが……。

ただ、トップのペアを倒したというのに順位が変わらないのはなんだかなぁと思わなくもない。

実際に勝ってしまうと欲が出てしまう。

しかし、だ。

トップのペアを秒殺できたとはいえ、あれは彼らが油断していたからだろう。

次戦うときは、相手も対策をしてくる。

厄介なことになってしまったな。

ちらりと裕香の方をみると、彼女はうつむきながら何かを見ていた。

手に何かを持っているようだが、ここからでは確認できない。

そこまで大きなものではないが……。

もしかすると、ただ本を読んでいるだけかもしれない。

もしそうならば、あまり話しかけられたくはないだろう。

どこか寂しそうな横顔が気になったが、声をかけずに教室をあとにする。

すぐに購買へいかなければ、戦場に丸腰で挑む兵士の気分を味わう羽目になる。

足早で購買へ向かうと、そこは地獄と化していた。


 * * * * * 


なんとか地獄から生還した俺は、校舎の影で手に入れたパンを食べる。

ただのパンがこれほどうまいとは。

そんな小さな感動を味わいながら一人で昼食をとっていると、遠くのほうで黄色い声援が聞こえてきた。

声の方をみてみると、女子生徒の群れが出来ている。

イケメン俳優かアイドルでも来たのだろうか。

だが、すぐにその考えが誤りだったことを察する。

何故ならば、人だかりの中心にいた人物はこの学校の学生服を着ていて、3年生であることを示す紺色のネクタイをしていたからだ。

さしずめ、憧れの最上級生というところだろう。

もしかしたら、生徒会長とか風紀委員やっているかもしれない。

この学校にそれらがあるのかは知らないが。

「それにしても、こういうところは普通の学校と変わらないんだな……」

そう小さく呟く。

アビリティだの仮想世界だの現実離れした事柄ばかりでどこか現実感がなかったが、こういう風景をみるといまこの瞬間は現実なのだと実感する。

「あの人はランキング一位だから……」

「そうなのか……って、いつの間に!?」

裕香の声に返事をしたあとの俺の驚きように、裕香は困惑した表情を浮かべ、「佐伯くんが来る前からいたよ……」と答えた。

「そ、それはすまなかった」

全く気づかなかった。

購買にいっている間に移動したのだろうが、気配が全くなかった。

まぁ、いい機会だ。

一位のことを聞いてみるとしよう。

「一位ということは、相当強いんだな」

「かなり強い。顔もいいし、モテないわけないよ」

時々いるんだよなぁ、ああいうイケメン天才タイプ。

大体、そういう奴は噛ませ犬と相場が決まっているが、あいつはそうじゃないんだろう。

素人目からみてもわかる。

あいつと俺では、同じ土俵にすらたてていない。

それにしても、女子ってイケメンをみると生き生きするよなぁ。

悲惨な現実を2つほど叩きつけられ、すこし心がえぐられる。

「あいつの能力は?」

「わからない」

「わからない?」

即答で、しかも断言されてしまい、思わずオウム返しをしてしまう。

裕香の様子からなにかを隠しているわけでは無さそうだが……。

「本当にわからないの。気がついたらいつも終わってる」

「観戦する機会があったのか?」

「試験のときはみんな見れる」

試験はあくまで公正に、という意味もあるんだろうな。

それに、この学校の中で誰もが文句を言わずに勝つ実力……か。

もう一度、あいつをみる。

まわりの女子になど、目もくれず、むしろ鬱陶しさを隠そうともしない顔で校舎に向かっていく。

奴が校舎の中へと入っていくとき、俺はあの姿を見つけた。

あの日、麻弥と俺の能力を打ち消したあの女を。

「裕香、あいつの後ろにいた背の低い女は……」

「鳴海先輩のパートナーのこと? 黒川 紗良さんだね」

「あいつが……一位か」

ぼそりと呟いた声が裕香に聞こえていたかはわからない。

だが、それ以上裕香は何も言わなかった。


 * * * * * 


裕香と別れたあと、俺は家庭科室にいた。

雨音さんに呼ばれていたからなのだが、俺が家庭科室のドアを開けるなり雨音さんは俺を家庭科室の中に引きずり込み、魔王のような笑い声をあげた。

この人、頭おかしいんじゃないのか……?

そんなことを考えていることがばれたのか、雨音さんはぎらついた目をこちらに向け、迫ってきた。

「ちょっ、雨音さん!?」

「動かないでね、佐伯君~」

いつもの声が、とても怖い。

「気を付け!」

「はいっ!」

……しまった!

雨音さんの声に思わず反応してしまい、家庭科室のドアの前で背筋を伸ばして立ちすくむ。

雨音さんはポケットから紐のようなものを取り出すと、自分の胸のあたりでピンと張る。

それはまるで、これから誰かを絞殺する殺人犯のようだ。

やられる!

ぎゅっと目をつぶる。

しかし、一向に首を絞められる息苦しさは来ず、かわりに柔らかいなにかが当たる感触が右肩のあたりにあった。

それと同時に、柔らかな甘い匂いがした。

これは……もしかして……。

ゆっくりと目を開けると、雨音さんの頭頂部が鼻のあたりにあった。

「雨音さんっ!?」

「動かないでね~。今採寸しているところだから」

「採寸?」

なるべく動かないように自分の体で起きていることを調べる。

右肩辺りに雨音さんの手があり、そこから腕に沿うように先ほどのひものようなものが伸びている。

よく見てみると、それは平たい形状をしており、なにやら目盛りがついているようだった。

「よしっ、後ろ向いて~」

それからしばらく、雨音さんは採寸を測っていた。

それが一通り終わったころ、「採寸なんかして、どうするんです?」と聞いてみた。

「ん? う~ん……秘密♪」

「はぁ……」

なんだろう、この人。

「明日にはわかるわよ」

最後に何かをたくらんでいるような、雨音さんらしい笑みを浮かべていた。


 * * * * * * 


午後の授業はいつも通り行われていたが、明日にはアビリティアリーナが開催されるからなのか、どこかクラスの雰囲気が浮わついているように感じる。

放課後、俺は明日の用意を聞くため、裕香に声をかけていた。

「なぁ、明日は何が必要なんだ?」

裕香は少し考えた後、メモ帳に箇条書きで何かを書きだす。

書き終えると、それを俺に渡してきた。

「一応、ここに書いてあるのが必要なものだけど……」

「えっと……」

学生証、アビリティ使用に必要な道具類、ユニフォームといった、まぁよくある部活動の試合に行くみたいな内容がかかれていた。

「このユニフォームってなんだ?」

「試合をする時の格好。たしか、雨音さんが用意してくれるって言ってたと思う」

なるほど、昼間の採寸はそのためか。

いや、今日の昼間に採寸して間に合うのだろうか……。

そんな不安を覚えながらも、裕香に礼を言い自室へと向かう。

アビリティ使用に必要な道具類……か。

まぁ必要なのはエアガンと懐中電灯くらいで、それはちゃんと持ってきている。

だが、それをどうやって持ち運ぼうか。

なんかいい感じのそう、誘導灯の腰ベルトみたいなやつがあればいいが……。

それは追々用意するとしよう。

懐中電灯もエアガンも、自分の手にしっくりくるやつを持ってきている。

それを忘れないように机の上に置くと、明日の初戦に関して考えを巡らせる。

そういえば、裕香はどうするのだろうか。

そんなことを思い、相談をしようと連絡を取ろうとするが、連絡先を知らないことを思い出す。

パートナーだっていうのに、連絡先の交換もしてなかったのか……。

事前の作戦もなにもないな。

連絡先に関しては、機会を見て聞くとしよう。

あとは……まぁ、なるようになるか。

身体をベッドに投げだして、目を閉じる。

麻弥。

ようやく、お前助ける希望がつかめるかもしれない。

待っていろ、絶対に助けてやるからな。


 * * * * * * 


翌日、俺たち全員は校庭に集められ、校長のありがたーーーーいお話を聞いた。

それと同時に、生徒会長からアビリティアリーナの開幕が宣言される。

なんだか普通の体育大会みたいだったな。

式典終了後は各々のパートナーと共に準備運動を始めている。

俺も裕香を探しているのだが、一向に姿が見えない。

一体、どこに行ったのだろうか。

しばらく探していると、彼女をみつけた。

彼女は校庭の隅の木の下に座っていた。

手に何かをもって、何かをつぶやいている。

それからすぐに俺に気付いて、はっとした顔をした。

裕香と出会ってから始めてみる顔だった。

「すまない、邪魔をしたかな」

「ううん、大丈夫」

彼女の声には、「深くは聞かないでほしい」という拒絶のような色が含まれていた。

「この後どうすればいいか聞きたかったんだ。正直、右も左もわからない状態だからな」

「組み合わせ表がモニタに表示されるから、それを見ればいいけど……私たちは初戦だと思う」

最下位は最下位らしくということか。

「なら、すぐに準備をしないといけないな」

「雨音さんからユニフォームを受け取らないと……」

「そういえば、そういう話だったな。あの人は……どこにいるんだろう……」

全く読めないからな、あの人は。

「ユニフォームって、どこか着替えるところがあるのか?」

「更衣室はあるけど」

「ならきっと、そこにいるはずだ」

というか、いてほしい。

わずかな希望をもって、裕香の案内で更衣室へと向かう。

更衣室の前には、ちゃんと雨音さんがいた。

「おそいわよ、佐伯君」

「すみません」

なんで謝ってるんだろう、俺。

「はい、これ。こっちが佐伯君ので、こっちが水瀬さんの」

ビニール袋に入れられた服一式を受け取る。

本当に一日でできたのか。

そんな驚きが顔に出てしまったのか、雨音さんはものすごいどや顔をしていた。

「ありがとうございます」

裕香はひどく落ち着いた声で、そういった。

もうすこし喜んでくれると思っていたのか、すごく落ち込んだ顔をする雨音さん。

「とりあえずは着てみないとな。ありがとうございます、雨音さん」

「ええ、ありがとう……。更衣室で準備してきて……」

ああ、元気がなくなっている。

とりあえず男用の更衣室に入り、雨音さんが用意してくれたユニフォームに着替える。

白を基調とした軍服のような服だった。

これ、雨音さんの手作りなのか?

サイズはぴったりで、オーダーメイドと言われても納得できる。

それに腰のあたりは懐中電灯が入れられるようにポケットが、エアガン用にホルスターが用意されている。

俺が使うものを事前に調べて、それように作られているのか。

これはありがたい。

着替えて外に出ると、雨音さんが壁に向かって何かつぶやいていた。

あれ、はたから見たら頭のおかしい人だぞ……。

「雨音さん、どうですか?」

「……」

雨音さんは俺の声に反応して、ゆっくりとこっちを見る。

あ、涙目だ、この人。

だが、やがて声に明るい色が含まれた。

「うん、想像通り」

「これ、俺用にいろいろ考えられていてすごいですよ。サイズもぴったりだし、本当ありがとうございます」

「そういってもらえると、うれしいなぁ」

ここでようやく雨音さんは笑顔を見せる。

雨音さんらしい笑みだった。

それからすぐに裕香も出てきた。

俺と同じように白を基調とした服だ。

動きやすいようにパンツスタイルの服装で、あまりそういう服は着ないのかすこしズボンが気になっているようだった。

「うん、こっちも♪」

二人並んでみると、ペアだとすぐに分かる。

「さぁ、初戦、頑張ってね」

「はい!」

気合を入れるため、力強く返事をする。

初戦。

初日のルールで、必ず1つ上の順位のペアに挑むことになっている。

最下位から一つ上のペアといえど、油断はできない。

大事な一戦だ。

負けられない。

「さあ、いくぞ!」

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