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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第2部
38/39

第三十三話 信頼の合図

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

一気更新の3話目、ワードワーカー戦終了です!

次回は、番外編を一話挟んでの更新となります。

それではどうぞ!

準備に向かった裕香と別れた俺は、裕香の合図を待つため図書室の入り口が見える廊下で身を潜めていた。

ワードワーカーの2人は図書室に籠城したまま出てくる気配は見えない。

彼女たちは図書室での対決を望んでいるようだ。

それが『感染』の能力を最大限に生かすためなのか、『自己暗示』の能力の発動条件が揃うからなのか、どちらの理由も考えられるが、この際考えるのはやめる。

目前にある事実は、『図書室での戦闘になる』という事実だけがあれば十分だ。

手持ちのカラーボールを確認する。

数は3つ、バレットは撃てる。

アクセルは……やめておいたほうがいいだろう。

あれはまだコントロールできていない。

楓戦で使ったのは、一種の賭けみたいなものだった。

そんなものを使って無効化されては、元も子もない。

使うのは、スタンとバレットの2つだけ。

確実に仕留める。

そのためにできる限りのことをするだけだ。

深呼吸をして、息を整える。

すると、窓をコンコンとたたく音が聞こえてきた。

音がしたほうに目をやると、つるされたぬいぐるみが風に揺らされて窓にあたっていた。

まぁ、なんとも裕香らしい目印だろうか。

それを確認した俺は、ゆっくりと図書室へと足を進めた。


* * * * * *


「ようやく来ましたね」

図書室に入るなり、図書委員はそうつぶやいた。

「律儀に待っていてくれなくてもよかったけどな」

「いえ、むしろこちらが優位な場所で戦う覚悟を決めたことは、ほめてあげますよ」

「そりゃどうも」

明らかに挑発だということはわかっているので、ここは軽く受け流す。

すこしむっとした図書委員とは裏腹に、パートナーのほうは顔色一つ変えずに本を読んでいた。

「それで、勝算はあるのですか?」

「当然だ。まさか、考えもなしに来ると思っているのか?」

「やけになった、という可能性も捨てきれませんからね」

言葉の応報が続く。

おそらく、このやり取りの中で『ワードワーカー』の能力を使おうとしているのだろう。

「秘策はこれだ」

「また懐中電灯ですか?」

「ああ。『ワードワーカー』はあくまでも自分の意識には作用するが、物理的な法則には作用しない、だろ?」

その証拠に、ソードを無効化された後も懐中電灯の明かりはついていた。

あの能力が『自己暗示』の場合、無効化できるのは自分の意思が干渉するところまでなのだ。

「すこしは頭が回るようですね。しかし、それがわかったところで、どうするというのですか?」

「この際、長ったらしい勝負はやめて、一気にケリをつけようと思ってな。どうだ?」

「なるほど、勝負に出たということですか。いいですよ、私も引きずるつもりはありませんから」

あいつの性格から察するに、こういう状況に持ち込めば乗ってくると思ったが、やはり乗ってきたな。

とりあえず、このまま持っていけるところまで持っていこう。

「このエアガンは見えるか?」

俺がエアガンを掲げると、『ワードワーカー』の片割れが静かに頷く。

「この場所から動かずに、このエアガンから3発撃つ。その3発でケリをつける」

「3発とは大きく出ましたね、さてこちらの条件もあるのでしょう?」

「察しが良くて助かるよ。こちらから出す条件は2つ。1つは、『ワードワーカー』を使って能力を制限しないこと。もう1つは、俺の一番近くにある机よりこちら側に来ないこと。それ以外はバリケードを作ろうが何しようが構わない」

「なるほど、いいでしょう。素人が撃つ銃なんて、到底当たらないでしょうから」

図書委員は、当たるわけがないと高をくくっているようだ。

「それじゃあ、俺が真上に一発放つ。それを開始の合図としよう。それまではバリケードを作るなりしていてくれ。問題ないな?」

「ええ、問題ありません」

同意を得てから、俺はもう一度手持ちを確認する。

……よし、大丈夫だ。

この間に、ワードワーカーで能力でも塞がれれば勝ち目はないが、あいつの性格からそれはしないだろう。

「こっちは準備OKだ。そっちは?」

「こちらも問題ありません。いつでもどうぞ」

「それじゃあ、始めるぞ」

俺は銃を真上に構えて、深呼吸を一つする。

「……よし、バレット!!」

その声とともに、引き金を引く。

銃口から光弾が発射され、天井を貫いていく。

直後、俺は銃口を図書委員の方へと向ける。

図書委員は、微動だにせずそこに立っていた。

「余裕だな」

「あなたの銃は当たらない」

「それはどうかな、バレット!」

俺は引き金を引く。

光弾は、まっすぐ飛んでいった。

だが、光弾が図書委員の体を貫くことはなかった。

「"素人が撃つ銃なんて、到底当たらない"でしょう?」

「……さっきの会話の時点で、もう能力を使っていたか……!」

「開始の合図は真上に銃を撃ってから。それ以前に能力は制限していけないというわけではないでしょう。流石に銃を撃つこと自体を制限するのは申し訳ないのでやめましたが」

なるほど、能力の発動が見えないというのがこれほどまでに厄介だとは。

「それなら!」

俺はカラーボールを引きちぎり、図書委員へと投げつける。

「防犯ボール……?」

「スタン!!」

図書委員がキョトンとしている間に、スタンを発動させる。

カラーボールが破裂し、まばゆい光が図書委員を包み込んだ。

「くっ、目くらましとは卑怯な……。ですが、あなたの銃は当たらない。勝ち目はありませんよ」

「いや、"俺たちの勝ち"だ」

図書委員を包み込んだ光が収まり始めた頃、俺の合図が届いた証拠が聞こえてきた。


* * * * * *


「ちょっと肌寒いなぁ」

屋上を吹き抜ける風は、11月の気温と相まって冷たく感じる。

その風に吹かれながら、少女はパートナーからの合図を待った。

やがて、一筋の光が床を貫いて空へと伸びていく。

それこそが、彼女が待っていた合図、パートナーからの信頼の合図だった。

「それじゃあ、派手にやっちゃおうかな」

少女はかつてのパートナーの口調を真似して、両手を前に出す。

思い描くのは、できる自分。

万能でなくとも、状況を打破する決定力でなくとも。

少女は、ただ思う。

『今度こそパートナーの信頼に応えよう』と。

「いっけぇぇ!!」

少女は、出来上がったばかりの"それ"を思い切り振り下ろした。


* * * * * *


「これは……一体、何の音ですか……!?」

まだ視力が回復図書委員は、聞こえてきた驚いたような声を挙げる。

「お前が、ワードワーカーで俺の能力を制限するとわかっていたからな。保険をかけさせてもらった」

「ということは、これはあなたのパートナーの仕業ということですね……」

「ああ、そういうことだ」

バキバキという何かを壊すような音はどんどん大きくなっていく。

「合図の最初の1発。お前との勝負の合図に見せかけて、本当は裕香への合図だったんだ」

「なるほど、最初から3発で勝負を決めるつもりはなかったということですか……」

「まぁ、お前が正々堂々やるのであれば3発で決めるつもりだったけどな」

音は俺の声をかき消さないといわんばかりに大きくなった。

図書委員も音の正体に気づいたようだ。

「まさか……この音は……!」

「たしか、本が当たったらいけないんだよな?」

俺の答えの回答のように、天井にひびが入る。

「だから、俺はこう裕香に頼んだんだ。"校舎を壊すくらい大きい本を屋上から落としてくれ"と」

「なっ……!?」

「さぁ、自分の能力でつぶれろ!」

天井が崩れ落ち、そこには大きな本の背が姿を見せた。

その巨大な本は図書委員に向かって落ちていき、俺の目の前で轟音と土煙を立てて沈んでいく。

土煙がおさまった頃、俺の目の前には空が広がっていた。

「……いや、ここまで思い切り壊さなくてもなぁ……」

そうこぼすくらいには、校舎はボロボロに崩れ落ちていた。

そして、俺の目の前に「WIN」の文字が浮かんだ。


* * * * * *


ゲートを抜けると、先に戻っていた裕香が待っていた。

「おかえり、勝ったね」

「ああ、裕香もありがとうな」

裕香はおもむろに右手を挙げ、キラキラした目でこちらを見ている。

……なるほど。

俺も右手を挙げると、裕香が俺の右手にハイタッチしてきた。

「ハイタッチなんて、はじめてじゃないか?」

「前から……してみたかったんだ」

裕香はハイタッチした右手を、自分の胸の前でぎゅっと握ってそう答えた。

その顔に悲しみの色はなく、ただただ嬉しそうに笑っていた。

本当は、宮城 夏美が生きているころにしたかったのだろう。

たぶんきっと、裕香にとってハイタッチは、パートナーとの勝利の喜びだったはずだから。

だから俺は、できるだけ穏やかな声で「そうか」と短く答えた。

次も、その次も、裕香と同じ喜びを共有できるよう祈りながら。

余談ですが、三十四話から僕が一番書きたかった話をようやく書けるのでワクワクしてます。

また、更新遅れそうだなぁ……。頑張ります。

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