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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第2部
37/39

第三十二話 ワードワーカー

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

一気更新の2話目です。

それではどうぞ!

ゲートを抜けると、そこは図書室だった。

「ここが今回のフィールドということか」

「となると、相手にとっては優位な条件があるってことだよね、本があると便利なのかな」

「いや、楓から聞いた話だと……」

その時、図書室に何かを叩きつけたような大きな音が響き渡る。

それはまるで、分厚い本を机に叩きつけたような、そんな音だった。

「……なんか」

「……デジャヴだね」

ゆっくりと窓際の机を見る。

そこには、無表情で静かに本を読む少女と、般若面のような形相をした少女の二人がいた。

般若面の方には、見覚えがある。

「またあなた達ですか」

「奇遇だな、俺も同じことを思っていたよ」

「図書委員として、図書室でのマナー違反は看過できません」

「それなら、さっさと終わらせよう……ぜ!」

言い終わる前に、俺は懐中電灯を取り出して少女に駆け出した。

心のなかで小さく「ソード」とつぶやいて、懐中電灯のスイッチを入れる。

懐中電灯の光は収束し、一振りと剣となる。

「はぁ、まったく……」

図書委員はため息をつくと、手に持っていた辞書を開いたあと、俺を見た。

「子供ですか、貴方は。『懐中電灯の光が剣になるわけがない』でしょう」

「普通ならな!」

俺は机に飛び乗ると、懐中電灯を横に振った。

しかし、懐中電灯の光が図書委員を照らしただけだった。

「……は?」

「それはこっちのセリフです。まぶしいじゃないですか」

確かに、俺はアビリティを発動して、(ソード)を作ったはずだ。

まて、そもそも『懐中電灯の光が剣になる』のか?

いや、俺の記憶の中ではたしかに懐中電灯の光が剣になっている。

だが、どれだけイメージをしても懐中電灯の光が剣になるイメージができなかった。

「どういう……ことだ……?」

「だから、言っているじゃないですか。『懐中電灯の光が剣になるわけがない』でしょう? それに貴方も『普通ならならない』と言ったじゃないですか」

目の前の図書委員はさも当たり前のことのように言う。

俺の頭の中でも、それが至極当然のことだと認識してしまっている。

そうか、これが楓の言っていたアビリティか……!

「ワード、ワーカー……!」

「その名前を知っているということは、私の力もご存知ということですね」

「くっ……!」

俺は机を蹴って、距離を取る。

「ワードワーカーって、どういうこと?」

「あいつの能力の異名だ。『本を開いて言った言葉を現実に反映させる』能力だと楓から聞いている」

俺が懐中電灯を振る前に、あいつは辞書を開いていた。

そして、『懐中電灯の光が剣になるわけがない』と言った。

その言葉通り、懐中電灯は光の剣を保てなくなり、ただの光になっていた。

「それじゃあ、あの人が……」

「楓が勝つことができなかった……相手だ」

おそらく、楓のアビリティはすぐに封じられただろう。

たとえば『なにもないところから鎧が出るわけがない』とか「そんな重いものをきて動けるわけがない」みたいな感じに。

「相手にとって優位……なるほど、ここにはたくさん本があるからな」

「そっか、たとえ今持っている辞書をなくしても」

「すぐに別の本を使えばいいわけだ」

能力のタイプで言えば、裕香に近いのかもしれない。

だが、この状況下でどうやって戦う……。

うかつに能力を発動できないぞ……。

「もう万策尽きたんですか?」

「いや、とっておきの秘策をここで使っていいものか、悩んでいるんだ」

もちろん、ハッタリである。

「そうですか、ならこちらからひとつ」

図書委員は辞書を開いて、一言。

「伝え忘れていたのですが、『本が頭にあたったら命がなくなってしまう』ので、気をつけてくださいね」

「なっ……!?」

一瞬で図書室が殺人兵器のオンパレードとなってしまった。

本を投げられてそれが頭にあたったら即死、というわけか。

ならば、取るべき行動は唯一つ。

「逃げる!」

俺は近くにあった本棚から本を取り出して、図書委員に投げつけて逃げ出す。

図書委員は、その本を避けると俺のことを睨んだ。

「本を投げるなー!」

「本を殺人兵器にしたお前にだけは言われたくねえ!!」

裕香の手を引いて、俺達は一目散に図書室をあとにするのだった。


* * * * * *


図書室をあとにした俺たちは、適当な教室に逃げ込む。

追ってくる様子はなかったため、どうやら奴らは図書室で戦う気満々のようだ。

「勝ちにいくには、敵地へと殴り込むしかないわけか……」

さて、どうするか……。

「ねえ、ちょっと気になったんだけど」

「なんだ?」

「どうして、『本があたったら』なんて条件をつけたのかな?」

裕香の言っていることが、すこしだけわからず首を傾げてしまう。

「えっと、言っていることが現実になるんだったら、『本があたったら』とかじゃなくても、例えば『息を吸ったら』とかでもいいような気がしない?」

確かに、言われてみれば。

「そういえば、本を投げたとき……避けてたよな」

「それに、『貴方達は』ともいわなかったよね」

「もしかして、対象の指定ができないのか……?」

「そうなのかも、ってだけだけど。でも、パートナーの能力はわからないね」

隣で本読んでただけだからな……。

「ところで、なんで『ワードワーカー』なの?」

言葉(ワード)を働かせる(ワーク)から、だと思ってる」

「ワーカーって従業員(worker)だよね。これだと、自分の言葉で働いてるみたいな……」

確かに言われてみれば、違和感はある。

言葉を現実にするのであれば、策定者や反映(Reflection)といった意味のほうがあっているはずだ。

それでも彼女は「ワードワーカー」と言われていて、そのことを彼女も否定しなかった。

つまり「ワードワーカー」は、彼女の能力を示している名前で間違っていないということになる。

対象が選べない、言葉にして発する、本を開く動作……。

恋歌の能力は眠ることが条件だったから、行動が能力の発動条件になっている可能性はある。

だが、対象が選べないというのはどうだろうか。

例えば「あなた方は呼吸をすることができない」といえば、俺達は瞬く間に殺されていただろう。

ここで問題になるのが、『あなた達』の部分だ。

これを例えば、「佐伯一弥は目が見えない」とか言ったら、俺の目は見えなくなってるだろう。

これは俺の知っているという前提の話で、俺の名前を知らないと名指しすることはできないだろう。

だが、俺の名前は知らずとも、裕香のことは知っているはずだ。

個人名を知らないとできない、というわけではないのか……?

「いや、待てよ……」

もし、対象の指定ができないのではなく、"たった一人しか指定できない"のなら……!

意味は似ているが、0か1かでは話が違ってくる。

例えば、個人名を指定しても意味がないとしたら……。

「そうか、パートナーの能力か……!」

「どういうこと?」

「ワードワーカーは一人の能力じゃない、二人で一つの能力なんだ」

あっているかどうかの確証はない。

だが、そう考えれば対象が指定できない理由が説明できる。

「あの図書委員の能力は、対象が指定できないんじゃなくて、"自分自身しか対象にできない"と考えれば説明がつく。例えば、俺のソードを無効化したのは『懐中電灯の光が剣になるわけがない』という言葉だった。普通『懐中電灯の光は剣にはならない』といいそうなものを、あいつはそういった。まるで自分に対して言い聞かせているような感じじゃないか?」

裕香は「確かに」というふうに、うなずく。

それをみた俺は、言葉を続けた。

「本を凶器にした言葉も、自分に対して言い聞かせているようにも取れる。ここから、図書委員の能力が、自分自身にしか効果がないと考える。そうすると、効果を伝播……俺たちに『感染』させてるやつがいる。それこそがパートナーの能力、言葉を現実に反映させる能力なんかじゃない。図書委員の『自己暗示』、そしてパートナーの『感染』。この2つの能力を組み合わせた能力こそが、『ワードワーカー』の正体だ」

つまり、ワードワーカーの能力を破るには、『自己暗示』か『感染』のどちらかを無効化するか、直接的な力で押し切るしかない。

だが、能力を見せてしまうとワードワーカーで無効化される。

「さて、どうするか」

「私の能力はまだ無力化されてないよね」

そういうと裕香は試しにという感じで、犬のぬいぐるみを作り出した。

「俺は……ソードだけ使えないか。バレットとスタンは使えるな」

「どっちも目の前で使ったらワードワーカーで無力化されちゃうね」

「そうなんだよな……。だが、逆に言えば一撃で仕留められれば、いいってことにもなる」

「動きを封じるなら、スタンになるのかな。だけど、バレットだけだと決定力にかけちゃうね」

「そこが問題だよな。『感染』の能力がどこまで有効かもわかってない……し……な……」

ちょっと待てよ。

なにか、考えにとらわれていないか。

発想を変えろ。

ワードワーカーを打ち破る方法ではなく、ワードワーカーの影響を受けない方法は無いか。

「そうか……!」

この方法なら、ワードワーカーの影響は受けない。

だけど、また裕香に無理をお願いすることにはなる。

「大丈夫、まかせて」

裕香は俺の顔から何かを感じ取ったのか、俺が聞く前にそう答えた。

「全く……頼りになるパートナーだよ、ホント」

何はともあれ、反撃の目処はたった。

「ここから、反撃開始だ」

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