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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
28/39

番外編 「出会いの物語」

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

今回は番外編です。(練習的な側面もありますが)雨音さん以外の番外編をやりたいなぁという気分的なものです。やっぱり番外編なので、興味があればって感じですね。

それではどうぞ!


私がその少女を初めて見たのは、入学式当日だった。

この日のことは、いまもはっきりと覚えてる。

「はぁ……なんだかだるいなぁ。なんで入学式なんてあるのかな……」

誰も聞いていないのに、そうやって愚痴をこぼしながら、初めての登校をする。

正直、学校になんて行きたくはないけれど、単位というものがある以上、いかなくてはならない。

はぁ……引きこもってゲームしたい……。

私はオンラインのゲームはやらないので、基本的に一人で引きこもってやるタイプのゲームがメインだ。

それなので、通信プレイをする友達はいなかったし、欲しいなと思ったこともない。

共闘バトルもののゲームをやらなかったわけではないけど、それもひとりでやっていた。

もともとアクションゲームをよくプレイするわけじゃないから、そこまでやりこもうとも思わなかった。

今度の寮生活は、どうなるかな。

そんなことを想いながら、重い足を動かしていく。

寮から教室までの道中のことだった。

道の真ん中に、倒れている学生の姿があった。

「なに……あれ……」

行き倒れという言葉が一番似合う、そんな姿だった。

ああいうのは関わらない方がいい……無視していこう。

そのままの学生の横を通り抜けようとする。

通り際、その学生の姿を見てみる。

……女子生徒だった。

胸の横から覗かせているリボンの色が私と同じだ。

ということは、これから入学式の同級生ということになる。

それでも、私には関係ないけれど。

そうして、行き倒れ学生を放置することを決めた直後だった。

「へぶっ!」

突然左足にくる違和感。

それを感じた直後、私は顔から地面に倒れていた。

「な、なにが……?」

起き上がろうとしても、左足に違和感がある。

四つん這いの状態で左足を見てみると、行き倒れ学生がしっかりとつかんでいた。

多分私は柄にもなく、「ひっ……」と声を出したと思う。

……認めたくはないけど。

それだけ彼女の手の動きは、ホラーゲームの画面からそのまま出てきたみたいだった。

「は、離して……!」

左足をバタバタと動かして、女子学生を蹴るのは気が引けた。

「うぅ……ぁああ……」

腹の底から叫びたくなる衝動を必死で抑える。

もう彼女はゾンビで間違いない。

そう思うことにして、左足をバタバタと動かす。

罪悪感は微塵も感じなかった。

だけど、足はまったく抜け出せる気配はない。

こういうとき、ゲーム三昧の自分の体の弱さを恨む。

……仕方ない。

私は目覚めて間もない能力(アビリティ)を使うことを決意する。

このゾンビにも効果があるのかわからないけど……。

「眠れ……!」

私は少女をにらみつける。

すると少女は、「うぅ……」と声を出した後、左足に込めていた力を緩めていく。

ああ……効果があったんだな、と思ったのもつかの間だった。

私は左足を少女の手から引き抜き、立ち上がる。

はぁ、初日からゾンビに襲われるなんて、まるでゲームみたい……。

立ち上がって、スカートとかについた砂を払う。

……もう寮に帰りたい……。

嫌な気持ちを抱えたまま、目の前の景色を見る。

そこは……さきほどまで私が通っていた道ではなかった。

「ここ……どこ……?」

足元にはゾンビが転がっているし、私の服は制服のままだ。

それなのに、私はどこかわからない森の中にいた。

遠くには、木でできた小屋がある。

体を叩いた時、感触は確かにあった。

私が夢を見ているわけじゃない。

それじゃあ、これは……?

訳が分からない。

これじゃあまるで……RPGの世界みたい。

剣と魔法と、魔物が跋扈する世界。

もしそうであるなら、普通に魔物が襲ってくるのかな。

なんて考えていると、茂みの中からうめき声が聞こえてきた。

「まさか、ね……」

茂みの方をじっと見つめる。

うめき声はもう、聞こえてこない。

「ふぅ……」

安心して、ため息を吐く。

うめき声はたぶん、気のせいだったんだろう。

もう寮に帰りたいけれど、この現状をどうにかしないといけない。

これじゃあまるで、ファンタジーの世界に連れてこられた勇者みたいだ。

そう考えると、なぜだかワクワクしてきた。

VRゲームでも、こんな臨場感はない。

ああ、そう思うと、なんだかこれも悪くないかも。

周りを見渡せば、木々。

ちょっとと奥に村人Aが住んでる民家。

ああ、これこそまさにゲームの世界!

「ガルゥ!!」

「えっ?」

突然茂みの中から出てくる魔物。

これは、ウェアウルフとかいう魔物だ。

って、そんな冷静に考えている場合じゃない!!

「うわわわわ!!」

ああ、私……こんな声出るんだ……。

獣から逃げるときに絶対にやってはいけない、背を見せて全力で逃げる。

急いで小屋の扉を思いっきり叩く。

「た、助けて!」

ドアを何度もたたきながら叫ぶけど、中から返事はない。

この小屋……長い間使われていないのかもしれない。

ということは、私が逃げる場所がなくなったわけで。

「ガルルッ!!」

「うわっ!」

尻込みした私の頭上を、ウェアウルフのナイフが通過する。

ナイフはドアを壊し、小屋に入る入り口を作った。

先ほど見た通り、小屋は荒れ放題で誰も使っていないのが明白だった。

助けには来ない。

「もう!」

小屋に逃げても逃げ場はない。

なら、どこに……!

急いで考える。

私のアビリティがこの魔物に通じるかはわからない。

だけど、やってみる価値はある!

「お願い、効いて!」

私はウェアウルフをにらむ。

ウェアウルフはうめき声を少し上げると、力なく倒れる。

「はいっ!?」

急いで横にずれる。

ウェアウルフは小屋に倒れこみ、そのまま動かなくなる。

私の能力が睨むだけで永遠の眠りを引き起こすものだったらいいのに、残念なことに一時的な睡眠しか引き起こせない。

その間に、私はゾンビを頼ることにした。

「ねぇ、これどうなってるの?」

ゾンビは返事をしない。

まぁ、当然と言えば当然なんだけど、今回ばかりはそれでは困る。

「ねえってば!」

かなりの力でゆすっているのだけど、ゾンビは生き返らない。

こうしてる間にも、ウェアウルフが―――。

「ガルルルル……!」

「生き返ってたーーーー!!」

もうパニック過ぎて、自分でも言わないような発言ばかりしてる気がする。

あと、心なしかウェアウルフが怒っているような気がする。

「怒ってる……?」

「ガルルルッッッ!!!」

「怒ってるーーー!」

もう涙が出てきた。

せめてもの救いは、基本的に群れで行動するウェアウルフが一匹しかいないことだ。

これで囲まれていたら、泣き叫んでいたと思う。

とはいえ、ウェアウルフなんかに襲われた経験はないわけで。

「ど、どうすれば……」

落ち着こう、まずは落ち着くことが最優先だ。

とりあえず、能力を使ってウェアウルフを眠らせよう。

まずは、そこから。

「眠れ―――」

ウェアウルフをもう一度にらむと、再び力なく倒れる。

今度は目をそらさない。

私が見ている間は、ウェアウルフは眠り続ける。

この間になにか対策を考えよう。

……うん、何すればいいんだろう。

ここはウェアウルフのナイフを奪って、とどめをさす?

……やってみよう。

ウェアウルフが持っていたナイフを奪い、持ち上げてみる。

意外と重いんだ……。

でも、これを振り下ろせば終わる。

少なくとも、現時点での安全は確保できる。

「……てい!」

勢いをつけてナイフを振り下ろす。

コントローラの振動とは違う、鈍い感触が手から伝わってくる。

ああ、この感触は嫌だな……。

しばらくはこれで大丈夫。

あとは……ここから出る方法を……。

「ぁぁ……」

「ひっ……!?」

うめき声が聞こえてくる。

それは先ほどまで動かなかったゾンビからだった。

思い返せば、このゾンビに左足をつかまれてから何かがおかしい。

「もう!」

ちょっと怒りがわいてきた。

このゾンビをどうしようか。

そんなことを考えていると、茂みが揺れる音が聞こえてきた。

その音は一つじゃない。

いくつかの音がした後、静寂に包まれる。

これは……まさか……。

無数の気配がする。

どうやら、ウェアウルフの血の臭いを嗅いできたようだ。

絶対絶命?

逃げ場所はない。

「ど、どうすれば……?」

私の周りから飛び出てきた無数のウェアウルフ。

そいつらは一斉に私にとびかかってきた。

「ガルルルッッッ!!」

「うわああああああああ!!」

ぎゅっと目を閉じる。

ああ、私……死んだ……。

しかし、いつまで待っても体に痛みは来ない。

恐る恐る、目を開けてみる。

そこは―――学校に向かう道だった。

「戻って……きた?」

「いやぁ、危なかったね~」

足元から聞こえてくる、間延びした声。

ゆっくり見てみると、ゾンビが人間に戻っていた。

いや、最初から人間だったわけだけど。

「左足をつかんだところまでは覚えてるんだけど、どうして寝ちゃったかな~」

「それは私の能力で……って、最初から意識あったの!?」

「いや~ごはんをもらおうかなぁ~って思ってたんだけど~」

「ご、ごはん……?」

もう彼女が何を言っているのか理解できない。

道の真ん中に倒れて、私の左足をつかんで、ご飯を要求?

「何か食べるものない~?」

「ちょ、チョコレートなら」

「ちょ~だぁ~い」

鞄からチョコレートを出して差し出す。

ものすごい勢いで、チョコレートを奪い取った元ゾンビ……女子学生は、それを一瞬で食べつくす。

ああ、私のチョコレート……。

「助かった~。さぁ学校行こ~」

「えっ、ちょっ……!?」

行き倒れていた少女は立ち上がると、尻込みしていた私の手を引っ張っていく。

「そういえば、君の名前は~?」

「わ、私!? 私は、桜井 由真!」

「そうなんだ~。私は麻美 蓮花。よろしくね~」

なんなんだろう、この子……。

でも何故だろう、悪くないかなってもう自分がいる。

ああ、これが友人ってやつなのかな。


 * * * * * * 


それから入学式に送れたことを2人で怒られ、いくつかの出来事を経て、私は蓮花のパートナーになった。

だけど、やっぱり……。

「どうしたの~」

「ううん、何でもないよ」

あの日のことがなければ、私は蓮花と出会ってなかっただろう。

散々怖い目にあったけど、あの日の出来事はいい思い出。

何故なら、それは―――私と蓮花の出会いの物語(イベント)だから。


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