第二十三話 日常
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
「あ、これしばらくバトルないわ」と作者があきらめの境地に入りました。
当初の構想だったら、もうすこしバトルがあったはずなのに……。
それではどうぞ!
とりあえず香耶の話を要約すると『楓は料理とかスイーツとか、もっと戦い以外のことをやった方がいい』とのことだった。
香耶にとって、一番イメージしやすいかつ実行しやすいのが、楓をデートに誘うことだったらしい。
そこまで説明があると、香耶の意図も理解できる。
……毎度、唐突過ぎて驚くが。
「まぁ相手のことも知れるし、昨日の礼もできる。俺は構わないが……」
「私もいいと思うよ。楓さんに会ってみたいし」
「それなら、決定なのだ!」
……これデートと言うより、ただ遊びに行く集まりでは?
そんなことを考えていると、辰巳は俺の顔を見て察したようだ。
「何も言うな」
「……わかった」
俺って、そんなに考えていることが顔に出てるかな……。
まぁ、たまにはこういうことも悪くない。
「ところで、学校の外に出れるのか?」
「正式な手続きと理由があればできるよ。たいていのことは、学内で済んじゃうんだけど」
俺の疑問に裕香が答えてくれる。
そういえば弁当は自分で作ってるって言ってたし、買い出しとかに行ってるんだろうか。
「あ? 手続きなんかとってんのか?」
続きの言葉は想像できたが、あえて遮らない。
どうせ抜け道があるんだろう、知ってる。
「何か欲しけりゃネット通販でいいじゃねえか」
……意外と現代っ子だった……。
「さてと、それじゃあ何しようか?」
「みんなでケーキ作るのはどうかな。香耶ちゃんはどう?」
「ほう! ケーキ!」
俺の問いかけに裕香が提案をくれる。
香耶のこともちゃんと考えている提案なのだと、すぐにわかった。
「……嬢ちゃん、将来保育士になった方がいいぞ」
「え……ああ、それいいかも」
辰巳がしみじみとそう告げると、裕香は意外とうれしそうな顔をしていた。
保育士……か。
なんとなく姿を想像してみる。
たくさんの園児に囲まれたその中央に、裕香が笑いながら立っている。
その顔は何の憂いもない、満面の笑みで、園児たちが「裕香せんせー」なんて呼んでいる。
確かに、裕香にはその進路もいいかもしれない。
少なくとも、今の裕香の呼び名よりは「裕香先生」の方がずっといい。
「確かに、似合ってるかもな」
こんな談笑をしたのは、いつ以来だろう。
この学園には言って一カ月。
それまでは、俺は普通の高校に通っていた。
そこには俺の友人がいて、いつもみたいに馬鹿やってたのかもしれない。
だけど、俺が今いるのはこの場所だ。
そして俺の周りにいるのはこの面子なんだ。
「ん? どうしたの?」
「いや、裕香がよく笑うようになったなって」
「それは佐伯君もだよ。慣れてきたんじゃない?」
「そうかもな。もう1か月か……」
「早かったね」
「ああ、そうだな」
俺達は最下位からCランクまで来た。
上はBランクとAランクがある。
1位になるまで勝ちつづけないといけない。
だけど……それでも。
この他愛のない日常を、恋しく思った。
* * * * * *
翌日。
俺と裕香は黒板の前に立っていた。
書記は裕香で、俺は進行だ。
そう、ここで文化祭の出し物決める。
そのための会議だ。
よし、気合を入れていくぞ。
「さて、なにかやりたいものはあるか?」
「……」
俺の問いかけの答えは沈黙だった。
いや、誰か何か答えてくれよ……。
「なんでもいい、何かないか?」
「何でもいいんだな?」
そう答えたのは意外にも武藤だった。
「ああ、さすがに無理そうなのは却下するが、いま必要なのは案だ」
「わかった」
「……」
「……」
沈黙が続く。
え、それだけ?
しばらく発言を待ってみたが、なにも返っては来ない。
どうやら本当に質問だけのようだ。
「……ほ、ほかに何かあるか?」
「睡眠学習~」
「何を学習するんだよ……って蓮花、お前が寝たいだけだろ!!」
「バレた~」
間延びした声で蓮花が発言する。
後ろでコツコツと音が聞こえるから、裕香は律儀に書いているんだろうな、『睡眠学習』と。
「他は?」
「飲食販売ってどうなるの?」
クラスのどこからか、そんな声が聞こえてきた。
食べ物か……。
なんかいろいろ法律が関わってくるんだよな、確か。
ちらっと雨音さんを見ると、雨音さんはニコッと笑って助け船を出してくれる。
「生ものは駄目、火が通ってることが条件。ホットケーキとかクレープでも生クリームは駄目ね」
「ありがとうございま~す」
「飲食もOKみたいだから、どんどん案を出してくれ」
「リアル脱出ゲーム」
飲食から遠く離れたが、そう案を出してくれたのは由真だ。
「それは面白そうだな」
「でしょう?」
にやりと笑う由真。
あ、こいつ……リアル脱出ゲームをやるとなったら本気で作り上げるつもりだ……。
「喫茶店はどうかな? インスタントのコーヒーなら入れるだけでストックが作れるし」
「文化祭らしくていいと思うな」
「たこ焼きはどうだ!」
「いいぜ、そういうのもっとくれ!」
それからしばらく、いろいろと案が出た。
やはり、祭りとなると楽しみなんだろうな。
きっかけを作ってくれた武藤と蓮花には感謝しないとな。
武藤は斎藤と話していて、蓮花はすでに寝ているが。
案が出そろったところで、多数決。
票が分かれたのは、意外と喫茶店とリアル脱出ゲームだった。
ここまでは早かったのだが、ここからがなかなか決まらない。
一応、候補は2つ出せるのだが第一志望と第二志望ではやはり違うのだろう。
まぁ喫茶店は裕香がいれば何とかなりそうだし、リアル脱出ゲームは由真が全力を出すだろう。
「二つ合わせたら、面白そうだよなぁ」
ぽつりとこぼした一言に、裕香がぽかんとしていた。
気がつけば、周りの声が聞こえない。
「ん? あれ?」
俺が周りを見ると、みんながぽかんとしている。
さっきまで結構議論してたじゃないか、一体急に……。
おろおろしていると、横から手を叩く音が聞こえてくる。
見てみると、満面の笑みの雨音さんがそこにいた。
「それいいじゃない! 脱出ゲームをダンジョンとして、抜けた先にある憩いの場みたいな感じで」
「入場料に料理代を含めれば、メニューが固定化できるし人数制限かけやすいんじゃない?」
雨音さんと裕香の言葉に、クラス中に「それいいな!」の雰囲気が広がっていく。
ただ一人、反論しているやつをのぞけば。
「それだと、脱出ゲームと喫茶店を両立させるクオリティが必要になる。私に中途半端な仕事をしろと?」
「いや、お前の全力だと抜け出せる奴少ないと思うぞ……」
「それでも私はリアル脱出ゲーム"のみ"を押すよ!」
「はぁ、それじゃあ多数決」
結果、由真の惨敗。
第一志望が脱出ゲーム型喫茶店。第二志望がリアル脱出ゲームとなった。
ちなみに多数決が終わった後の由真の言葉は「数の暴力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と、普段の口調からは想像できない声で叫んだ。




