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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
26/39

第二十三話 日常

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

「あ、これしばらくバトルないわ」と作者があきらめの境地に入りました。

当初の構想だったら、もうすこしバトルがあったはずなのに……。

それではどうぞ!

とりあえず香耶の話を要約すると『楓は料理とかスイーツとか、もっと戦い以外のことをやった方がいい』とのことだった。

香耶にとって、一番イメージしやすいかつ実行しやすいのが、楓をデートに誘うことだったらしい。

そこまで説明があると、香耶の意図も理解できる。

……毎度、唐突過ぎて驚くが。

「まぁ相手のことも知れるし、昨日の礼もできる。俺は構わないが……」

「私もいいと思うよ。楓さんに会ってみたいし」

「それなら、決定なのだ!」

……これデートと言うより、ただ遊びに行く集まりでは?

そんなことを考えていると、辰巳は俺の顔を見て察したようだ。

「何も言うな」

「……わかった」

俺って、そんなに考えていることが顔に出てるかな……。

まぁ、たまにはこういうことも悪くない。

「ところで、学校の外に出れるのか?」

「正式な手続きと理由があればできるよ。たいていのことは、学内で済んじゃうんだけど」

俺の疑問に裕香が答えてくれる。

そういえば弁当は自分で作ってるって言ってたし、買い出しとかに行ってるんだろうか。

「あ? 手続きなんかとってんのか?」

続きの言葉は想像できたが、あえて遮らない。

どうせ抜け道があるんだろう、知ってる。

「何か欲しけりゃネット通販でいいじゃねえか」

……意外と現代っ子だった……。

「さてと、それじゃあ何しようか?」

「みんなでケーキ作るのはどうかな。香耶ちゃんはどう?」

「ほう! ケーキ!」

俺の問いかけに裕香が提案をくれる。

香耶のこともちゃんと考えている提案なのだと、すぐにわかった。

「……嬢ちゃん、将来保育士になった方がいいぞ」

「え……ああ、それいいかも」

辰巳がしみじみとそう告げると、裕香は意外とうれしそうな顔をしていた。

保育士……か。

なんとなく姿を想像してみる。

たくさんの園児に囲まれたその中央に、裕香が笑いながら立っている。

その顔は何の憂いもない、満面の笑みで、園児たちが「裕香せんせー」なんて呼んでいる。

確かに、裕香にはその進路もいいかもしれない。

少なくとも、今の裕香の呼び名よりは「裕香先生」の方がずっといい。

「確かに、似合ってるかもな」

こんな談笑をしたのは、いつ以来だろう。

この学園には言って一カ月。

それまでは、俺は普通の高校に通っていた。

そこには俺の友人がいて、いつもみたいに馬鹿やってたのかもしれない。

だけど、俺が今いるのはこの場所だ。

そして俺の周りにいるのはこの面子なんだ。

「ん? どうしたの?」

「いや、裕香がよく笑うようになったなって」

「それは佐伯君もだよ。慣れてきたんじゃない?」

「そうかもな。もう1か月か……」

「早かったね」

「ああ、そうだな」

俺達は最下位からCランクまで来た。

上はBランクとAランクがある。

1位になるまで勝ちつづけないといけない。

だけど……それでも。

この他愛のない日常を、恋しく思った。


 * * * * * * 


翌日。

俺と裕香は黒板の前に立っていた。

書記は裕香で、俺は進行だ。

そう、ここで文化祭の出し物決める。

そのための会議だ。

よし、気合を入れていくぞ。

「さて、なにかやりたいものはあるか?」

「……」

俺の問いかけの答えは沈黙だった。

いや、誰か何か答えてくれよ……。

「なんでもいい、何かないか?」

「何でもいいんだな?」

そう答えたのは意外にも武藤だった。

「ああ、さすがに無理そうなのは却下するが、いま必要なのは案だ」

「わかった」

「……」

「……」

沈黙が続く。

え、それだけ?

しばらく発言を待ってみたが、なにも返っては来ない。

どうやら本当に質問だけのようだ。

「……ほ、ほかに何かあるか?」

「睡眠学習~」

「何を学習するんだよ……って蓮花、お前が寝たいだけだろ!!」

「バレた~」

間延びした声で蓮花が発言する。

後ろでコツコツと音が聞こえるから、裕香は律儀に書いているんだろうな、『睡眠学習』と。

「他は?」

「飲食販売ってどうなるの?」

クラスのどこからか、そんな声が聞こえてきた。

食べ物か……。

なんかいろいろ法律が関わってくるんだよな、確か。

ちらっと雨音さんを見ると、雨音さんはニコッと笑って助け船を出してくれる。

「生ものは駄目、火が通ってることが条件。ホットケーキとかクレープでも生クリームは駄目ね」

「ありがとうございま~す」

「飲食もOKみたいだから、どんどん案を出してくれ」

「リアル脱出ゲーム」

飲食から遠く離れたが、そう案を出してくれたのは由真だ。

「それは面白そうだな」

「でしょう?」

にやりと笑う由真。

あ、こいつ……リアル脱出ゲームをやるとなったら本気で作り上げるつもりだ……。

「喫茶店はどうかな? インスタントのコーヒーなら入れるだけでストックが作れるし」

「文化祭らしくていいと思うな」

「たこ焼きはどうだ!」

「いいぜ、そういうのもっとくれ!」

それからしばらく、いろいろと案が出た。

やはり、祭りとなると楽しみなんだろうな。

きっかけを作ってくれた武藤と蓮花には感謝しないとな。

武藤は斎藤と話していて、蓮花はすでに寝ているが。

案が出そろったところで、多数決。

票が分かれたのは、意外と喫茶店とリアル脱出ゲームだった。

ここまでは早かったのだが、ここからがなかなか決まらない。

一応、候補は2つ出せるのだが第一志望と第二志望ではやはり違うのだろう。

まぁ喫茶店は裕香がいれば何とかなりそうだし、リアル脱出ゲームは由真が全力を出すだろう。

「二つ合わせたら、面白そうだよなぁ」

ぽつりとこぼした一言に、裕香がぽかんとしていた。

気がつけば、周りの声が聞こえない。

「ん? あれ?」

俺が周りを見ると、みんながぽかんとしている。

さっきまで結構議論してたじゃないか、一体急に……。

おろおろしていると、横から手を叩く音が聞こえてくる。

見てみると、満面の笑みの雨音さんがそこにいた。

「それいいじゃない! 脱出ゲームをダンジョンとして、抜けた先にある憩いの場みたいな感じで」

「入場料に料理代を含めれば、メニューが固定化できるし人数制限かけやすいんじゃない?」

雨音さんと裕香の言葉に、クラス中に「それいいな!」の雰囲気が広がっていく。

ただ一人、反論しているやつをのぞけば。

「それだと、脱出ゲームと喫茶店を両立させるクオリティが必要になる。私に中途半端な仕事をしろと?」

「いや、お前の全力だと抜け出せる奴少ないと思うぞ……」

「それでも私はリアル脱出ゲーム"のみ"を押すよ!」

「はぁ、それじゃあ多数決」

結果、由真の惨敗。

第一志望が脱出ゲーム型喫茶店。第二志望がリアル脱出ゲームとなった。

ちなみに多数決が終わった後の由真の言葉は「数の暴力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と、普段の口調からは想像できない声で叫んだ。

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