第二十二話 少女
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
なんだかしばらくバトルがありませんね……これ、いつバトル始まるんだ……?
と作者でさえ、そうなってます……。もうすこしお付き合いください。
それではどうぞ!
楓と戦うことを決めた俺達だったが、楓との力量の差を数値として突きつけられていた。
楓はCランクのトップで、俺達はCランクの最下位。
いきなり挑んでも負けるのは明白だった。
定石としては2つか3つ上の順位を相手にすべきだろうが、そんなにのんびりしてもいられない。
ここは勝負に出るところか……?
……雨音さんにも相談してみよう。
そう思い、俺は再び職員室を訪ねていた。
「う~ん、そうねぇ……」
俺から話をあらかた聞いた雨音さんは、そうつぶやく。
「一気に勝負にっていうのも悪くはないと思うわよ、だけど……」
「やはり無謀ですか」
「まぁ、そうね。いくつか場数を踏んだ方がいいと思うわ。彼女の実力、知らないわけじゃないんでしょう?」
「ええ……だけど……」
違和感を覚えた、なんて言ったらどう思うだろうか。
「なんていうか、危うさがあるわよね……」
「雨音さんも見たことが?」
「彼女、風紀委員の仕事で昨日みたいなことをずっとやってるからね、ちょっと心配なのよ」
雨音さんは教師という立場から見て、荒事に首を突っ込む彼女のことを心配なようだ。
「佐伯君も、見かけたら様子を見てあげて。たぶん彼女は……」
雨音さんはそこで言葉を止める。
しばらく待ってみたが、そこから先に続く言葉は出てこなかった。
ようやく口を開いたかと思うと、「ううん、なんでもないわ」とつぶやいた。
「まぁ、俺みたいなやつは不良に絡まれたら何にもできませんけど、見かけたら声をかけてみますよ」
「うん、ありがとう」
「とりあえず、楓とのことは裕香ともう一度相談して決めてみます」
「わかったわ。だけど、いまCランクの最下位だから決めるなら早めにした方がいいわよ」
いまのDランクの1位って辰巳たちだからな……。
最後の助言はありがたく受け取っておこう。
職員室を後にすると、前回と同じように由真と出会った。
「お前……ここでよく会うな」
「君が問題を起こして職員室に呼ばれているからでしょう」
「起こしてねえよ! ……ただの相談だ」
「へえ、相談ねえ……」
由真は意味深な笑みを浮かべる。
こいつは一体、何を考えているんだ。
「恋愛相談?」
「違えよ! ……いや、あながち間違ってないのか……?」
「えっ……あっ……」
俺が疑問符を浮かべていると、なぜか顔を真っ赤にした由真がうろたえていた。
一体、どこにそうなる要素が……?
「とりあえず、裕香にも相談してみようかなと思ってる。今後の戦い方にも関わってくるからな」
「ん? 恋愛相談で戦い……? 駆け引きのこと……?」
「ん? 確かに駆け引きも重要だな。だけど、まずは相手を知らないといけないからな」
「ん?」
「ん?」
さっきからふたりで会話がかみ合ってないように感じるぞ。
とりあえず、これまでのあらすじを由真に説明する。
最後まで説明を聞いた彼女は「紛らわしい!」と、顔をさらに真っ赤にするのだった。
* * * * * *
とりあえず教室に戻った俺は、裕香に雨音さんと相談した内容を一通り話をする。
全部聞き終えた裕香がつぶやいたのは、「やっぱり、そうだよね」の一言だけだった。
「そうだよねって……まぁ、その通りなんだけどさ」
「でも、どうしよっか……」
二人で唸っても、まぁそんな簡単に答えは出ない。
そんな沈黙が少し続いたあと、扉が勢いよく開け放たれる音が響いた。
「ふはははっ! 来てやったのだ!!」
高らかに宣言する小さな姿。
この学園にいるはずもない背の高さのその人物を間違えるわけがない。
「香耶ちゃ~~~~ん!」
裕香は勢いよく香耶に飛びつき、ほおずりをする。
ほおずりをされるたび香耶は「うにゃっ!」「やめっ!」と声を上げていた。
「あぁ……間に合わなかったかぁ」
「ん、辰巳か? どうした?」
「いや、このクソガキが嬢ちゃんのとこにいくって聞かねえからな。連れてきたはいいものの、いきなりあれだよ」
「ああ……」
まぁびっくりさせようとしたのだろう。
で、最初が「ふはははっ!」だと。
……一体、どこの小悪党だよ……。
「まぁ嬢ちゃんが香耶を気に入ってるっていうのはわかってたからな。ちょっと気を付けようと思ってたが……」
「……それに関してはすまない……」
いや、俺だってこうなるとは思ってないからな。
そりゃ、頭をなでる程度は想像していたが、ほおずりするまでとはだれが想像できただろう。
「にしても……嬢ちゃんはよく笑うな」
「最近笑うようになっただけだ。いまでも、あまり親しくない間柄の場合は、顔がこわばってるが……」
「まぁそれは時間が解決するだろ」
辰巳は裕香に抱きしめられている香耶を見ている。
この2人、意外と仲いいよなぁ……。
「ねぇ、香耶ちゃん。ぬいぐるみいる?」
「ほぉう!」
……香耶って本当に一つ上なのだろうか……。
「ちょっと待ってね」
裕香は香耶の前で手を合わせて、ぬいぐるみを作り出す。
いぬやねこ、うさぎのぬいぐるみがたくさん出てくる。
「ほぅ! ほぉ! はぅ!!」
それを見た香耶はすごくうれしそうに笑っている。
こう見ると、手品師とそれを見ている子供のようだ。
「はい、香耶ちゃん」
「ありがとうなのだ! ……うにゃ?」
ぬいぐるみをもらい、喜んでいた香耶が突然素っ頓狂な声を出した。
「あ? どうした?」
辰巳が香耶に声をかける。
これだけ見ると、本当に兄妹みたいだ。
「クマのぬいぐるみはないのか?」
「……っ!」
おそらく香耶は、何の意図もなく、クマのぬいぐるみはないかと聞いた。
それは、周りにいた俺達もわかった。
だけど、裕香の顔はひどくこわばり、顔色も蒼くなっていた。
この顔は見覚えがある。
裕香が―――パートナー殺しと呼ばれたときに見せる顔だ。
「裕香!」
「……っ、だ、大丈夫。……ごめんね、クマのぬいぐるみは作れないんだ」
俺の声に裕香はハッとした顔して、必死に笑顔を作って香耶の問いかけに応える。
香耶も深くは聞かず、「そうなのか」というだけだった。
一体、クマのぬいぐるみに何があったんだ……?
そんなことを考えていると、香耶が何かを思い出したように飛び跳ねた。
「そうだった、そうだった。用事があったのだ」
「用事?」
「楓のことなのだ」
香耶の口から出てきた名前に、俺と裕香は驚く。
どうしてその名前が?
「ほら、俺達あいつと同じクラスだろ? だから、何か情報が渡せないかって」
「それはありがたいが……」
でも、どうして俺達が楓と戦おうとしているって知っているんだ?
そう思っていることが出たのか、辰巳が俺に耳打ちする。
「香耶の能力は空気操作なんだが、ほら、音は空気の振動だろ? ときどき、聞きたくもない声を聞いちまうことがあるみたいだ」
風の噂という言葉があるが、その文字通りの声を香耶はそれを自らの意思とは関係なく聞いてしまうことがある……ということか。
俺たちのことも、どこかで聞こえてしまったということだろう。
「彼女とデートしてほしいのだ!」
「……は?」と俺の声、「……あ?」と辰巳の声、「……え?」と裕香の声が同時に漏れる。
それくらい唐突な内容だった。
「いや、どうしてそうなるんだ?」
「知るか、俺に聞くな。このクソガキに聞け」
「そもそも、デートってどうして?」
おそらく三人の中で、香耶の扱いになれている裕香が冷静に尋ねる。
「楓はもうすこし、女の子を知るべきなのだ」
口調はいつもの小悪党だが、その顔は楓のことを心配している少女の顔だった。
だけど、デートって……?




