番外編 雨音さんの補習授業「オリエンテーション」
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
番外編、今回も世界観の説明です。
興味があればという感じです。どこかで説明以外の番外編がやれたらいいなぁ……。
それではどうぞ!
辰巳と香耶との戦いから一夜明け、俺は休日の学校に来ていた。
それにしても……雨音さん、久しぶりな気がする……。
毎日学校で顔を合わせていると、ほんの数日顔を合わせないだけで、長い間あってないような気分になる。
そんなことを思いながら雨音さんを待っていると、今日は時間通りに扉がひらいた。
「今日は時間通りですね」
「あ、嫌味~?」
頬をぷくっと膨らませる雨音さん。
見た目が子供の香耶と違い、雨音さんは大人のまま顔がいいから、絵になってしまう。
見た目が綺麗ってずるいな……。
中身が駄目だけど。
「佐伯君、なんかひどいこと考えてない?」
「いや、今日のスイーツはなん……」
「そんなひどいこと考えてないわよね! ごめんね!!」
あ、半泣きだ。
さすがにやり過ぎたかもしれない。
「それじゃあ今日の補習を始めます……」
「お、お願いします……」
やばい、あんなにしょんぼりとした顔をされると、こっちも罪悪感が……。
いや、雨音さんだし、大丈夫か……?
あ、ちらっとこっちを見た。
あれ演技だな、うん。
っていうか、生徒相手に何してんだ……あの人……。
「といっても、今日は補習じゃなくてオリエンテーションを行います」
「オリエンテーション?」
「そう。ほら、転入の時いろいろあったでしょ?」
「まぁ……そうですね。きょ……」
「それで!」
パンと手を叩く雨音さん。
ああ、この人……俺を脅迫したことをなかったことにしようとしてるよ……。
「この学園のこと、何も説明してなかったなぁって。補講の単位にはなるから、ちょうどいいかなって」
「入学説明会ってとこですか?」
「うん、そういう感じ」
なるほど、そういうことなら都合がいい。
話を聞くだけならそこまで大変じゃないし、この学園のことを知るにはいい機会だろう。
「それじゃあ、まずはこの学園……天ケ瀬学園について。世間用の表側と内部用の裏側があるけど、世間用はつまらないから省くわね」
……先生、生徒に向かってつまらないからっていう理由、ぶっちゃけっちゃって大丈夫なんでしょうか……。
「裏側の方。この天ケ瀬学園は、アビリティ保持者を保護するための学園です。全寮制なのもそのため。
青春時代を寮で過ごすっていうのも、ちょっとかわいそうかなぁと思うんだけど……。外で能力が暴走しちゃうと、取り返しがつかないことになる可能性もあるからね。
それを防ぐためにも、保護するってことが大事なの」
……麻弥みたいに……暴走する可能性もないわけじゃないのか……。
「ある程度、制御できるようになればそんなんことは起こらないんだけど、普通はそんな簡単に制御できないからね。それを制御できる訓練施設も必要になってくる。
保護もできて、訓練もできる。その両方を持つためには学園という形は理想的だった。そういう理由で、この学園はつくられたの」
まぁ捉え方によっては監禁と抑制とも受け取れるが……真実はわからないか。
「学園自体、古くからあるわけじゃなくって、今の校長がこの学園を作ったの。まぁ表向きの理由を考えるのに苦戦したみたいだけど」
そういうことなら、この学園もあまり古くはないか。
校長も、そんなに歳を取ってないように見えるしな。
「まぁ、そんな理由で作られた学園でも、教育機関という建前もあって、教育要綱みたいなのを守らなくちゃいけなくって……」
ああ、なんだかんだで雨音さんも大変なんだなぁ……。
「まぁ、つまらない話はここまでね。次は学園行事ね。大体一年間の学園行事はこんな感じ」
そういうと雨音さんは黒板に、文字を書いていく。
それは、この学園の年間スケジュールだった。
「4月はまぁ入学とか進級とかあるから、行事自体はないわね。5月は球技大会。
6月に中間テスト、7月末に期末テスト……8月に夏休みって、ここまで1学期だから、佐伯君は来年の話になるわね。
一応、この1学期の間にアビリティアリーナの順位付けが行われる予選会……みたいなのがあるわ。
で、ここから2学期。9月にアビリティアリーナ本選の開催、10月に学園祭と体育大会に、中間テスト。11月は……何もないわね、12月に期末試験で、冬休み。
1月、2月はなくって、3月に学年末試験。寮内でイベントとかもあるから、厳密にはもっとあるんだけど……まぁ、こんなところかな」
「テスト多いな……」
「こればっかりは許して。ほら、この学園……特殊でしょ?」
特殊ゆえに、テストを増やさなくちゃいけなかった……というわけか……。
「直近だと、学園祭と体育大会が近いわね。また近く、クラスで話があるはずよ」
「クラス……そうだ、クラスだ。俺のクラスってどうなるんです? ランクアップ戦、終わりましたけど……」
「変わらないわよ。入れ替えがあるのは、本選が始まる前まで。それからだと、授業とかいろいろ合わせるの面倒なのよ」
め、面倒……。
なんだろう、この雑な感じ……。
「なら俺はDクラスのままってわけか……」
「まぁ最下位からの成り上がりって、なんかワクワクしない?」
雨音さんは本当にワクワクとしている顔をしていた。
「なにを面白がってるんですか……」
「面白いじゃない」
声に出ていたようだ……。
それとこの人、やっぱり面白がってやがった……!
「一応、クラブ活動もあるんだけど……誰もやってないのよね……」
「誰も?」
「みんなっていうのは語弊があるんだけどね、あくまでも好きな者同士が集まってるみたいな感じかな。
たしか裕香ちゃんは料理クラブに、桜井さんはゲーム同好会に所属してるわよ」
裕香は料理クラブ……か。確か、自分で料理するって言ってたな。
「まぁ裕香ちゃんは最近は参加してないみたいだけど……」
「……あの、その……」
……駄目だ、うまく言葉にできない。
「……夏美ちゃんのこと?」
俺は黙って頷く。
気にはなっていた。
だけど、裕香に聞けるわけもない。
「……いずれわかるわ。私の口から言うべきことじゃない」
先ほどとは違い、真面目な顔をする雨音さん。
やはり、何も言ってはくれない……か。
「そうですか……」
沈黙が続く。
それを打ち破るように、チャイムが鳴り響いた。
「はい、これで今日の補講はおしまい」
「ありがとうございました」
雨音さんはいつもと変わらない様子で、教室を後にする。
あの人のほんわかした雰囲気は何なのだろう。
……まさか、このあとのスイーツか? まぁ、いいか。
それにしても……。
「どこかで向き合わなくちゃいけない……か」
麻弥のことも、裕香のことも。
ふと、窓の外を眺める。
空は気持ちがいいくらいに、晴れ渡っていた。




