第十八話 龍殺し
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
長かった……。ようやく、ランクアップ戦終了です!! 書ききれてよかった……。
この後の展開はちょっと考えてますが、学園感を醸し出せたらいいなぁと。
それではどうぞ!
光がおさまる。
水龍は静かに、その場所を見つめていた。
「耐えきった……だと!?」
「はぁ……はぁ……耐えきったぞ……!!」
無傷で立っている俺たちを見た辰巳は、気絶した香耶を抱えてたまま驚いた顔をしている。
「あれだけの攻撃だ。そう何度も撃てまい!!」
「必殺の一撃だと思ったんだがな……。まぁいい、ほかに手はある」
「いや、今度はこっちの番だ……!」
腰からカラーボールを引きちぎると、それを辰巳に投げつける。
「スタン!!」
カラーボールは大きな閃光をあげて破裂する。
「っ! 目くらましかっ!!」
「まだだっ! バレット!!」
「飲み込め、水龍!」
放たれた弾丸は、スタンの閃光を突き抜けて、辰巳へと飛んでいく。
しかし、その弾丸は辰巳に届くことなく、水龍によって食らいつくされる。
「やはり、水龍の操作はお前自身が意識しないとできないわけだな!」
「くっ! それがわかったところで!!」
辰巳の声にこたえるように、水龍が咆える。
龍と対峙するって、ここまでプレッシャーを感じるのか。
俺達はいまから、こいつを殺す―――。
「裕香、準備はいいか?」
辰巳に悟られないよう、振り向かず小声で話す。
「うん、さっきあの龍が飲み込んだから」
「となると……あそこか」
「シールつけておいて正解だったね」
「ああ……ナイスアイデアだ」
エアガンを構える。
まだスタンの光で目がやられているのか、辰巳は水龍の防御態勢を解いていない。
「銃撃は効かないって、わかっててやってるのか?」
「ああ、この銃弾は水龍を通過することはできないな。だが……龍を殺す弾丸になりえる」
「なに?」
これで、最後の攻撃になる。
「いくぞ、バレット!」
光弾はまっすぐ水龍に向かって飛んでいく。
この弾丸は水龍を貫けない。
水龍はこの弾丸を飲み込むだろう。
だが、飲み込んでくれるのなら、御の字だ。
竜殺しの剣にはならないが、竜殺しをしてやる。
「飲み込め、水龍」
その声が聞こえた時、たぶん俺は笑ってしまったような気がする。
飲み込まれた弾丸は、ある一定の場所にとどまり続ける。
「何が……」
「もう遅い! エクスプロージョン!!」
「なにっ!?」
俺の声と共に、水龍の体内にとどまった光弾が強い閃光を放つ。
それは次第に大きくなり、水龍全体に広がっていく。
「これは……! やべえ!!」
辰巳は水を使って、香耶を遠くへと運ぶ。
そして、その直後に水龍が苦しそうな声を出した。
「何を仕込みやがった!」
「ビーチボールだよ」
「あぁ?」
俺が答えると、辰巳は「何言ってんだこいつ」みたいな顔をした。
「さっきのスタンの間に、裕香がビーチボールを投げておいたんだ。バレットと一緒に飲み込むようにな」
「ただの目くらましってわけじゃなかったわけか……!」
「これで終わりだ! 自分が作った龍で焼かれろ!!」
直後、水龍が爆発する。
体内で沸騰したお湯があたりにばらまかれる。
「裕香! 伏せろ!!」
固まってる咄嗟に裕香にとびかかり、地面に押し倒す。
「ぐっ!!」
背中に高熱のお湯がかかり、激痛が走る。
このお湯をまじかに受けた辰巳は無事では済まないだろう。
「佐伯君!」
「ぶ、無事か……?」
「うん、でもそのやけど……!」
「気にするな。それよりも、奴は……」
振り向くと、ボロボロの状態の辰巳がそこに立っていた。
「なっ……!?」
「ぜぇ……ぜぇ……爆発自体が水龍の中でおさまってなけりゃ、お前らの勝ちだったのによ……。残念だったな」
「っ! 不死身かっ!?」
「っても、もう俺も……」
辰巳は糸が切れた人形のように、ばたりと倒れこむ。
もう、立っているだけの力は残っていないようだった。
「ああ、くそっ! 立つだけの力すらねえ……」
「ぐぅっ!」
懐中電灯のスイッチを入れ、剣にする。
それを杖にしながら、歩いていく。
辰巳の元にたどり着いた時には、俺も辰巳も虫の息だった。
「お前……!」
ボロボロだと思っていた辰巳の体は焼けただれ、呼吸をするだけでもつらいのは目に見えてわかった。
こいつ……この状態で立っていたのか……!
「ああ……もう水を操る体力すらねえ……」
「しゃべるな……。今、楽にしてやる……」
俺は剣を構える。
出来るだけ一撃で、止めを刺せるように……。
「なるべく……早く頼む……ぜ……」
「ああ……!」
俺は剣を―――。
「だめーーーーーーーーーー!!」
響き渡る声にさえぎられ、剣を振り下ろせなかった。
その声は聞き覚えのある声で、いまにも泣き出しそうな声だった。
「駄目なのだ! 涼を殺しては駄目なのだ!!」
たどたどしい足取りで、近づいてくる香耶。
目にはたくさん涙をためている。
その姿に、俺は剣を下ろすことができなかった。
「か……香耶……」
香耶は涙をぬぐいながら、やがて俺と辰巳の間に立つ。
両手を広げて、辰巳をかばうように。
「涼を殺しては駄目なのだ! 嫌なのだ!!」
「か、香耶……」
顔を見ればわかる。
目の前には、剣を構えた俺がいる。
後ろには死にかけた辰巳がいる。
恐怖で泣き出しそうに足は震えて、目には涙がたまっている。
だけど、それ以上に香耶の目はまっすぐに俺を見ていた。
"絶対に守る―――"。
そんな意思がひしひしと伝わってきた。
「退け、香耶。これは辰巳のためでもあるんだ」
「それでも、嫌なのだ! 見たくないのだ!!」
子どもの癇癪……というわけではないだろう。
これは……斬れない……。
俺がゆっくりと剣を下ろすと、懐中電灯のスイッチを切る。
それと同時に、剣は形を失っていく。
それでも、香耶はまっすぐに俺を見ていた。
「ただの小悪党だと思っていたんだがな……」
「小悪党ではない!」
「ああ、そうだな。その認識は改める必要があるとわかったよ」
こんな強い意志を持った奴が小悪党なわけないよな……。
気がつくと、隣に裕香が立っていた。
「香耶ちゃん……」
裕香は座り込んで、香耶と目線を合わせる。
こうしてみると、小学生とその先生みたいだな……。
「君は強いね」
裕香は香耶の目を見ながら、優しい口調でそう呟いた。
「私はそんなに強くなれないから、すこしうらやましいな」
香耶は何も答えない。
ただ、両手を広げて裕香の目を見ていた。
裕香はゆっくりと近づき、香耶を抱きしめる。
「もう終わり。よく頑張ったね」
「ま、まだ、おわってないのだ……!」
「ううん、もう頑張るのはおしまい。ほら」
裕香が香耶を振り返らせさせる。
そこには笑顔で座っている辰巳の姿があった。
「香耶、ありがとな」
辰巳は香耶の頭をなでる。
もう限界だったのだろう、香耶はそれで泣き出してしまった。
辰巳はそれでも頭をなでるのをやめない。
少し動かすだけでも激痛が走っているだろう。
だが、そんなことを顔に全く出さず、穏やかな顔を崩さない。
これが辰巳と香耶の絆、か。
普段は手のかかる香耶の面倒を見ていて苦労しているのだと思っていたが……。
ああ、やっぱりこの二人、兄妹に見える。
だから、俺は……この二人を斬れないのだろう。
香耶ごと斬る選択肢はあった。
それが一番正しい選択だった。
だけど、俺にはできなかった。
多分、香耶に麻弥の姿を見てしまったから―――。
「怪我、してねえか?」
「うん……」
「気分、悪くねえか?」
「うん……」
「もう大丈夫だな?」
「うん……」
「よし」
辰巳は指をぱちんと鳴らす。
それアビリティを使用する合図だったのだろう。
水の球体が香耶の腹部を殴打する。
「っ……」
ガクッと倒れこむ香耶。
それを辰巳は抱き留める。
「嬢ちゃん、香耶を頼む」
「うん……」
辰巳の行動の意図もわかったのだろう。
裕香は優しく香耶を抱きかかえると、その場から離れた。
「もう……げ、限界だ……」
辰巳は再び力なく地面に倒れこむ。
「あのクソガキ……! さ、最後の最後まで、世話かけさせやがって……!!」
「お前のそれ、ただの照れ隠しなんだな」
「あぁ!? ゲホッゲホッ……ガハッ!!」
俺の言葉に大声を出した後、苦しそうにせき込んだ。
最後に血を吐きだしていた当たり、水龍から飛び散ったお湯を飲み込んだのだろう。
話すのでさえも、死ぬほどつらいはずだ。
「楽にしてやる」
懐中電灯のスイッチを入れ、再び剣を作り出す。
それを見た辰巳は答えることも、頷くこともしなかった。
「はあっ!!」
俺は剣を辰巳に向かって、振り下ろした。
* * * * * *
「むぅ……」
「かわいい……」
ゲートを抜けた後、むくれている香耶の姿を見た裕香は、ずっと頭をなでている。
「なぁ、嬢ちゃんって……」
「何も言うな……というか、聞かれても答えられない……」
「ああ、そうか。お前、転入したばっかりだったか」
微妙な顔していたのか、辰巳はすぐに俺が転校してきたことを思い出したようだ。
「まっ、ともあれ負けちまったなぁ」
「やっぱりランクが一つ上がるとレベルも違うな。すごく手強かったよ」
「勝者の余裕ってやつか?」
その後、二人で笑いあう。
Cランクの強さを思い知った一戦だった。
これから先、もっと強いやつらがいっぱいいるということか……。
「それにしても、香耶と辰巳ってどういう関係なんだ? すごく縁がなさそうに見えるが……」
「ん? ああ、去年『パートナーになるのだ!』っていきなり声かけれてな。そっからずっと付きまとってくるもんだから、仕方なく……って感じだな。この学校に入ってからの付き合いだよ」
「そうなのか……」
ん? 去年???
「もしかして、2人とも2年生……?」
「ん? ああ、お前ら1年だったな。俺もあのクソガキも2年だぞ」
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
裕香は俺の叫びなど意に介していないようで、ずっと香耶の頭を「可愛い……」とつぶやきながら撫でていた……。




