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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
2/39

第二話 パートナー

新学期―――とまではいかないが、区切りのいいタイミングで転入することができたため、この時期の転入に関してはあまり話題には上がらなかった。

だが、かる~いというよりも結構しつこい質問が多すぎて、休み時間がほとんどなかった。

アリーナのことがあるから能力のことを聞きたくなるのはわかるが、さすがに細かいところまで聞かれるとわからないことの方が多いので「わからない」と答えるしかないのだが、そう答えると明らかに嫌そうな顔をされるのが余計に参った。

その気持ちもわからなくはないのだが……。

放課後、雨音さんに呼び出されていることに救いを感じつつ、俺は急いで教室を後にするのだった。


 * * * * * * 


「あら、佐伯くん。ふふ、すごく疲れた顔をしているわね」

雨音さんは職員室を訪れた俺の顔を見るなり、ほんわかした笑みを浮かべて言う。

「ええ……まぁ……」

理由は大体察してくれているようで、「この時期だもの、仕方ないわね」と半ば諦めのような言葉を雨音さんはつぶやいた。

「それで、今日は何の要件なんですか? 手続き関係ですか?」

「2つあって、ひとつは手続き関係。もう一つは別の用件。手続きの方は……まだ、来てないみたいだから、先にもうひとつのほうを説明するわね」

そう言って雨音さんは、一枚のプリントを手渡してきた。

プリントの上部には「補講について」と太字で書かれていた。

「ほ、補講ですか……」

「単位、足りてないのよ。今の状態だと」

まぁ中途半端な時期に転入してきたし、前の学校の単位がそのまま流せると思ってはいなかったが……こう突きつけられるとすこしショックだ。

落ち込んでいるのが顔に出たのか、「1期分だけだから、それほど時間はかからないと思うけど」と雨音さんは言うが、補講で時間がつぶされるのは嬉しくない。

「とりあえず、補講があるのはわかりました。その点についてはまぁ……」

言葉尻が濁ったものになってしまったのが面白かったのか、雨音さんはいつものほんわかした笑みを浮かべる。

「そ、それで! もうひとつの用件ってなんです? なにか来てないとか言ってましたけど……」

俺がそう言い終わると同時に、職員室のドアが開かれる。

ドアの向こうには女子生徒がたっており、胸のリボンの色から同学年であることがわかった。

「あ、裕香ちゃ~ん」

女子生徒の姿を視認するなり、雨音さんは彼女の名前を大きな声で呼んで手を振る。

裕香と呼ばれた女子生徒は、ゆっくりと雨音さんのもとへと歩いてきた。

「すみません、日直の仕事がありまして……」

彼女は雨音さんに向かって、頭を下げる。

声はそこまではっきりとしてなく、どこか暗いというか人見知りをするのだろう印象を受けた。

「彼女は?」

俺が雨音さんに訪ねると、雨音さんはすこしいたずらっぽいような笑顔を浮かべて、彼女に手を伸ばした。

雨音さんは彼女の手をつかむと勢いよく自分のとなりに引っ張った。

裕香と呼ばれた女子生徒はバランスを崩しながらも、雨音さんの横にたった。

「アビリティアリーナは二人一組で出場しなくちゃいけないのは知っているわよね?」

「ええ。俺もパートナーを……探さない……と」

なーんか、話が見えてきた。

「その心配はご無用! 彼女は君のパートナーになる……」

「水瀬 裕香です」

女子生徒―――裕香は、ゆっくりと頭を下げる。

同学年……だよな。

「俺は佐伯 一弥。これからよろしくな」

右手を軽くあげて、挨拶をする。

裕香は別段、なんの反応も見せなかった。

ただ静かにこちらを見ている。

それはまるで、感情を失ったかのようだった。

「すみません、先生。私はこれで……」

雨音さんが返事をすると、裕香は急いで職員室をあとにする。

まるで脱兎のごとく逃げ出す様は、「ここにはいたくない」という意思がひしひしと伝わってくるようだった。

「あはは……」

そんな彼女の後ろ姿を見て、雨音さんは乾いた笑い声をだした。

「と、ところで彼女が俺のパートナーというのはわかりましたが、どうして彼女にはパートナーがいないんです? こんな開催目前の時期に」

俺の疑問に雨音さんは一瞬だけ目を伏せると、即座にいつもの声で答えるのだった。

「ナイショ♪」


 * * * * * 


翌日。

俺は、自分のクラスに水瀬 裕香がいることを知った。

昨日は質問攻めでろくに回りを見渡せなかったからな……と自分で言い訳しつつ、晴れてパートナーになった裕香に声をかけることにした。

「おはよう、同じクラスだったんだな」

「あ……おはよう……」

裕香は挨拶をするのも久しぶりみたいな、そんな驚きが混じった顔をしている。

そんなに意外だったのだろうか。

なぜか周りからヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

こういうのは気分が悪い。

顔に不機嫌さが出てしまっていたのか、裕香はうつむいた顔のまま、「せ、席についた方がいいよ……」という。

「あ、ああ……」

彼女の声にすこしばかりの違和感を覚えながら、俺は席に向かう。

あれはなんだろうか。

まるで、人に怯えている……いや、人を遠ざけているようなあの雰囲気は、なんだろうか。

そんなことを考えていると、にたっとした顔で近づいてくる男子生徒がいた。

「おい、佐伯。お前、水瀬とパートナー組んだってホントかよ?」

「ああ、意外と広まるの早いんだな」

俺が素直に驚いていると、男子生徒はさらに口角をあげる。

「水瀬は特別だ。なんだって、自分のパートナーを」

そのとき、男子学生の言葉を遮るようにチャイムがなる。

男子学生は「チッ」と舌打ちすると、不機嫌そうな顔をする。

ああ、俺あんな顔をしていたんだな、今度から気を付けよう。

「まぁ、水瀬に関わるとろくな目にあわねえからな」

男子学生は忠告のようにそれだけいうと、教室を出ていった。

どうやら、他のクラスの学生のようだ。

どおりで名前が出てこないわけだ。

それにしても、「水瀬に関わるとろくな目にあわない」か。

あの雰囲気を感じた直後に、この言葉。

何かあったのは容易に想像できたが、それがなんなのかはわからない。

本人に聞くのが一番だろうが、本人は話したくないだろう。

まぁあの様子じゃあ、誰もが知っていることのようだから、そのうち耳に入ってくるだろう。

そんな悠長なことを考えながら、俺は1時間目の用意をするのだった。


 * * * * * 


その日の昼休み。

俺は昼食を買いに購買へと向かっていた。

この学校には購買はあるが食堂はない。

寮に食堂はあるがあそこは夜だけであるため、昼は自分で確保しなければならない。

まぁ自分で作るっていうのも手だが、俺は料理がそこまで上手ではない。

こういうとき、麻弥がいてくれたらな……。

そんなことを思い、はっとする。

麻弥が俺の手が届かない場所にいることを思いだす。

あの「助けて」という声も。

購買に向かう足を止めて、考えてしまう。

俺は、このままでいいのだろうかと。

そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

振り返ってみると、そこにはあの男子学生が立っていた、

「お前も購買か?」

「ああ、そんなところだ」

適当にあしらおうと思っていたのだが、男子学生は俺の答えに満足したようで、朝と同じような笑みを浮かべる。

「なら、付き合えよ。水瀬の話もしてやるからよ」

正直、名前も知らないやつに馴れ馴れしくされるのは、ちょっとどうかと思ったが水瀬の話をするというところに心が動いた。

「ああ、わかった。だが、ちゃんと教えてくれよ」

「まぁ、俺が言わなくても有名な話だけどな」

男子学生と連れだって歩きだす。

男はどこか興奮したように「どこから話そうかな」と呟いている。

そして彼は、まるで怪談話をするかのように、「あれは、夏休みに入る前のことだった……」と語り始めた。


 * * * * * 


あれは、夏休みに入る前のことだった。

この学校にはアリーナが開催されるよりも前に、各々の順位を決める試験がある。

そこで高得点をとることができれば上位に、そうでなければ下位にランキングされるというわけだ。

まぁ中間テストのようなものだと思えば、想像しやすいだろう。

当然、試験を受けなければ単位はもらえない。

パートナーとペアを組んで、試験に望むわけだが……そのなかに、とあるペアがいた。

一人は物を作り出す能力を、もう一人は物に命を与える能力を持っていた。

二人の能力の相性はよく、力はなくともよいパートナーだったといわれている。

だが、そんな二人にある事件が起きる。

雨が降る、6月のある日。

物に命を与える能力をもつ女子学生が死んだ。

その女子生徒のそばには、呆然と立ち尽くすパートナーがいたそうだ。

そのパートナーっていうのが……


 * * * * * 


「水瀬 裕香というわけか」

「おい! 落ちを先にいうなよ!!」

男子学生は肩透かしをあったような顔をするが、すぐにいつものニタリとした笑みを浮かべる。

「まっ、そういうわけであいつはパートナー殺しやパートナーキラーなんて呼ばれている。お前も被害にあわないようにな」

男子学生の言葉に、水瀬と話したときの雰囲気がよくわかった。

あれは、同情や憐れみ、またなにかを起こすんじゃないかという恐怖や期待が入り交じっていたのだろう。

そんな視線を、パートナーを失った直後の女子に向けるこの学園の空気がすこしだけ、嫌に感じた。

気がつくと購買の前に来ており、学生の数が多くなっていた。

「ここいつも混むんだよな。お前も頑張れよ」

男子学生はそれだけ言い残すと、人の塊に突っ込んでいった。

あれは……正直、俺でも辛いだろうな。

購買に押し寄せる人の群れにすこしためらった俺は、空気を変えるため中庭に出ることにした。

購買で買ったものを中庭で食べている生徒も多いのか、中庭は和やかな昼食の気配が支配していた。

そういえば、購買で買うの諦めたから何も食べていないのか。

そう思うと、おにぎりやサンドウィッチ、惣菜パンが恨めしく思えてくる。

中庭を適当に歩いていると、日が当たらず人気の少ない校舎の影に、彼女の姿を見つけた。

「いつもここで食べているのか?」

俺が声をかけると、彼女・水瀬 裕香はすこしだけ体をこわばらせた。

「隣、いいか?」

そう尋ねると、彼女は黙ってうなずいた。

あまり近づかないように意識しながら、隣に腰かける。

「……」

ヤバイ、無言だ。

なにか会話はないかと考えていると、俺の腹の虫が大きな音をたてた。

「ぁ……」

「……そういやあ昼、食べてなかったなぁ……」

あまりの恥ずかしさに、顔が赤くなるのを感じた。

これは失敗だった。

そんな俺の姿をみた彼女は、すこしだけ自分の昼食を見て、パンをひとつ差し出した。

「……食べる?」

「いいのか?」

肯定、という言葉が聞こえてきそうな勢いで彼女はうなずく。

礼をいうと俺はそのパンを受け取った。

「いつも一人なのか?」

「うん」

短く答える裕香。

だが、その声色に最初の拒絶の色はない。

「このパンは購買で買ったのか?」

「そう」

「そうなのか、俺まだ購買で何が売ってるのか知らないんだ。なにかおすすめはあるか?」

そんなこんなで他愛のないか岩を続ける。

彼女の返答は長くはないが、ちゃんと答えてくれるもので、その声から他人とかかわり合いたくないという意思は感じられなかった。

パートナー殺し。

その言葉は、彼女には不相応に思える。

これから一緒に戦っていくパートナーのことをよく知るため、俺は会話を続ける。

ふと空を見上げると、雲ひとつない晴れ渡った空が広がっていた。

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