第十六話 水と光
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
結局また遅れての更新となります……。
まぁいろいろとちょっとありましたが、次の話は出来るだけ早く書けるようにしたいです……。
それではどうぞ!
「はあっ!」
剣を構え一気に駆け出す。
辰巳はそんな俺をみて、1つ深呼吸をする。
「貫け」
小さく聞こえた辰巳の声と共に、水の槍が飛来する。
「っ!」
その槍を横にかわす。
槍は地面に突き刺さり、その形を無くしていく。
「行くぞ!」
間合いを詰める。
それを待っていたかのように辰巳は周りに浮かんだ水を手元に集めていく。
「刃となれ、水龍」
辰巳のその声とともに、水は日本刀の形へと変化する。
それはまるで、その言葉通りの水の剣だった。
辰巳はその刀を持つこともせず、俺を睨む。
「その程度の刀で!」
「いや、十分だ」
俺が剣を振り下ろすと、水の剣はそれを防ぐように"ひとりでに動いた"。
「なっ!?」
その刃は、まるで誰かが動かしているように移動し、俺の攻撃を防ぐ。
「本物の刀みたいだな……!」
「たかが水だと、なめるなよ。水は鉄をも切ることができるんだぜ」
「余裕だなっ……!」
「まっ、余力は残しておかないとな」
言葉通り辰巳は苦しそうな顔を一切せず、余力を残しているのは明白だった。
「ぐっっ!」
つば競り合いが続く。
こっちは全力で押しているのに、刀はびくともしない。
「それなら!」
俺は地面を強く蹴り、辰巳から距離を取る。
懐中電灯を後ろに投げ捨て、胸のホルスターからエアガンを取り出すと、銃口を辰巳に向ける。
狙いなんて適当でいい。
とにかく早くーーー。
ただそれだけを考えて叫ぶ。
「バレット!!」
引き金を連続して引く。
放たれた光弾は、辰巳に向かって飛んでいく。
「飲み込め、水龍」
辰巳の声が聞こえたかと思うと、水の刀が形を変えて辰巳の前に移動する。
それはまるで水の渦が辰巳の前で発生しているかのようで、すぐにそれが水の盾であると理解することが出来た。
光弾はその渦潮に飲み込まれていくように、盾の中心へと方向を変え、水の盾の中へ消えていく。
飲み込め、というのは間違っていないようだ。
「バレットは相性が悪いか……!」
「そういうこった、ここまででお前の手は確認してきたつもりだからな」
「対策も用意している……か」
「さてと、今度はこちらからいかせてもらうぜ」
「っ!」
急いで地面を蹴って距離を取る。
直後、水の盾から水の槍がいくつも飛来する。
くそ、避けきれないーーー!!
「ぐぁっ!」
冷たい水が当たる感触。
直後、熱い何がを押し当てられたようなジンジンとした痛みが襲い、地面に赤い血がかかる。
水の槍が俺の腕や足を切り裂いたのだと、すぐにわかった。
直撃しなかっただけでも、運が良かったと言うべきだろう。
「さすがに1回じゃ死なないか」
水の盾を解き、周りに水を漂わせながら辰巳はそうつぶやく。
「あいにく、悪運は強い方なんでね……!」
懐中電灯を拾い、立ち上がる。
余力があるように見せてみようとするが、さすがに限界というものがある。
それは相手にもばれているようで。
「おいおい、無理すんなよ。そこでおとなしくしておいた方が身のためじゃないか?」
「そういうわけにもいかないんでね……!」
だが、どうする……?
バレットは水の盾に吸収されてしまう。
ソードは水の剣に防がれる。
奴の周りの水をどうにかしない限りは、希望はないだろう。
水……か。
ポケットには温泉が入った水鉄砲が入ってる。
これを撃てば、奴の操作する水をいくつかは無力化できるかもしれないが、全てを無力化するのは不可能だ。
それに、これは水龍対策で用意したものだ。
ここで使ってよいものか……?
「……悩んでる暇なんか、ないよな」
「あ?」
つぶやいた言葉に、辰巳が反応する。
俺はエアガンを胸のホルスターにしまうと、裕香からもらった水鉄砲を手にした。
「はっ! そんな水鉄砲で何ができるっていうんだ?」
「お前を倒すくらいはできるさ」
「ほう……言うじゃねえか」
左手に水鉄砲を、右手に懐中電灯を持ち、一つ深呼吸して懐中電灯の先にソードを造り出す。
「いくぞ!」
俺は地面を強く蹴り、辰巳に駈け出す。
水鉄砲の射程距離はそんなに遠くはない。
確実に当てるには、ソードと同じくらいに近づかなくてはならない。
その間、辰巳がただ立っているわけがない!
「一直線に突っ込んでくるとはなぁ!!」
辰巳の周りに頼っていた水が集まり、球体になる。
「貫け、水龍!」
その声と共に、球体から水の槍が連続して繰り出される。
「っ!」
それを右に転がりながら避け、その勢いを殺さないように走り出す。
幸い、あの球体の直線状にしか繰り出されないようだ。
それなら、動きを読むことは難しいことじゃない。
俺をめがけて飛んでくる水の槍を右に、左に、避けていく。
後ろには下がらない。
ただ、前だけをめがけて進んでいく。
「すこしはやるじゃねえか」
「これでも、最下位からのたたき上げなんでな!!」
あと少し……いや、この距離なら!
俺は水鉄砲を構え、辰巳に向ける。
「もらった!」
「無駄っていうのがわかんねえのか! 飲み込め、水龍!!」
辰巳の前に水の盾が出来上がる。
そうだ、それでいい。
あとは一か八か。
「バレット!!」
走りながら、水鉄砲をトリガーを何度も引く。
それに伴って、水鉄砲の水の量は減っていき、光の弾丸が水鉄砲から繰り出される。
エアガンから繰り出されるバレットはBB弾のような球体の形をしているが、このバレットはレーザーのように細長い形をしていた。
水鉄砲から放たれる弾丸 = 水鉄砲から放たれる水になるため、俺のイメージが細長いイメージだったのだろう。
だが、それは今回都合がいい。
バレットが水の盾に着弾する。
前はこの渦潮に飲み込まれていたバレットだが、今回は違った。
「なっ!」
水の盾に穴が開く。
そこから渦潮の水がこぼれ、地面を濡らしていく。
弾丸は水の盾を貫き、辰巳の体に傷をつけていく。
細長い形状のため、直接的な致命傷を与えるには至らなかったが、それでいい。
水の盾は、次第に形を失い、ただの水へとなり変わっていく。
それを確認した俺は、水の盾を突き破って、辰巳の前に立った。
「なっ!?」
「もらったっ!」
右手に構えたソードを振り上げて、辰巳に斬りかかる―――。
「ちょっと待ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
思わず手が止まるほどの大きな声。
それはまるで、子供のような声だったが、この場でそんな声を出せる人間が……?
そう思い、目の前にいる辰巳を見る。
辰巳は右手で頭を抱えて、眉間にしわを寄せ、口はひくひくとし、左手は固く握りしめられていた。
……まさか。
「これを見よ、光の白い剣士」
声がした方を見る。
そこには、さっきまで気を失っていた小さな子供と宙に浮かぶ裕香の姿があった。
「こやつは其方のパートナーなのであろう? こやつの命が惜しければ、剣を納めよ」
「……っ! 裕香!!」
裕香は眠っているように、目を閉じていた。
それに、俺の声は全く聞こえていないようだった。
「聞こえなかったか、剣を納めよと言ったのだ。こやつの命は惜しくはないのか?」
「っ!」
どうする……。
ここで剣を振り下ろして辰巳にとどめを刺すか、おとなしく剣を納めるか。
「……くそっ!」
俺は懐中電灯のスイッチを切り、ソードを解く。
ゆっくりと右手を下ろして、子どもをにらみつけた。
「よいよい。その表情、たまらブクブクブクブク」
「……は?」
あの小悪党っぽいせりふの最後の方がよく聞き取れなかったぞ。
「ちょっ……ガハッ……たつ……ブクブク……息……ブクブク……」
「……なにやってんだ、クソガキ……」
……ああ、なるほど……。
目の前で辰巳が、あの小悪党に目がけて水を浴びせてるわけか……。
「ブクブクブクブク……」
ガクッと頭が垂れる小悪党。
それと同時に、すこし乱雑に裕香が地面に落ちた。
「裕香っ!!」
急いで裕香の元に駆けつける。
抱きかかえた時、裕香は穏やかな寝息を立てていた。
見たところ、外傷も特に無いみたいだ。
「無事か……」
安堵したのもつかの間、目の前に気配を感じて身構える。
そこには小悪党の首根っこをつかんだ辰巳が立っていた。
「……その嬢ちゃん、けがはねえか」
「ああ……寝てるだけみたいだ」
そう答えると、辰巳はため息を一つ溢した。
「すまねえな、一騎討ちっていうのに……このクソガキが!」
「むぅ! 首をつかんで持ち上げるでない!!」
「ごちゃごちゃ言える立場か、あぁ!?」
「むぅ……」
言い争う2人の様子にどこか既視感を覚える。
少し考えてわかった。
ああ、そうか。この2人……兄妹に、見えるのか……。
「……ったくよ……あぁ? どうした?」
「いや、なんでもない。仕切り直しといくか?」
「そうしたいのはやまやまだが……約束を反故にしたのはこっちだからな。嬢ちゃんが目覚めるまではお預けだ」
こういうところは妙に律儀だなと思いつつ、裕香が目覚めるのに待つのは反対じゃない。
「仕切り直し」、「裕香が目覚めるまで待つ」ということは、次は一騎討ちではなく2Vs2の戦いになる。
さっきの戦法は通じない、よな。
「そんじゃあ、俺はあっちでこのクソガキを懲らしめてくるから、目が覚めたら教えてくれ」
それだけ言い残すと、辰巳は小悪党を連れて森の中へと消えていく。
それからすぐに、「うにゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!」という断末魔が響き渡ったのは、言うまでもない……。




