第十五話 秘策
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
いつもながら、更新遅くてすみません……。
とりあえず、更新できないという状況だけは回避していきたいです。
それでは、どうぞ!
「よし、この辺りでいいか」
俺と裕香はできるだけ開けた場所に足を運んだ。
その間も水辺に注意しながらすすみ、なんとか無傷でたどり着いた、というわけだ。
「周りに水辺はないけど……これだけで本当に出てきてくれるのかな」
「いや、これだけだと不十分だが……まぁ、そんなことより飯にしよう」
突然のごはんの申し出に裕香は首をかしげる。
『一体、何を言っているのだろう』と思っているのが、その顔から簡単に読み取れた。
俺はあえて、水筒を目立つところに置き、目の前におにぎりを広げた。
「奴らとの戦いは長期戦になる。周りに水辺がないここで飯を撮っておくのが一番安心……だろ?」
俺がそう答えると、裕香はなるほどといったようにおにぎりを手に取った。
辺り一面は木々でおおわれている。
姿を隠すにはうってつけだろう。
目の前でおにぎりを静かに食べている裕香を見ていると、なんだかピクニックにでも来たような気分になった。
「飲み物でも飲むか?」
「うん、ありがとう」
裕香の返事を聞き、俺は水筒を手に取って中に入っている水をコップに入れて手渡す。
受け取った裕香は、ためらいもなくそれを飲む。
さて……どう動くか。
裕香の手に持っているコップに変化はない。
すこしだけため息をつくと、手に違和感を覚える。
手に持っていた水筒が小刻みに震えている。
まるで、携帯電話のバイブレーションのようだったが、。中を見てみると水が沸騰したように泡立っていた。
「来たっ!」
俺は水筒を投げると、すぐさま腰に差している懐中電灯を手に取った。
「ソード!」
その声と共に、光が剣の形を成していく。
水筒が地面に落ち、カランと乾いた音を出す。
それと同時に、水筒の中から小さな龍が現れた。
「さすがにあの量じゃ、これが精一杯ってところか」
おにぎりを手にしながら、俺の後ろに立つ裕香。
すこしだけ状況が飲み込めていないようだが、とりあえずは敵が来たということはすぐに理解したのだろう。
「小さな龍……」
「これが奴らの攻撃ってわけだ。となると、あとは……」
剣を構えて水龍を見る。
温泉で戦ったときより、その体の大きさはかなり小さくなっているが、油断ができる相手じゃない。
相手もこれが罠だとわかっているはずだ。
どうする……?
次の作戦を考えながら、水龍を睨む。
水龍もじっとこちらを睨んでいた。
にらみ合いが続く。
それを破ったのは、水龍の咆哮だった。
「っ! 裕香、離れろ!!」
「う、うん!」
裕香が離れていくのと同時に、水龍が襲いかかる。
それを避けながら剣で水龍の体を切り裂く。
しかし、水しぶきが顔にかかるだけで、水龍に対してダメージを与えられているようには見えない。
「ほんと、都合のいい体だな……!」
剣を構えながら、後ずさる。
距離を取っていれば、対応出来ない相手じゃない。
それに、そろそろ場所の目星もつけられそうだ。
水龍が唸る。
その目はまっすぐこちらを向いている。
さて、なぜやつは裕香を追わないのだろうか。
水筒から距離が離れているから?
追う必要がないから?
この戦いは相手のペア、どちらか1人を倒せばいい。
この状況下で裕香を狙わないのはおかしい。
水筒から距離が離れていたとしても、俺とそんなに距離は変わらないはずた。
ギリギリ範囲外の可能性もあるが、それならさっきの攻撃は俺ではなく裕香を狙うべきだった。
それなら、残る可能性は?
……答えは単純だ。
"裕香の姿が見えないから攻撃できない"からだ。
いま、裕香は森のなかに隠れている。
いくら白い服とはいえ、木々の中に隠れた人物を探すのは苦戦するだろう。
そして、向かい合っている状態であれば、裕香の姿が見えない訳がない。
さっきまでみえていて、今は見えないということは、自分達も隠れているからに他ならない。
……よし、いくつか目星をつけた。
俺は胸のホルスターからエアガンを取り出すと、水龍に向ける。
「バレット!!」
エアガンの引き金を引く。
光の弾丸は、まっすぐ水龍に飛んでいき、その体を貫いた。
いや、弾丸は貫いたというよりも、すり抜けたといった方が正しいかもしれない。
それほどまでに、水龍にはダメージが与えられていなかった。
「まだだ!」
俺は水龍を中心にして、円を描くように走る。
走りながら水龍に対して、光弾を撃ち込む。
いくつかの弾丸がすり抜けたあと、1発だけ水龍の体から水しぶきをあげた弾丸があった。
それを見逃すわけもなく。
「そこか!」
俺はベルトからカラーボールを引き抜くと、遠くに向かって投げる。
弧を描くように飛んだボールは水龍を越え、森の中へと落ちていく。
「スタン!!」
爆ぜる閃光。
やがて水龍はその形を失い、ただの水となって地面に染み込んでいく。
「なるほど、認識できなければ操作できないって訳か」
光がおさまると、草むらが揺れる音がした。
その音は、遠ざかるのではなく、こちらに近づいてくる。
やがて、ガクッと項垂れている小さな少女を脇に抱えた青年が現れた。
「……」
「……」
沈黙する二人。
ただこれが、にらみ合ってるわけではなく、何を言えばいいのか互いに困っているだけだった。
「えっと……その子は?」
二人の沈黙を破ったのは、膠着状態になった俺たちの様子を見にきた裕香だった。
「これか? ……恥ずかしいが、俺のパートナーだ」
「気絶……してるのか……」
「まぁ、誰かさんが投げたボールをまともに食らったからな」
ああ、なるほど……という呟きは声にならなかった。
「すこし待っててくれ、これを置いてくる」
「ああ……」
『ちょっと荷物置いてくる』と軽く言うようにパートナーを休ませにいった青年。
なんだかパートナーの世話に日々苦労してそうな雰囲気がひしひしと伝わってきて、ただその背中を見ているだけしか出来なかった。
『これ』とか、『置いてくる』という割には、扱いはかなり丁寧で、放り投げるかなと思っていたのだが、自分の上着を地面に敷き、その上にゆっくりと寝かせていた。
「すまない、待たせたな」
「いや……」
とりあえず構わないという雰囲気だけ出しておく。
……ところで、いま試合の最中だよな……?
「俺は、辰巳 涼。そっちは?」
「俺は佐伯 一弥だ、それでこっちが……」
「ああ、パートナーの方は知ってる。たしか、水瀬 裕香……だったか」
「うん、よろしく」
心なしか、裕香の声が嬉しそうだ。
思えば、パートナー殺しの呼び名で呼ばれることが多かったから、名前で呼ぶ同級生は少ないのかもしれない。
「ああ、あそこでくたばってるクソガキのことは置いておいて」
……心なしかクソガキの部分におもいっきり感情がこもっていた気がした。
「俺のアビリティは水の操作、お前のアビリティは光の操作。お互い、アビリティがわかっているもの同士、一騎討ちといかないか?」
「……えらく真っ正面の戦いだな、さっきまでとは大違いだ」
「あのクソガキが騒ぐからな」
最後の舌打ちは聞かなかったことにしよう。
「……どうするの?」
小声で裕香が尋ねてくる。
さて、どうするか。
表に引きずり出すことは出来たし、そこから戦いになることは想像できた。
ただ、こう一騎討ちを提案されるとこまでは考えていなかった。
「……どのみち、戦うことになるんだ。一騎討ちなら、相手のパートナーが何かしてくることもないだろう」
「相手が約束を守る前提だよね、それ」
「そうだな、だけど……」
二人で辰巳の様子を見る。
こっちの相談が終わるまで待っているようだ。
「……信じてみよう、パートナーに対する口は悪いが、悪い奴じゃなさそうだ」
「……わかった、それなら私は……」
裕香は俺の目をまっすぐに見る。
その目はどこか力強く、頼もしいパートナーの目だった。
「あなたを信じる」
「ありがとう……その信頼に応えてみせよう」
裕香はその答えを聞くと、すこしだけ笑って森の中へと走る。
「それが答えか?」
「ああ、一騎討ち……受けてやる」
光の剣に意識を集中させる。
それに答えるよう、剣の輝きが増す。
「やる気になってくれたみたいだな、まっ、こっちも……」
辰巳はカバンから水筒をだして、ふたを開ける。
それと同時に、水筒から水が飛び出してきた。
飛び出した水は、辰巳の回りを浮遊する。
「本気でいかせてもらうぜ……!」
「望むところだ……! いくぞ!!」




