第十四話 水の龍を操る者
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
更新がとっっっっっっっっっっっっても遅れて、申し訳ありません!!
ちょっといろいろありまして、落ち着くまではと思っていたらこんなにも間が……。
久しぶりの更新ですが、前までの物語を思い出しながら読んでいただければ幸いです……。
「くっ! おわっ!?」
水龍の攻撃を避けることはできたが、濡れた床に足をとられバランスを崩す。
水龍の攻撃自体は大振りであるため、避けること自体は難しくない。
しかし、この濡れた足場が俺の行動を制限する。
滑ることを利用して、オーガと戦った時のように奴の下を潜り抜けられないか考えてみたが、奴の動きではそれは難しいだろう。
それに先ほどからソードで斬りつけてみても、やつの体から水が出るだけで致命的なダメージにはなりえていない。
かといって奴の攻撃に威力がないかといわれると、そういうわけでもない。
一体どんな都合のいい体をしてるんだ、奴は。
だが、どこかに弱点があるはずだ……。
これは相手の能力によって生み出されたもの、いわばアビリティの一つ。
それならば、この水龍を生み出す条件があるはずだ。
発動条件、それさえわかれば……!
* * * * * *
辺りのドアを手当たり次第に開けながら走る少女の姿があった。
茶色のフローリングでは、その白い服が余計に目立つ。
あえて彼女は大きく動くことで注意を引こうとした。
対戦相手を探しているのだとアピールするために。
「ここ、本当に温泉宿なんだ……」
いくつかのドアをあけ放った後、彼女はぽつりとそうこぼした。
彼女が開け放った部屋のいくつかは和室で、来客を待っているかのように清掃されていた。
いま扉を開けた部屋もその一つだった。
これで人がいた形跡があれば話は早いのだが、今のところそういった形跡は見当たらなかった。
『今回は初戦の時と違って、ヒントなんかない。私が見つけ出さないと』
彼女は一人決心する。
あの時、ボロボロになったパートナーの姿を思い出しながら。
* * * * * *
「ちっ、ぶんぶんしっぽ振り回しやがって! こっちは足場が悪いんだよっ!!」
水龍の攻撃を避けながら悪態をつく。
それで相手の攻撃が止むかといえば、そうではないのだが。
先程から出口に向かおうとしているが、その行く手を水龍が遮る。
かと言って、こいつを倒して……なんて考えていると、確実にやられる。
手っ取り早く倒せるのなら、それに越したことはない。
考えろ、こいつを倒す方法を。
考えろ、この場から逃げる術を。
まずひとつ……。
「ってうおっ!?」
視界の外から水龍の尻尾が迫ってくる。
それをかがんで避けると、距離を取る。
「くそっ! まともに考える時間すらくれないのか!!」
さっきから尻尾をブンブンと!
……まて、尻尾?
裕香がここから出て行く時、奴は裕香に対して頭から攻撃に入っていた。
それなのに、今は尻尾を振り回すだけ。
最初に見せたような体当たりはない。
どういうことだ……?
冷静に考えろ。
答えはもうすぐ見えてくるはずだ。
そうだ、思えば"なぜ水風呂なんだ"?
ここには湯船にはられたたくさんの温泉がある。
水龍を創りだすのが一体だけだったとしても、どうして水風呂を選んだ?
発動条件に水量の限界量が決まっている?
それとも他に条件があるのか?
もしそうだとすれば、水龍が突進して来ないのはなぜだ?
水龍が突進して、温泉に突っ込むことで変わる何か。
それこそ、水龍は温泉を取り込んでしまうこと。
もしかして、そうなのか?
奴は、"大量のお湯と混ざると形が保てなくなる"のか?
……試して見る価値はある。
俺は近くに転がっていた洗面器をつかみ、湯船に入れる。
大量のお湯が入った洗面器は少しだけ重い。
これ、ちゃんと投げれるかなぁ。
裕香に頼んで水鉄砲を用意してもらうべきだったな。
そんなことを考えていると、水龍がこちらを警戒しているかのように近づいてくる。
どうやら、ビンゴだったようだ。
「ほら、くらえ!!」
火を消すかのように、お湯を水龍に向かってかける。
水龍はまるで、水を怖がる猫のように俺から距離を取った。
「やっぱりな。お前、温泉がダメなんだな」
それがわかればこっちのもんだ!!
俺は温泉のお湯を組み上げては水龍にかけていく。
それを避ける水龍は、次第に出口から遠ざかっていった。
「いまだ!」
俺は温泉が入った洗面器を持ちながら、出口へと向かう。
水龍は俺が湯船から離れたところを狙って尻尾を振る。
「それは予想出来てるんだよ!」
俺は手に持っていた温泉を水龍の尻尾めがけて放つ。
流石によけきれなかったのか、温泉を食らった水龍の尻尾は、なにやら泡を立てて始めた。
はじめは小さな泡だったが、やがてそれは大きな泡となり、最後には尻尾だった場所は形を保てなくなり、液体と化して浴室の床に落ちていった。
「形が保てなくなるんだな。覚えておこう」
手に持っていた洗面器を水龍に向かって投げつけ、浴室から離れる。
更衣室を出た先に売っているコーヒー牛乳が、温泉らしさを一層際立たせた。
「……こんな状況じゃなきゃ、絶対に入ってたよな……」
どこか休みができたら温泉に行こうと静かに心に決め、俺は裕香の元へと急いだ。
* * * * * *
開け放たれた部屋を追っていくと、裕香の姿が見えた。
どうやら、一部屋ずつ調べているようだ。
「おーい!」
「佐伯くん!」
俺に気づいた裕香は、こちらへと駆け寄ってくる。
心配してくれていたみたい……だな。
「怪我はしてない?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、水龍を倒しきれてはいないからな。油断は禁物だ」
俺は水龍が弱点が温泉であることをつげ、温泉をかけて逃げてきたことを伝える。
「水鉄砲、いる?」
「……頼む」
話が早くて助かる。
俺の返事を聞いた裕香は、深呼吸を一つすると、両手を少し前に出した。
現れた光球は次第に形をなしていく。
やがて光球は、水鉄砲へと形を変えた。
「これ……懐かしいな」
手にした水鉄砲は、一番最初の戦いの時に使ったものと同じだった。
「全く同じってわけじゃないけどね」
裕香はそう答えるが、あの時の水鉄砲を意識したのは間違いないだろう。
「あとは温泉を汲むだけか……」
「でも、長い時間水鉄砲に入れてたら、温泉冷めちゃうよね」
「そうだな……。相手の居場所もまだわからない以上、行動すべきは温泉の近くってことになるな」
どうしようかと考えていると、水の流れる音が聞こえてくる。
どうやら、ちかくに川が流れているらしい。
「……川があるのか?」
「うん、窓の外から川が見えたよ」
ほら、と裕香が指差す方向には確かに川があった。
「そ、そうか……」
静かに裕香の手を取ると、廊下を一目散に駆け抜ける。
こんな状況下で、よくもまぁのんびり出来たなぁ!!
そんな愚痴に近いようなひとりごとを置いておいて、できるだけ水辺から離れていく。
「きゅ、急にどうしたの?」
「水辺は奴らのテリトリーだ、目に入る位置に川があったらいつ襲われるかわかったもんじゃない」
さすがに裕香も状況はわかっているようで、「そうだよね……」と呟いていた。
だが、温泉を汲むとなると必ず水辺の近くを通らなくてはならない。
さて、どうしたものか……。
それにしても、水辺なんてどこにでもあるよな。
水道なんてどこにでも張り巡らされているし、水がない生活は考えられないくらいだ。
ん? 待てよ……。
'どうして水風呂だったんだ……?'
温泉がダメだから水風呂。
それはわかる。
だが、温泉の浴室には水が出てくるとこなんてたくさんあったじゃないか。
それに、川の水量ならあの程度の水龍じゃなくて、もっと大きなものが作れたはずだ。
それこそ、この旅館を壊せるくらいには……。
「どうしたの?」
「どうして、水風呂なんだろうなって……」
ぽつりと考えていることをつぶやく。
その言葉を聞いて裕香は「う〜ん」と呻いたあと、「水風呂ってさ、すこしだけ浮いているよね」と唐突に言ってきた。
「……は?」
だからこそ、この素っ頓狂な声になってしまうのは至極当然だ、うん。
「あそこだけ温泉が流れてないし、水桶っていうか……薄暗いっていうか」
水が流れていない……?
「それだ!!」
急に叫びだした俺の顔をみる裕香の目が冷たかったような気がしたが……そこは置いておいて。
「ある程度の流れがあると龍の形を維持できないんだ! だから奴は水風呂を使うしかなかったんだ!!」
「それがわかったとしても、どうするの? 私たち、まだ相手の顔も見てないんだよ」
そう。
俺達は相手の顔も見ていない。
だが、相手は俺たちのことを認識しているはずだ。
そうでなければ、"水龍なんて襲ってこない"からだ。
だから、相手は俺たちのことがわかってる。
ならば、それにあやかるしかない。
「奴らをおびき出す」
そう答えた俺を見る床の顔は、先ほどとは違い、覚悟を決めた顔をしていた。




