第十三話 ランクアップ戦
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
また更新までに日が開きそうなので、できた分から更新をしていこうかなと。
とりあえずは、ランクアップ戦開始です。
それではどうぞ!
昨日の防衛戦は何かと話題になったのか、教室……というよりもすれ違う生徒たちの目がとても痛い。
まぁ一方的にボコボコにして、追い打ちまでかけようとしていたのだから、こういう目で見られても仕方がないが……。
1つため息をつく。
これで気分が晴れるわけでも、たまっていた何かが全部吐きだしきれるわけでもなかったが。
「よお、佐伯。いろいろと噂になってるみたいじゃねえか」
廊下の向こうからニタニタした顔であるいてくる男子学生。
たしか、入学早々に裕香のことをいろいろと言っていた奴だったか。
えっと、名前は……なんだっけ。
聞いた覚えもなければ、名乗られた覚えもないし……。
とりあえずここは適当に。
「みたいだな。一体、何の噂なんだか」
「お前と水瀬がデキてるって噂」
「はぁっ!?」
ちょっと待て! 一体、どういうことだ!?
てっきり俺は、
『佐伯君、動けない女の子に銃を突きつけたらしいよ』
『うっそ~サイテー』
みたいな噂をされているのかと思っていたぞ!
いや、その想像ができてしまうほどやってしまった自覚はあるのだが。
「冗談だ。まぁそれも全部が冗談ってわけじゃないが」
男子学生は小馬鹿にしたように笑う。
視線だけで人を殺せるのなら、おそらく俺はこいつを5回は殺しているだろう。
「悪かったよ、でも水瀬とデキてるんじゃないかーなんて噂も実際にはあるんだ。もっとも、微々たるものだけどな」
「それ以外の噂って、あまりいい話でもなさそうだな」
「まぁな~」
その内容を話せよと、胸ぐらをつかみ上げて問いただしたくなってきた。
しかし、すぐにその必要はなくなった。
「あの戦いの翌日だから今日だな、お前、今日アリーナでバトルするんだろ?」
「ああ、Cランクのランクアップ戦に挑むつもりだ」
「何故それができた?」
「なに?」
急に男子学生のトーンが変わる。
いつものニタニタとした雰囲気は感じ取れない。
どうやら、奴も気になっているようだ。
「Dランクの1位って言ったら、連日試合の毎日だ。だから自分の試合申込の都合も合わせて、ランクアップはかなり先になる。こんなすぐにランクアップ戦に挑めるほど、Dランクの1位は軽いものじゃない」
「細かいことは知らないよ、俺は雨音さんに話を通しただけだ」
実際、何も知らないわけだからな。
だが、その答え自身がやつにとっては想定通りだったようだ。
「噂になってるのはそこだ。どうして『雨音先生に話が通せる』?」
「はぁ? 何言ってるんだ? 俺達の試合の管理は雨音さんだろ?」
「それはお前たちだけだ。俺たちは試合申込書を『管理委員会』に提出してる。結果が来て、ようやく自分の試合の日程がわかるんだ。なのに、どうしてお前たちは雨音先生が関わっている」
「それは……」
確かに、俺達の試合管理はずっと雨音さんがしている。
それが当たり前だと思っていたし、裕香も何も言わなかった。
何故という問いかけに、答えられる理由が見当たらなかった。
「噂になってるのはそこだ。お前たちだけ特別枠にいる。水瀬の件もあって、実は学校の管理下にあるんじゃないかとか、実はエージェントで内部調査を行ってるんじゃないかとか、そんなありえそうもないうわさまで出てきているんだ」
「さすがにエージェントは無理があるだろう……」
「まぁ気を付けろ、まともな連中ばかりじゃないんだからよ」
そういうと男子学生は去っていく。
ただ忠告をしに来ただけ、ということか。
クラスが違うということは、奴はDランクよりも上にいる。
なるほど、すこしは余裕があるってことか。
それにしても、特別枠……か。
雨音さんが職権濫用して割り込ませた試合がこんなに波紋を呼ぶとはな。
ひそひそとした声に少しばかりの不快感を覚えながら、教室へと向かった。
* * * * * *
昼休み。
いつも通り校舎のすみに向かうと、そこには裕香の姿があった。
「よっ」
「そろそろ来る頃かなって思ってたよ」
「勾配の行列に慣れたくはないがな」
そう言いながら腰を下ろすと、勾配で買ってきたパンの袋を開ける。
「いつもパンだね」
「自炊できないからな。そういう裕香は弁当だが……」
「さすがに作らないとって思って」
裕香は苦笑いしながら、おかずを箸でつかむ。
「手作りなのか、すごいな」
「そんな大したものじゃないよ。晩御飯を詰めてるだけだから」
「それでもすごいよ、今度教えてもらいたいくらいだ」
麻弥が戻ってきたとき、『お兄ちゃん、自分で料理ができるようになったの!?』位は驚かせてやりたいしな。
「うん、わかった。うまくは教えられないけど」
「その時はよろしく頼む」
少しうれしそうに笑う裕香。
自分で作ってるっていうくらいだから、料理が好きなのだろうか。
いつも助けてもらってばかりだからな、どこかで礼ができたらいいが……。
そんなことを考えていると、こちらを見る生徒の姿が目に入った。
「……今日はなんだか、いつもより視線を感じる気がする」
いつもより、という部分にすこし罪悪感を感じた。
裕香がいつも感じている視線は、こういう視線なのだろう。
「昨日の一戦とランクアップ戦が噂になっているんだと。なんでも、Dランクの一位になったから、Cランクの再会に挑むのが早すぎるんじゃないか、みたいな」
「それで、なんだ。もしかして、昨日の共犯って……」
「決して共犯じゃないぞ。俺だって知らなかったんだし、雨音さんが聞いてきたから適当に答えただけで……」
裕香のジトっとした視線を感じる。
いやだって、本当に割り込ませるとは思わないだろ?
そんな言い訳も出来る訳もなく、視線を逸らす。
今日一日捕まらない雨音さんを恨みながら、裕香のジトっとした視線を感じて食べる昼食は、全く味がしなかった。
* * * * * *
放課後、いつものように準備をするが雨音さんの姿はない。
「……やっぱり雨音さん、いないな」
「今回のことで怒られてるのかもよ」
すこしだけ棘のある言葉で、そう答える裕香。
心なしか怒られているような気が……いや、本当に怒られているのだろう。
「さすがになぁ……。もしそうだとしても、自業自得としか……」
「言える?」
「いえ、すみませんでした」
なんだか、昼から裕香が怖い。
もしかすると、これが素の彼女の一面なのかもしれない。
すこしでも心を開いてくれたのなら、それはそれでいいことだと思う。
だが、今回俺がお願いしたわけでもないことで(実際、「明日で」って答えている手前、そうとも言い切れないのだが)噂になるのはなぁ。
心の中で雨音さんにすこしだけ苦情を入れるが、やはり俺たちが負けることを全く考えていない雨音さんに、すこしだけ感謝する。
「さっさと終わらせて、ランクアップといこう」
「……そうだね」
裕香の顔に緊張の色が宿る。
俺にとっては初めてのランクアップ戦になる。
Dランクとは違う相手、一つ格上の相手との対戦。
俺達にとって斎藤・武藤ペアのように肉弾戦を用いてくる相手とは相性が悪い。
ならば、どの相手が相性がいいかといわれると、一体どんな相手だろうと思う。
自分の戦闘スタイルが確立できていない今、手探りで進むしかないだろう。
「……よし!」
気合を入れ、一歩前へ。
青白いゲートが俺たちの体を包んでいく。
ゲートを抜けるとそこは……。
「……温泉?」
「……みたいだね。ここ普通に浴室だよ……」
立ち込める湯気。
檜風呂が視界の端に見え、目の前にはライオンが口からお湯を吐きだしている。
まさに、ここは温泉宿だ。
それに、俺達は服のまま浴室に立っている。
「服着て風呂場にいると、すごいべとべとするんだな。それに暑いし……」
「そうだね……。それにしても、対戦相手はどこかな?」
「目の前にはいないな」
眼鏡をしているわけではないので、湯気で視界が曇っているわけではない。
湯気自体も、部屋全体を曇らせるほど出ているわけではない。
辺りを見回しても、俺たち以外の人影は見当たらなかった。
だが、目の前に浮かんだカウントダウンで、対戦相手の準備が完了したことを察する。
「相手はやる気満々みたいだな」
進むカウントダウン。
その数字が小さくなるにつれ、俺達の警戒はどんどん高まっていく。
やがて、数字は0になる。
「さて、どこから来る……」
胸のホルスターからエアガンを抜く。
お湯が湯船に注がれる音があたりをつつむ。
「……! 後ろ!!」
裕香の声で振り返ると、そこには水風呂があった。
水風呂がなにやら泡立っている。
それはまるで、水風呂の水が沸騰しているかのようだった。
「なにか……来るな……!」
エアガンを向けると、水が勢いよく吹き上がり天井にぶつかる。
飛んできた水で、服が濡れるがそれよりも目の前の光景に目を奪われていた。
「こいつは……!」
目の前の"奴"から放たれる咆哮。
それはまるで、水の龍……水龍が目の前に現れたかのようだった。
水は次第に形を成し、水龍へと姿を変える。
「っ! バレット!!」
エアガンから放たれる光弾。
しかし、その光弾は水龍に当たる前に霧散してしまった。
「なっ!?」
驚いているその一瞬をついて、水龍がしっぽを振る。
「佐伯君!!」
裕香の声でハッとして、回避行動をとる。
といっても、その場でできたのは由香を抱きかかえて後ろに倒れこむくらいだった。
「っ!」
浴室の床は思った以上に硬く、群れていたこともあって俺達の体は滑って浴槽にぶつかる。
「この湯気で光が乱反射する、なんてそんなわけはないよな……!」
立ち上がりながら水龍をにらみつける。
「場所を変えるぞ、ここは分が悪すぎる!」
「でも、素直に逃がしてくれそうもないよ……!」
この足場じゃ、ろくに走ることもできないか!
腰から懐中電灯を取り出して、電源を入れる。
「ソード」
意識を集中させ、剣をイメージする。
出来た剣はいつものより、どこか脆い印象を受けた。
「ここじゃあ、俺の能力が半減するみたいだな……! 相手にとって優位なフィールドっていうのも、間違っちゃいないようだ」
剣を構えてみる。
この剣で水龍に勝てるとは思えないが、何もしないよりはマシだろう。
「裕香、奴を俺が引き付ける。その間にここから出るんだ。ドアは開けっ放しでな」
「……! わかった」
裕香は意図したことを察してくれたようで、出口の方へと向かっていく。
足場が濡れているため、急いで入るのだろうが進みは早くない。
それを見逃す水龍でもなかった。
咆哮をあげながら、裕香に迫る水龍。
裕香がドアに手をかけるその時、水龍は大きく口を開けた。
直後、水たまりの中に何かを落とすような音が聞こえてきた。
水龍は裕香を攻撃するのをやめ、その方向を見た。
「おいおい、お前の相手はこっちだろ?」
俺が手にしたカラーボールをみた水龍は、なにを投げられたのかを察したらしい。
見てみると、水龍の中に先ほど俺が投げたカラーボールが浮かんでいる。
「佐伯君!」
「すぐに追う! 早くここから離れるんだ!!」
おそらく、水場は奴らのテリトリーだ。
ならば、この場所から早く離れるべきだろう。
「わかった! すぐに追いついてね!!」
ドアを開けっぱなしで走っていく裕香。
これで湯気はだいぶまともになるだろう。
「水龍相手とは全く想像していなかったが……すぐに追いかけなくちゃいけないんでね、さっさと終わらせてもらうぞ」
俺の声に答えるように、水龍が咆哮をあげた。




