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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
14/39

第十二話 防衛戦

お久しぶりです、三条海斗です。

更新がひっじょ~~~~~~~~~~に遅れて申し訳ありません。

諸般の事情で更新できませんでした。最低限決めていた元号が切り替わる前に更新ができて良かったです。

それではどうぞ!!

日曜日。

斎藤・武藤戦で受けたダメージが癒えない体を休めるため、ベッドの上で悶絶していた。

体を動かすと体中に激痛が走る。

ああ、学校休みたい……。

だが、そんなわけにもいかないことは重々承知で、痛む体に鞭打って立ち上がる。

そういえば、前もこんなことがあったような……。

そうだ、あれは……柄にもなく妹にいいとこ見せようとした時だったか。

結局、麻弥に介抱されてみっともないところを見せただけだったな。

何もできない俺と違ってよくできた妹だったが、いなくなるとやはり寂しいものだ。

……取り戻すんだろ。

心の中で、そう声が聞こえる。

ああ、そうだ。俺は麻弥を助けるんだ。

痛む体は不思議と動く。

まだいける。

これから先の戦いはあれよりも、もっと過酷になる。

……強くならないと。

この程度で音を上げていてはだめだ。

制服に着替え、もう一度決意をする。

「……よし!」

気合を入れ、自室を後にする。

体の痛みはまだ、消えてはくれなかった。


 * * * * * * 


「防衛戦?」

教室につくなり、雨音さんから呼び出され、「今日、防衛戦だから」と言われたら誰だって、こんな感じになると思う。

「そう、防衛戦。要は挑戦者がいるってこと。まぁ、Dランクの1位ともなれば毎日戦い三昧って感じになっちゃうんだけどね」

ランクを上げるためには、そのランクの1位にならなくてはならない。

誰もがこの順位を目指して戦う。

昨日の俺たちのように、誰かが上のランクを目指している……ということか。

「斎藤君たちも連戦続きみたいだったけど、彼ら……ああいう感じでしょ?」

……雨音さんの言いたいことはわかったが、あえて頷かない。

そいつらにボコボコにされたことを認めたくない自分に、素直に従った。

「それよりも、防衛戦なんて何をすればいいんです? いままで、俺達に戦いを挑んできた奴なんていなかったから……」

「まぁそうよね……。詳しくは裕香ちゃんから聞いて。それよりも、ランクアップ戦、いつにする? いまなら先生特権で割り込むわよ」

説明がめんどくさくなって放棄し、話をすりかえ、職権乱用しようとするこの教師は、まさに(反面)教師なのだろう、

「なら明日で」

「了解」

適当に答えたらえらく上機嫌で書類を用意し始める雨音さん。

おいおい、まさか本当に割り込ませる気じゃないよな……。

うきうきとしたその顔に何も言えず、俺は職員室から逃げだした。

共犯者だと思われたくない……その一心だった。

教室に逃げ込むと、怪訝な顔をする裕香の姿があった。

……あれだけ戦っていても、裕香の周りに人の姿はない。

もともと由真や蓮花は、あまり学校に来ていないし、斎藤・武藤に至っては裕香と話すような感じじゃない。

裕香にかかった"パートナー殺し"の呪いは、簡単に消えそうもなかった。

「……どうしたの?」

「いや、雨音さんの共犯者だと思われたくなくてだな……」

「共犯者?」

裕香の頭に?が浮かんでいる。

ちょっとだけ、自分がみじめに思えて悲しくなった。

「俺のことはどうでもいい。それよりも雨音さんから防衛戦だと聞いたんだが、一体何をするんだ?」

「基本的にはいつも通りだよ。負けたら順位が下がるだけ。あとは……自分に優位なフィールドになることが多い……くらいかな」

「なんだ、その程度なのか」

雨音さんに呼び出されたから、なにか準備しなくちゃいけないのかと思ったが、そういうわけでもないようだ。

「バトルの重要性は挑む時よりも守るときの方が高いけどね。負けると順位下がっちゃうし……」

「戦いの重要性に違いなんてないさ、俺達は負けるつもりはないだろう?」

その言葉に裕香は頷く。

叶えたい願いがあるのは、俺だけじゃないということだ。

それにしても、体が痛いな……。

この状態で戦って、勝てるのだろうか。

すこしだけ、強気な発言をした自分に後悔した。


 * * * * * * 


放課後、俺達は着替えを終えるとゲートの前に立つ。

いつもは戦いを挑みにいくが、今回は戦いを挑まれる方だ。

心構えも、いつもとは違う。

まぁ今はそれよりも、本当に雨音さんが明日の試合を申し込んでいたことに動揺しているんだが。

本気で割り込ませたのか……。

明日の対戦者に対する申し訳なさと、俺達が負けることを全く考慮していない雨音さんにすこしだけ感謝する。

「そろそろ時間だな」

「うん、体……大丈夫?」

どうやら裕香には気づかれていたようだ。

「ああ、問題ない。さっさと終わらせて、ゆっくり休もう」

「そうだね」

目の前に浮かぶ青白いゲートを見つめる。

そして、深呼吸を一つ。

動揺はない。

「よし、行くぞ!」

気合を入れ、ゲートをくぐる。

目の前にあったのは、野球のスタジアムだった。

「野球場……か。なるほど、優位なフィールドっていうのは、こういうことか」

野球場には夜も試合ができるよう、四隅に大きな明かりがある。

それに電光掲示板や、選手たちが控えるベンチ、四方を囲む観客席に、広大なグラウンド。

どの場所も、俺の能力を使うのに適している。

武藤たちじゃないが、これはワクワクするな。

「対戦相手が来た」

裕香の声で前を見る。

ゲートをくぐってきたのは、男女のペアだった。

「ほう、お前たちが俺たちの相手ってわけか」

「佐伯 一弥……。悪いけど、君には負けられないよ」

男子学生の方が俺にそう告げる。

隣で怒ったような顔をしている女子学生は、裕香をにらみつけた。

「貴方もよ、"パートナー殺し"! 夏美を殺しておいて、新しいパートナーとよく一緒に戦えるわね!!」

その言葉に、裕香の顔に恐怖が宿る。

それはまるで、この場所から逃げ出したくてたまらないというような、そんな顔だった。

パートナー殺し……その言葉は、やはり裕香のなかでも特別な意味を持っているようだ。

だが、それよりも、だ。

「おいおい、突然人のパートナーを罵るとは……どういう了見だ?」

「梨絵、止さないか」

「でも、芳樹……!」

「でもじゃない。……君の言う通りだ、これに関してはこちらが悪かった」

芳樹と呼ばれた男子学生は、素直に謝罪をした。

それで裕香の気持ちがおさまるかと言われれば、そんなわけがないのだが。

梨絵と呼ばれた女子学生は今も裕香をにらんでいる。

それを見て、俺の隣で震えている裕香。

そんな裕香を見てられなくなった俺は、左肩をすこしだけ叩く。

落ち着かせるように、ゆっくりと何度も。

それに気づいた裕香は、深呼吸をいくつかする。

次第に、恐怖の色は消え落ち着きを取り戻したようだった。

「とりあえず始めようぜ。それに……負けられないのは俺達も同じだ」

その言葉を合図に、目の前に浮かぶカウントダウン。

数字が下がるにつれ、逸る気持ちが抑えられなくなる。

体の痛みはもう気にならない。

今は目の前の数字が早く0になれと、強く念じていた。

カウントダウンは続く。

そしてそれは、ようやく0になった。

「行くぞ!!」

ベルトからカラーボールを引き抜き、投げつける。

そして、すかさず俺は叫んだ。

「スタン!!」

爆ぜる閃光。

その光にまぎれて、俺達は観客席へと向かった。

光がおさまり、目の前で起きた閃光に目をやられた二人は、グランドの中央で悶絶していた。

これならバレットで狙い撃ちをしてもいいが……それはそれで、味気ない。

それに、人のパートナーを罵ったのがどういうことか、あの梨絵ってやつに教えてやらないとな。

俺は観客席に来る途中で拾ったマイクの電源を入れる。

すると、スタジアムのスピーカーに通電する音が聞こえてきた。

「さて、閃光玉を喰らった感想はどうだ?」

わざと煽るように言葉を発する。

会場のスピーカーから出ている音声だ、こちらの場所は知られない。

「くっ……! 卑怯だぞ!!」

「卑怯で結構。それに俺は怒ってるんだ、ちょっとばかりは痛い目を見てもらうぞ」

俺は背中にあるスタンドの柱に触れる。

さすがに、ここまで大きなものを対象にしたことはないが、何とかなるだろう。

グランドを見ると、まだ目が完全に回復したわけじゃない2人が身を隠そうとしていた。

「この広大なグランドで、すぐに身を隠せるかよ!」

強くイメージする。

それは、戦艦がミサイルを連発するかのように。

光球がグランドに降り注ぐ様を。

「くらえ、ここだけの技だ! ランチャー!!」

スタンドの電球から、大きな光球がいくつもグランドに降り注ぐ。

それはまるで、いくつもの大砲を絶え間なく撃ち込まれているかのような、そんな衝撃が響き渡る。

その中を必死で逃げ惑う2人。

手を繋いでいるところを見ると、やはりただのパートナーというわけではないようだ。

大きな光球は地面を抉り、いくつもの大きな穴を作る。

やがて2人はベンチの中へと身を隠した。

確かに、その位置ならこの攻撃は当たらないし、意味を為さない。

まぁ、それが狙いなんだが。

俺は攻撃をやめると、裕香に合図を送る。

裕香はカラーボールを持って、彼らが逃げ込んだベンチの方へと向かった。

「ほう、あれだけの攻撃の中で無事でいられるとは、驚きだよ」

ここでもわざと煽るような発言をする。

冷静さを失ってくれれば、それでいい。

「一方的にいたぶって……! 政党に戦うつもりはないのか!?」

「俺は真面目にやっているつもりだ。ここにあるものは最大限、有効に活用させてもらう」

「それで勝って。君は満足か!?」

「満足も何もない。俺には負けられない理由がある。ただ、それだけだ」

この戦いに正義なんてない。

あるのは麻弥を助け出す、その願いだけだ。

「無駄だよ芳樹! パートナー殺しと組む奴なんて、話したって無駄だよ!!」

どうやら、梨絵というやつはよほど裕香のことを憎んでいるらしい。

この状況下において、まだ裕香のことをパートナー殺しと呼びつつ蹴るのには、それだけ強い憎悪があるからだろう。

「またか。まあいい、俺がお前たちの戦い方に合わせる道理はない。これで終わりだ」

その言葉と同時に、裕香がカラーボールを2人が逃げ込んだベンチに投げ入れる。

放物線を描いたボールは、ベンチの柵を越えていく。

「前の戦いを見ていたらわかるが、俺の能力は手榴弾さえ作り出せるんだぜ、覚悟を決めろよ」

それを聞いた2人はベンチから慌てて出ていく。

やはり、冷静さは失われているようだ。

俺はマイクの電源を切ると、胸のホルスターからエアガンを抜く。

そして、2人が逃げ込んだベンチへと向けた。

「本当の狙いは、こっちだ」

その銃口を梨絵に向ける。

「梨絵!!」

俺の狙いに気付いた芳樹はそう叫んだが、もう遅い。

「バレット」

引き金を引き、発射される光弾。

それはまっすぐ、梨絵の方へと飛ぶ。

直後、光弾は梨絵をかばった芳樹の頭部を撃ち抜き、鮮血が梨絵を紅く染めた。

「い、いやあああああああああああああああ!」

響く悲鳴。

梨絵の目の前で、力なく倒れる芳樹。

俺は観客席から飛び降りると、梨絵の前に立った。

「これでお前もパートナー殺しだ」

梨絵に銃口を突きつけ、そうつぶやく。

気が動転している梨絵は、ただただ芳樹の体をゆすっているだけだった。

すると、俺の手を握る手があった。

隣を見ると裕香が立っていた。

「もう終わり」

「……わかったよ」

その言葉と同時に、目の前に浮かぶ『WIN』の文字。

俺が銃を下ろすと、裕香は手をはして梨絵を見た。

おそらく彼女たちは知り合いだったのだろう。

そして、ある事件を切っかけに仲違いをした。

その事件は梨絵の心に床への憎悪を宿し、裕香の心に大きな傷を負わせた。

どうやら、いずれは知らなければならないだろう。

パートナー殺し、そう呼ばれた事件。

その真相を。

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