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ディザイアゲート  作者: M.O.I.F.
第1部
13/39

番外編 雨音さんの補習授業「アビリティアリーナ」

Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

番外編2つめです。といっても世界観の説明なので、興味があればという感じですね。

それではどうぞ!

土曜のお昼。

まだ重い体に鞭打ってやってきたというのに、肝心の人物は一向に訪れない。

このまま帰ろうか。

そう考えるが、それが無駄だということはわかっている。

第一、それを俺が望んでいない。

補習は伸ばしたくない……!

だからこそ、教室でおとなしく待っているわけだが……。

窓から空を見上げると、これ以上ないくらいに澄んでいる。

俺、なんで教室にいるんだろうなぁ……。

なんだか泣けてきた。

そんな悲壮感に浸っていると、雨音さんがやって来た。

「ご、ごめんね……」

ドアを恐る恐る開けたかと思うと、これである。

忘れてたわけ……じゃないよな? 信じていいよな?

「べ、べ、べ、別に忘れてた訳じゃないんだからね! その、ちょーっと事情があったというかー」

あぁ……この人、ダメな人だ……。

よほど白けた目でみてしまっていたのか、俺の顔をみるなり、雨音さんは目に涙を浮かべる。

罪悪感はあったようだ、よかった。

「そ、それじゃ補習、始めます……」

咳払いのあとに涙声混じりの言葉で弱々しく始める雨音さん。

しまった、すこし冷たい目でみすぎたか。

でも、始めると言っているのだから、ここで話の腰を折るのは違うな。

そう思い、気持ちを切り替える。

未だに雨音さんの後ろ姿が弱々しかったが、すぐに元に戻るだろう。

黒板に、「アビリティアリーナ」の文字を書き出す。

「それじゃあ、今日はアビリティアリーナについて」

振り向いた雨音さんはちょっとだけ目が潤んでいたが、既に教師モードだった。

「佐伯くんもいま参加してるアビリティアリーナだけど、もう一度おさらいしてみようか」

声色はいつもどおりだな。

それにしても、アビリティアリーナか。

基本的なルールしか知らないから、いいかもしれない。

「まずは基本的なルールから。参加条件は2人1組、必ず同じパートナーでなくてはならない。

 バトルはゲートと呼ばれる門をくぐった先、仮想世界の中で行われる。アビリティの使用制限、制限時間はなし。

 相手ペアのどちらか一人を倒せば勝ち、自分もしくはパートナーが倒されたら負け。

 ここまでは、基本的なバトルのルール。ここまでは一弥くん知ってるところよね?」

雨音さんの問いかけに俺は頷く。

練習試合を含めて、すでに2回ほど経験しているから、この辺りは理解しているというよりは経験があるからという方が近いかもしれない。

「バトルに関しては基本的に先ほどまでのルールしかないわ。自殺したらペナルティがある、みたいな細かいのはあるけど」

「ん? 自殺したらペナルティ?」

「ええ。自分の手で自分の命を断ったら、3日は対戦できない決まりになってるの。その間に対戦を申し込まれたら自動的に敗北、順位入れ替えになるわ」

……あの時、由真の話に乗っていたらしばらくは最下位のままだったということか。

それにしても、そのルールを知っていてあの話を持ち掛けたとしたら、かなり性質が悪いぞ。

「あくまでのこのペナルティは、戦いを侮辱することになるからっていう意味合いから設定されているわ。

 よくある『いっそ自ら……』みたいな武士道の考え方もあるけど、結局は戦うことから逃げてしまっているからってことみたいね。

 降参するにしても、自殺という選択肢は選んじゃだめよ」

雨音さんの言葉は、説明というより助言という風に聞こえた。

それはまるで、自殺する姿はみたくない……という意味合いが含まれているようだった。

「今度はランクの話を。アビリティアリーナは、A~Dのランクに分かれていて、その中で順位を争う。

 各ランクの1位が上位のランクの最下位に挑むことができ、勝利すればランクアップ。これを繰り返して1位を目指す。

 ここまではよくあるランクアップ戦に似てるから、イメージしやすいかな。

 挑戦者は運営委員に挑戦する順位を申請して、運営委員会が日程の調整をする。

 防衛者は、挑戦を拒否することができない代わりに、仮想世界のステージやスタート位置を選択できる。

 注意しなくちゃいけないのは、挑戦するのは順位でありペアじゃないということ。

 例えば、20位の人と21位の人が11位に挑戦するとします」

雨音さんが黒板に『20位』『21位』『11位』という数字を書きだし、その下に『A』『B』『C』と書く。

ペアA、ペアB、ペアCということだろう。

「11位のペアcに20位のペアAが戦って、ペアAが勝ったとすると、0位にはペアCが11位にはペアAがいることになります。

 この場合、ペアBが申込時に11位にいたペアCと現時点での11位であるペアAのどちらと対戦することになるでしょう?」

「えっ?」

急に雨音さんが問いを投げかけてきた。

雨音さんの顔をよく見ると、なぜか少しだけいじわるそうな顔をしている。

先ほどの仕返しということか……。

案外子供っぽいような、それでいて何故か親近感の湧く雨音さんの仕返しだったが、そんなことよりも今は答えを返すべきだ。

「さっき雨音さんがペアでなく順位に挑むということだから、現在の11位であるペアAと対戦することになります」

「……正解。さすがに簡単だったかなぁ」

あ、ちょっと拗ねてる。

心なしか口がとがってるし、不満そうな顔をしている。

なまじ顔がいいから、それが絵になってしまうのは反則だ。

「そう、ペアBと対戦するのはペアA。これでペアBが勝った場合は、ペアAは元居た20位よりも1つ下の21位になってしまう。

 11位になったからって油断してると順位を上げるどころか、さがることになりかねないということは十分に理解しておいてね」

積極的に戦い挑んでランクアップしていく以外にも、事前に戦いが行われることを見越しては漁夫の利を得るのもまた戦術ということか。

防衛に徹していては前に進めないが、防衛することを覚えなくては前にも勧めない。

挑む順位やタイミングが重要になってくるな。

バトルが始まる前から、戦略は繰り広げられている。

戦うだけがすべてじゃない……か。

「だいたい、こんな感じかな。何か質問はある?」

「ランクがA~Dに分かれてて、それぞれ順位があるのなら、全体の順位から、どこまでがAでどこからBなんですか?」

「ランクね。Aは1から5位、Bは6位から25位、Cは26位から45位、Dは46位から72位まで。

特別なルールとしては、Aランクは自分の1つ上の順位にしか挑戦できないということかしら。

2位にならないと1位に挑戦できない。2位になるには3位にならないといけない、というルールがあるわ。

Aランクが他のランクと同じルールだったら、2~4位を無視して1位に挑戦し続けられてしまい、順位が形骸化してしまうのを避けるためね」

なるほど。そんなルールがあるのか。

まてよ、だから初日は1つ上の順位にしか挑戦できないのか。

最初から好きな順位に挑めてしまうと、各ランクの1位が何連戦もしなくてはならなくなってしまい、順位そのものが関係なくなってしまう。

「ランクについてはこんなところね」

雨音さんがそういうのと同時に、チャイムが鳴った。

どうやら、今日の補習は終わりのようだ。

「それじゃあ、今日の補習はここまで」

「ところで、遅れた理由はなんですか?」

終わる前に聞いておこうと思い、尋ねてみる。

その質問を聞いた瞬間、雨音さんの体がビクッとしたのがわかった。

聞かれないと思っていたのか、このまま逃げ切れると思っていたのだろう。

「えっと……その……」

「えっと? その?」

「……そ、そ、そ、それじゃあ、先生急ぐからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ほとんど涙声に近い声をあげながら去っていく雨音さん。

なんなんだ、あの人は。

そう思いながら、帰り支度をすると、雨音さんが落としたであろう紙切れが目に入った。

拾い上げてみると、それはどうやらレシートのようで、びっしりと黒く印字された文字と金額がかかれている。

まぁ商品名をみてると、かなり甘々なものを食べようとしていたのだろうということは容易に想像できた。

つまり、だ。

彼女はスイーツに夢中になるあまり、今日の補習を忘れていたということだ。

それにしても……。

「……よく胸焼けしないで食べられたな、この量……」

スイーツ好きという雨音さんの一面を知った補習授業だった。

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