第十一話 閃光
Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
更新遅れてしまい、申し訳ありません。今回もアクションです。
できればもう少しうまく激しいアクションが書けるようになればなと反省する日々です……。
それではどうぞ!
裕香に支えてもらいながら、かろうじて立ち上がっている俺と、ほぼ無傷で立ち上がってる武藤・斎藤ペア。
有利なのがどちらなのか、火を見るよりも明らかだ。
だが、それでも。
裕香は無傷だし、俺はまだ死んでない。
勝てる可能性は残っているはずだ。
そのわずかな可能性を信じろ。
考えろ、イメージしろ。
既にスタンを喰らっている奴らなら、警戒するに違いない。
となると、スタンを主軸に戦うことはできないだろう。
ならばバレットとソードを主体にするしかない。
だが、バレットは撃たせてはくれないだろう。
ソードも、近接戦闘になった場合はこちらが不利だ。
やはり、何か手を―――。
その時、裕香が俺の服の袖を引っ張った。
裕香の顔を見ると、「大丈夫?」と目が言っていた。
どうやら、よほど深刻な顔をしていたらしい。
……そうだな。
戦っているのは俺一人じゃない。
裕香は、俺のパートナーなんだ。
一人で勝つ方法なんて、ありはしない。
ならば、"二人で勝つ方法"を考えるんだ。
……待てよ。
奴らは、カラーボールがスタンに必要なものだとしか認識していない。
ならば、"それ以外のもの"が飛んできた場合は、スタンが発動されるとは思わないんじゃないか?
だが、俺も球体でないとスタンが発動できない。
サッカーボールとかバスケットボールとか、そういうのであればできるとは思うが……。
あとは、それを奴らの認識の外から投げ込む必要がある。
それも意外なものを。
こういうの、得意なのが俺の隣にいるじゃないか。
「裕香、頼みがある」
「何?」
裕香に秘策を耳打ちする。
それを聞いた裕香は、すこしだけ驚いた顔をしたがすぐに頷いた。
「話はまとまったのか、佐伯」
「ああ、ようやくお前たちを倒す方法が見えてきたところだ」
俺の言葉を聞いた武藤と斎藤は、大きな声で笑った。
「おいおい、あの状態で勝つ気でいるらしいぞ、武藤」
「ああ、斎藤。あんなボロボロの状態で何ができるっていうんだ」
「それは……これからのお楽しみだ」
俺はソードを地面に突き刺し、動く右手で腰のカラーボールを引きちぎって武藤たちに向かって投げる。
放物線を描いたボールは武藤たちの目の前めがけて落下する。
「ふん、小細工が通じるとでも」
「叩き潰してやる」
「もう一度、同じ手にかかるとは思っていないさ……スタン!」
奴らの少し頭上で破裂するカラーボール。
激しい閃光は、数秒だけ奴らの視界を奪う。
光がおさまると、奴らは俺に対して怒りを向ける。
よし、ここまでは想定通りだ。
「おや、斎藤。あいつのパートナーがいないぞ」
「ふん、また逃げ出したのか。だが、これで2対1。どっちが有利か明白だよなぁ?」
わざと煽るような口調で話す斎藤。
裕香が何か策があって隠れてるとは思わないのか……。
だが、やるのは時間稼ぎとは言え、どこまで持つか。
突き刺したソードを杖代わりにして、ホルスターからエアガンを抜く。
これでバレットを警戒して、むやみやたらに接近戦を仕掛けては来ないはずだ。
だが、こっちから攻撃もできない。
あくまでもカウンターや牽制程度に抑えるしかない。
あまり攻撃を仕掛けないのも、時間稼ぎと察せられてしまう。
適度に攻撃するしかないな。
「いつものコンビネーションで行くぞ、武藤」
「ああ、斎藤。これからが本領発揮だな」
さて、奴らが乗ってきてくれたぞ。
あとは……。
* * * * * *
アリーナを駆ける一人の少女がいた。
息を切らし、肩が上下しているのにも関わらず、少女は走る。
―――立ち止まってはいけない。
強く、自分分を奮い立たせるように、彼女は心の中でつぶやく。
出来るだけ目立たない場所へ。
その意思が、彼女を突き動かす。
前へ、前へ―――。
もともと運動が得意ではない彼女が、これほどまでに走れるのはその意思の強さ故だろう。
アリーナ自体はそこまで広いわけではない。
おそらく、あと数分あれば一周することは難しくない。
だが、この一瞬が命取りになることもある。
一人は注意を引き、一人は逆転への一手を用意する。
命を懸けたこの戦いにおいて、一瞬の重大さを彼女は知っている。
彼女の目の前には長い階段がある。
この階段を上れば、アリーナの客席に出るだろう。そうなった場合、パートナーである一弥とタイミングを合わせなくてはならない。
だが、連絡手段も合図もない。
彼女は覚悟を決め、一弥に頼まれていたものを作り出す。
それは、どこにでもあるような、そんな日常的なものだった。
* * * * * *
「くっ……! バレット!!」
エアガンの引き金を素早く引き、連続して弾丸を放つ。
放たれた弾丸はまっすぐ進み、地面に穴を開ける。
さきほどから何度撃っても、いっこうに当たる気配がない。
それどころか、武藤・斎藤ペアは積極的に攻めてこず、じわじわと距離を詰める程度だった。
明らかに、追い詰めて殺す気だった。
性格悪いなぁ、なんて思う余裕もなく、やつらの間合いに入らないようにするのが精一杯だった。
「ほらほら、どうした? え? さっきまでの威勢はどこへいったんだぁ?」
斎藤が言う。
あれ、お前、そんな話し方だったか……?
余裕が無さすぎて、切迫感がなくなっていく。
このまま同じことをされ続けると、油断して一気に……ということになりかねない。
もう、堪えるのは限界だぞ……。
その時、アリーナの2階にカラーボールが置いてあるのを見つけた。
……なるほど、そういうことか。
俺は残った最後のカラーボールを引きちぎる。
「その手は無駄だ」
「いや、どうかな」
俺は笑みを浮かべる。
できるだけ不敵に。
その笑みに、先程のまでの余裕を笑われた様に感じたのか、斎藤は怒りを露にする。
まぁ、出鼻で直撃をくらってるしなぁ。
今となっては好都合だ。
「これが俺の手持ちにある最後のボールだ。この意味、わかるよな?」
わざとらしく言ってみる。
これで最後にしようという意思は伝わるはずだ。
「……なるほど、いいだろう。それでいいな、武藤」
「ああ、斎藤。俺は構わない」
二人共乗り気だな。
これは、このまま押し通すしかない。
「俺の攻撃が成功すれば、俺達の勝ち。失敗すれば、丸裸の俺にお前たちはトドメがさせる。単純な話だな」
「いや、待て」
ここで斎藤が話を遮る。
しまった、勢い良く行き過ぎたか……?
「丸裸といったな、俺にはお前の手に武器があるように見えるが?」
斎藤はちらりと俺の手にあるエアガンを見る。
なるほど、これを捨てろということか。
俺はエアガンを杖にしていた懐中電灯も一緒に投げた。
「これでいいだろう」
そう尋ねると、斎藤は静かに頷いた。
これで、俺の手にはカラーボールが一個。
次の作戦が失敗したら、今度こそ終わりだな。
「行くぞ!」
「終わらせてやる、佐伯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
斎藤が先人を切って突き進んでくる。
その後ろに武藤の姿もあった。
俺はカラーボールを構え、斎藤を見る。
目があった。
いや、ヤツの目は俺の手のカラーボールに向いている。
これなら……!
「どうだ!」
俺はカラーボールをはるか高く、"真上に投げた"。
* * * * * *
目印のカラーボールをおいてから数分。
彼女が影から様子をうかがうと、今まさに最後の大勝負に出ようとしている最中だった。
そして、カラーボールが遥か高く、それこそ何かの合図のように飛んできた。
「よしっ!」
彼女は先ほど作ったそれを手にもつと、佐伯 一弥の視界に入るように投げた。
"それ"は放物線を描きながら、狙い通り、相手のペアの真上へと落ちていった。
* * * * * *
「なっ!?」
真上に投げられたカラーボールを目で追う斎藤。
どうやら、その行動自体は意外だったらしい。
一瞬だけ、動きが止まる。
そして、俺が投げたカラーボールを合図にして、裕香が頼んでいたものを投げてきた。
それは、小学生がドッチボールなんかで使うような、あたっても痛くないように柔らかなゴムボールだった。
「この一瞬、この一瞬が必要だった」
「なに?」
斎藤は俺の言葉に、怪訝な顔を浮かべる。
ゆっくりと落ちてくるカラーボールとゴムボール。
二人はまだ、ゴムボールの存在に気づいていない。
「お前たちが裕香を追わなかったこと、それこそがお前たちの敗因だ」
「何をいって……」
武藤の言葉が止まる。
その視線は足元から、上空へと向かう。
「斎藤!」
武藤がゴムボールに気づいた。
その声に斎藤がゴムボールを見た。
「そうだな、これは気絶<スタン>なんて、優しいものじゃないな。さしずめ……」
ゴムボールは二人の目の前に落ちる。
事態に気づいた斎藤がゴムボールを弾き返そうと、体を動かす。
だが、既に遅い!
「エクスプロージョン!」
指をパチンと鳴らす。
直後、半透明のゴムボールは中から光を放ち、やがて破裂する。
その閃光は、カラーボールと違い、激しい熱を発しながら、なおも広がっていく。
「くっ! さ、斎藤!」
武藤が閃光に飲まれていく。
熱に焼かれ、服が焦げる臭いがここまで来る。
文字通り光の速さで広がる爆発は、ゴムボールを弾こうとしていた斎藤さえも飲み込んでいく。
「くそっ! さえきいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
断末魔のように叫ぶ斎藤。
直後、その声は身を焼かれる苦痛の声へと変わり、すぐに消えてなくなった。
光が収まると、目の前には、爆発があったことを示す焦げ跡だけが残り、その場にいた二人の痕跡など、残ってはいなかった。
「っ……」
急に足に力が入らなくなり、前へと倒れこむ。
地面がまだ熱い。
だが、それを避けようとする気力さえ、残ってはいなかった。
このまま倒れたら、大変なことになるだろうな。
そんなことを思いながら、意識は沈んでいく。
だが、一向に地面にぶつかる感覚も、焼けるような熱さも訪れない。
おずおずと目を開けてみると、俺の体を裕香が抱きとめていた。
「こういうの、本来は逆じゃないかな?」
裕香がわざとらしく言う。
まあ、女子に抱きかかえられてる男子っていうのもな。
「悪いな、頑張ったご褒美ってことにしておいてくれ」
「わかった」
そして、それを待っていたかのように、目の前に『WIN』の文字が浮かんだのだった。




