第十話 油断
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
更新、遅れてしまい申し訳ありません。
なんとか書き上げようとはしているのですが……。早く書けるようになりたいです。
今回はバトル開始です。
それでは、どうぞ!
ゲートをくぐると、そこは依然と同じような闘技場だった。
「またここか」
ぽつりとつぶやいた俺の言葉に、裕香が「仮想世界は防衛側の戦法に有利なフィールドが選ばれやすい傾向があるの」と教えてくれる。
なるほど。
近接戦闘が得意な相手なら、確かにこういう場所の方がいいだろう。
狙撃手が隠れられるような場所もなければ、相手が隠れる場所もない。
強制的に近接戦闘に持ってこれるというわけか。
「ということは、また前回と同じように向こう側から現れるのか」
俺達が立っているゲートの反対側、開け放たれた入場門の向こうから歩いてくる2人の男。
これで壮大なBGMがあれば、様になるだろうな。
姿を現した2人は、前回のような油断は感じられない真剣な表情だった。
「……前と同じにはいかないか」
「さすがに警戒はされてると思う」
裕香の言葉を聞き、エアガンと懐中電灯の位置を確認する。
よし、いつもの場所にあるな。
「裕香、頼んでいたものは」
「いくつか既に作ってある。必要であれば、また作るよ」
そういって、裕香の腰の位置にあるポシェットからカラーボールが取り出される。
見た目はコンビニのレジに置いてあるようなボールだが、これは追跡用の仕組みが施されていない、ただの色がついたボールだ。
受け取ったカラーボールには、ベルトに着けれるように小さなフックがついている。
つなぎ目は脆そうで、強く引っ張ればボールの部分だけが取れそうだ。
「一度に何個作れる?」
「3つずつだけど……少ない?」
「むしろ、ちょうどいい」
うまくいくかどうかは、俺次第だな。
受け取ったカラーボールを腰に取り付けると、縦鼻運動を終えた斎藤・武藤ペアと目があった。
「前回のようにはいかないぞ。なぁ、武藤」
「ああ、斎藤。今度は俺たちが勝つ」
前に秒殺されたのをよほど気にしているのだろう。
まぁ、俺も同じような立場だったら、同じことを言っている気がする。
「今度も俺たちが勝たせてもらうぞ」
俺のその言葉と同時に、目の前に試合開始準備のカウントダウンが浮かび上がる。
いよいよだ。
カウントがゼロになる。
それと同時に、斎藤が飛び出してきた。
「それじゃあ、前回と同じだぜ! バレット!!」
胸のホルスターからエアガンを引き抜き、斎藤に向けて放つ。
前回と同じなら、放たれた弾丸が斎藤の胸を貫いているだろう。
だが、光弾は斎藤の胸を貫かなかった。
「さすがに避けられるか! 下がれ、裕香!!」
凄まじいスピードで迫る斎藤。
その後ろには武藤もいるだろう。
ならば。
「もらったぞ、佐伯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
斎藤がこぶしを構える。
いくら手数で倒すタイプといえど、何の強化もしていない俺には大ダメージなのは間違いない。
「前と違うのはお前たちだけだと思うなよ!」
俺は裕香からもらったカラーボールを、ベルトから引きちぎり、斎藤に向かって投げつける。
「新技を見せてやる! スタン!!」
その声と同時にカラーボールはまばゆい閃光を放ち、破裂する。
目の前で突然起こった光に、斎藤は止まることができず、光の中に突っ込んでいく。
光の向こうから現れた斎藤は、俺の真横を通り過ぎ、地面に倒れこむ。
「ぅ! 目がっ!!」
「もらった! バレッ……」
「させん!!」
エアガンを向ける前に、武藤が俺に攻撃をしけてくる。
すんでのところで、その攻撃を避けると、俺は距離をとる。
どうやら、斎藤の陰にいたため、スタンの直撃を避けられたらしい。
「大丈夫か、斎藤」
「ああ、武藤。だが、目をやられた」
斎藤に肩を貸して立たせる武藤。
斎藤の目はまだ回復していないようだった。
下手したら失明しているかもしれないな……。
すこしだけ罪悪感を感じるが、ここはそういう戦いだ。
殺し、殺され、殺しあう。
慈悲をかけた方が負けるのだ。
「さすがに、前回と同じように瞬殺とはいかないか」
俺がそう一人溢すと、すかさず裕香が「もうスタンは警戒されてると思う」とつぶやく。
「そうだな。だが、一人はつぶした。これで、1対1の戦いになる」
エアガンをホルスターにしまい、ベルトから懐中電灯を取り出す。
正直、この相手に接近戦は仕掛けるべきではないと思うが、当たらない銃を放つよりはいいだろう。
「そんな単純な話になるかな」
斎藤を離れたところに座らせた武藤は、指の関節を鳴らしながら余裕を含んだ顔で告げる。
『先ほどは油断したが、今度はそうならないぞ』という意味が含まれているのは、すぐにわかった。
「少なくとも、お前ら2人を同時に相手にするよりはマシな状況にはなっているんだ。……勝たせてもらうぞ」
懐中電灯のスイッチを押し、小さく「ソード」とつぶやく。
やがて懐中電灯の明かりは剣の形になった。
「ほう。光の物質化か」
「いくら肉体を強化しているとはいえ、剣で斬れないわけじゃない」
「ふん、どうかな」
直後、武藤は地面を強く蹴り、俺に迫る。
そのスピードは想像よりも早く、避けるには俺の反応速度では遅すぎた。
「くっ!」
光の剣で防御態勢をとる。
「無駄だ」
武藤の声が、やけに冷酷に聞こえる。
そして、武藤が拳を俺の剣に向かって繰り出す。
直後、腕から凄まじい衝撃が体中に伝わる。
砂煙をあげながら、後ろに吹き飛ばされる俺の体。
先ほどの攻撃で、左腕がしびれて動かない。
たしかに、ガードなんて意味がなかったかもしれない。
パワータイプというのは伊達じゃない、ということか。
「裕香、俺の合図でカラーボールを投げてくれ」
「……わかった」
裕香を前線に出すのは好ましくはないが、この状況ではそんなことは言っていられない。
「行くぞ」
動く右手で剣を構える。
実際の件と違って、重さが懐中電灯分しかないのが救いだな。
「裕香!」
「えいっ!」
……えらく可愛らしい投げ方だな。
おそらく、運動そのものが得意でない上に、あまりやっていないんだろうな。
だが、カラーボールはスピードそのものはないが、ちゃんと武藤の目の前に落下する。
「スタン!」
カラーボールがさく裂し、閃光が武藤をつつむ。
さすがに目の前で発生した閃光に、俺自身も眩しさに目がくらんでしまうが、それでも剣を構えて進んでいく。
「もらった!」
剣を突き出す。
だが、胸を貫いた感触は一向に訪れなかった。
「無駄だ」
「なにっ!?」
「ふん!」
背中に強烈な衝撃。
そして、俺の体が地面にたたきつけられる。
「っは……!!」
肺から息が吐きださせられる感覚。
一瞬の呼吸困難がおこり、視界がちかちかする。
「佐伯君っ!!」
「っ!」
裕香の声でハッとして、地面を転がる。
直後、武藤の足が俺が倒れていた地面に穴をあけた。
あのままの状態だったら、確実に殺されていた。
「すまない、助かった」
「まだ!」
裕香の慌てた声。
右から気配を感じて、振り向くと靴の底が視界いっぱいに広がる。
「ぐぅ!!」
気付いた時には、俺はがんを蹴り上げられていた。
ゴロゴロと地面を転がり、裕香に受け止められる。
ぽたぽたと、血が地面に落ちていく。
武藤は俺の目の間にいた。
右から攻撃はできないはずだ。
なら、答えは一つしかない!
「殺気はよくもやってくれたな、佐伯」
「斎藤……!!」
くそっ! 予想よりも回復が早い!!
目の前には肉体強化をした男2人。
こっちは後方支援タイプと戦闘に不慣れな素人。
そうそうに武藤か斎藤を潰して、回復する前に蹴りをつけたかったが……。
「こっから反撃と行こうじゃないか。なあ、武藤」
「ああ。斎藤。さっきまでのお礼をたっぷりとしてやらないとな」
この2人……さすがにDランクのトップだけあるな。
「こっちも、さっきの良い蹴りの礼はさせてもらわないとな」
剣を支えにして、立ち上がる。
しかし、ダメージが大きかったのかよろけてしまう。
ふと、それがおさまったと思うと、しびれていた左腕に温かさを感じた。
隣を見ると、裕香が俺の体を支えてくれている。
前に出るのは怖いはずだ。
その証拠に、俺の手をぎゅっと握っている。
由真・蓮花戦の時に見た、裕香の力強さ。
なら、俺も負けてはいられないな。
「勝つぞ、裕香」
裕香に言う言葉を自分にも言い聞かせる。
麻弥を助けるためにも、こんなところで負けてはいられない。
「うん、負けたくない」
裕香がそう返事をする。
その言葉には、確かに強い意志が込められていた。
「ふん、ふらふらな体でどうしようというんだ。なぁ、武藤」
「ああ、斎藤。勝つのは……」
「いいや、今回も勝つのは……」
2組の言葉が同時に発せられる。
それは、試合再開を告げるゴングのように、フィールドに響き渡った。
「「俺達だ!!」」




