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。o〇o。妖精の環。o〇o。

作者: 如月 宙





ピリオドーー荒地の終わりと、新たなる始まり。

枯渇した大地にも、芽吹きの始点と成りうるポイントがある。

長年放ったらかしだった荒野ともなると、それを探しあてるには広大な砂漠で誰かが落とした一粒の砂金を見つけようとする行為に等しいのではないか、と思う。


気まぐれに漂う、遥か上空の気脈だけが頼り、なんて。肝心要のベースとなるはずだった、この地のカタチは木端微塵。欠片も残っていない。せめて水脈でも残っていれば、その道を辿って、ライン取りしやすかっただろうに。


こっちは調査段階でもう途方に暮れてるっていうのに、今回ペアを組まされた先輩は、直立の姿勢でとーん、とーん、とその場で跳ねているだけ。

見た目も言動もてきとーだからって、土地の基礎を調べもせずに、勝手に始めるつもりなのだろうか?




「なに、してるんですか…」


「うん?準備運動、ってやつかなー」


「あぁ、やっぱりこれだ。頭いたい…」


「なんだよ、なんだよ?そういうのは早めに言えって言っただろ?途中で抜けられた方が困るからな、面倒なとこは俺に任せてればいーって。」




誰に、何を、任せればいいって?


懇切丁寧にピリオドポイントの見つけ方を教えてくれたファンク先輩。

その土地毎に違う、基礎のカタチを知る術をいくつも示してくれたガーベ先輩。

ライン取りのコツ、ステップの繋ぎ方をいつも華麗にリードしてくれた憧れのリューゼ……


今ではすっかり懐かしい面々が頭を過る。どう考えても、ペアリングミスだと思う。


この地に修復要員として妖精の(くに)から派遣されたのは、配属されたばかりの新人である私、グレースと。

ツンツンと毛先が跳ねている、背まで伸ばした明るい緑髪に、紺碧の空を切り取ったような瞳。長身痩躯のフェルネ。

こと生命の円陣(フェアリーサークル)の創造に関しては、"荒れ地のプロ"とまで呼ばれている。



彼とペアを組んだ事がある子は、口々に言う。

あんな大規模な円陣(サークル)はあのひととしか描けない、得意なステップがかなり増えた、技術も体力も飛躍的に上がるーーー


それは長年荒野だった影響で、大地の表面に刻む円陣(サークル)も大きなものでないと効果が出ないって事で。

このひとのフォローをし続ける旅を終えた頃には、自分の個性も、技術も体力も気付けば成長してた、ってオチじゃない!?




ポイントがずれていても、確かに生命の円陣(フェアリーサークル)は描ける。ただ《描き治し》もとい、大幅な修正やこまめな調整の為に、何度もその地に訪れなければならなくなるのだ。

居住地にほど近い場所であれば、自己責任できちんと場が整うまで管理するのも許される、けど。それも、新人扱いしてもらえる数十年間だけ。



基礎を習い、試験を経て、配属されたのはサバイバルも甚だしい秘境…奥地ばかりを整えるチームで。ベテランばかりの少数精鋭に加えられたのか、はたまた根性試しの新人いびりなのか。



…自慢じゃないけど、試験官の円陣(サークル)評価は悪くないどころか、笑顔で太鼓判を押してもらえたくらいなのに。

私が基本となる正確さ、永続的なエネルギーの巡りに関わるラインの繊細さにこだわったせいで、こんな型破りな先輩と組むハメになったのかな?



こうなったら最後の手段。

いつ機会が巡るか知れない、天の恵みとやらに期待するしかない。

私は、からりと晴れ渡る蒼天を見上げ、目の前の手も足も出ない現実と、信用度に欠ける先輩から目を逸らした。




「……雨が降るまで、しばらく待ちましょうか」


「へぇ、水紋(アクア)から創るのが好きか?珍しいなー」




いやいや、全身ずぶ濡れになりながら舞う、なんて勘弁してください。ついでにいうと、風邪もひきたくありません。

薬草どころか、サボテンすら生えていないこの地で、万能な妖精薬は作れませんから。




「好きとか、嫌いとかじゃ、なく……」




心の声とは真逆に、もごもごと口の中で歯切れの悪い返答しか出来ない。ピリオドポイントが見つけられない、なんて。

今まで師事してくださった先輩方に申し訳なくて、一人前としてペアを組んだばかりのこのひとには、素直に伝えられなかった。




「俺は服汚れるのヤだし、冷えるから、雨の中での仕事は気が進まない、な……と。待ってろ、もう近いから」


「…………」




歯切れの悪い返事ばかりしていたせいか、今更ながら肝心なところで会話が成り立っていない気がしてきた。

傍から見るに、ずっと同じ場所で跳ねているだけなのに、何が近い(・・)のか。



ズズン、ゴゴゴゴゴ……




「え。な、じ、地震っ!?………って、あれ?」



ビリビリと空気を震わせる振動と共に、かなりの重低音が辺りに響いたのは、ほんの少しの間だけ。

もしかしたら、この後すぐに縦か横に大きな揺れが来るのかも、と腰を落として低く身構えたのは本能的な条件反射。

背の薄羽は、飛んだり跳ねたり円舞に必要不可欠な浮力を補助してくれるもの。生命の危険を感じた時は、なるべく力を温存しておかなきゃいけない。




「そんなにビビんなくても、今のはただの地鳴りだよ」


「地鳴りって…さっきのは地面だけじゃなく、空気までビリビリ振動してたじゃないですか!」


「まあ、お前は雨…水紋(アクア)繋いで円陣(サークル)描くのが得意なら、俺が基礎にしてるのは地鳴りって話で」




いやいや、雨の中全身びしょ濡れで踊るのが得意な女精(じょせい)確定ですか?

少なくとも私が違うって事だけは後で必ず伝えよう、うん、そうしよう。それよりも、まずツッコミたい。



「地鳴りが、基礎……に?」



聞き間違いでは無かったらしい。どこか悪戯めいた瞳がいつになく細められ、珍しく互いの視線があった。




「そもそも、俺らが描く生命の円陣(フェアリーサークル)と呼ばれるモノはただの軌跡。よーするに、踊った奴のただの足跡だろ?肝心なのは、捉えた(メロディー)。刻む律動(リズム)。もっとも原始的なやつだ」


「あいにく、原始的な説明すぎて頭がついていきません」


「優等生は頭かったいなー教本には載ってないからな?地核(アース)の波動……だったら伝わるか?」


「そんな、とこまで…」


「降りていけるんだな、これが」



高音域、低音域。早い、遅い。

それぞれ感覚で捉えて自分と重ねて表現する、得意なモノは違う。妖精一人一人の個性みたいなもの。それにしたって限度はある。


自分と重ね合わせるには、重すぎるから。何より差があればあるほど、心身に負荷が掛かる。あえて明暗を表すなら、限りなく真っ暗闇だ。




「今の、振動だけでいいんですか…」


「ワンフレーズにしては、長く聴かせてもらっただろ?十分だ」



ーーただ、自由に踊れば、正解は無い。

示す生命の円陣(フェアリーサークル)がその土地からの応え。ーー



ごく、っと無意識に飲み込んだ生唾がやけに耳に残る。

紳士が淑女をダンスに誘う時の仕草のように差し出された手を取れば、荒地のプロが捉えた、この地の一番深い場所から響いた音、生まれたばかりの古の波動、いわば楽譜(リード)に自分の軌跡を委ねるということ。




「………これは、いつでも大仕事になります、ね」


「明日の筋肉痛くらいは、覚悟しろよ?」


「失礼な。これでも齢253です。ストレッチしてる今夜中にはきますから」


「星が出る頃までに終わってるといいな?」


「………(誘ってる本人にもわかんないのかよ)」




この妖精(ひと)が描く円舞に脱力半分、興味半分。。。





・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜




そして私は泣く羽目になった。断じて、バッキバキに固まって、寝返りすら地味に辛い筋肉痛にじゃない。


舞い踊る間の生き生きとした表情のフェルネにうっかり惚れかけたけど、描いた生命の円陣(フェアリーサークル)が大規模過ぎて、ステップが多過ぎて…全体像を把握出来なかったからだ。

自分の生命の円陣(フェアリーサークル)は全て記録に残してきた私には、悔しさしかない。数少ない同期とも約束してきたというのに。



ものすごく精緻で広大な作品だったのに。ふわふわして、キラキラして…

光の粒子が、生命の欠片がパズルのピースのように集まってかちり、と在るべきとこに治まっていくあの感覚を。


回って、廻って、エネルギーが集まって、隅々まで巡って…


狭い簡易テントの中でいつまでもむせび泣いている私に、フェルネは慰めてるのか、呆れてるのか、「諦めろ」と言ってきた。

「体感だけが鮮明なのに記せないのは、今はその時じゃないからだ」と。




ーーー悔しい、悔しい、悔しいっっっ!!!


なんで、いつものように感覚のままに筆を走らせてるのに、渦巻き状にしか、ならないのっ!!

自分の描いた円陣(写し)の出来栄えに呆気にとられてたら、いつの間にか肩越しにチラ見されてたし!

かなり絵心の無いやつだと思われた、はずなのに。




「《円陣》よりも、俺にはいつも立体的に弧を描く、生命の《螺旋》に感じるから……いいんじゃない?」



大、問、題ですから!!


これからも世界の修復作業もとい、生命の復旧円舞の度に渦巻き記録を残せと?

確かな大地の温もり…大きな変化のピリオドを、果てのない宇宙(そら)まで昇華出来てたのに。



私に足りないのは、表現力か。場数か。



ただ。この人は頭で考えずに、自分の感覚を信じきっていること。

どこまでも自然体で、気負っても無いし、妖識(パターン)にこだわってもいない。今回も、ただの通過点の土地で、たまたまパートナーは私だった、っていうだけ。



「………きっと、それも、悔しいんだ…」



思わず口から零れたつぶやきを聞いていたのは、以外にもスヤスヤと寝付きのいいフェルネではなく、ほんのりと控えめな青い光を放つ、手元の燐光石のランプだけだ。


私の心にも深く刻まれた、始まりの、ピリオド。


フェルネに魅せられた、音の根源ーー生命の波動(メロディー)の譜面を、いつか、必ず、この手で。






・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜


自己満です。入院中に某)柔らか箱ティッシュのパッケージ見て思いついた…勢いで書いた短編w

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