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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
仰ぎ見る偽りの空
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手柄

州都リーナディアの商業区画で巡回警備をしていたカイゼは、今日もあちらこちらで起こるトラブルの対応に追われている。

リーナディアの治安は悪くはなく、凶悪な犯罪はまず起こらない。それでも小さなトラブルは後を絶たない。今も荷物の置き引きにあったと相談を受けて、捜索していたのだが、結局は被害者のはずだった老人の勘違いだという解決に至る。それからまた巡回を再開していた。


ああ、騎士団が到着したみたいだからフェリスの休暇も終わりか。また暫く会えなくなるだろうな。まあ少しの間はここにいるって言ってたから王都に戻る前に飯でも誘うか


そんな事を考えながらふと、フェリスがリーナディアに帰ってきてから、時々辛そうな表情をしている事を思い出す。


やっぱり騎士団ってのは大変なんだろうな。あいつは大丈夫だって言ってたけど何か悩みを抱えてる気がするな。酒でも飲ませて愚痴らせてやるか


「誰か! 助けてくれ」


近くから聞こえた助けを求める声に反応して、カイゼは駆け出した。




一方アウリスは今日もトレーニングを兼ねた巨石運びのアルバイトも終えて、ロキからのお使いに出ていた。


ペンのインクはどこのお店にあったかな

確か三つ目の三叉路を右に曲がったあたりに文具屋があったような


リーナディアにある店は店構えや店内の雰囲気、置いている品々などがとても洗練されていた。ムトールやヨリュカシアカの州都とは違う、優雅というか豪華というような雰囲気だ。こういったお店を見たことがないアウリスはどの店も入り難く、どうしても気後れしてしまう。ただ、表通りを外れればまた雰囲気が変わる。親しみやすそうな店や人々がいたり、また場所を変えれば薄暗い場所に怪しげな人がうろついている所もある。空いた時間にライやジンと探索をしている内にそこそこ道や場所を知るようになっていた。


ロキから頼まれたインクはやや上質の物になるので表通り近くの店だ。表通りから遠ざかるほど庶民的な品を取り扱った店になる。安物のインクは使い勝手が悪いらしい。

もうすぐ目当ての店に着くという所に近くで悲鳴があがる。


「誰か! 助けてくれ」


それを聞いたアウリスはすぐに声があがった方へ向かう。そこには中年の男とマントのフードを深く被って、顔を隠している男が一つの鞄を取り合っており、中年の男が引き剥がされて地面に倒された所だった。


「泥棒だ! 捕まえてくれ!」


鞄を持った男が逃走を始めて、倒れた男が必死に叫んでいた。アウリスは倒された男のもとへ走り寄ったが早く捕まえてくれと懇願されると、すぐさまマント男の後を追い始める。


「どうした!」


丁度その時、カイゼが路地から飛び出すと男は泥棒だ! とカイゼに訴えた。そしてカイゼも足を止めずにそのまま走り、追跡を開始する。


「はあ、はあ、はあ」


全速力で追うものの、とにかく剣が重い。それでも最初は歩くことがやっとであったが、トレーニングの成果により普通に走れるぐらいにはなっていた。


これじゃ追い付けないよ

レイアをここに置いていこうかな

でも絶対怒るよね


悩みながら走るアウリスだったが突然後ろから押し倒されて地面に押さえられてしまう。


「泥棒! 大人しくしろ! って君は……確かアウリス君だったか?」


「えっ? ええええっ! 違う違う! 泥棒はあっち!」


「えっ! マジ!? 悪い!」


「いいから! 早く追わないと!」


「おっ、おう! 分かった」


逃げた男の姿が見えなくなってしまったが二人は走り出す。アウリスが特徴を簡潔にカイゼに伝えて先に行くように促した。今はカイゼの方が確実に足が速いからだ。


「僕はこっちを探すから!」


分かれ道でカイゼの背中に向かって叫ぶとカイゼは走ったまま片手を上げた。そしてアウリスはカイゼが進む道と違う道を走る。かなり広い街だが幸いにも今走る道は曲がり道はあるが一本道なのであった。さらに進んだ所でカイゼと合流する。


「いたか?」


焦るカイゼにアウリスは首を振る。さらに走るが前を走るカイゼがどんどん離れていく。大分離された所で道の窪みから突然マント男が飛び出し、アウリスと鉢合わせる。


「クソ!」


「うわあっ!」


カイゼが目の前を走り去ったのを確認してマント男はやり過ごせたと思ったのだろう。飛び出したタイミングが変な時間差で後ろを走っていたアウリスと重なってしまったのだ。慌てた男が苦し紛れに殴りかかるがアウリスは拳をかわしながらマント男の腕を取り、一本背負いで地面に叩きつけるとそのまま拘束した。


「放せこのやろう!」


マント男が悔しげに叫ぶと、異変に気付いたカイゼが振り返った。


「ええっ!?」


見ればアウリスがマント男を捕まえていたので驚いたがすぐに駆け寄ってきた。それから手際よくカイゼが拘束具をマント男の腕に着けると、騒ぎを聞きつけた他の警備隊が現れた。


「おっ! カイゼどうした?」


「泥棒だ」


そう言ったカイゼは男から鞄を取り返す。


「手柄を立てたな、やったじゃないか」


「俺じゃないさ、こっちのアウリスが捕まえてくれた。この男を頼めるか?」


「ああ、任せておけ」


駆けつけた警備隊員がアウリスに声をかけるとマント男を連行していった。


「アウリス君、本当にごめんな! 助かったよ」


「いえ、カイゼさん?」


「ああ、カイゼでいいさ」


「じゃあカイゼ、僕のことも君はいらないから」


「そっか、アウリス、ありがとう。しかし実は強かったんだな。この前の坂道じゃあ強そうに見えなかったんだけどな」


「アハハ……あの時はまあ」


「それよりこの鞄を持ち主に返してやってくれ。きっと喜ぶはずだからさ」


「えっ、でも僕はいいからカイゼにお願いするよ」


「何言ってんだよ。礼ぐらい言わせてあげろよ」


アウリスは持ち主に返そうにも散々走り回ってここがどこだか分からないくらいだった。さっきの持ち主の場所に戻れる自信がなかった。


「ええと、実は場所が分からなくて……」


「アハハハハ! アウリス、面白いな。俺が案内するから行こうぜ」


カイゼに肩を叩かれて二人で持ち主の所へ向かうのであった。

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