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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
仰ぎ見る偽りの空
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面会

フェンローナ城 謁見の間


城下町に着いたその足で第7騎士団が向かったのはフェンローナ城であった。先触れを出したとはいえ強引に城の中を進み、案内された部屋に団員を待機させると三名は衛兵の制止する声を無視しながら州候との面会のために謁見の間に入ってきた。丁度面会中だった商人は、驚いた表情を見せたあとにそそくさと退室していく。一番奥にある玉座ともいえる椅子に座り、抑揚のない表情で相対する者を見据えているのはノーブリア州候でありフェリスの兄であるファラエルである。ファラエルの隣に立っていたゴーザの合図で衛兵が下がると、その三名はまた進み出した。青色の鎧を纏った団長ヴァインズを先頭にその後ろには副長のテアトリスと第7騎士団の中でも鉄壁と言われるビードル家嫡男のソマックが並んでヴァインズの後に続く。

三者とも何食わぬ顔でファラエルの前まで進むと床に膝を着けることもなく、あくまで頭を下げるのは王にのみと言わんばかりに立ったまま平然と口を開く。


「これより暫くの間、州内に王国に対する反乱因子がないか調査を行う。状況によってはこちらで裁く事もあろうが了承してもらおう。」


見下すような視線をファラエルに向けるヴァインズの態度からはおよそ敬意のかけらも感じられない。それを受けるファラエルも椅子に座ったままひじ掛けに肩肘を立て、馬鹿にするような視線を返している。


「フン、無駄足になるとは思うがな。遠路はるばるご苦労なことだ」


「そうとは限らん。汚い鼠は逃げ隠れるものだ。もしもそういった輩が見つかればそなたらの怠慢であると言えるがな。王国の為にも必ず炙り出してみせようではないか」


「あまり騒ぎを起こされても困るのだがな。各地での話は聞き及んでいる」


「騒ぎなどとは軽率な言い回しだな。王国に弓をひくなど言語道断、崇高な正義の裁きを愚かな者共へ行っている。この地でもそのような愚者が存在するならば裁きを執行するまでだ。そしてこの城の中も例外なく調べさせてもらう。庇いだてしているとまで言わないが候達が見落としているとも限らないのでな。その時は」


まるでこちらが反乱を企てているとすでに決めつけているような、遠慮など知らない馬鹿の物言いだが、それに対して感情を荒れさせることなどファラエルはしない。それに今回の騎士団の来訪は単なる反乱を防ぐ目的だけではないことは明白だった。一人の魔術師を秘密裏で探しているとの情報は諜報者から早くに掴んでいる。目的はまだ不明だがこれに関してはその魔術師を知らない以上隠す隠さないでもなかった。ただ、長年に渡りノーブリア州が隠し事をしていると疑惑が浮上しているため、中央から事あるごとに探りを入れてきているのだった。ファラエルは情勢を知りうる手段として諜報者を各地に散らばせているが、当然この地にも中央から派遣されている官吏、監察官以外にそういった者が入ってきていることは想定済みである。幾度か発見して処分してきたがその度にまた送り込んできているのも明白な事実だ。


「こちらの状況は常駐している中央からの監視官から報告があると思うが?」


「それは一つの参考にはするが上手く誤魔化しているやもしれんだろう。その者は誤魔化せても我々騎士団に小細工は無駄だと知るがいい。まずは聞きたい事があるのだが黒蛇という組織のことを聞いたことはあるか? 数名がこちらに潜伏しているとの情報があったのだがな」


探るようなヴァインズの目から別の意図も感じたファラエルだが、知っていようがいまいが何の情報も与える気はない。


「聞かぬな、耳に入れば知らせるとしよう」


「ではメサール地方の樹林地で何か発見されなかったか? 例えば古代の遺物とか」


射抜くような視線を向けられているがファラエルの表情は先程と何も変わらない。


「古代の遺物だと? 全く聞いたこともない。卿も忙しい身なのであろう? 何も得られないこの地で無駄な時間を過ごすよりかは他所を捜索されるといい。それとも捜索とかこつけて遊びたいと言うのであれば滞在でもされるがよかろう」


「ノーブリア候!」


ヴァインズの斜め後ろからソマックが怒気を含んだ声をファラエルにあげて前に進み出るが、ヴァインズはファラエルに対する体の向きを変えることなく左手を伸ばしてソマックを制した。


「フン、何もなければわざわざここに留まる理由はない。だが覚えておくがいい、不穏な事実があればそうやって澄ました顔も出来んぞ。その時は私が直々に断罪してやるから光栄に思うがいい」


互いに友好的ではないやり取りを交わしており、ヴァインズの後ろに控えるテアトリスとソマックの目は気色ばんでいるが、部屋の両側に並んだ近衛兵の目も似たり寄ったりである。ファラエルはヴァインズの問いにまともに取り合っていない。招かれざる客だということを隠しもせずに表に出していた。どのみちこの後にズワルテあたりが色々と世話を買って出るだろうことは容易に分かるゆえに互いに何かを要求することもない。


「フン、今の内に態度を改めて協力しておいた方が身のためだと思うがな。行くぞ」


ヴァインズが身を翻して扉に向かって歩き出すと、テアトリスとソマックが続いた。それを冷めた目でファラエルは見送るのであった。ヴァインズ達の退室を確認するとゴーザが控えた声でファラエルに耳打ちをする。


「ファラエル様、あまり中央の印象を悪くされない方が得策かと。黒蛇というのは最近見え隠れするグループではないでしょうか。目的は不明ですが、怪しい動きが報告されています。それに、メサールで何を掴まれたのかが気になります」


「別に争うつもりはない。ただ私は何事もなく終わらせたいだけだ。それに、大方鎌をかけていたのであろう。何も掴めていない証拠だ。こちらを誘導して処罰する口実を作りあげる魂胆なのだろうな」


「ではどうすればよろしいのでしょうか。言いがかりをつけられれば面倒なことになるでしょう」


「今は動かずともよい。ズワルテあたりが上手くやるであろう。各方面の情報集めは強化しておけ。おそらく騎士団の動きに便乗して色々と活発になりそうだからな」


「心得ました」


全く先代は面倒事ばかりのこしてくれたものだ


拡げられた網を掻い潜る心境でファラエルは小さくため息をつくのだった。

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