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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
仰ぎ見る偽りの空
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覇竜戦

メラゾフィアス一行が到着したのは白の岩石を建材とした大きな建物だ。表面は磨きをかけて艶やかに光っており、壁や柱の表面には細やかな彫刻が施されている。浮遊大陸ラーグに存在する唯一の竜族の王宮である。入り口は大きく開かれているが竜が出入りするのであれば当然の大きさだった。入り口を通過するとそこは広間になっており、中央には赤い敷物が奥へと延びている。赤い敷物を挟んで両側に竜が眼光鋭く整列していた。多数の強烈な敵意を向けられてはどのような者でも生きた心地がしないであろう。だがヴァルオスはというと特に気にした様子もなく先頭を歩くメラゾフィアスの隣を堂々と歩いている。一行が進むその先に竜族の王ワロールが玉座に座っていた。

メラゾフィアスと護衛隊が玉座近くで停止すると、ゆっくりと頭を下げる。ヴァルオスはお構いなしに頭を下げる事なく玉座に座るワロール王を見据えている。


「只今ヴァルオス‐ジオ‐ガイアを連れて参りました」


メラゾフィアスが声高らかに報告するとワロール王は大きく頷いた。ワロール王の姿は人に変化しており小柄な老人で口元の立派な髭が床にまで着きそうだ。為政者には似つかわしくない可愛らしい目をしており、豪奢な服を着ているがどこかチグハグな違和感があり、似合っていないのが残念である。


「よくぞ戻った。面をあげるがよいぞ」


何とも声のトーンが甲高く、まだイメージを崩すのかという気分にさせるのだが誰もそれに対して反応せず、頭を下げていたメラゾフィアス達がゆっくりと頭を上げた。王の威厳というものがまるで感じない姿に軽く見られそうなものだが誰一人として侮る様子もなく畏まっている。それは、竜族の王というのは代々血族によって受け継がれるものではなく実力によって代替わりが行われてきた。それゆえに姿や雰囲気がどうであれ、間違いなく竜族の頂点である力を有しているのであった。


「久しぶりだなワロールよ。相変わらずふざけた格好をしておるな」


「無礼ですわ! ヴァルオス‐ジオ‐ガイア」


ヴァルオスの物言いにメラゾフィアスがすかさず反応するが、ワロール王が手でメラゾフィアスを制する事でメラゾフィアスは押し黙る。


「フォッフォッフォ、そういうお前さんも相変わらずじゃのう。じゃがようやくお前さんの戦いぶりが見られると思うてちと楽しみにしておるのじゃ」


「ふん、楽しみにしている所悪いが戦いにすらならん。我は忙しい。早く済ませて戻らねばな。怖じ気づいて逃げていると言われるのも面白くない。今すぐガガレア‐ワスク‐ドルーザとかいう小僧を呼ぶがよい」


子犬が老人に偉そうに話をしている光景も異様だが、隣の絶世の美女がぶちギレそうな表情をしているのもまた異様であった。


「フォッフォッ、ではガガレア‐ワスク‐ドルーザを連れて参れ」


「それには及びませんわ陛下、すでにバラータ宮に呼んでおり、今は待機をさせておりますわ」


「おお、さすがじゃメラゾフィアス。では参るとしよう」


ワロールの言葉に即応して、竜の翼が生えた屈強そうな人型の兵士四人が御輿を担いでくる。


「お待ち下さい陛下! 危険ですからわたくしが見届けますので陛下はこちらで」


「何を言うかメラゾフィアス。こんな楽しい事を一人で堪能しようとはズルいのであるぞ」


ワロールのその言葉にメラゾフィアスは絶句する。覇竜の名を懸けた戦いは想像するだけでも凄まじい力と力のぶつかり合いになる。その場にワロール王がいた場合、負傷を負わせてしまわないか不安が募るのであった。


「何でもよいではないか、さあメラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラ。我をそこへ連れていくのだ」


「貴方……はあ……」


色濃く疲労が出ている表情でメラゾフィアスは大きく溜め息を漏らした。いっそのこと自身がヴァルオスを今すぐ消し炭にしてしまえば悩み事が一つ減るのではないかと思考が散らかり始める。


「よし、では参ろうぞ」


いつの間にか御輿に乗ったワロールの号令で担ぎ手の兵士が息の合った動きで地を蹴りる。バラータ宮へと飛び立つと追従してその場の竜達が続々と飛び始めた。メラゾフィアスも諦めてヴァルオスを抱き抱えると地を蹴ったのだった。



バラータ宮、そこは宮殿というのは一部分で大きな闘技場があるのが特徴である。竜族の能力では破壊力が大き過ぎる為、闘技場の構造は防護力を高める効果を付与されている。

なので竜族同士による公式戦は原則的にここで行われる。無論突発的に起きる争いはこの限りではないが、周りへの影響、被害が甚大になるために禁止されている。竜族を統べるのは王なのだが、こうした争いの仲裁や粛正を行っているのはメラゾフィアスが担っている。そして今、闘技場の中ではガガレア‐ワスク‐ドルーザが凄まじい竜氣を撒き散らして待ち構えていた。


「グガガガゴォォォォ!」


「なんだ? 言葉も発せんのかこいつは」


メラゾフィアスの元から飛び降りて着地したヴァルオスは呆れたように目の前の荒れ狂った竜を見て落胆する。相対するガガレア‐ワスク‐ドルーザの体は王の周りに居並ぶ守護隊の竜達よりも二周りも大きい巨体であった。体表の鱗には刺のような突起が無数にあり、黒色に近い深い緑色の体に真っ赤な目が凶暴さをより一層感じさせる。


「オ オレヲ マ マタセル ト トワ ユ ユルセン」


「ん? 喋れるではないか。が、知能は低そうであるな」


凶暴な殺意を向けられても平然としているヴァルオスだが周囲はざわついている。覇竜の名が付く意味は竜族の中でもトップクラスの戦闘力を持っている。そんな存在が怒り狂えば少なからず身の危険を感じてしまう。離れた位置で静観する数多の竜が見守る中、現役の覇竜と元覇竜がいよいよ激突する。


「フォッフォ、では双方良ければ始めるぞい。ヴァルオス‐ジオ‐ガイア、お前さんは元の姿に戻らんのか?」


「ふん、このままだ。大賢者カミュの魔法は複雑なのだ。我も何度も試みたがあやつの魔法理はかなり深い」


ワロールの言葉に仕方がないというようにヴァルオスは肩をすくめる。今の姿では時間がかなりかかるが倒す算段はついていた。


「ふむ。興味深いが面白味に欠けそうじゃのう。メラゾフィアス」


「はっ! ガラパニエラ、ユメルニール」


メラゾフィアスに呼ばれて二体の竜が降り立つ。この二体は守護隊の中でも一際魔法に精通する竜であり、魔法による封印であれば魔法で解けるであろうと、メラゾフィアスと共にヴァルオスを取り囲む。複雑な魔法でも三人ならばとヴァルオスの制限解除を試行する。やがてメラゾフィアス達の体が仄かに光始めると魔力の渦がヴァルオスを中心に吹き荒れる。その周りでは立体的に大小の魔方陣が浮かんでは消える事を繰り返す。しかし、中々上手くいかないのかヴァルオスの体には全く変化が現れない。暫くして周囲からおそらく無理なのだろうという空気が流れ始めた時、爆風と共に元の姿のヴァルオスが顕現する。


「はあ はあ はあ、なんて複雑な拘束なのかしら。さすがに呆れたわ」


明らかに消耗したようにメラゾフィアスが洩らすが他の二体はヨロヨロとふらついていた。


「ガッハッハ! やるなメラゾフィアス! まさか解除するとはな」


「完全ではないわ、保って十分ってところね」


「ふん、三分で終わる」


そのやりとりにガガレア‐ワスク‐ドルーザは激昂する。


「ゴアァァァァァァッ!」


凄まじい咆哮に空気がビリつく。見守る者の中でも身を震わせる者がおり、一気に緊張感が高まる。


「フォッフォッフォ、では始め!」


ワロールの号令でガガレア‐ワスク‐ドルーザが巨体とは思えない程、俊敏に距離を詰めた刹那。


ドゴォン


ヴァルオスの前足がガガレア‐ワスク‐ドルーザの頭を掴み、そのまま地に叩き付ける。大きな激突音があがり床が砕けた。そしてその直後にヴァルオスの前足から黒い光が迸ると周りに拡散した後、急激に収束する。

それは強大な力の塊となり、無理矢理圧縮された力が膨張しようと形が歪み続ける。やがて一段と光が増すと形状が安定していく、そして綺麗な球体になった瞬間にそれは爆発した。衝撃波が広がり瞬く間に防護壁も崩れて、びくともしないはずの床は大きく陥没する。轟音と共にガガレア‐ワスク‐ドルーザの体は跡形もなく、木っ端微塵に爆散したのだった。


…………


あまりの出来事に全員が戦慄する。数多の竜を従えるメラゾフィアスでさえただただ冷や汗を流すのみであった。


「勝者ヴァルオス‐ジオ‐ガイア!天晴れじゃ!」


ワロールによる発言に皆が我に帰るのだった。


「ふん、まだノーガン‐ゲドー‐ドルーザなら楽しめたのだがな。ではまたな」


用は済んだとばかりに羽ばたこうとした矢先にそうは問屋が卸さないとばかりにメラゾフィアスが立ちはだかる。


「貴方、まさかこのまま戻るつもりではないでしょうね?」


「ん? 我は戻って祝杯をあげるつもりだが?」


「はあ、その前に竜陽石に竜氣を込めてからですわ。忘れたとは言わせないわよ?」


「うむむむむ。早く倒れるまで葡萄酒を煽りたいとゆうのに……」


覇竜の名を無事取り戻したヴァルオスは否応なしに竜都ドラゴスに連行されたのであった。

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