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終わらない物語  作者: 衛刀 乱
仰ぎ見る偽りの空
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真夜中の訪問者

夕食を皆で済ませた後、アウリスは宿泊する部屋で剣を下ろしてベッドに倒れ込んだ。

そのすぐ後ろでヴァルオスを肩に乗せたライが笑顔でその様子を見守る。最近はアウリスとライとヴァルオス、ロキとジンの二部屋で宿泊していることが多い。特別な理由はないのだがあえて言えばジンは大人しく静かであること。しかし、女の子と同じ部屋というのはジンが気を遣うようである。


「もう動けないや」


「おう! ゆっくり休めばいいさ」


「我も食べ過ぎてもう動けん! もう寝るので眠りを妨げるではないぞ」


ヴァルオスにツッコミを入れる余裕もなくアウリスは深い眠りに落ちたのだった。


コッ コッ コッ


眠りに落ちてからどれくらい時間が経ったのか分からなかったがふと目が覚めたアウリスは何者かが廊下を歩く音を聞いた。隣のライは既にベッドから下りて剣を手に取っている。足元にいるヴァルオスも頭を上げて鋭い目付きで音のする方を見ていた。どうやらライとヴァルオスは早くから不穏な気配を察知していたようだ。


「起きちまったか、俺がどうにかするから安心していいぜ」


「ありがと、全然気が付かなかったよ」


声を潜めた二人だったがヴァルオスはいつも通りのトーンで声を出す。


「フンッ、真夜中に面倒な奴が来たものよ」


コンコンッ


普通に扉をノックしてきた。一般人が訪れたのか罠なのか、どういう意図なのか分からない。ただ、真夜中であることと今まで感じた事のない独特の気配が普通の訪問者ではないことを感じさせる。警戒しながら扉に近付くライだったがヴァルオスは気にせずに声を扉の裏側に届かせた。


「お前なら入って来れるだろうが! 用があるなら早く入るがよい!」


ガチッ、ガチャン


施錠していた扉の解錠と同時に扉も開く。手早い手際に驚かされたがそれよりも現れた者を見た瞬間にかなり驚いた。白いローブに身を包んだ黒い髪の若い美女が控えめに部屋に入ってきたのだった。


「やはりお前かメラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラ! 一体何の用なのだ」


名を呼ぶあたり、ヴァルオスの知り合いであろう女性は灰色の瞳を向けて穏やかに口を開く。


「何の用ではありませんよヴァルオス‐ジオ‐ガイア。五百年もの間、姿を消しておきながら最近になって氣を隠す事なく放出させながら何の連絡もないとはどういうつもりなのかしら? ないとは思っていましたが不慮の事故で死んでしまったのだと噂まで流れていたのですよ」


「フンッ、どうしようが我の勝手ではないか!何故いちいちお前達に連絡せねばならんのだ!」


「あらまあ、貴方が都を滅茶苦茶にしたあの時、その片付けを私達に押し付けた挙げ句、勝手に飛び出して行ったわよね? 討伐隊を編成して滅するはずが貴方が三百年に一回は竜陽石に竜氣を流し込む事を条件に見逃してあげたにも関わらず、その約束を反古にするのはどういう了見なのかしら? それに面倒だからと覇竜戦も勝手に三百年に一度と決めておきながら不参加するなんてありえないわ。だから今、覇竜を名乗っているのはガガレア‐ワスク‐ドルーザよ。いいのかしら? 彼に覇竜を名乗らせても」


「ぐぬぬぬぬっ、ガガレア‐ワスク‐ドルーザだと? 誰だそれは! ドルーザの一族ならばノーガン‐ゲドー‐ドルーザではないのか! うむむむ、許せん!」


終始穏やかに話をする美女に対してヴァルオスは煽りに煽られて興奮しっぱなしである。


「フフフ、丁度今年は覇竜戦の年だわ。これを逃すと向こう三百年は貴方はただの竜ね」


「うがーー! おいメラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラ! 我を今すぐドラゴスに連れて行くがよい」


「あっ、あの! ヴァルオスの知り合いですか?」


全く話が見えないアウリスとライだったがようやく声をかけることに成功する。


「これは失礼しました。人の子よ、私はメラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラ。竜の都ドラゴスを守護する者を束ねる者です。突然押し掛けてしまいましたがあまり人目につきたくはなかったので無礼をお許し下さい」


「おいアウリス! 我は野暮用を片付けに行ってくるのでどこにも行かずに待っておくのだ! くれぐれも我がいない間に新しい店に行くではないぞ! わかったな!」


えー……勝手過ぎてどこをどうつっこめばいいのか分からないよ

納得は出来ないけど聞いてあげないとうるさいし


「分かったよ。僕も何か手伝おうか?」


「不要だ! 我一人の方が早い。とにかく戻ったら祝勝会をせねばならんからその準備を怠るなよ!」


「え? 祝勝会? どういうこと?」


「フンッ、帰ったら酒を煽りながら話をしてやる。では行くぞ!」


とにかくやる気は十分なヴァルオスだったがメラゾフィアスはその姿を見て首を傾げる。


「貴方、勿論飛べるわよね?」


「何を言っておる! この姿を見て分からんのか! 無理に決まっておろう。お前が抱いて行くのだ!」


その言葉を聞いてメラゾフィアスは大きなため息をつくと、眩暈がしたようにフラついている。その気持ちがよく分かるアウリスは妙に親近感が湧いてくる。やがて諦めたようにメラゾフィアスがヴァルオスを抱き抱えると、今までのやり取りを聞かなければどこかのお嬢様が子犬を抱き抱える素晴らしい光景に見えただろう。


「それでは皆様失礼します。窓から出ていく不作法をお許し下さい。そして……レイア‐ドロス‐リンデムルナ。起きなさい」


「ふぇっ? ……誰じゃ! 私の大事な眠りを妨げる愚か者は! ………………げえっ! メラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラ! 何故ここに!」


どうやって眠りから起こしたのかは不明だが目が覚めたレイアは、怒りだしたかと思えばすぐに慌てたような声を出した。それに対してもメラゾフィアスはため息をつく。


「はぁ……貴女もたまには顔を出しなさい。ではこれで」


そう言うとヴァルオスを抱えたメラゾフィアスが窓から飛び出すと翼を広げて夜空の彼方へ消えて行ったのだった。

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