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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
仰ぎ見る偽りの空
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重いが故に

やっと……やっと着いた!!


ヘロヘロで汗だく、頭も垂れ下がりながらフラフラした足取りのアウリスは半開きだった瞼を全開にした。


「アウリス! 頑張ったな! お疲れさん!」


心から労うようにライが声をかけてくれた。ロキとジンもそれぞれに労ってくれる。


アウリス達は念願の剣を手に入れたのでノーブリアでの目的は達成された。せっかくだから州都を見ていこうと霊峰ザカリナから州都リーナディアに移動した。本来なら四日で移動できる所が七日かけてようやく辿り着いた。道に迷った訳でもトラブルに巻き込まれた訳でもなく理由は一つ、ただ竜剣レイアが重かっただけ。ライやジンが代わりに持つと申し出てくれたのだがどういうわけかアウリス以外が持つと竜剣レイアはその場所からピクリとも動かなかった。ならばジンが連れている騎獣のゴゴに乗ればいいと勧められたが背中に乗った途端に何かを感じるのか酷く怯えて座り込むと、そのまま動かなくなってしまったのだ。これには全員が苦笑いを浮かべる。


「まあなんだ、別に急いでねえしよー、ゆっくり歩いて行こうぜ!」


気遣ってくれるライ達に申し訳ないと思いながら、とんでもない疫病神を抱え込んでしまったのではないかと不安が募る。


呪いの剣っていうのはあながち間違っていないのかも……


「重いと感じるならば鍛えれば良いのだ! 軽くなるまで鍛練あるのみだな! グハハハ!」


他人事と思って好き勝手言っているヴァルオスだがいつもアウリスの肩に乗るのに、今はゴゴの上にいる。ヴァルオスなりに気を遣ってくれていたのだろう。ともあれ、そんなこともあって休憩をこまめに取りながらアウリスは頑張って歩き続けた。そしてリーナディアに到着した今、もう歩かなくて済むと安堵する。


「アウリス! 腹減っただろ? 飯行こうぜ! ロキ、いいだろ?」


「ああ、そうだな。だけど宿だけは先に見つけておくぞ」


倒れそうなアウリス以外は余裕すら窺える。だがお腹がすいたのは確かなので賛成とばかりに首を縦に大きく振った。


「じゃあさ! 俺らが店探してくるからアウリスはここで待ってろよ! ジン行こうぜ!」


アウリスの肩をポンポンと叩いたライは、街の入り口近くにある馬や騎獣を預かってくれる獣舎屋から戻ったばかりのジンと一緒に賑わう街路を歩いていく。店探しなら任せろと言わんばかりにジンの肩に飛び乗るヴァルオス。「何がいいかなー」「力をつけるなら肉であろう! 旨い肉と酒を置いている店を探すのだ! グアッハッハ!」などとワイワイと楽しそうに話しながら消えていった。


街路の脇に並ぶ縁石に腰掛けるとアウリスは周囲を見渡してみる。街の入り口から入ってすぐのこの場所は色々な店が建ち並び、露店も数多く出店していて食欲をそそる匂いが流れている。行き交う人々の格好も様々。アウリス達と似たような旅人や冒険者か傭兵のような物々しい装備を身に付けている者。街の住民や馬車で荷物を運搬する商人などで賑わっている。


それにしても

こんなに重いんじゃ使えないよ……


溜め息混じりにうなだれると少し離れた場所で、若い女性が二人の荒っぽい男に絡まれて助けを求める声を出していた。よく見ると周りの人達は関わらないように遠くから視線を向けるだけだ。


どこにでもあんなのがいるんだな


「よいしょっと」


身体中がもう動きたくないと悲鳴をあげているがどうにか腰を上げる事に成功すると、ゆっくりと女性の元へ歩き出す。


重い……重いよ……


ようやくのことで女性が絡まれている現場まで辿り着くと、息も絶え絶えに荒っぽい男の肩を掴む。


「おい……嫌がっているじゃないか……やめろよ」


「なんだお前は! 関係ねえだろうが! すっこんでろ!」


男はおもむろに突き飛ばすように手を出してくる。それはいつもならなんの脅威も感じないものだが、今は呪いたくような凶悪な攻撃に思える。案の定、押された力を抗えずにそのまま背中から倒れるが、地面に着く寸前に死力を尽くして体を捻り、剣が地面に着くのを回避した。


この剣を地面に着けたらなんだか嫌な事が起こりそうな気がする……

いや、絶対起こる

はあ……なんでこんなに気を使わなくちゃいけないんだろ……


地面に転がされること事態は、全然気にしないのだがこのままでは女性を助けられるとはとても思えなかった。それでもまた膝に手をつき立ち上がる。


「やめろと言っているんだ!」


「はあ? なんなんだ。お前は転がされる事に喜びを感じてるのか? 変態め。だが俺らは今忙しいんだ。転がりたいならその辺で勝手に転がってろよ」


まるで相手にされていないが再び近づくと男の腕を捻って投げ飛ばした。


背中が重すぎるだけで掴んでしまえばどうにかなるね


「てめえ! なにしやがる! 」


投げ飛ばされた男を見てもう一人の男が怒りだす。投げ飛ばされた男も起き上がると、肩を回してゆっくり近づいてきた。迎撃に備えて重心に気をつけるようにアウリスは身構える。男が踏み込んで拳を突き出してきた所をバックステップでかわしてから反撃。するはずが勢い余って尻餅をついてしまう。


ああ、やってしまった


すると追撃とばかりに蹴り上げる体勢をした男が突然現れた者に軸足を蹴られ、宙に浮いて地面に倒れこむ。


「誰かが人助けに立ち回って無様にもやられているかと思えば薬屋か」


「フェリス!」


突然現れた者はつい先日知り合ったばかりのフェリスであった。荒れくれ者の男達は自分達の相手が誰だか理解すると逃げるように走り去って行った。


「フェリス様! ありがとうございました」


絡まれていた女性もフェリスの事を知っているようで何度も頭を下げては畏まっている。

その間にようやく立ち上がったアウリスはよろよろと歩み寄った。


「フェリス、ありがとう!」


「気安く呼ぶな薬屋。特にこの街ではな。人助けをする気概は買ってやるが実力が伴わない身の程を知るがいい。随分良い剣を持っているようだが武器の商いもやっているのか? 全く忌々しい。お前のような者が誰彼構わず武器を売るからあのような連中が勘違いをするのだ。人の為を思うなら薬だけを売るんだな」


見下す視線をアウリスに向けて、言葉を待つことなく身を翻してフェリスは去って行った。何か言葉を口に出す隙もなく、口を開いたまま呆然としている所でライ達が戻ってきた。


「アウリス? どうしたんだ? 腹が減りすぎて動けなくなったか?」


「あっ、いや……あは、あはははは……」


不思議そうにするライに対して、力なく笑うしかないアウリスだった。

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