霊峰ザカリナ
ノーブリア北部 霊峰ザカリナ
「デッケー山だなー! 遠くから見てもデカかったけど近づくととんでもねえな」
アウリス達一行は折れた剣に代わる無料で手に入るという剣を求めてようやく目的地に着いた。上を見上げたライはついに伝説の剣を間近で見られるのだと興奮でずっとはしゃぎ続けている。
「なあヴァルちゃん! 他にも伝説の剣ってねえの? 今日はアウリスの剣だろ? 俺も欲しいんだよー。なあ、教えてくれよ」
「だから言っておろうが、 ここにあるのは伝説の剣などではない。物好きなグラが周囲の反対を押しきってただ使っていただけのガラクタだ」
アウリスの肩に乗っているヴァルオスはつまらなそうに答えると、鼻をひくつかせてキョロキョロと周りを見ている。何かを探しているようだ。
「その剣を持つのを反対されてたのか? まさか呪われた 剣なのかよ! 」
それを聞いたヴァルオスは声をあげて笑い出した。
「ガッハッハ! 呪われた剣だと? それは的を得ているな。確かにあれを所持したら呪われた気分になるやもしれん」
えー……なんだか不安だな。ガラクタとか呪いとか……
それにしてもこの山のどこにあるんだろ
登るとなるとかなり大変そう
アウリスは呪われた剣というフレーズが頭にちらつき憂鬱な気分になるが、眼前に広がる急な斜面に続く道を見ながら皆を道連れにすることを申し訳なく思った。
「おいヴァル、長い山道になるだろうからここら辺でひと休みするぞ。ここから先は険しそうだ。急な斜面が」
「着いたぞ」
おそらく目的地は山頂付近だと予想していたロキは一旦休憩を入れようとしたのだが喋り終わらない内にヴァルオスが遮るように告げる。
えっ? 着いたって?
まさに耳を疑う言葉に全員が言葉を失い、目をしばたたかせた。ヴァルオスはそれを特に気にかけることもなく何の変哲もない目の前の木々を凝視すると小さく頷いて皆を見渡す。
「ではゆくぞ。んっ? 皆何を呆けているのだ。さっさと持って帰って祝杯をあげようぞ」
「あのさ、ここなの? もっと山の上まで登って命懸けの試練がたくさんあるとかじゃないんだ?」
「ヴァルちゃん! こんな麓にあったんなら誰かに取られちまってもうないんじゃねえのか?」
「フン、あれが誰かの物になるなどまずないな。ついてこい」
ライの問いかけに答えながらもヴァルオスはどんどん前方の大きな木に向かって進んでいく。目を瞑っているのか見えていないのかそのまま進めば木にぶつかると思われた瞬間にフッとヴァルオスの姿が消えたのだった。
ヴァルオス?
皆が驚く中でアウリスはヴァルオスが消えた地点まで駆けていくとパッと景色が変わった。
えっ!? ここは?
目に映ったのは木々が乱立する獣道ではなく、洞窟の中のようであるがまずはその広さに驚く。三階建ての建物がスッポリ入るような空間が奥まで続いていた。窓や扉といった物はないが床や壁、天井に至るまでがほのかに発光していて明るい。ヴァルオスがこちらを向いて待っているのを見つけて話しかけようとした所で背中を押された。
「おっとっと! 悪りぃ! 二人の姿が消えたもんだから慌てて追っかけたんだけどよ。やはり結界だったんだな。それにしても壁や天井が光ってるなんて珍しいな!」
目を輝かせたライが辺りを見渡しながらヴァルオスに歩み寄る。その間にもロキとジンが姿を現した。一様に転移したことに驚き、全員が集まった所でヴァルオスがテクテクと前に進みだした。
[ジン、鎧を身につけて。敵意が満ちてきているわ]
「えっ? 敵意?」
「どうしたの?」
突然の驚いたジンの声に何事かと思ったが妖精のティナから話しかけられたようである。
「なんだか敵がいるらしいんだ」
[早く!]
「わっ 分かった!」
ティナの声はジンにしか聞こえないがせかされたようにジンは背中に担いだ鞄から鎧を出して装着を始めた。
「敵というかここにはトカゲが生息しているのだ。まあ我がいるから悪さなどするはずがないだろうがな! ガッハッハ!」
トカゲが悪さするってどういうことだろ
今一つイメージが沸かなかったのだがそれはすぐに直面することとなる。ガチャガチャと金属音が近付いてきたかと思えば、遠い前方の曲がった先から現れたその姿に絶句する。
「貴様ら! どうやってここに入ったかは知らんが死んでもらう」
敵意剥き出しの怒声を放ちながら近付いてくるのは二足歩行した三体の大きなトカゲだった。胸部を覆うプレートアーマーを装着しており右手にはロングソード、左手には鉄の盾を装備していた。
「えっ!? 喋った? ちょっとヴァルオス! トカゲって言ってなかった? 悪さって殺すこと!?」
「フン、何を慌てておるのだ。どこからどう見てもトカゲであろうが。我がいれば問題ない」
唖然とする皆を置いてヴァルオスが前に出た。 見た目は完全に子犬の姿なのであるが足取りは堂々としており、口元には微笑を浮かべている。
凄い余裕だ。どこからあの自信は湧いてくるのだろう
感心している内に両者が向き合う。近くでみると相手の体格は筋肉質でかなり大きい。ジンの体のふた回りは大きいように思えた。緑色の皮膚に獰猛な目付きでこちらを睨んでいるのだがすでにロングソードを構えている。威圧感も凄いので後ろに下がったロキの顔は引きつっていた。
「トカゲ共! 我こそは覇竜ヴァルオス‐ジオ‐ガイアである。大人しく道を開けるがよい」
威風堂々とした名乗りに三体のリザードマンは沈黙したが道を開ける素振りは見せない。
「覇竜だと? 笑わせるな! 下等な犬の分際でその名を騙った事を後悔させてやる。どのみち侵入者には死あるのみだ」
リザードマン達が攻撃を仕掛ける。今まで様子を見ていたアウリス達だがヴァルオスに危険が迫ると剣を構えて前進した。
「愚か者共めが! 我の力を見せてやろう」
皆が駆けつけるよりも早くヴァルオスは向かってくるリザードマン達へ自ら飛び掛かる。そこへ容赦のない攻撃が放たれた。撃ち下ろされたロングソードとヴァルオスが交わる直前にリザードマンの腕ごと弾かれる。
!?
驚愕の表情を見せたリザードマンだが、その出来事が信じられずに再び剣を降り下ろすがまたも弾かれてしまう。その様子に他の二体も驚いていたが次に三体同時に攻撃をしかけた。
ガンッ
硬い音が響いたがヴァルオスは全くの無傷でリザードマン達は悉く弾かれて後ろによろめいたのだった。
「グハハハハ! そのような軟弱な攻撃が我に通用すると思ったのか! 愚か者が! 格の違いを思い知るがいい」
まるで相手にならないと言わんばかりにヴァルオスは嘲笑って態勢を低く構えたのだった。