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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
黎明を告げる咆哮
76/104

それぞれの一歩

州都ナリュカ 都食ランキング一位店 トマソン亭


「俺はコレとコレとコレとコレとコレとコレとコレだ!」


「ちょっ ちょっとライ、食べられるの」


「あったり前だ! これくらいはほんの前菜だぜ」


えっ? そうなの? 相変わらず食欲旺盛なことで……

僕は何にしようか


皆で街に繰り出そうと勢いよく出掛けようとしたらヨリュカシアカ軍隊長のレイブリッジがそれならばいい所があると紹介してくれたのがこの店なのであった。どうやら州都ナリュカの中で評判の店らしく大きな店にも関わらず夕暮れ時でありながら満席の集客で賑わっている。その中でアウリス達が席に着けたのはレイブリッジが前もって話を通してくれていたからのようだ。照明の数が多く、明るい店内には食欲をそそる匂いが立ち込めて胸を踊らせてくれた。壁には料理メニューの名前やイラストがたくさん書かれていてあれこれ見ることでも楽しませてくれる。


よし、僕は黒羊の七色焼きかな

で、レオナは……何がいいんだろ


相変わらずレオナは傍から離れない。一緒にいられる時間が限られたものであることを分かっているのだろう。今は三人がけの長椅子で隣に座り、賑やかな雰囲気にいつも以上にニコニコしている。レオナを挟んでジンが同じ椅子に座っているのだが注文する料理が決められずに視線をあちらこちらに移しては小声で話をしている。ジンの隣は壁なので精霊のティナと周りを気にしながら会話をしているようだ。


「ジン、メニューが多過ぎてなかなか決められないよね。ティナと話をするのにそこまで気にしなくていいよ。僕たちは気にならないから。だって……」


こちらの視線を追ってジンが見たものはライと一緒に注文メニューを議論しては追加させているヴァルオスがいたのだった。食に関しては完全にライと感性が合うようだ。


「ハハハ、なるほどね。アウリスが聞こえた声ってヴァルオスだったんだね。こう見ると完全に子犬にしか見えないね。普通にライと会話しているけど大丈夫なのかな」


大丈夫ではなかった。隣に座るロキにギャアギャア言われているが騒がしい店内で内容までは聞き取れない。


ここで聞こえないんだから問題なさそうかな


その時、店の入り口で歓声があがった。パトミリアがレイブリッジを連れて入ってきたのである。街の人と同じような服装に着替えており、変装をしようとしたのかするつもりはないのかすぐにバレてちょっとした騒ぎになっている。しかも来る途中からついてきたのか入り口や窓から見る限り外には様々な人達でごった返しているようだ。


アウリス達のテーブルにたどり着くまでも席を立って握手を求める人達に一人一人丁寧に接していた。


「お待たせしてばかりでごめんなさいね」


レイブリッジがさりげなく椅子を引いてパトミリアが着席すると自分も隣の席に座る。そして、興奮した店員が注文を聞きに来ると、パトミリアはあなたのおすすめを下さいなと言い、通いなれているのかレイブリッジは何も見ずに注文すると、パトミリアから何か言われて照れているようだ。


「アウリス様? 口が開いたままですよ」


「えっ? ああ、うん」


いつの間にか見とれてしまったようでリンが教えてくれた。いつも気にかけてくれて優しい。


飲み物が全員に行き届いた所でライが乾杯の音頭を取ろうとした時、店長が声を張り上げた。


「皆さま! 本日はサプライズでなんと! パトミリア様が来店されました! 私はこの日が来ることをどれだけ待ちわびたか……うぐっ 本当に ヒック……」


どうやら涙脆いらしく言葉をつまらせていたが。


「そこで! 今日は私の奢りとさせて頂きます! 心ゆくまでお楽しみ下さい!」


うおおおおっ!


店内中に歓声が響き渡った。ロキも右手を振り上げ一緒に叫んでいる。先を取られたライだが笑い声をあげて袖をまくりあげると次々に運ばれてくる料理を勢いよく口に放り込んでいく。


ええっ!? それって……


ライの横で視界に入っていたヴァルオスは小さな前足を器用に駆使して酒のボトルを口に突っ込んで上下にグビグビしている。


「ちょっとヴァルオス! それ酒だよね!」


「フン、それがどうしたアウリス、酒を飲むことがおかしいか。我は五百年以上も我慢したのだ。今夜は飲んで食べるのだ」


おかしいかだって? おかしいよ! はあ……


驚いているパトミリアとレイブリッジに説明から始まり、旅の事や様々な話題でみんなと盛り上がった。


「次はどこに向かうのかしら」


「とりあえずリューマの所に行って借りてたズールを返さないとな。親父さんの薬も手に入ったから渡してやりたい。それからジレイスに礼を言いにムトールに寄るからそこまで行ったら一度レトに戻ってお前の体を休めればいい」


パトミリアの問いにロキが答えた。


「それならラスティアテナにも寄って行こうよ。そこまで離れていないし」


それにはライがビックリして口から料理を吹き出した。向かいのハクレイは目にも止まらぬ速さで空いた皿を持ち上げて防いでいる。


「いや、あのなアウリス、今はちょっとまだ気まずいというか何というか、じっちゃんにどやされるだけだからラスティアテナはまた今度にしようぜ。なっ?」


「行きたいんだけどなあ。わかった」


あまりにもライが狼狽しているので渋々承諾してあげた。すると次はハクレイが話を始めた。


「アウリス、私とリンなのだが」


「どうしたの?」


「私の仲間が生きていることが分かったのだ。今はこの近くにいるのだがちゃんと地に足をつけさせてあげたい。だから皆でセキレイに戻って復興しようと思う」


「コウガさんやカズマ達だよね。本当に良かった。僕も手伝うよ」


「フフッ、ありがとう。だがその気持ちだけ受け取らせてもらう。アウリスは体を休めてくれ」


「そっか。じゃあここでお別れだね。寂しくなるけどハクレイが生きてくれることが嬉しいよ」


「そなたのお陰だ。勝手を言ってすまないな」


そのやり取りに何かを思ったのかパトミリアが口を開いた。


「セキレイの復興の人員や資材の提供で私達にもお手伝いさせてもらえないかしら」


「パトミリア殿、それは助かる。甘えさせて頂こう」


「少しでも今まで受けた恩をお返し出来て嬉しいわ。レイブリッジ、早速明日の議題に入れて下さい」


「はい」


すると今度はジンが話始めた。


「僕からもアウリスにお願いがあるんだ」


先ほどからジンの様子がおかしく思えたので気になっていたがどうやら意を決したようだ。


「僕とティナを旅に連れて行って欲しい。アウリスと出会って僕の世界は広がったんだ。だから迷惑じゃなければ……」


ジンの言葉に胸が高鳴るのを感じた。ジンと旅が出来る。想像するだけで心が踊りだす。

ロキは口元に笑みを浮かべて、ライはもう決定したかのように喜んでいる 。それならば。


「大歓迎だよ! これからも宜しくね」


「ありがとう」


「貴方はロズンの戦士ですね? 手紙の中に貴方の事も書かせて頂きました。今、各町や村の代表の方に手紙を出しているの。五日後に王国からの独立宣言をします。だからこれから協力して欲しいと」


ムトールやソルテモートと同じく王国と戦うんだね。

嬉しいけどこれからも争いは続いてしまう。


複雑な気持ちで聞いていたのだが


ガタンッ


その時、乱暴に入り口の扉が開かれて大きな男と手下らしき集団が店内になだれ込んできた。


大きな男は機嫌が悪かった。それは、バリアンに協力することでやりたい放題してきたがそれが出来なくなったことが気にいらずにイライラしては街の中で誰彼構わず脅し歩いていたのだった。


「おい! 店長を呼べ! 儲かってるじゃねえか。だが誰に断って外でも営業してやがるんだ」


店の外では入りきれなくなった人達の為に急遽テラス席を設けて食事できるようにしており、店の中でも外でも賑わっていたのである。それを見かけた男達はしたり顔で店に乗り込んできた。


執拗に怒鳴り声をあげて店内を歩き回る男達を見てレイブリッジが立ち上がる。


「おい」


レイブリッジの声に反応して男達がゾロゾロと近づいてきた。


「なんだあ? 俺らに何か文句でもあるのか? あまりおすすめしないぜ? 怪我したいなら別だがな! ハッハッハ? …………」


なっ!? 何故こんな所に!


皆の前で目の前の男に土下座でもさせてやろうと思っていた大男は相手が誰なのかにようやく気がつくと顔面から血の気が引いた。


「アハ、アハハハハハ……レイブリッジの旦那じゃねえですか。そんな格好してるから気がつかなかった。いやあ、参った参った」


一転して調子良く下手に出だした大男がテーブルを見回すとハクレイと目が合った瞬間に腰を抜かせた。


ヒィィィイイッ


手下どもは既に我先にと逃げ出して入り口から転びながら飛び出していった。残されたのは床に尻をつけた大男一人。


「ゲラ・オンジだったか? 何用だ」


大男はハクレイに名前を呼ばれて失神寸前になっている。


「聞こえないのか」


「ヒィッ、き 聞こえております! これは何かの間違いで!」


周りから見て可哀想なぐらいに怯えきっている男を見て店内の客は呆然としていたがレイブリッジが問題ないから楽しんでくれと声を張ると、店内は元の賑やかさを取り戻した。


「こっちへ来い」


ハクレイの声で即座に反応したゲラ・オンジは床を四つん這いで移動してハクレイの近くに移動するとハクレイは椅子に座ったまま体を向けて説教を始めたのだった。始めはみんなでその様子を見守っていたが長くなると思ったぐらいからまた会話が飛び交い始めて、騒がしい空間の一角で人相の悪い男が正座で説教されているという不思議な空間が完成したのだった。


それからも度が過ぎたくらいに盛り上がり、後々の語り草となるがアウリスは今回もみんなと旅をすることでまたひとつ自分の中で一歩前に進めたと実感した。


次はどんな旅になるのだろう


新たな期待を胸にみんなの顔を見渡したのだった。

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