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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
黎明を告げる咆哮
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感謝

ヨリュカシアカ城


アウリスが城の門兵に名乗ると門兵は目を輝かせて感謝の言葉を叫んだ。

照れながらライを見ると笑顔を返してくれた。そして呼ばれて走り寄ってきた衛兵もまた礼を述べる。城内ではすれ違う度に全ての人からありがとうと言ってもらえた。


衛兵に案内されたのは城の中の一室。窓が大きく作られており、陽の光をたくさん取り込むので部屋の中は明るく、穏やかな気持ちにさせる空間になっていた。


通路を歩いていたときも明るい印象を受けたのだがそれは、昼頃の時間帯や城の造りによるものもあるのだろうが城内にいる人達の表情も明るく、心の内から出る明るさによるものなのかもしれないと思えた。


こちらで少しお待ち下さいと衛兵に促されて、部屋の中心に置かれたテーブルを囲んで椅子に座り、待たせてもらう事にした。


「腹減ったぜー、すぐに会えないのかよー」


「いつ行くとも伝えずに突然来たからな。州候も忙しいんだろ」


両手を伸ばしてテーブルに頬をつけたライはとにかく早く食事に行きたいようだ。その間に香茶を運んでくれた給仕の女性からも礼を言ってもらったので思わずモジモジしていると対面で頬杖をついたロキに見つかってしまった。


「アウリスどうした? トイレにでも行きたいのか?」


「いや、たくさんの人から感謝されてなんだか気恥ずかしくて」


「それだけの事をしたという事だ。誇っていい」


微笑みながらそう言ったハクレイだがどういうわけか膝の上にはヴァルオスが座っていた。クリッとした目にフワフワした黒い毛並みの小さな体の見た目からは実は竜であるということは到底想像できない。


アウリスが目覚めてからヴァルオスはアウリスの体に乗る事が多いのだが、今はアウリスの膝の上にはレオナが座っている。ヴァルオスはお気に入りの場所を奪われたようだ。


レオナはアウリスにすっかり懐いており、グラスに入れてもらったジュースを幸せそうに飲んでいた。


「あの、僕なんかが来てしまっていいのかな……」


ヨリュカシアカの民であるジンは州候に会う事など恐れ多いとすっかり恐縮している。


「当然です! ジン様がいたから救出が成功したのですよ」


「そんなことは……」


ジンはまだ縮こまっていたがリンの鈴が鳴ったような笑顔に少し緊張が解された。


「お待たせしました。ご案内します」


待つこと半刻、今度は衛兵ではない儀典官が案内してくれた。


王の間とも言える大広間の扉は開け放たれており、所狭しと人が中央の赤い絨毯を挟んで向き合い並んでいる。


ええっ!? この中に入るの?


かつてない状況にアウリスも緊張すると、手を繋いで歩いていたレオナはアウリスの腰に抱きついた。


「大丈夫だよレオナ」


アウリス達が入り口に揃い、足を止めた事を確認して儀典官が小さな声で言った。


「私達はあなた方に感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」


「えっ!?」


「アウリス様御一行! 入場!」


何か答えようとしたが儀典官の大きな声に遮られた。すると次に割れんばかりの拍手に迎えられる。笑顔の儀典官に促されてゆっくりと前進した。


玉座に座ったパトミリアも立ち上がって前に歩き迎えてくれた。拍手が止まり、大広間は厳粛な空気に変わる。


パトミリアさん?


牢獄で見たパトミリアは劣悪な環境下で当然だがやつれた顔をしていたが目の前に立つパトミリアは威厳に満ちて品があり、それでいて優しい雰囲気を持つ素敵な女性であった。民からの強い支持を受けるのも頷ける。


「来てくれて嬉しいわ。お呼び立てしたのに待たせてしまってごめんなさいね。どうしても皆で感謝の気持ちを伝えたかったのです」


見た目に違わず優しい声でパトミリアが言った。


「此度の事はあなたがたに本当に感謝してます。ありがとう」


次の瞬間アウリス達とパトミリア以外の者全員が床に左膝をついて右手の肘を曲げて拳を握り、地と水平に顔の高さで構える。ヨリュカシアカの最高位の敬礼であった。


戸惑いも露にキョロキョロと辺りを見渡すと感謝されているのだと実感することが出来るがなんとも落ち着かない。


「フフッ、本当は感謝している者がもっと沢山いるのだけれど急ぎで各方面に動いてもらっているの。 ここではゆっくりと話も出来ないわね。ついてきて下さいな」


ゆっくりとパトミリアが入り口に向かうと皆が立ち上がり拍手で送り出してくれた。アウリス達は後ろからついていく。その後方からレイブリッジとロッジブラハ、そして二人の側近らしき男二人が続いた。


大広間から少し歩いた一室に応接間があり、中へ案内された。順番に椅子に座ると給仕が茶具を運び入れてパトミリアが手ずから香茶をカップに注ぎ、一人一人に礼を言いながら配る様子が自然に見える事で人柄も伺える。

全員に香茶が行き届くとパトミリアは自分の分を持って、一番奥の席に着く。両隣後方にはレイブリッジ、ロッジブラハと二人の男が立っていた。


「改めて皆さん、私達を助けて頂きありがとうございました。お陰様でまた民の為に尽くせることを嬉しく思います。アウリス、お返しに私に何かさせてもらえる事はないですか?」


突然の名指しに少し驚いたが望めるならばと即答する。


「ボロ達を解放して下さい。家族がいない子供は生きていけるように」


「フフフ、それは私がここに戻った際、真っ先にさせて頂きました。ボロと呼ばれた人達に生活環境を用意してまだ一人では生きていけない身寄りのない子供は施設で暮らしながら生きていく為の教養も身につけてもらえるようにするわ」


よかった。これで安心だ


これでもうあのような光景は消える。


汚い破れた衣服を着て倒れるまで働かされて、粗末な食事しか与えられずに飢えと渇きに耐えながら目から光も消え失せて、声も出さずに暴力に耐え続ける。


遠い目をしていたのであろう。パトミリアが心配そうな表情をしながら気遣うように問いかけてきた。


「他に何かないのですか?」


「アウリス、我らは本当に救われたのだ。軍から馬でも馬車でも用意させてもらうぞ。勿論それで借りを返したと言うつもりはない。

君達が困った時は力になることを約束する」


「レイブリッジさん、ありがとうございます。パトミリアさん、僕たちはただ争いを止めたかったんです。だから他に望むものなんて」


「金が欲しい!」


えっ!?


特に望むものも思い浮かばなかったので断るつもりがロキが強引に割り込んできた。


「ロキ、お金をもらうなんて出来ないよ。これからヨリュカシアカもたくさん必要だろうから」


「馬鹿! 救出するのだって結構金使ったんだぞ。せめてその分だけでも貰っておいた方がいい」


小声でロキとのやり取りを見たハクレイがフッと笑っている。


ロキ、笑われてるよ……


ハクレイが吹き出したのはお金に対して厚かましいと思っていたのではなく、生きていく為に必要な事を物怖じせずに主張出来るロキに対して頼もしく思えたからであった。ロキがいればアウリス達は大丈夫だと。


「いいでしょう。希望する額までお渡し出来るかは分からないけれど用意させてもらうわね」


パトミリアは鷹揚に優しい口調で答えると後ろで控える一人に何かを伝えるとその男は退室していった。


「あと、レオナの事なのですが……」


膝の上で大人しくしているレオナの事を心配していた。


まだ旅を続けるつもりだし、危ない事も起こるだろうな……やっぱり連れてはいけないか


「お 兄ちゃん?」


何かを察したレオナが見上げてくる。寂しそうな目をしていた。そんなレオナの髪を撫でながら言う。


「僕たちはまだ旅を続けようと思います。だからレオナをよろしくお願いします」


「いやっ、お兄ちゃんと一緒がいい」


「ごめんレオナ、ここにいる方が安全なんだ。僕たちと一緒にいたら危ないんだよ」


「危なくてもいい! お兄ちゃんと一緒じゃなきゃいやだ」


レオナ一人なら守ってあげられるかもしれない。


涙を浮かべているレオナにどうしても心が揺れ動いてしまう。


ロキに聞いてみようかな。


伺うように見るとロキが気づいてくれた。思いきって聞いてみる。


「ロキ、あの」


「やめておけ。お前はトラブルに首を突っ込まずにはいられない性格だ。きっと無事じゃ済まないぞ」


お見通しか……でもそうだよね。

一緒にいたら危ないから


なかなか言い出せないでいると見かねてパトミリアが助け船を出してくれた。


「レオナ、あなたは私達とこの街で暮らしましょう。たくさん食べてたくさん学んで大きくなった姿をアウリスに見てもらうのです。

ここできっと友達もたくさんできますよ」


それでもレオナは納得出来ない様子だったが下を向きながら頷くのだった。


「必ずまたレオナに会いにくるから」


「うん。絶対だよお兄ちゃん」


健気にも笑顔で答えるレオナに大きく頷いた。


「うっし! そろそろ宴にしようぜ! パトミリア救出成功にジンとレオナとヴァルちゃんとの仲を深める会だ!」


ライが立ち上がって大きな声で呼び掛けると


「名残惜しいわね。私も参加させてもらえるかしら」


ええっ!?


パトミリアの突然の申し入れに皆が驚いたのだった。

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