覇竜ヴァルオス-ジオ-ガイア
あの出で立ち! 蓮の者!?
何故こんな所に!
ロマリオとロッジブラハは驚愕した。
黒い装束姿を見た者には死が訪れる。
これはヨリュカシアカに広まるオカルトな噂だが軍幹部だけが実情を知らされていた。
黒い装束を着る蓮が恐るべき戦闘能力を有した戦闘集団であることを。
そして、数人いる隊長は蓮の者と連携することさえもあった。
「私は蓮のハクレイだ。ロッジブラハ、お前の事は知っている。パトミリア殿救出には私も参加していた。これは紛れもない事実だ」
まさか! 夜叉姫!?
蓮のリハク候の娘の噂は軍の中では有名だった。街の噂ではない軍の中だけのものだったが流れる噂のどれもが信じがたい噂ばかりであった。話の尾ひれがついているのは違いないにせよ、実のない所に噂は立たないならば
その実力は……
蓮が関わっていることでロッジブラハは敗北を確信した。
夜叉姫が言うのであれば真実なのであろう
だが、それでも……
「ハクレイ殿、私は候を裏切ったのだ! 一度裏切っておいてまた仕えるなど許されない」
「最後までは裏切ってはいないだろう」
「最後まで? それはどういうことであろうか?」
命を捨てる覚悟があるゆえに夜叉姫相手に気後れすることなく問答をする余裕がロッジブラハにはあった。
「じきにパトミリア殿はここに戻る。その前にヨリュカシアカ城を制圧して迎えてやればよいのだ。それでこそ今までの行動に意味を成すと言えよう」
!?
「パトミリア様の事もあるがそれ以上に私は守るべき民を苦しめたのだ。私自身がそれを許さない」
「ならばこれから民の為に尽くせばよい。今、バリアンを討てるのはお前しかいない。
そしてこれからが大変なのだ。パトミリア殿は王国の敵になる。敵は次々に攻めてくることになろう。それらから民を守るのはお前の仕事だ」
!!
パトミリア様はまだ私を必要としてくれるだろうか……
いや、必要とされなくても私なりにまだ出来る事があるはず!
意を決したロッジブラハは隊に向き直り叫んだ。
「私はこれよりバリアンを討つ! お前たちはどうだ! この州を変えたい者はついてこい! 我々のヨリュカシアカを取り戻すのだ!」
静かな沈黙の後、小さく声があがると徐々に数が増えて大きくなり、やがて地を揺るがす大音量となった。
そして、ロッジブラハの号令でヨリュカシアカ城に向けて行軍が開始された。
ロッジブラハの横にはロマリオの姿があった。
「ハクレイ! ありがとう! コウガさんがこの事を教えてくれたよ」
竜の背から降りたアウリスは足を引きずりながらもハクレイ達に笑顔で歩み寄った。
「それよりもアウリス、この竜は一体どうしたのだ?」
「えっ、あのどう説明したらいいのか分からないんだけど首にかけてた石が光って竜になったんだ」
確かに石はなくなっているが……
竜が石に封印される?
そんなことがあるのだろうか
「アウリス」
ヴァルオスの声に振り返ると居たはずの場所からヴァルオスが消えていた。
飛んだ?
空を見上げたアウリスだが、見渡せど白い雲がゆっくりと流れるばかりで竜の姿はどこにもない。
「下だ」
!?
今度は見下ろす事になったのだがそこには……
子犬!?
足下にいたのは黒いフワフワした毛並みの体が小さい子犬だった。クリクリしたつぶらな瞳でアウリスを見上げている。
「ええええええっ!どうなってるの!?」
「ふんっ、どうだ愛くるしいであろう? お前の王氣が足らんから元の姿を保てんのだ。我を解放したことは誉めてやろう。これからも精進するのだ」
子犬が喋っている!?
これにはアウリス達が呆気にとられた。
すると、突然ハクレイが下を向き肩を震わせた。
今に至るまでの事をふと思い返すと、笑いが込み上げてきたのだった。
この状況で両軍を止める事などどのような者だろうと出来はしない。
それをアウリスはやってのけた。
竜に乗ってまで
私ですら呆気にとられてしまった。
そしてついには、お腹を抱えながら声を出して笑いだした。
その姿を見て一番驚いたのはキトラで、一番ときめいているのはリンである。ハクレイにつられてアウリスも笑った。
「おーい! なんだなんだ? 楽しそうだな! 何があったんだ?」
ようやくたどり着いたライは楽しそうな雰囲気に乗り遅れまいと目を輝かせている。
長かったなあ……
パトミリアさんを助けることが出来た
リューマの仲間達も死なせなかった
みんな無事だった
僕一人じゃ出来なかったけれどみんなのおかけで……
そうなんだ
一人では何も出来なくてもみんなで力を合わせればこの世界はきっと……
張りつめた糸が切れるように緊張感から解放されて、安堵と達成感に浸ったアウリスはそのままライに倒れこんで気を失ってしまった。
「アウリス、今回も頑張ったな。お疲れさん」
ライも達成感を感じながらアウリスを背負ったのだった。