騎士の決着
「おおおうらっ!」
ガキン
ラズベルとワネゴバの戦いは長い間続き、激しさを増していた。互いに決定打はないまでも傷だらけである。
「おい第二! お前なんで反発しやがんだ? ムトールの肩を持ったってじきに滅ぶんだぜ? そろそろ討伐準備も終わるはずだ。ここの州候も手柄を立てる為にノリノリだしな。今からでも戻る気があるなら俺が王に取りなしてやるぞ?」
「ふざけんな! お前に忠義はないのか! セガロなんかに乗せられやがって! 俺は絶対に許さねえ! 王に取り入って引き立ててもらったのに弑逆するなんてな!」
「ハルト王は病死だったが?」
「馬鹿にするな! それを信じる奴がどこにいる! たとえ病で崩御されたとしても自分が王を名乗るなど狂ってやがる! 継承権を持つ者もすべて病死や事故死にしやがって! ワネゴバ! お前こそ何故セガロに協力してやがる!」
「決まってるだろ! 好き勝手暴れられるからだ。俺は暴れられるなら王なんざ誰だっていいのさ!」
「ならば問答など不要だな! お前はここで俺が倒す!」
ラズベルの剣がワネゴバの首を狙うが棍棒に阻まれ、返す刀で右腕を狙ったがワネゴバの左手に持つ斧で防がれた。ラズベルの剣速に対抗する為に仕方なく両の手に武器を持つ、ワネゴバ程の腕力を持ってすれば片手で十分に相手を仕留める事が可能だった。
互いの武器が交わる度にラズベルの剣から炎が吹き出して辺りは炎の塵が飛び舞っていた。
「ヤヴァルディ! 誘われているわ! 少し後方に下がりなさい! ベス! メアリーと共に右方向に回り込んで来る敵を止めて! 私とイェルガーで前面突破して回り込みます!」
混戦になりながらも副長ミリアは全体の状況の掌握に努めながら相手の殲滅を狙うが敵も王国騎士団、易々とはいかない。
数が足りない、後少しが押しきれない
戦況が五分五分でも人数が少ない分、体力的にも磨り減らされる。このまま続けば敗けてしまう事が明白だった。
何か一手を相手に叩き込んで優位に立たなければ!
焦る気持ちを抑えながら冷静に一つ一つ隊に指示を出すミリアは優れた副長であった。
一方、援軍により橋の前で立つジンは時折すり抜けてくる敵を排除するだけで良かった。
[ジンは前に行かないの?]
ジンの肩に腰を下ろしたティナは橋の前から動かないジンを面白がった。自分の事が見えなくなる心配がなくなった今、過去に見てきた男達が戦いを好むものだと知っているので
戦う力を得たジンが敵を前にして突っ立っている姿が不思議に思えたのである。
実は戦いたくてウズウズしているのかしら、
我慢してるのね
「ああ、うん。アウリスの所に敵が行かなければそれでいいんだ。だから僕はこの橋を守るだけでいいかな」
別段我慢してる訳でもなかったジンの答えに思い込みの激しいティナは驚かされた。
そうなのね! あなたは守る為に戦う事を選ぶのね
ティナは得心がいったとばかりに笑みがこぼれた。そう、だからこそジンは特別なのであると
[ジン! 敵が二人来るよ!]
「オッケー!」
「クオオオン!」
ゴゴもやる気満々とばかりに鳴いたことでジンとティナは顔を向き合わせて笑った。
ここを分断出来れば一気に敵を崩せる!
ようやく勝機を見出だしたミリアは目の前の敵を一閃すると素早く挟撃する位置に移動するはずが、既に敵の配置がこちらの動きに合わせて変わっていた。
動きを読まれていた!?
挟撃どころか逆にこちらの縦に伸びた隊列の後部を分離させられラズベルと少数の仲間が敵の包囲に残された形となった。
そんな!? しまった!
すかさず敵は防御態勢を取りミリア達を寄せ付けなかった。連携の練度の高さはさすがに騎士団だと認めざるを得ないがこのままではラズベルと仲間に危険が迫る。
早くもラズベルとワネゴバの戦いに敵が入り込んだ。
ワネゴバの攻撃を剣で受けた所を背後から背中を斬りつけられて、次に迫る敵の攻撃を防いだ時にワネゴバの攻撃が直撃した。
「グハッ!」
マズった!
大きく横に飛ばされたラズベルはすぐに動く事が出来なかった。
近くでは追い詰められた仲間が窮地に陥っている。
ヤヴァルディ、トマス!
「ここが仲間を見捨てられなかったお前の限界だ!」
ひとまず仲間を助けようと駆けつけようとした所でワネゴバの投げた斧がラズベルの肩に突き刺さり、続く突進撃で弾き飛ばされた。
ぼやけた視界には仲間のトマスが剣を弾かれトドメの一撃を受ける刹那に強行突破を果たしたミリアが敵兵を斬り飛ばす。
「ラズベル様! 我々には構わずワネゴバを倒して下さい! あの時皆で誓ったではありませんか! この先誰が死ぬ事になろうとセガロと騎士団を倒すと! 私はここで死ぬ事になろうと構いません! だから!」
懸命に叫ぶミリアだが強行突破の代償に大きな傷を負っていた。そして容赦なく敵の攻撃がミリアの命を断ち切ろうと迫る。
「ミリア!」
助けようにも間に合わず、絶望に染められた目を見開いたラズベルが見たものは、ミリアの頭上で敵二人の剣撃をランスで受け止めるジンだった。
「大丈夫ですか?」
えっ!? どうやってここまで
死地同然の場所に飛び込んできた目の前の鎧騎士は追い込まれたミリア達を完全に守護していた。
まるで守護神だな!
仲間の無事を確認するとラズベルは安堵した
まったくどいつもこいつも仲間の為なら簡単に命を捨てやがる!
愚かだが俺も同じか
捨て身でなければ倒せない
ならば俺の命くれてやる!
「うおおおあっ!」
ラズベルの咆哮は決死の思いから溢れた魂の叫びであった。突進から繰り出す必殺の剣撃はワネゴバの体を確実に捉える。数撃斬りつけた後に確かな手応えを感じた。地面にはワネゴバの左腕が転がっていた。
「うがあああああ!」
痛みに耐えかねたワネゴバは口から泡を撒き散らせながらラズベルに襲いかかる。
剣で受けたもののあまりの衝撃に後方へ吹っ飛ばされた。
キレやがったか
この力……
狂牛ワネゴバ
化け物め
余力も尽きかけているラズベルは気と力を剣に注ぎ込み一撃に全てをかける。
迫るワネゴバに渾身の一撃を放った。
「うおらああああっ!」
ラズベルの剣は炎を纏い、棍棒ごとワネゴバの体を真っ二つに切り裂くと火柱が上がり、そのまま燃やし尽くしたのだった。




