声の主
さすがにこの数はキツイな……
倒しても倒しても増えてくる敵にうんざりしながらライは双剣を振り続けていた。だが、体力も底が見えはじめ、逃げようにも敵が歩兵しかいないために馬を奪うことも出来なかった。全くの無傷という訳にもいかず、深いものはないまでも身体中に傷を負っている。
クッ! このままじゃヤバいな
息もあがってきた頃に遠くから駆けてくるズールに乗ったロキの姿が見えた
やっと見つけた。しかしなんだこの数は!
行くしかないか
「ライ!」
おっ! ロキか!? ありがてぇ!
ライは予想外のロキの登場に歓喜した。
「飛び乗れ!」
砂煙を上げて近くで急停止したロキが叫ぶと、ライは目の前の敵を斬り伏せてロキの後ろのズールの背に飛び乗った。その瞬間に急発進したので慌ててライはロキにしがみついた。
ズールは敵をすり抜け、密集地帯を離脱する
。
プニッ
ん?
プニッ プニ
「ライてめえ! いつまで変なトコ触ってやがんだ! ぶち殺すぞ!」
へっ?
な!? まさか!
「ロキ! お お前女だったのか!?」
「そうだ!」
突然の事にライの思考は停止して口を開けて白目をむいていた。
「馬鹿! 手を離すな! ったく!」
あわやライはロキに掴まっていた手を離し、落ちてしまいそうになったがロキがライの手首を掴みそのまま走り続けた。
※マドサマリ山※
あっ あそこにいるのはアウリス?
病床に伏せる父の為に栄養価の高いレコンの木の実を採取していたリューマは何かが転がるような大きな音を聞きつけやってきた。
生きてるの?
リューマは胸の鼓動を確認すると気絶しているだけだと分かり、呼び掛けた
「アウリス! アウリス!」
「ううっ……」
良かった
「アウリス!」
「うっ……あっ、リューマ? どうしてこんな所に」
「それはこっちのセリフだよ! 怪我だらけじゃないか!」
気がついた事に安心したリューマは皮袋に入った水をアウリスに飲ませた。近くには目を回したズールもいる。
「ありがと……行かなきゃ。ゴメン、ズールが……」
ゆっくり起き上がったアウリスだが立ち上がるまでにもフラついていた。
「行くって、その体でどこに行こうっていうの?無茶だよ!」
「リューマとお父さんの仲間を止めなきゃ、争いを止めなきゃ……」
アウリス……僕たちのために
[アウリス……]
「誰だ!」
リューマと違う声に呼ばれたアウリスは身構えた。
「えっ!? なに?」
突然のアウリスの変化にリューマは何事かと訝しんだが周囲には何も変化がない。
「今、声が聞こえなかった?」
「えっ? 何も聞こえないよ?」
リューマには聞こえてない!?
じゃあ……
[アウリス、まだ届かんのか……]
「聞こえてる! 僕にしか聞こえない! どういうことだ?」
再び聞こえた声、自分にしか聞こえない声の主に問いかけた。
前にも聞いた声だ
あの時も姿は見えなかった
[ほう、ようやく声が届くようになったか。嬉しいぞ。我の名はヴァルオス-ジオ-ガイア。覇竜ヴァルオス-ジオ-ガイアだ。アウリスよ、我が名を呼べ]
!?
「えっ!? ヴァルオス……ジオ……ガイア……?」
戸惑いながらもその名を呟いたその瞬間、アウリスが首からかけた石が白い光を放ち出した
なっ! なに!? 石が!?
石の光がどんどん強くなり、やがて一面を白く覆った後に光は収まった。そしてアウリスの首から石が消えており、目の前には
りゅっ 竜!?
漆黒の毛並みをした大きな体に長い尻尾、前足と後ろ足には鋭い爪が地面に突き刺さっていた。
「でかしたぞアウリス! 大賢者カミュに石に変えられて五百年、久しぶりにこの姿に戻れた」
喋った!? 石に変えられた? 五百年?
アウリスは混乱の極みに達していた。
視界には顔が見えない。見上げるとやっと竜の顔がこちらを向いていたのが見えた。凶暴そうな真っ赤な目と目が合うと背筋が凍った
「あわわわっ」
リューマは素っ頓狂な声をあげて腰を抜かし、へたりこんでしまった。
「さて、ジンの所へ行こうか」
「えっ!? 何でそれを?」
「我は石の姿で世界を見てきた。お前が見たものは我も見ている」
相変わらず何が何やらのアウリスだったが敵ではないと確信した。もし敵だとしたら死亡確定なのだが……
「もしかして、一緒に行ってくれるの?」
「そうだ。グラの子よ、お前と我はダチなのだ。我の背に捕まるがよい」
ダ ダチって…… グラの子でもないし
まっ まあこんな怖いドラゴンに逆らっても仕方ないし、そういうことにしておこう……
「あの、ヴァルオス……なんだっけ?」
「ヴァルオス-ジオ-ガイアだ。ヴァルオスと呼べ」
「あっ、うん。じゃあヴァルオス、背中まで上がれないんだけど」
まさかヴァルオスの体を踏みつけながら上がる訳にもいかないし……
するとヴァルオスはアウリスを前足で掴み、背に乗せたのだった。
「しっかり掴まっておけよ」
そういうとヴァルオスは翼を大きく広げて羽ばたかせた。突風が巻き起こりリューマが飛ばされないようにすかさず近くの木にしがみつく。そして、ヴァルオスの足が地面から離れると徐々に高度を上げていった。
「リューマ! みんなを止めてみせるから!」
「アウリス! 凄いよ! ホント凄い!」
お互いに風が鳴く音で聞き取れなかったが笑顔で応えたのだった。