逃走
完全に包囲されながらも敵の足止めをしていたハクレイだが敵の動員数が予想よりも多く、全ての敵を止めておくことが出来なかった。
ば 化け物め!
目前の懸賞金首につられて多数の兵に囲まれるが討って出た者から地面に転がり、辺りは骸だらけになっている。全身が黒い装束に覆われている異様な出で立ちも不気味な印象を与えており、囲む側が畏れを抱き始めた。
「姉様!」
馬に乗って敵を斬りつけながら駆けつけた同じく黒装束姿のリンが加わると、倒れる敵の数が倍加した。
敵に囲まれているにも関わらず二人とも絶望感はなく、余裕すら見える
「リン、早かったな。首尾は?」
「はい! 上々ですよ! しかし、脱走者を追うにしてこの数は異常ですね!」
「うむ。気になることがある。ついてこい!」
「はい!」
討ち損ねた追っ手は気になったが大方の足止めの効果を確信したハクレイ達は次の目的地に移動を開始した。
林道
「どうりゃあああ!」
ハクレイの所から流れてきた追っ手はライの相手となるが数が多過ぎてライの横をすり抜ける数もかなりいた。それでも溢れんばかりの兵数がライを取り囲む。
どんどん湧いてきやがる!アウリス、死ぬなよ!
ここでのライの暴れっぷりは凄まじく、寄せてくる敵を片っ端から叩き伏せていった。
「どけっ! 邪魔だ!」
その時、敵の後方から黄色の装備で揃えた一団が出現した。
あいつは! 確か騎士団!?
先頭で大声を発した大男は前に街で見た男だとライは思い出した。
面白え! 戦ってみたいと思ってたんだ
ライはジャンプして目の前の兵の肩を踏み台にして跳躍するとワネゴバの前に立った。
「おっさん強そうだな!やろうぜ!」
一直線に斬りかかったライだが撃ち合った瞬間、一撃で右に飛ばされた。
マジかよ!
なんて馬鹿力だ!?
飛ばされたものの体勢を整えて地面に着地するとまた距離を詰めようとしたが
「雑魚には用はねえ! 行くぞ!」
ワネゴバの命令で第八騎士団はパトミリアを追い始めた。
なっ!?
雑魚だと!!!!
っんの野郎!!
「待て!!」
ライは必死に追いかけるが行く手を阻む多数の敵と相手が騎乗しているので追い付くことは出来なかった。
「クソーーー!」
平原
アウリス達はようやく林道を抜けて、平原を走り渓谷手前の合流地点にたどり着いた。
「ロキ! あっ あれ? ジン!」
歓喜の声を出しているアウリスだが、ロキとジンはボロボロの姿を見て驚愕した。
「アウリス、酷い怪我だ」
「リンからは聞いていたがこれほどとはな。追っ手はおそらく振り切れていないだろう。
手当ては悪いが後にするぞ!」
ロキから剣を受けとるとアウリスは笑顔で頷いた。
「みんな行って! 僕が敵を食い止めるから!」
ジンが発した言葉にここにいる全員が耳を疑った
平原だけに見通しがきくので林道から抜けてくる追っ手の姿が目視できた
「ジン! ダメだ! 一緒に逃げよう!」
「いいんだ! アウリス行って。どのみちゴゴの足じゃ逃げ切れないから」
「ダメだダメだダメだ! 僕が戦うから! お願いだ! あの数なんか相手したら死んでしまう!」
遠くに見える敵の数がどんどん増えている!
「聞いて!アウリスが僕のためにあの時戦ってくれた事が本当に嬉しかったんだ。だけどアウリス達が悪者にされて、僕は何も言えずにいたんだ。ゴメン! ……でもありがとう! だから今度は僕がアウリスの為に戦いたいんだ! これからも友達だって言って欲しいから」
「そんな! 今戦わなくったってずっと友達だよ! そんな理由でジンが死ぬのは絶対嫌だ!」
必死な説得にジンは涙が出そうになった。
ロズン村の中では家族以外で自分の事を心配してくれる人がいなかったのだった。
だからこそ僕は!
強い決意をさらに強固にしてジンは兜を被った
「アウリス! 僕を信じて! 必ず生きて会いに行くから! さあ! 行って!」
「…………分かった! 約束だよ!」
アウリスは右手の拳をジンに向かって突きだした。
「大切な人から教えてもらった約束の儀式なんだ! ジンの右手を僕の拳に付き合わせて!」
トンッ
戸惑いながらも拳を合わせたジンは身体中に闘志をみなぎらせた
「アウリス、ライはどうした?」
「ライは林道の途中で敵の足止めの為に降りたんだ!」
「想定内だな。よし! ライは俺が拾う。道は分かるし敵に顔が割れてないからな。それから予定通り宿に身を隠す。アウリスはパトミリアと橋を渡って真っ直ぐ山道を抜けろ。そこまでいけば追っ手に追い付かれるのは五分五分までもっていける」
「分かった! じゃあロキ! ジン! 後で!」
「ああ」
「うん!」
各々に危機的状況を迎えることには変わりないが成すべき事を抱く者の瞳はそれぞれに強い光を放っていた。