追う者
州都ナリュカの中心にあるナリュカ城はハルト王国建国以前に建てられた古い歴史を持つ建造物である。数ある戦禍をも免れ現在もそびえ立つ姿は威風堂々としてる。ナリュカ城を中心に街は栄えてきたが、今は兵士ばかりが目につき、物々しい雰囲気が漂っている。
ナリュカ城一室
「なにをしとるんだ。いよいよムトール攻略に乗り出すこの時に。早く捕まえろ、もはや生死は問わん」
パトミリア脱獄の報を受けて州候バリアンは執務室の机に拳を叩きつけながら喚き散らして激昂していた。
「ワネゴバ殿、念のため騎士団もパトミリア確保に動いて頂きたい」
「ああ? それくらい雑魚で充分だろうが。俺はやることがあるからな、行かねえぞ」
執務室のソファーに深々と座ったワネゴバにバリアンは、さも当然のように指示を下したのだが、期待外れの返答に慌てた。
当のワネゴバは油断していたとはいえ、無名の村の兵士に負傷させられた事に腹の虫がおさまらなかった。あまりの機嫌の悪さにバリアンは顔を引きつらせた。
ようやく腕が回るようになってんだ! 今すぐあの村に行ってあのクソ野郎をぶち殺すのが先だ
「ワネゴバ殿! 貴公がいながらパトミリアの脱走を許してはセガロ王からお咎めがあるやもしれませんぞ」
この野郎、俺を共犯者にするつもりか
「それはお前の落ち度だろうが。なんでさっさと処刑しちまわなかったんだ」
「そっ それは未だ将校や兵の半分はパトミリアの人質によって従っておるゆえ……」
「要はお前の器の問題じゃねえか」
なんとも締まらないバリアンをよそに、ワネゴバはこの失態を他の団長どもに笑われる事になるのも癪だとも思った。
「ふんっ、パトミリアの首を持って帰ればいいんだな? 高くつくぞ」
重い腰を上げたワネゴバは乱暴に扉を開けて出て行ったのだった。
ふぅ、全くさっさと行けばいいものを
バリアンはパトミリアの件を早く片付けてムトール攻略を進めたいのだった。
しかしこの後、さらに激昂することになる。
今出来る事は全てやったか
ズールに騎乗したロキは、合流地点の平原まで移動していた。
ん? あれは確かロズン村にいた
「あっ! 君はアウリスと一緒にいた……」
「ロキだ、ジンだったか? こんな所で何をしてるんだ?」
「うん。ちょうど良かった。アウリスに会いたいんだけどどこに行けば会えるかな?」
意外な言葉にロキは驚いた。
アウリスに会うために村を出てこんな所まで追って来たのか
かなり気が弱いと思っていたのだが……
なんとなくジンの雰囲気が変わったとも思ったが、じきにこの場所は危険な場所になることは間違いない。知っていて教えないのも後味が悪そうだと思ったロキは、今すぐジンにこの場所から移動させる事を考えた。
「あのなジン、アウリスはもうすぐここに大量の兵に追われながら来る。怪我したくなかったら今すぐ村に戻れ。アウリスには俺から伝えておくから」
「パトミリア様を助けるんだよね? 僕はアウリスの手伝いをしたいんだ。僕が敵の足止めをすれば力になれるかい?」
なっ、 こいつ本気で言ってるのか
勘違いでもしているのか、軽いノリでとんでもないことを言ってるジンに呆れてしまった。
「お前バカなのか? 武器を持った人殺し集団が押し寄せるって言ってるんだぞ! 分かるか? 巻き添えを食らうって言ってんだ。悪いことは言わねえから早くここを離れろ!」
「そんな奴らに追われたらアウリスが危険じゃないか。わかった、僕が敵を引き受けるよ」
全然わかってねえし、何なんだこいつは
どこまでものほほんとしたジンにロキは呆れて固まってしまった。